第百六十六話 この場所……。ああ、なんだかいろいろ見覚えのある家具がずらっと並んでますね。そこのテーブルや椅子だけじゃなくて、部屋に置いてある小さな箪笥とか化粧台も全部
連続更新中。今回はちょっと毛色が違うといいますか、普通の転生や手に物でよく見かける展開になっています。次話からはいつもの展開に戻る予定です。
楽しんでいただければ幸いです。
夢を見る時は眠りが浅いとか記憶の整理を脳がしているとかいろいろ言われているが、予知夢などの不思議な現象が起こる事については解明していない。少なくとも俺は予知夢とかは信じていたりする。
そして今の状況は夢を見ているというか、俺がかなりおかしな状態だというのは理解できる。先日スラッシュフォームを使った影響で寝てる間に死ぬほどの激痛を味わったが、今度はなんだか本当に死後の世界に連れて来られた様な……。
「はい、あなたは死んだわけではありませんよ、鞍井門颯真さん。いろいろと事情がありまして、あなたの魂とか肉体ごとこの世界に呼ぶことが出来ないので、こうして夢の空間を繋げてみました」
「この場所……。ああ、なんだかいろいろ見覚えのある家具がずらっと並んでますね。そこのテーブルや椅子だけじゃなくて、部屋に置いてある小さな箪笥とか化粧台も全部」
主に俺のファクトリーサービスで制作された白を基調とした高級家具。そして高級繊維で織られたテーブルクロスをはじめとする織物。絨毯もファクトリーサービス製の超高級品だな。
在庫の確認をしている時に、生産数と納品数で数が合わなかった物は全部ここに使われているんだろうな。兵器系は別の場所なんだろうけど。
「いえ、ほら、この空間って他の世界から物を持ち込むのが難しいんですよ。そんな事よりも、あなたにはいろいろ話しておかなければいけないと思いまして、こんな形で接触させていただきました」
「まずは名乗るのが礼儀だと思うんだけどね。知ってるみたいだけど一応自己紹介。俺は鞍井門颯真、異世界転移? に巻き込まれた一般人だ」
「一般人というのはどうかと思いますよ、ワールドリンカーの鞍井門颯真さん。私は女神フローラ。見習いじゃなくて数少ない本物の女神なんですよ」
ん? 見習い? 本物の女神? 女神に見習いとかあるのか?
「この世界の説明にも必要になりますので、そのあたりから詳しく説明していきましょう。私たちはもともと人間や亜人種などで、死後に条件を満たしていると神様からある世界に転生させられて女神見習いとして活動を開始します。その時、滅びの可能性がある百の世界を託されて、その百の世界をすべて救う事が出来ればはれて女神として認められる訳なんです」
「へぇ、見習いから本物の女神になるのは大変なのか? 百も世界を救うってのがそもそも無理な気がするんだけど」
滅びかけてるあの世界も救えてないみたいだしな。
「先輩の女神シルキーが成功するまで、誰一人成功していなかった時点でお察しした感じですね。元々あの神様は私たちに世界が救えるはずがない条件で世界を押し付けていたわけですから」
「ん? じゃあその神様は何のために女神見習いに世界を託してたんだ?」
「女神見習いが世界を救おうと足掻く姿をみる為? そして自分が都合よく使う為の天使を手に入れる為ですかね。世界の救済に失敗した女神見習いは天使として神様のサポートなどをしていますので」
最低だなその神様。
でも、そもそも神話とかの神様って試練を与えたりする話が多いし、人とかに理不尽な行いする事も多いよな。そう考えるとそれが神的存在のあたりまえな感覚なのかもしれないな。
「女神シルキーってのはシルキー教のご本尊ですよね? その女神が最初に試練を成功させたんですか?」
「そうです。先輩は鏡原師狼って人を自分の世界の中で見つけ、その人と協力して百の世界を救ったんです。先輩を女神に昇格させる事を渋った神様に交渉をしたのも鏡原さんって聞いています」
「凄いな……。神様に交渉ってどうやって?」
「鏡原さんは特殊な力に目覚めていました。神様相手でもどうにでもなる位に力を持っていますので。武力で……」
すげえな。神様脅すってどれだけ力を持ってるんだよ。
「それで神様が改心したって訳か?」
「そういう事ですね。で、ここからが話の本題なのですが、私が女神になる以前に他の女神見習いが同じように百の世界を担当していたんです。そしてその一つがあなたが今いる世界です」
「担当していた? って、まさか!!」
「その子、失敗しちゃいましてね……。以前は神様が時間を戻したりしてくれていたんですが、今はそれも規則違反でして」
それは神様がへそを曲げて干渉をやめたのか、それともその状況をよしとしない誰かがいたのかは知らない。
時間を巻き戻すって色々大変だしな。というか、神様ちゃんとフォローしてたんじゃないか。
「えっとそれじゃあ今俺がいる世界って、誰も管理してないって事?」
「私が一応担当ですよ。ただし世界を引き継いだ時にその世界に降臨したのと、流石に世界破滅クラスの厄災の出現時に力を貸した時の二回でその世界への直接干渉権は失ってますが」
「直接世界に降臨できるの二回だけなの?」
「神が地上に降り立つってものすごく世界に負担がかかるんですよ? さらに力を振るえば、世界の均衡は崩れますしいろいろ悪影響も出ますので」
ん~、もしかして今の状況ってその厄災を何とかした時の影響じゃね? 世界の均衡は崩れまくってるよな?
「直接干渉できないのは理解しました。それで、あの世界で暴れまわっていた暗黒魔怪将軍ブラックやその手下の魔怪種。それにあのへんな喋り方をする真魔獣ってのは何なんですか?」
「世界に出現した歪から現れた異世界の魔物や存在です。あなた以外の存在はその歪の干渉で他の世界から落ちてきた形になります」
「えっと、俺以外?」
「あなただけは自身のもつワールドリンカーの力でこの世界に転移してきたのですよ。元々いた場所は事故で木っ端微塵になっていますので」
「木っ端微塵って。俺のアパートどうなったんだ?」
「ガス爆発の様ですね。老朽化しておりましたし数ヶ月留守にされてた方の部屋のガスが漏れていまして、あなたが宅配ボックスに手を伸ばした瞬間に……」
なるほど。その時死にかけた俺がワールドリンカーの力とやらでこの世界に避難したと。
「俺は運がよかったのか。……その時俺に接触せずに、こっそりアイテムボックスの人工知能を装ってたまに干渉してきたのは?」
「あ~、それも気が付いちゃってましたか。もしかして全部?」
「女神フローラ、本物の人工知能、その他。あの会話には少なくてもその位は参加してましたよね?」
「そうですね。私の他にも天使が数名参加してました。あの子たちはプラントやファクトリーサービスなどにも干渉していますね」
他の世界を救うための武器とか食糧なんかをあそこで作ってるんだろうからな。
以前、惑星破壊兵器プラネットブラスターの生産を勧めてきたのは、どこかの世界で隕石か何かによる災害が発生しかけていたからなんだろう。
あの後調べたら無許可で生産して、しかも出荷までされていたからな。
「ワールドリンカーはすべての世界で唯一、世界を繋いでもそれぞれの世界に悪影響を及ぼさない希少な存在なのです。その力を持つ者はあなたを含めて過去に二人だけ。しかももう一人は神を超えた存在に進化していますので、現在その力を持つ者はあなただけです」
「本気で希少能力だったんだ。元の世界で何の力も発揮していなかったと思うんですが」
「魔素不足ですね。元の世界では魔素が少なすぎて世界中の魔素を集めてもその力を発動させることは不可能です。あの時あなたの力が発動したのは、あなた自身が持っていた膨大な魔力を全開放した結果ですね」
俺の中に膨大な魔力?
「その魔力を使って力使えなかったのか?」
「少しは使っていましたよ? 妙に勘がよかったり、予知夢をみたりしませんでしたか?」
「あった。だから俺は予知夢とかを信じてた訳だけど……」
アレは俺の中の魔力の影響だったのか?
「その魔力はワールドリンカーの力が無意識化で少ない魔素をコツコツと集めていたからですね。命に危険が迫ったので強制発動したみたいですが」
「アイテムボックスは? それにネットショップの寿買とか」
「アレはあなたが求めたので、ワールドリンカーの力で作り出された物ですね。様々な世界のネットショップとリンクして、新しい市場を作り出しました。転売禁止はあなたが嫌っていたので実装された感じですね」
転売ヤー死すべし、そこに慈悲はない。……って、俺自身が作り出した制限だったのか!!
それで俺の緊急事態にはある程度許可されてたんだな……。納得。
「話を戻します。世界中の歪ですが、それこそが以前世界の救済に失敗した女神見習いの置き土産でして……」
「置き土産?」
「女神見習いは世界の救済の為に選んだ誰かを世界に送り込むことが可能です。その時にいわゆるチート、強力な力を与える事は出来ませんが、それなりの装備などを持って世界の救済に向かう事は可能です」
「えっと例えば?」
「今ですと、あなたが最初に使っていた剣。あれと同等のレベルの武器などですね。後はその世界の通貨です」
ものすごい優遇されてるんじゃないか。
俺も反則アイテム最初から持ってたけどさ。持ってたのに気が付いてなかっただけで。
「その勇者はその剣を使ってこの世界の何と戦っていたんですか?」
「邪神の残滓ですね。その時は大陸の北に住む王に憑りついて魔王と名乗っていました」
「その時は?」
「はい。元が残滓みたいなものですので、憑りついている本体を普通に倒してもダメなんです。それこそ、あなたが使ってるあの技で倒さない限り何度でも復活します」
俺をどの位観測してるのかは知らないけど、アルティメットブレイブの力も把握してるよな。
「そして、邪神の残滓はその時に禁呪を発動させ、世界中に歪を生み出し、そのどれかに転移して滅亡を逃れました。そして勇者はその禁呪に巻き込まれて死亡しました。といっても、その人は生き返って元いた世界で暮らしてるそうなんですけどね」
……ちょっと気になったんだけど、アレの時も覗き見してる?
「していません!! おほん!! 話を続けますよ。その邪神の残滓はその後も他の人に憑りつき、様々な厄災を引き起こしました。それで一度完全に世界を崩壊させかけていたのですが、その世界を引き継いだ私が干渉して何とか世界の破滅だけは回避したのです」
「直接干渉できなくなった上に、世界の崩壊は完全に収まらなかった。つまりその邪神の残滓が何処かにいるんですね」
「はい。しかも他の世界から強力な力を持つ者を引き入れ、その者に様々な魔物を生み出させているみたいです。もっともその時の影響で別の場所に意図せぬ存在を呼び込んでいたみたいですが」
十四年位前に黒龍種アスタロトをそいつが呼び出して、その時王都に雷牙勇慈が召喚されたのか。
他の幹部連中もいたし、もしかして本当に他のブレイブもこの世界に存在している?
「状況はおおむね理解しました。その邪神の残滓がどこの誰に憑りついているのかはわからないんですか?」
「流石にそれは分かりませんね。巧妙にわたしの監視から逃れています。他の世界から魔物を呼び寄せたのも十四年前で最後ですし」
「黒龍種アスタロトを締め上げて吐かせるしかないか。そうなると本気でアルティメットフォームまでパワーアップするしかない」
「あなた達には本当に期待しています。またこうして夢の中で話す事があるかもしれませんが、あまり力にはなれないでしょう」
「いえいえ、結婚式での祝福とかいろいろお世話になっていますので」
大きなお世話だったけどな!!
あの後結構大変だったんだぞ。
「いえいえ、あのくらいはいいんですよ。私の教会にも多額の寄付をしていただいているみたいですし、先輩の教会にも毎月あれだけの大金を寄付していただいていますので」
「その先輩っていうか、女神シルキーの力は借りられないのか?」
「流石に先輩は多忙過ぎて、この位の規模の世界ですと無理ですね。今はあなたがいるからその世界もいろいろな女神から注目はされていますよ」
「ワールドリンカーの力目当てか……。昨日エリクサーの材料が揃ったんだけど、アレももしかして?」
「アレはプラント機能で量産が開始されたからですね。とても助かっていると天使が喜んでいますよ」
ちょっと待て。
もしかして入荷した木の実を育ててたから届くのが遅れたのか? もしその間ヴィルナに何かあったらどうするつもりだったんだ!!
「その時は他の世界のエリクサーを届けてると思いますよ。その位の保険はかける子たちですので」
「それならいいか……。あと、いろいろ持ち出すんだったら一言位ほしいかな。それと、アイテムボックスに専用のフォルダを作っておくから、そこの料理とかは好きに食べていいよ。リクエストがある場合はお知らせで」
「ありがとう!! この世界ってさ、外部からの持ち込みがほんっとうに難しいんだよ。先輩は世界への影響を最低まで抑えた姿で直接色々買い集めてたって言ってたけど、私にはそんな真似は出来ないし、その世界のお金も自由にならないしさ~」
……地の話し方はそれか。
「食材と調理法とかが分かれば割と何でも作れる。調合機能を利用するかもしれないけどね」
「それでも十分だよ。今日はこの辺りが限界かな。では、また」
……最後の最後で割と地が出たな。
とりあえずあの世界の敵というか、裏で糸を引いてる奴がいるのは分かった。
邪神の残滓か……。黒龍種アスタロトを従えているのにいまだに世界を滅ぼせてないなんて、いったい何が目的なんだか。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。




