第百七十三話 開発利権やその他の問題が相当拗れたんだろうな。街道の整備計画ひとつとっても揉めてるんだろうし、今後の話し合いでこの先数十年は後を引く問題に発展しかねないね
連続更新中。
楽しんでいただければ幸いです。
当初の予定よりひと月以上余分に時間をかけた、第二次南方探索部隊がアツキサトに帰還してきた。
俺もルッツァたちと一緒に南門まで出迎えに来たんだけど、何というか雰囲気がちょっとおかしい。持ち帰った莫大な量の果物をはじめとする作物や珍しい動植物は檻に入れられたり荷台に積まれて人々の目を楽しませているんだけど。
「うわぁ……、ちょっと近付きがたい雰囲気だよね~」
「それはどっちの事だ? あの雷牙とエヴァの事か? それとも冒険者ギルドと商人ギルドの職員や商会関係者の事か」
「どっちもだろう。なんであんなことになってるんだ?」
まず平和といえば平和な方。雷牙とエヴェリーナ姫の二人だが、おそらくあの探索中に一線を超えたんだろう。周りが引くぐらいにべったりというか、なんだか周りにハートが飛び交ってるような雰囲気だ。アレは流石にちょっと近づきがたい。
で、問題は冒険者ギルドや商人ギルドの職員と各商会の代表者グループ。殺気立っているというか、今から殺し合いでも始まるんじゃないかってくらいに空気が張り詰めてるんだよな。まわりに居る鳥とか犬ネコが逃げ出すレベル。
「開発利権やその他の問題が相当拗れたんだろうな。街道の整備計画ひとつとっても揉めてるんだろうし、今後の話し合いでこの先数十年は後を引く問題に発展しかねないね」
「商会だと本当に今後の明暗を分けかねないからな。それだけ魅力的な土地が多かったって事なのか?」
「ここからそこまで離れてないのに、結構気候が違うからな。あの辺りは南国というか年中暖かそうだし」
距離的に考えてあそこまで暖かいのはおかしいんだけど、元の世界と同じ常識だけでは説明できない何かがあるんだろうな。
魔素とかいろいろ元の世界にはない要素が多すぎる。
「アツキサトの南方は元々未開地で形式上だけカロンドロ男爵領に編成されていたが、そこまで欲しがる土地じゃないって事だったんだぞ」
「あそこをどう開発するかが問題だけど、穀倉地帯にしたら穀物の生産力は倍近くになるぞ」
「そこまでなのか?」
「農地は小さくても、何度も収穫できるだろうしな」
土地の状態は肥料を調整すればどうにでもなりそうだし、割と大きな湖とかもあったから水も豊富だ。ついでに言えばあの辺りでしか育たないだろうと思われる、南国系の作物の存在はかなりでかい。
それとこの世界には割とおかしい能力を持つ農薬がかなりある。アレと堆肥などの肥料などを使えばどれだけ生産力が上がるか……、は、実はまだ分からない。その結果は今年の麦や米なんかの収穫で証明されるはずなんだけどね。
「そりゃ何処の商会も欲しがるだろう」
「穀物だけだったらこの辺りで育ててもいいんだけどな。たぶんそれ以外の何かが見つかったんだろう」
「それ以外の何か?」
「砂糖の原料の可能性も捨てがたいけど、他にも重要物は意外に多いしな」
コーヒーなどの嗜好品もその価値に気が付けばどこが独占するかで揉めるだろうし、この世界というか異世界特有の物凄い力を秘めた木の実などの可能性もある。
エリクサーの材料とかだったらそれこそ殺し合いに発展してもおかしくない。人の命を救う薬の材料が原因で人が死ぬとか笑い話にもなりゃしないっての。
【割とよくある話ですね。大切な誰かを蘇らせたい。その一心で禁忌を犯す者も多いんですよ】
エリクサーの製造が可能な時点で禁忌でも何でもないんだろ? とはいえ、あまり使いすぎると命の価値が下がるのは理解できるし、エリクサーも万能じゃないんだろうしね。例えばアルティメットクラッシュ辺りで倒されたら流石に蘇生は無理だろう。
【あの状態での復活は不可能ですね。本当に恐ろしい技です】
だからエリクサーも万能じゃないってわかってるし、命の価値を落とす薬であることも十分に理解してる。俺は貴女達みたいに神じゃないし、人としての分を超える愚かさは十分に理解してるつもりさ。
ただ、アルティメットブレイブの最終フォームまで進化すれば割と近い能力を有するとは思うけど。
【その力も私たちの理解を超える力なのです。余程の事が無ければそこまで進化する事は無いと思っていますが】
俺もそう思ってるけどね。アレは正直、人には過ぎた力だと思ってる。設定にしても盛り過ぎだ。
それはともかく、今回見つかってあそこまで険悪になる何かが気になるけど、単に港とかの利権の奪い合いだったらいいんだけどね。
◇◇◇
訳の分からない食材を見つけたらとりあえず俺を呼びつけるのはそろそろやめて欲しい。その度に割と大量の新しい食材とかを貰えるからそこまで悪い条件じゃないんだけど、今回の発見物の中には凄く見覚えのある果物とかも混ざっていた。
「この三つの果物に心当たりはないか?」
「最初に飴にした果物ですね。あれからもう一年以上経ちますし、懐かしいといえば懐かしいですよ」
「あの飴に使った果物の出所が分かったんだが、お前はあの辺りの出身なのか?」
あ~、あの時の俺の状況。南の森からやってきて、南で獲れる果物の飴を売りに来た。だから俺の出身地があの辺りだと誤解した訳だ。
南の森どころか、この世界の人間じゃないんだけど。
「違いますよ、かなり遠方ですね。たぶん知らない国です」
「……まあそうだろうな。あの辺りの出身であればお前のような有能な人材の宝庫を潰した事になったのだろう」
「そっちですか。確かにそう考えてもおかしくないんですけど」
俺と同じくらいの知識を貯めこんでる集落か何かがあるかもって期待したのか。
もしそうだったら人材の争奪戦が始まったんだろうし。ん? もしかしてあの険悪な雰囲気ってそれもあった?
「割と胸をなでおろしておる所だ。お前のような者が何人もいてはこの国は数年で乗っ取られるだろう。お前はおおよそ欲が無いが、そんな者も珍しいだろうからな」
「いい方向に向かってる場所を潰すのは愚か者ですよ。今年の収穫量は期待できるんですよね?」
「倍どころか、五倍近くになる予測がでておる。少し供給量を調整せねば値崩れを起こしかねない量だ」
そうなると穀物だけで一千万人近く食わせる事が出来る計算だな。加工なんかに回しても十分食べる分が残る。煎餅とかの生産もできそうな気がするぞ。受けるかどうかは別として、塩辛いお菓子ってこの辺りで見かけないしな。
「多い分はいいですね。食べる以外にも色々使い道はありますし」
「米だけではなく、麦でも酒の生産か? ウィスキーに加工するのはいいが、飲めるのはかなり先だろう」
「いい酒を育てるには時間がかかりますからね、でも、始めないといつまで経っても仕上がりませんよ? それにエールブクって手もありますし」
「アレは大麦だろう。とりあえずその話は別として、今回入手した食材で何か作れんか?」
「果物が多めですが……。あの辺りの木の実は加工しないとダメですし、こっちの鳥とかは養殖するんですか?」
今の所、鳥は毛長鶏、大山雉、グギャ鳥といろいろあるし、毛長鶏と大山雉が凄く美味いからこれ以上必要な気もするんだよな。
多様性って意味だったら必要なのかもしれない。
「その鳥がかなりいたそうでな。食用にできるのであればちょうどいいといっておった」
「ウズラの一種な気がしますけど……。無数にいるから食用ってのも凄い話ですね」
リョコウバトかよ。……絶滅しないように資源は大切にしないとね。
「本当に知らぬ食材が無いのだな……」
「いえ、知らない物も多いですよ。今回の収穫物ですと、この辺りとかは本当に謎ですね。調理とか加工するのは調べてみてからですね」
怪しい木の実はホントに多い。詳しい事は鑑定機能を使って調べるしかないし、アレを使っても食用可能かどうか位しかわかんないんだけど。
「そのあたりの食材とこの街にある食材を使って、何点か料理を作ってくれんか? それと、加工して商品になるようなものがあれば、教えて貰えると助かる」
「今日中って訳にはいきませんけど」
「一週間後に今回の探索部隊の主要メンバーを集めて晩餐会を開こうと思う。その時まででよいのだが」
「ひと悶着ある前に、ある程度旨味のありそうな物を提示しようって事です?」
「その通りだ。土地や街道などの利権は話し合えばそのうち収まる。問題は未知の収穫物にどれだけの価値を見出すかなのだ」
高額で売りたい冒険者ギルドと、それを安く買い叩きたい商会や商人ギルドって状況だったのか? そりゃ殺気立つよね。
それである程度価値のある物を提示して、市場価格のたたき台にしたいんだろうな。かなり強引な方法だけど、売り方や加工法が分かるから参加者にはある程度旨味がある。
「全部は流石にどうにもできないかもしれませんが、出来る限り手を尽くしますよ」
「すまんな。流石にこういった事は他に頼れる者がおらん。お前がこの領にいてくれてホントに助かるのだ」
「その分、いろいろ無理を聞いてもらってますしね。もう少ししたらもっと忙しくなります」
「酒に調味料に保存食だったか? 既に制作に必要な建物や機材は揃っておる、後はそれを行う人間だ。それもスティーブンの方で手配しておる所だが」
「完成すれば領民の一層豊かな生活が待っていますよ。今は保存食の必要性は低いかもしれません。でも十年に一度、百年に一度の飢饉に備えるのも大切な事でしょう?」
「本当に見通す化け物だな。それを理解しておる領主が何人存在しておるのかもわからぬのに、こんなところにいるのだから世の中は面白い」
主食になる主要作物を小麦だけでなく、米やジャガイモ類、更にトウモロコシ迄栽培して貰ってるのは、何かあった時に食料が全滅するのを防ぐためだ。
魔物とかの理不尽な被害以外は事前に手を打てるだけ打ちたいし、それで多くの不幸を防げるんだったら俺がここにいる意味もある。
ヴィルナやルッツァ達だけじゃない、より多くの人の幸せの為に……。
「それでは一週間後、前日には情報を纏めておきますよ」
「すまん。何か必要なものがあれば言ってくれ。といっても、儂しか持っておらぬ物などないがな」
「そんな事はありませんけどね」
さて、今日からしばらくこれの研究だな。
南方探索部隊の主要メンバーが納得できるようなデータが取れればいいけど。
アイテムボックスの機能をフル活用すれば、一週間でもなんとかなるだろう。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。とても助かっています。




