第百六十八話 ルッツァ達は第二次南方探索部隊に志願しなかったのか? かなり高額の報酬が約束されていると聞いたけど
連続更新中。
楽しんでいただければ幸いです。
第二次南方探索部隊が編成された。主な目的は南方に存在する野草などの資源の確認、新しく作る港町の立地、そこまでの街道作成の候補地選定、それと先日潜んでいた敵の残党がいないかの確認だ。
開発などの利権を求めた商人ギルドや冒険者ギルドからも結構な数の職員が派遣されるという話で、それに現地での調整役にグレートアーク商会からリリアーナさんも参加する事になったのでかなり大掛かりな部隊になった。護衛には男爵の私兵も同行するが、追加で冒険者をかなり高額で雇ったそうだ。
一ヶ月以上かかるという話なので俺は参加しないのだが、いざという時の為に雷牙も同行し、そしてなぜかエヴェリーナ姫も参加する事となったそうだ。本当に懐かれてるみたいでいい事だな。
「ルッツァ達は第二次南方探索部隊に志願しなかったのか? かなり高額の報酬が約束されていると聞いたけど」
「俺達にはここでの仕事もあるしな。ガキどもに冒険者のイロハを教えないといけないから、今はそう簡単にひと月もここを離れられないんだ」
「今は平和だしこの辺りの魔物も少ないからいいけど、剣猪の数もそのうち元に戻るでしょ? そうなるとさ、流石に何の経験も無しだと厳しいと思うんだ。せめて簡単な戦闘方法位は覚えて貰わないとね~」
「ずいぶんと方針を変えたんだな。あまりそういった技術は教えない方針だったんじゃないのか?」
「お前が提供した素材のおかげで、割と強力な装備が手に入るようになったからな。キッチリ装備が整ってるんだったら剣猪の討伐だってそこまで無茶な事じゃないんだ。それでも油断すると大怪我じゃすまないが」
武器や防具に使う素材をいろいろ提供したから、全員にほぼ行き渡った状況でもまだまだ素材は余っているらしい。
仕事が無いから他の町からこの街に冒険者が来る事は無く、安い装備が買い漁られる事は無かった。元々この町の冒険者の数が少なかったし、あの孤児院の子供たちが買う分は小さい分かなり安いそうだ。それで体に合わなくなったら下の子がおさがりを装備するって話だ。
「とはいえ、矢は金がかかるだろ? 自作するにも時間はかかるし」
「その位はしてもらわなくちゃね。少ない矢でも確実に仕留められる腕と、無駄撃ちしない心がけは大切なんだよ」
「それはそうだな。魔法の方はどうなんだ? 教えたりしてないのか?」
「流石に魔法はね……。覚えると便利だけど、魔力が高くないとかえって危ないし」
「魔力切れも冒険者の死亡原因の割と上位に来るんだ。お前みたいな魔力の塊でなけりゃそう簡単に魔法なんて使いこなせないしな」
ん? 俺が魔力の塊? 魔力が高いだろうとは思ってるけど。そこまで高いか?
「流石にそれは言い過ぎだろ?」
「私も魔力が割と見える体質だけど、クライドの魔力って異常なレベルなんだよ? 最初にあった頃はそこまででもなかった筈なのに、会うたびにどんどん魔力が増してるから何か秘密があると思ってたんだ」
「魔力を集める体質って事なのかもしれないな。俺も自分の身体だけどよくわからないけどな」
俺の持つワールドリンカーの力が関係しているのかもしれない。
この力に関しては世界を安全につなぐ力って以外は殆ど何の説明もなかったし、それだと俺の持つアイテムボックス系の能力の拡張なんかは説明できないんだよな。
この世界に避難するのにほとんど魔力を使い果たしていたはずなのに、色々能力を発動させてるしさ。
【あの時は周りの魔素をかなり消費しました。南の森にはかなりの量の魔素が充満していましたので、能力の拡張に使用しています】
ああ、そういう事だったのか。
元々魔素の濃い場所みたいだし、今から考えるとあそこに出現してないといろいろ苦労したかもしれないんだよな。
流石にあの時の状況で剣猪に遭遇してたらただじゃすまない所だった。
「クライドに関しては謎な部分が多すぎて誰も突っ込まないけどな。あのワインだってどこから手に入れてるんだ? あんなワインなんて飲んだ事も無かったぞ」
「ラウロの興味はそこか。日本酒も割と飲んでたよな?」
「アレもいいな。ただ、アレは冬に飲むといい感じなんだろ? あの燗って方法で」
「流石酒飲み。冷酒が好きな人もいるけど、燗にしてもおいしいよな」
日本酒に関しては専用の米も育ててるし、いい水が湧いている場所も確保してる。今年の冬に仕込んで、早ければ来年には売り出せるはずだ。
この件に関しては鑑定機能がものすごく役に立ったのは意外だった。水の硬度とか調べられるってのは意外だったけど、なぜその機能が他で発揮されない。
「その膨大な知識の出所がそもそも謎なんだよ。この大陸の外にも国はあるが、そこまで大きな国はない筈だ」
「いろいろあるのさ。出生とかに関しては話すつもりはないぞ」
「それは人それぞれだしね~。ルッツァもあまりそこに踏み込むのは良くないよ。うん」
「珍しいな。ダリアが一番乗り気で行きそうな話なのに。まあそういう事だったら、この話はここで終わりだな」
……なんとなく、そんな気もしてるんだけど。それはそのうち確認しよう。
人にはいろいろ事情があるんだろうしな。俺みたいに。
「それより、何か頼まないのか? 頼んでた料理は粗方食い尽くしたし、そろそろ追加注文をした方がいい気がするんだ」
「そうですね~。クライドさんにはお世話になりっぱなしですけど、お酒の持ち込みは認めているんですからそろそろ追加の料理なんていかがですか」
「ツマミを頼まないとつまみ出されるってか。ははははっ」
ラウロ、そのネタは寒いぞ。笑ってるのラウロ本人だけだし。
「しかしメニューがホントに増えたな。どれも美味いし安い」
「剣猪討伐に出てた連中がこの街に帰って一番驚いたのがここの飯の美味さだって話だしな。今は他の町に行っちまった奴も多いが、たまにここの飯を食いに帰ってくるそうだ」
「料理なんかは少しずつ他の町にも広がってるけど、流石に経験の差はそう簡単には埋まらないですから。それで、ご注文は何ですか?」
「悩むところだけど、無難に剣猪の串焼きな気分だ。シンプルだけど肉醤があるからここのは美味いんだよな」
「この時期の揚げ物は大変だからな。俺は突撃駝鳥の串焼き。ここは香辛料の使い方も相当なレベルだぞ」
俺もあまりよく知らないこの辺りで獲れる香辛料が幾つも存在する。
胡椒や丁字、八角などの香辛料に似たものはもちろん、全然別の風味や香りを持つ香辛料も多い。プラントにはほとんど全種類の種子を届けたし、後味を引かない突き抜ける辛さを持つ香辛料なんかは俺もカレーに使ったりしてるけど、まだ完全にはそれぞれの個性を掴み切れていない。
それと、知らない香辛料の中にほのかに香って腐敗を長期間防ぐ特殊な香辛料も存在していたのが大きい。アレを使えば保存食の製造がはかどりそうだ。
「流石にクライドさんよくご存じですね。焼き物もきついですけど、揚げ物に比べれば楽ですしね」
「この時期はまだ高温の油がキツイからね。料理をしてると仕方がないとはいえ」
「俺は毛長鶏の唐揚げ。肉醤味の方で」
流石はラウロ。欲望に忠実だ。
毛長鶏の唐揚げは物凄く美味いから、頼みたくなるのは仕方がないし、肉醤に漬けて仕込んでる分もあるんだろうから頼むのが正解だろう。
「ありがとうございます。それじゃあ少しお待ちください」
「話は戻るけど、ルッツァ達のしてる冒険者の育成。いつまで続ける気なんだ?」
「冒険者を引退した後、ずっと続けてみようとは思っているぞ。来年には学校もできるみたいだし、ミランダはそこで先生をやる予定だ」
「引退か……。ラウロ達はどうするんだ?」
「俺もリーダーとここで冒険者の指導だな。ダリアも学校で文字とか魔物の知識なんかを教える予定だ」
正直、ルッツァ達が冒険者をやめるとここの冒険者のレベルが下がるんだけど、次世代の冒険者の育成の為だったら仕方がないだろう。
しかし、引退を考えているとは思わなかったな。いつもここでくつろいでたし、暇なのかなとは思ったけど。
「平和な事はいい事さ。危ない橋を渡らないでも暮らしていけるのはいい。冒険者の育成を始めてそう思ったね」
「そうだな。少なくとも目の届く範囲は平和であって欲しい」
まだ倒さなきゃならない奴が何匹かいるけどな。
邪神の残滓、黒龍種アスタロト、結晶竜ヒルデガルト。
少なくともこいつらは倒さなければいけない。
それでこの世界が平和になるかどうかはわからないんだけどね。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。物づ凄く助かっています。ブクマ、評価などありがとうございます。




