第百七十六話 昼からも午前中と同じように様々な提案をさせていただきます。まずはこの辺りの動物から説明しましょう
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楽しんでいただければ幸いです。
昼食後、開始当初よりはわりと表情の和らいだ商会の頭たちを見てわりと作戦は成功したと思った。昼食中に情報交換をして現状を正しく認識したんだろうね。
水面下で争われている利権は莫大な富を生み出すんだろうけど、その土地が有効に使えるかどうかについては未知数の筈。
特に各商会には南国の農作物なんかの育成ノウハウが無い為、効率よく作物を収穫する為には俺や男爵の協力が必要不可欠だという事を理解したんだろう。実が出来ても思った通りに甘くならなければ価値が下がるし、他の農場が本来の甘さを実現すれば苦労がすべて水の泡だからな。
「さて、昼からは他の動植物の話と、おおまかではあるが街道の整備計画などを話していきたいと思う」
「昼からも午前中と同じように様々な提案をさせていただきます。まずはこの辺りの動物から説明しましょう」
籠に入れられた色とりどりの鳥。鳥だけにな。
【寒いギャグは必要ないんだよ~? ほら、寒さで鳥も震えてるじゃない】
そこまで寒くないし、この鳥は俺の心なんて読めねえよ!! 女神フローラの説教はもう終わったのか?
【庇ってくれてありがとう。おかげでお小言が短くてすんだわ。でも、黙ってくれてたら怒られずに済んだんだけどね~】
そうなると本当に発覚した時に大目玉くらうだろ? 今度から幾らかは天使用フォルダを作って保管するから、そこから回収しろよな。こうして接触してきた時かメールで伝えてくれれば都合する。
このインコたちが何を食べるのか教えて貰った恩もあるし、詳しい飼育方法や鶏の生態なんかも教えてもらったしさ。
【そういえばそうよね~。アレはホントに苦労したんだから。それじゃあ今度からそうするね】
天使たちは女神フローラに比べて暇なのか、割とこっちに接触してくるんだよな。主に突っ込みで。
さてと、話し合いの続きだ。
「そのあたりは食材になりそうにない鳥だな」
「この辺りに色とりどりで美しい鳥や食材だったウズラモドキなども含めて愛玩用動物、つまりペットとしての需要が無いかと思いまして。こうして籠の中で飼う方法もありますが、大きな小屋で飼育する方法もあります」
「ペットだと?」
「この辺りでは今までは生活などにもあまり余裕が無く、こうして食用以外の動物を飼う習慣がありません。犬猫も基本放し飼いですし、アレではペットとして飼っているとはいいがたいんですよ」
そう、鼠退治などで活躍する犬猫ですらちゃんとした餌を貰えず、倉庫の近くで適当な余り物を与えられるだけの状態だった。
あれでは本当の意味で飼ってるとはいいがたいし、飼っているんだったら最低限しなきゃいけない事もあるだろう。病気予防の薬を飲ましたりさ。
「それでペットか。鳥などを飼って何が楽しいのだ?」
「ある程度大きな籠で飼えば飛ぶ姿なども観察できますし、番いで飼って繁殖させたりするのもいいものですよ。長く飼っていると懐いたりもしますし」
「美しい鳥はいいとして、先ほど食べたウズラモドキはペットには相応しくないのではないか?」
「意外にずんぐりして可愛いですけどね。鳴き声もうるさいですし、その辺りは好みに依るとしかいえませんが」
ウズラモドキなどもあげたのは多様性の為だ。南方に生息するスマートで綺麗な鳥ばかりではなく、茶色でずんぐりしたウズラモドキなどもペットにできるという可能性を示しただけ。
この先いろんな動物をペットとして扱うんだったら、色が綺麗ってだけを基準にされても困るしな。
「この鳥を飼う事にどれほどの価値が? 籠の中で動き回る姿を見て餌をやるだけだろう?」
「種の保護の為に扱う数に制限を設けて当然密猟も禁止する。違反者は例外なく死刑にし、扱える業者もこの鳥を飼育できる知識と設備を持つ商会などに限定します。そして、この鳥を貴族や金持ちなどが率先して飼えばどうなるか……。鳥を飼えるという事がひとつのステータスとなり、その後のこの鳥の値段はこちらが決められる訳です」
「恐ろしい事を考える。この鳥の価値を引き上げ、新しい商品にしようというのだな」
「ゼロから市場を作る訳ですし、その辺りのバランスはそれを構築した側がある程度は決められるわけです。もちろん、フンの処理や食事や健康管理などが行えない人への販売は禁止します」
多くの商会の頭が喉を鳴らした。俺の言いたい事が理解できたんだろう。
まったく無価値の物に価値を見出す。元々の価値は違うけど、信長が茶器の価値を褒美として与えられる所まであげたのと同じ方法だ。
飼育環境というかこの辺りの鳥の生態とかは天使に調べて貰ったから何を用意すればいいのか俺は詳しく知っている。それをどの商会に渡すかもこちらに選択権がある訳だ。
「お前の頭の中は本当にどうなってるんだ。ペットか……、そういえばお前は猫を飼っていたな」
「長い時間一緒に過ごせば家族も同様だ。籠も綺麗だったり豪華だったりする物を用意するだろうし、餌だって色々気を使うだろう? その知識はある程度提供できるから、完全に手探りって訳じゃない」
「そしてその餌はペットが売れ続ける限りある程度の取引が確約される訳か。しかも相手は金持ちや貴族」
「その鳥にそこまでの価値を持つようにできるとは……。そんな事、考えもしなかった」
家畜なんかと違って、ペットなどはある程度住人の生活が豊かにならないと市場を開拓できない。
別にそれを最初から狙っていた訳じゃないけど、情操教育の一環として市場を開拓しようと思った訳だ。そのうち安価なウズラモドキの飼育を始める人も出てくるだろうしね。
「珍しいから捕獲してきた訳ですが、別にそこまで見かけない鳥ではありません。しかし、そんな方法を考えるとは流石はクライドさんですな」
「南方に住む鳥ですので、寒い王都など北の都市で飼いたいという事になれば部屋を暖める装置なども必要でしょう。そういった魔道具の市場も広がる訳です」
「南方の果実の件も驚いたが……」
「どんな思考能力を持てば、こんな話を思いつくのか……。市場の開拓、確かにこれの価値は計り知れないな」
さっきまではそこまで真剣な目でインコとかを見ていなかったのに、今はまるで黄金の塊でも見る様な視線を注いでいる。おいおい、そんなシャルが狙うような目をしたらインコが怯えるだろ。
はっきり言えばこっちの利権は農作物の利権より旨味が大きい可能性まである。何せほとんど元手はかからない訳だし。
「こういった南方の資源を効率よくこの街に運び込む為に、街道の整備は急務という訳だ。その候補地もクライドが幾つか案を出してくれている。整備する為の野営地や資材置き場はもちろん、開発する為のアイデアなども提供してくれているぞ」
「街道の整備などの知識もあるのか。賢者という噂は本当なんだな」
「勇者と呼ばれる武力、聖者と呼ばれる程の慈愛の心、賢者と呼ばれるだけの知力……、そして先ほどの市場を作り出せる商売人としての力量。あんな人間が存在するんだな」
「あのような人物は二人といないだろう。なるほど、あれだけの力を持てばこの情報を無償で提供という行為ができるのか」
みみっちくてくだらない利権争いはほどほどにして欲しいからね。そこまで貪欲に手を伸ばさなくてもそこそこ儲かる仕組み位は考えるよ。
これだけ力を見せつければ今後はこちら……、俺や男爵の計画にそこまで異は唱えないだろう。
◇◇◇
今回の探索で入手した食材などを使った晩餐会。といっても南方で見つかった獣系はあまり食用に向いておらず、あのウズラモドキをはじめする僅かな食材が見つかった位だ。
牛、豚、鳥、やはりこの辺りは食用に多く用いられるように、他の動物よりもはるかに旨く使いやすい。羊や山羊なんかも使われたりするけど、牛とか豚があるところだとあまり出てこないしな。馬に至ってはこの世界だと重要な交通手段なので肉用には回ってこない。
「今回のメニューは南方の食材も使われていますが、あまりメインとなる食材が無かったのでこの街で出回り始めた牛肉などを前面に出しております」
「牛……、農耕用牛や乳牛が多いと聞いていたが食肉も出回っていたのか?」
「食肉はまだ試験段階だ。一部冒険者ギルドのレストランで扱ったりはしておるようだが」
あそこが解体を引き受けてるから、骨とか牛筋なんかはあそこがほとんど全部使ってるんだよね。おかげで本物のビーフシチューを出せるようになったみたいだ。
そのせいでフォン・ド・ヴォーを作る鍋の数が倍になって、冒険者ギルドの厨房で死んだ目でフォンを作ってる職員がかわいそうになるんだけど……。
「前菜は牛肉カルパッチョのジュレ添えです」
「これは、薄切りの牛肉は生ではなく火を入れているのか。このジュレに使われているのは柑橘類?」
本当は生肉を使う料理なんだけど、この辺りは本当に生で肉を食べないからでかい塊をローストして中まで火を通して、赤い肉の部分だけを使ってるんだよな。ジュレには香り付けで香草や柚子を使ってある。
「南方で見つかった柑橘類ですね。柚子と呼ばれる果物です」
「酸っぱすぎて誰も食べなかったあれか!! こんな使い方が出来るとは」
柚子を他の柑橘類みたいにそのまま食ったのかよ!! 割とチャレンジャーがいるな。
温野菜のサラダには特に南国系の食材は使えなかった。探せばいろいろあるんだろうけど……。次はスープだ。
「スープは南方産トマトのスープです。南方で採れるトマトは生食には向きませんがこの辺りで採れるトマトよりコクがあり、こうして加工して使うと格別です」
「あっさりしていていいな」
前菜とスープが終わり、魚料理……というか、マッアサイアで買ってきた伊勢海老を半分で割ってグラタンにして出してみた。南方の海でも取れるといいんだけどね。
そしていよいよメインディッシュ。今までは肉料理といえば割と焼いて出してソースをかけただけの状態だったけど、今回はレストランで出てくるように色々彩を考えて盛りつけて、肉には香ばしいガーリックバターソースを絡めてみた。
「彩も美しく、このソースを絡めると前菜で出てきた肉とはまた風味が変わりますね」
「あっちはあっさりだったが、こっちは濃厚な味付けにしておるな」
かなり濃いめの味付けにしてあるからな。
「デザートはバニラアイスのヨーグルト和えフルーツカクテルソースがけです。使われている果物は南方で採れる物を使用しています」
細かく刻んだ南方の果物をヨーグルトで和えてそこにアイスを落として、さらに追加でかけるストロベリーソースも小さな器で別添えにしてある。
ヨーグルト和えソースの甘みは控えめにして、バニラアイスで甘みのバランスを取るようにしてるんだけどどうかな?
「デザートに使われている果物は南方の物ばかり。こうして食べると色々楽しめますな」
「このアイスと共に食べると、甘みで風味が増します」
フルーツカクテルのヨーグルト和えだけだと寂しいから、ソースにしてアイスにかけたんだよな。まだ少し暑いから丁度いいかなって思ったんだけどね。
「素晴らしい料理だったな。さて、開発についての細かい話し合いは後日各商会に書状で通達する。規模が尋常ではない為に優先順位を決めねばならぬのだが、この件も後日とする」
誰も異を唱えなかったので無事に晩餐会とこの日の話し合いは終わった。やれやれ、これで少しは肩の荷が下りたよ。
毒気が抜けたというか、以前の様な殺気を放ちながら利権に手を伸ばす商会などは無くなったようだ。
このまま話し合いで平和に解決できればいいんだけどね。
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