第百七十七話 おめでとう、まさかお前がエヴェリーナ姫と付き合うとは思いもしなかったよ。いや、めでたいな
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楽しんでいただければ幸いです。
第二次南方探索部隊というか今回の探索任務で一番大きな成果を上げた人物がいるとすれば、あの鳥や果物などを見つけた冒険者ギルドの職員などではなく間違いなくこの男だろう。
「……と、言った感じでな。とりあえず結婚を前提にエヴァと付き合う事になった」
「おめでとう、まさかお前がエヴェリーナ姫と付き合うとは思いもしなかったよ。いや、めでたいな」
いや、ほんとにめでたい。っていうか、雷牙がこの世界で誰かと付き合うなんて想像もしてなかったよ。この世界に来て既に十三年位? 氣の影響か何かは知らないんだけど肉体的に歳は全然とってないって話だが、この先もそうだった場合寿命とかいろいろ問題が出てくるだろうに。俺も人の事は言えない立場だけど。
それにしても……。
「お前は冒険者として既に活躍してるから養っていけるのは間違いないだろうけど、住む家とかはどうするんだ?」
「家は今の宿からこの街のどこかに引っ越す予定だ。しばらくこの街に暮らす事になると思うし家を買うって選択もある」
「私だってこれから冒険者として活躍する予定です。ユウジさんだけに苦労をさせる事はありません」
言っちゃ悪いんだけど、戦力的には巻き込まない様に戦わないといけない分、雷牙の苦労が増えるだけだろう? 正直俺とヴィルナ以上に苦労しそうなんだけど?
ヴィルナだって本気を出せばこの辺りの冒険者よりはるかに強いんだぞ。おそらく俺と雷牙を除けば最強の筈。それでも変身した俺たちの足手纏いにしかならない訳だしさ。
「この辺りはもうそこまで強い魔物もいないしな。その分稼ぐには割と苦労するんだが……」
「そういえばお前たちは一線から退いて後進の育成に努めるんだってな。収入は安定するだろうが思い切った決断をするもんだ」
「この街にはすでにクライドとライガがいるからね~。勇者が二人も揃ってたら私たちの出番はないよ」
「そういうこった。しかし、冒険者の育成は絶対に必要だからな。今はいいかもしれねえが、十年後にこの街を守るのはその冒険者達だからな」
勇者呼ばわりはヤメロ。と、いってももうどこに行っても聖者だの勇者だの散々言われてるんだけどね。
それにラウロには悪いが、多分十年後だと俺も雷牙もバリバリの現役だと思うぞ。特に雷牙なんて百年後でも現役な気がするし。
【それはあなたも同じですよ? 不老不死とまでは言いませんが、老化に関してはほぼ進行しないと思っていただければ……】
唐突にそんな重要事項をサラッと伝えるのはやめて欲しい……。
いや、そりゃ気になってたけどさ。
【ライガさんに至ってはほぼ不老不死です。あれだけ高レベルの氣を常に纏っていれば、余程の事が無い限りあの姿にならなくても傷付く事すらないでしょう】
それは伝えずに黙っておくか悩むところだな……。もしかして雷牙にも神託というか、こうして話しかけたりしています?
【あなた以外の人間にこうして話しかけるのは殆ど無理ですね。ワールドリンカーの力はそれだけ強力なのです。あなたがその気になれば本当にどんな世界とでも繋がる事が出来るのですよ?】
それはそれで恐ろしいな。やっぱりこの力ってのはアイテムボックス経由の限定的なものにしておいた方がよさそうな気はする。
神にも魔王にもなれそうな力ってのは凄いと思うけどさ、強すぎる力って不幸しか生まないしね。
【それだけの力を持ちながら欲のない事ですね。世界救済の協力だけはお願いしますね】
女神フローラは既に女神になってるんだよね? まだ世界を救ったりしてるの?
【女神になれなかった天使たちの世界の救済をしているだけですよ? 見捨てられた世界を救えるかもしれないのに放置する訳にもいけませんし】
ああ、そういえばこの世界も女神見習いが担当してた世界なんだっけ? うまくいけば救えそうだけど。
邪神の残滓が何処で何を画策してるのかは知らないけど、この世界を滅ぼすつもりだったらかなず俺や雷牙が立ち塞がるだろう。
【私や天使たちは殆ど干渉出来ませんが、その時はお願いしますね】
干渉できない? 邪神の残滓とかの情報とかも貰えない?
【世界に存在する者という意味では、邪神の残滓もあなた達も同列なのです。神としては世界を滅ぼす邪悪な存在だからといってあなたたちだけに肩入れする訳にはいかないのです】
公平にって事か。逆の立場で向こうに俺達の情報を流されても困るしな。かえってその状態の方が神様ももどかしいだろう。手が出せるのに出さずにいるのは俺がここでやってる事と同じだし。
……ん? ルッツァ達が見てる?
「どうしたんだ?」
「いや、お前がそうやって考えてる時って割とあるしな」
「ああ、色々考えてたんだけどもし仮にこの街が王都並みの状況になったとしてだ、冒険者が一日で往復できる距離に採集に行く事すらできなくなるだろ?」
「魔物がいなければ冒険者でなくても採集可能だからな。王都に冒険者が少ない理由の一つだ」
移動手段が発達すればいいけど、それをこの世界に持ち込むのはまだ早い。
一応魔石とか魔導具を組み合わせた鉄道は既にアイテムボックスの中にはあるんだよね。これを使えばマッアサイヤ辺りまで日帰りが可能だ。運送能力も格段に上がるけど、いろんな場所に与える影響がでかすぎて流石にまだ持ち込めないんだよな。
「そうなると、冒険者の拠点はイサイジュとか南方にできる新しい町の冒険者ギルドになるだろ?」
「なるほど、冒険者の為の教習所もいずれその町になるんじゃないかって話か?」
「その前にこの街で冒険者になりたいって人間がいなくなる気がする。冒険者みたいに命がけでなくても安全で稼げる仕事がいくらでもあるからな」
いろんな意味でそれはそれで問題なんだけど、食料に関してはもう突撃駝鳥や剣猪に頼らなくてもよくなるだろう。すでに豚肉は普及し始めてるしあと数年で牛肉も十分な量を供給し始める。
そうなるとこの辺りの剣猪をはじめとする魔物の肉を入手する意味はあまりなくなるんだよな。魔物退治だけが仕事になる可能性もあるけど、そうなると別に冒険者じゃなくてもよくなるしね。男爵の兵で定期的に討伐すりゃ済む話だ。
「既に教会の孤児たちの多くも普通の仕事に就き始めていますしね。それに子供を捨てる親は殆どいなくなりました」
「この街で暮らしてて金に困るって相当な事だからな。どこも人手不足で超が付くほどの厚遇が約束されてるくらいだ」
「給料は高いよね~。魔法が使えると更にお金が貰える事も多いから、魔法を覚えたいって人は多くなってるそうだけど」
火を生み出す魔法ひとつでもあるのとないのでは大きい。重宝されているのは水を生み出す魔法で、事実として現在既にいろんな職場で大活躍中だ。例えば農作業中に水撒きで桶を何度も往復して撒くよりも魔法で水を足しながら撒いたほうが早いしな。
魔法で生み出した水も普通に使えるっぽいし。
「冒険者だと優遇される仕事も多いらしい。いろいろ対策されているが魔物が絶対に襲ってこないって事は無いしな」
「それに冒険者だといろいろ野草の知識なんかもあるだろ? いざって時にも頼りにされるそうだ」
「だから先に冒険者として数年活動してって考える子もいるんだって。現実を知ったら諦めるみたいだけどね~」
「楽な稼業じゃないからな。誰かを守る仕事は冒険者だけじゃないが、それなりの責任を伴う。それを途中で逃げ出すようじゃかえって印象が悪くなるだろうに」
それはどうだろうね?
冒険者って家業に幻想を抱かなかった分現実的って評価もできるぞ。逃げなきゃいけない時に逃げない奴も割と迷惑だしな。
そんな事より。
「この街の冒険者の話よりお前の事の方が心配なんだが」
「俺か? ああ、今回の探索の報酬も結構あったからな。前回の南方探索の時と合わせると家を買っても百年位は余裕で暮らせるぞ」
「そういえばあの報酬もでかかったからな。あれだけ幹部連中を倒した甲斐があった」
二回目の報酬がどの位なのかは知らないけど、一回目の報酬は三千万シェルだ。日本円にして三十億円。この辺りの物価だと本気で百年位は暮らせるだろうな。
「ライガの結婚式も派手になりそうだな。酒だけはクライドに頼んでくれよ」
「日本酒だったら来年には売り出されるだろう。それより早かったら何とかするけどさ」
「ちょ……、話が一気に飛んでないか? エヴァはいつでもいいって言ってくれてるんだが」
それじゃあ、今でもいいじゃん。
でも、二人の結婚を反対する訳じゃないけどもう少し付き合ってお互いを理解してからの方がいいと思うけどね。雷牙が自分の秘密をどこまで話すかは知らないけど、いずれ俺がヴィルナに話した位の内容は話さなきゃいけなくなるぞ。
あと問題として、俺たち異世界人とこの世界の人間の間に子が出来るかどうかだ。俺とヴィルナは元々種族が違うから子が出来にくいけど、もしかしたらこの世界の普通の人間とも子供が出来にくい可能性はある。それに雷牙は不老不死だ、その影響も十分考えられる。
結婚すること自体は祝福するけどね。
「結婚に関してはそこそこ詳しいから、その時は相談に乗るぞ」
「この街であれだけ派手な結婚式を挙げたからね~」
「女神の祝福は予定外だからな。あれのおかげで他からちょっかい出されなくなって助かってるけど」
いや、ほんとにあの時から完全に婚約とかで押しかけてくる貴族がいなくなったんだよ。
感謝してるのはその件に関してだけだけどね。
とりあえずこれでしばらくは平和かな? いろいろ忙しくなって来たから新しい事業に手を出すのは止められてるし、商人ギルドも例のペットショップを立ち上げる計画で忙しいそうだ。
その協力はしなければいけないんで、俺もしばらく忙しくなるぞ……。
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