第百七十五話 今回収穫物のある程度の情報と活用法などを調べてみました。別の活用法があれば忌憚のない意見をよろしくお願いします
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楽しんでいただければ幸いです。
晩餐会当日。といっても晩餐会の前に午前中から主要メンバーは男爵の屋敷に集まって、俺が南方から入手した果物や木の実などの収穫物の利用法などを説明する事になっている。漢字の回の様な形にテーブルが配置されており、中央にあるテーブルには今回の収穫物の一部が並べられていた。
参加したのはカロンドロ男爵、スティーブンとリリアーナさん、商人ギルド代表のミケルとパルミラ、冒険者ギルド代表のロザリンド、後、この街にあるという割と大き目の商会の頭たちの総勢三十名。商会の頭の多くは名前も聞いた事が無いけど、最近急成長しているらしい。
雷牙達は今回の収穫物などには興味が無いらしく、晩餐会だけに参加するって話だ。あいつは今頃冒険者ギルドでルッツァ達の目の前でエヴェリーナ姫といちゃついてるんだろう。
「今日は南方で発見された作物などの利用法をクライドに説明してもらう為と、軽い昼食を挟んで夕方まで一部の土地の開発方針などを話し合おうと思う」
「今回の収穫物のある程度の情報と活用法などを調べてみました。別の活用法があれば忌憚のない意見をよろしくお願いします」
「この短期間であれだけの作物の利用法を解明したというのか?」
「やはり知らぬ事の無い賢者という噂は本当だったのか? いったいどこまで見通している事やら」
なんだか俺の人物像にいろいろ尾鰭が付いてるような気がする。というか尾鰭どころかいろいろ足し過ぎてない?
カロンドロ男爵やスティーブンなんかはその商会の頭の会話を聞いて半分顔が笑ってるし!! 絶対おもしろがってるだろ。
「そしてひとつ言っておくが、今回の情報をクライドは無償で提供してくれた。これらの情報は値千金で、その詳細を調べ上げるのに本来であれば莫大な時間と資金が必要であるにもかかわらずだ」
「おお!! なんと欲の無い」
「私心の無い聖人という噂も本当だったとは。各教会への寄付も相当な額だと聞いております」
「なんでも女神フローラに直接祝福されているとか」
人の事を何だと思ってるんだ?
こうやってどんどん人物像が作られて後世には英雄だの勇者だの言われるんだろうぜ。
「詳しい話は説明の後にしたいと思います。今回入手した動植物の多くは様々な商品として流通する事でしょう」
「では一つずつ説明をしてもらおう……」
最初に説明したのは大量の果物や木の実などもっとも実用度の高い収穫物だ。
「この辺りの果実は変に弄らずまず食べて貰いたいと思います。とはいっても冷やしたりして少し食べやすくはしていますけどね。とりあえずライチやロンガンなどのそのまま食べてもおいしい果物類」
「この堅そうな殻の実を剥いて食べるのか……。プリプリした果肉とほのかな甘みがいいですな」
「無毒で食べられるかどうかを調べるだけでも相当な時間がかかる筈」
「初めから知っていた? まさか」
元の世界にあった果物に似た物が多いし、それ以外でも鑑定とか駆使したら無毒かどうかはわかるしな。
「甘みは若干少ないものも多いですが、冬などこの辺りの果物が減少する時期に入手できれば……。その価値を理解できない人はいないと思います。それにこの辺りの果物は相当甘みも強く、年中収穫が出来るのであれば冬に相当高額で取引されるでしょう」
「マンゴーという果物か。確かにねっとりとした食感やこの強い甘みは魅力だ」
「いや、このパイナップルという果物も相当に甘い」
……全然人の手が入っていない天然物だからそこまで甘くはないよ?
キッチリ肥料を与えて人間が管理して育てれば、この辺りの果物の本当の甘さはこんな物じゃない。
「あの辺りに農場を作り、きっちり管理すればこれの数倍は甘くなります。それが完熟してから収穫し、高速馬車で届けさせれば……」
「そのあたりの話は後だな。農地改革や利権などの話も絡んでくるのでな」
「あの知識はどこから得ているのだ? なぜ未知の作物の育成方法やその後に出来る果実の味まで知っている?」
「知っているんだろう。本当に恐ろしい」
知っているどころか、完熟してから収穫されたマンゴーとかもアイテムボックス内に物凄い数であるけどね。この世界のマンゴーやその他の果物も、既に量産体制に入っている物も多い。時空時差おそるべし。
【お裾分けは多くてもいいのですよ?】
天使がものすっごい数でそっちに持って行ってる筈なんだけど……。もしかして女神フローラには届いてないですか?
【私専用フォルダ以外の事はあまり気にしていませんので。そうですか、最近あの子たちの様子がおかしかったのは、そういう事でしたか……】
果物類は割と収穫数と納品数に差異が出てるんだよな。料理とかは勝手に食べたりしないのに、果物類はわりと正式な収穫量から幾らか持ち出されてるんだよね。
後で加工とかされる物に関してはきっちり出荷された処理がされているから、おやつ代わりに食べてるんだろう。
あ、天使たちから果物をある程度受けとったらそこまで怒らないでもらえますか? そこまで深刻な量じゃないので。
【わかりました。少し仕事を増やすだけにします】
女神フローラも以前は家具の持ち出しとかしてたしな。
さて、説明のつづきだ。
「この木の実はモリヨモギ、猫牙蔓の実、キズチチタケなどと組みあわせれば高性能な傷薬の材料になります。再生の秘薬とまではいきませんが、軽度の裂傷や壊死などにも対応しています。これが調合に必要な分量のリストです」
「さらっとそのあたりの情報を流すな……。それだけでもひと財産だろうに」
「今更という気がします。提示したのは独占の防止の為でしょう。しかもこの木の実は無数に確認されていますし」
「木の実ひとつで結構な量が作れますので、傷薬を安く提供できるのではないかと思います。ただ、この領外に販売するのはひかえて貰えれば……」
「お前らしくないな。……まさかそこまで読んでるのか?」
そう、この傷薬の増産は推奨するけど、今後敵対する可能性のある領外への販売には制限をかける。
今後何処かが南方に野心を抱いて戦いを仕掛けてきた時にこちらが高性能の傷薬を大量に保有していれば、戦力差がかなりないと相手にとっては厳しい戦いになるからだ。そうなるとこちらに戦いを仕掛けるといった選択を取りにくくなるだろう。あくまでも戦争回避の為の策だ。
「最悪の事態は起こらない方がいい。これからの動き次第で南方に利益が集中する場合、そこに野心を抱く馬鹿もいるだろう? 確実に味方に付きそうなところには売ってもいいとは思うよ?」
「きれいごとだけで済まさないのがお前の本当に怖い所だ。人間が欲望でどれだけ醜く化けるかまで理解してやがる」
「何事もほどほどがいいのさ。適度に仕事があって収入が安定してて、家族に恵まれて数年に一度骨休めの旅行とかできる。その程度のあたりまえの幸せをこの辺りの住人に提供したいだけだ」
「それを阻むものには容赦せぬのだろう? その程度というが、提示したその生活は割と恵まれておる状況なのだぞ?」
わかってるさ。でも、この一年でこの町の状況は変わったし、犯罪に走る人の数は本当に減った。
適度に働いてもそこそこいい暮らしはできるし、何処も人手不足だから余程やらかした過去が無ければ雇ってくれる。元々犯罪者には厳しく、ある程度重罪になるとほぼ死刑なこの国は前科者の数そのものが少ない。移民に関しても割といろいろ対策してるみたいだしね。
「やっといろいろよくなってきたんです。話し合いで解決できる事でしたらそうするべきでしょう?」
「言わんとしておる事は分かるが、あまり遺恨を残さぬ様に開発する土地などは決めようと思っておる」
一応、農地に向いてそうな土地やそこまでの治水計画、街道の整備計画の草案なんかは男爵に渡してある。
アイテムボックスのライブラリー機能に貰った地図と前回探索した時のデータ渡したら、色々な候補地を自動で選定してくれた。街道を作る際の物資搬入路や資材置き場の候補なんかも含めてね。
「ではこの辺りで一度休憩として、昼食にしようとおもう。食事は隣の部屋に用意しておるので、自由に食べて欲しい」
「今回はバイキング形式にしました。好きな料理を好きなだけお楽しみください」
「料理の殆どはクライドが作ったものだがな。楽しんで貰えると助かる」
事前に言われてたから大量に作ってアイテムボックスに保管しておいたんだよね。
今回の探索で見つかった材料も割と使ってあるけど、多分デザート類以外は言われなければ気が付かないだろう。
「これは今まで見た事のない料理が多いですな。これは冒険者ギルド直営のレストランで出されているビーフシチューですよ」
「この鳥の料理は見た事が無い。今回の探索で見つかった鳥だな」
ウズラモドキを丸揚げにしてみた。バイキング形式だったら晩餐会みたいに作法にうるさくないし、手づかみで食べてもいいだろう。
割とボリュームもあるけどウズラモドキは割と小さいし、大人だったらそこまで問題にならない筈。
「こちらはパスタですな。これだけ多種多様な料理があると迷います」
「ここでしか食べれぬ料理も多そうだ。本当にどれから食べるべきか……」
今まで晩餐会に呼ばれていなかった商会の頭クラスは、知り合いと一緒に料理の品定めをしている。
昼食にだした料理のうち半分くらいは今までの晩餐会とかで出してるしね。今だとその気になれば街のレストランでも食えるよ。
さて、午前中の手ごたえは悪くなかった。後は昼から愛玩用の動物なんかの話もしなきゃいけないな。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。助かっています。




