第百六十三話 どう考えても十一年前にアツキサトの南の森に住む聖魔族を壊滅させたあの竜だろうな。十一年もの間、この辺りの生き物を喰らい続けていたんだろう
連続更新中。今日は少し短めです。
楽しんでいただければ幸いです。
南の森に冒険者が今まで迂闊に侵入出来なかったそもそもの理由。そう、それはあの竜がこの辺りのどこかに潜伏しているからだ。
今まで探索した廃村などでは見かけなかったが、内海に面した漁村で蠢く何かを発見した。
反応から見てそれなりに危険な奴がいるのはすぐに分かった。というか、あいつしかいないだろ?
「どう考えても十一年前にアツキサトの南の森に住む聖魔族を壊滅させたあの竜だろうな。十一年もの間、この辺りの生き物を喰らい続けていたんだろう」
「確かにこの辺りには冒険者が来ていない筈なのに剣猪の一匹すら見かけなかった。本当だったら相当な数の剣猪が生息しているはずだけど、あの竜が残らず食い殺したということか」
「とんでもない大喰らいだな。この辺りの住人が生き残っていたとしても、日々の食料の調達に苦労しただろうな」
「あの漁村だけは海があるから何とかなったのかもしれないな。流石にあの竜も海の魚まで食いつくしはしないだろう」
地形的にこの辺りだと港を作れるのはあの村位なんだよな。大規模な工事をすれば何か所か港を作れそうな場所はあったけど、他は割と断崖絶壁だった。
竜に関してだけど、海に生息する魚介類は数が多いしなんとなくだけど魚とかを襲わない気がする。
嗜虐性が高いし、反応の鈍い魚は好みじゃない気がするんだよね。
「すまないけど、あそこにいる竜は俺が倒してもいいか?」
「訳ありか?」
「妻の家族というか、南の森に住んでた聖魔族を食い殺した奴だ。出来るならあいつを倒す姿を見せてやりたかったところだけど、正直、本心を言えばあいつを倒すところは見せたくなかったんだよな」
「……お前がそこまで言う相手がいるんだな。分かった、俺はサポートに回る。逃がさないようにな」
「すまない」
あの竜を倒す機会があったのが、今回の探索の最大の収穫だ。
比較的近くに港が出来た事や、拡張工事次第でデカい港町が出来そうな場所が見つかったのも副産物に過ぎない。
「それじゃあ行くか」
「ああ」
南の森の解放、そしてヴィルナの家族の敵討ち。
今までで一番重要な戦いだな。
◇◇◇
漁港のど真ん中。そこで手にした茶色い何かを貪っている竜。なんとなく形が人間の頭部に似てる気がするが、たぶんその予想は間違っていない。
竜というには割と蟲型に近く、どちらかといえば蜘蛛とかに近いと言えなくもない。肩から上は竜っぽいけどな。
「コノ俺ノ食事ヲ邪魔スル奴ハ誰ダ。ソンナニ慌テナクテモ、コイツラノ様ニ、スグニ喰ラッテヤル」
「その手にしているでかいクッキーは人か? 人を焼き菓子に変えて喰らうとは悪趣味極まりないな」
「ユックリトコノ姿ニ変エテ、周リノ奴ラニ見セツケナガラ喰ラウノガ、最高ニ楽シインジャネエカ。コノ雌ヲ、コノ姿ニ変エタ時ノ雄ノ反応ハ最高ダッタゼ。粗方喰ッテ、モウ頭シカ残ッテネエガ」
腐れ外道が。
その雄ってのは、今食い殺した人の父親か何かだろう。
「姿が蜘蛛っぽいが、お前は暗黒魔怪将軍ブラックの手下か? あいつもこんな悪趣味な雑魚を使わなきゃならんほど追い詰められていたのか?」
「ヌカセ!! 誰ガアンナ雑魚ノ部下ダ。コノ俺ハ恐怖ト暴食ノ化身、真魔獣ダゾ」
真魔獣?
こいつは魔怪種じゃなくて、別の世界から来た魔物か何かか?
それともほかの作品……、いや、いくらなんでもこんな悪趣味な能力を持つ敵なんて出す特撮物はないだろう。
「貴様が何処の何であれ、俺たちが倒すことに変わりはない」
「ホホウ、大キク出タナ。貴様ラヲ喰ラウ前ニ、イイ事ヲ教エテヤロウ。我ラ真魔獣ニ喰ワレタ魂ハ、我ラヲ倒サヌ限リ永遠ニ、コノ腹ノ中デ地獄ノ苦シミヲ味ワウノダ。タトエソレガ百年後デアロウトナ」
と、いう事は十一年前に喰われた聖魔族や、この辺りの人たちは全員……。
ここまで怒りではらわたが煮えくり返りそうな事は初めてだ。刻んで刻んで斬り刻んだ後にその細胞一つ残さず消滅させてやる!!
「セットアップブレス、鞍井門颯真」
【セットアップ、鞍井門颯真。アクセス。セットアップ完了】
「究極の勇気は斬撃と共に!! ブレイブ!!」
【アルティメットブレイブ。スラッシュフォーム!!】
スラッシュフォームはアルティメットブレイブに七代目ブレイブのサムライブレイブの能力を上乗せしたフォームだ。
超強力な斬撃技の他に、各種能力も数倍に向上している。その分、俺の身体の負担もでかいがそんな事は関係ない!!
「強化フォームか……。俺はいつも通りで行くぞ。セットアップブレス、雷牙勇慈」
【セットアップ、雷牙勇慈。アクセス。セットアップ完了】
「正義はここに、ブレイブ!!」
【ライジングブレイブ。真・迅雷フォーム!!】
あの姿は最終フォームである真・神雷フォームの四段位下のフォームの筈。それにしては技の威力が凄まじいんだよな……。
「ホウ。貴様ラモ変身スルノカ。ダガ、変身シタ所デ結果ハ変ワラヌゾ」
「ああ、変わらねえな。無衝炎斬。真・無影斬!!」
「消えた? いや……光速で敵を斬り刻んでいるのか?」
真・無影斬。超加速状態で敵を斬り刻む必殺技のひとつ。能力が解放された無衝炎斬を使っているから通常よりもさらに威力が上がっている。
斬った部分から浄化されて光と化して消え、再生能力を持つ敵ですらその力を奪う。こいつはなんとなく再生しそうだったんでこの技を使ったんだけどな。
「痛みなんて感じてないみたいだが、せめてその身を切り刻まれる苦しみを味わいやがれ」
「見エヌ!! 馬鹿ナ!! 身体ガ!! 消エル!!」
これだけ斬り刻めばいいだろう。さて、トドメだ!!
「スゥクトゥマ・ホールド!!」
七枚の光の輪が発生し、そのうちの二つが真魔獣を名乗った敵をその場に拘束した。一つでも十分だと思うが、絶対に逃がさないために今回は二枚使う。
そして光の輪がひとつ、十ニ本の光で出来た剣へと姿を変えた。
「必殺!! スラッシュ・アルティメェェット・クラァァァァッシュ!!」
十二本の光の剣は俺の足元で剣先を揃えてドリルの様に回って全てを斬り刻み、そしてその後で光の粒子を纏った俺の蹴りが炸裂する。
大口を叩いていた真魔獣はその力を発揮する前に光の粒子と化し、そして以前新種の魔物を倒した時の様に大量の光の玉が天に昇っていく。ああ、アレはあいつらの中に閉じ込められていた魂だったんだな……。ん?
【娘をお願いします】
【助けて下さって、ありがとうございます】
光の玉が二つ。天に昇る前に俺にひとことずつ残していった。アレはおそらくヴィルナの両親だったんだろう。
こうしてみると、他の光の玉もなんだか何か言ってる気がするよな。
「それがお前の強化フォームか。無茶しやがって」
「最終フォームじゃないから大丈夫だと思うんだけどね」
「お前が動けない時は俺がなんとかしてやる。だから無茶せずに体を休めろよ」
「……もしかしてお見通し?」
「魂の筋肉痛といえる神力痛だ。皆一度は通る道だが、お前も一度や二度は体験しているんだろ?」
もしかして適合者の雷牙達も同じような痛みに耐えてきたのか。
今回は強化フォームだし、痛みも以前より酷いかもしれないな。
「奴が何かする前に確実に倒すにはああするのが一番だったんでね。後悔はしてないぞ」
「お前らしいといえばらしいが。後先を割と考えずに行動する事もあるんだな」
「いや。お前があるからこそだ。俺一人の時は変身するのも躊躇するくらいさ」
「クールタイムがあるとそうなるだろうな……。それじゃあ街に戻るぞ」
「了解!!」
これでヴィルナの両親の仇は討った。あのクソ外道な話を聞かれなくて本当によかったよ。
しかし、これで南の森が解放されるから冒険者の採集先がかなり増えた事になる。冒険者ギルドは大喜びだろうな。
内海に新たに港町を作るのは、全部男爵に任せればいいだろう。流石に今回は俺が手だしする事は無いし……。
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