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第百五十三話 どんな料理が出てくるのかは不安だけど、王都って食材が無い訳じゃないんだよな。毛長鶏は卵の味も肉も大山雉より数段上だし。だからある程度の料理は出てくるんじゃないかな?

連続更新中。

楽しんでいただければ幸いです。



 晩・餐・会。本来は心躍る響きの筈なのに不安な気持ちでいっぱいになるのは、これから出てくる料理に欠片も期待ができないからだろう。


 俺が料理関係で派手に動き始めてもう半年以上経つ訳だし、流石に王都でも少しくらいは料理の質が上がっていると思ってたんだよな。でもこの前屋台で売ってた串焼きをみたり白ヒツジ亭で飯を食ってその予想が大甘だったと散々思い知らされた。


 白ヒツジ亭の食堂もそれなりの額で出してる割と高級店のひとつだよ? それがあのレベルなんだから他はそれより劣るって事だろ? 今のアツキサトだったらあんなレベルの露店なんて二日と営業できないよ?


「どんな料理が出てくるのかは不安だけど、王都って食材が無い訳じゃないんだよな。毛長鶏は卵の味も肉も大山雉より数段上だし。だからある程度の料理は出てくるんじゃないかな?」


 あの毛長鶏(けながどり)は帰ったらカロンドロ男爵かスティーブン辺りに話を持ち掛けてアツキサトでも飼うようにしたい。


 大山雉(グレートファゼント)を飼ってる所を増築すれば何とかなるんじゃないかと思うんだよな。資金が足りない場合は支援してもいいと思ってる。その位に食材としては魅力的なんだ。


「同じ食材を使ってもソウマが料理を作った場合と他の人間が作った場合を知っておるから、素直に首を縦に振れんのじゃが。ソウマであれば同じ食材でも絶品料理を作る事が出来るじゃろ?」


「そりゃまあ、もってるレシピの数と場数の違い? 一時期ものすごい数を毎日作ってたからね」


「この世界の料理人もそこそこ作ってると思うのじゃが」


「使ってた食材とか調味料の差だろうな。同じ食材や調味料なんかでも投入するタイミングとか順番で味が全然変わってくるんだぞ」


「そのセリフをよ~く考えて、最初の発言を思い返してみた方がよいのじゃ」


 わかってるよ。


 高級食材をゴミに変える奴も結構いるんだしさ。火加減、塩加減、下拵えのどれか一つでも致命的なミスをしたらどんな食材でもよくできた生ゴミにしかならないからな……。


「素材の味を生かすだけでも美味しくできるんだけどな。蟹なんてそのまま茹でるかした方が旨い位だし」


「それは素材の味を引き出せる者だけなのじゃ。わらわでもかなり苦労するのじゃが」


「ヴィルナの料理の腕もかなり上がってるし、それなりに自慢できるレベルに達してると思うぞ」


「美味しく作れるのは何度も練習した料理だけじゃな。ソウマは何を出しても文句を言わずに食べてくれるので少し不安になる事もあるのじゃぞ」


「美味しくない時にはアドバイスするだろ? 最近はその機会が無いだけで」


 ヴィルナは本当に料理が上手くなったんだよね。


 元々料理を作る能力が高かったというか、嗅覚や感覚が鋭くて変化に敏感だから一度覚えたタイミングはほぼ完璧に再現できるんだよな。スの入ってない茶碗蒸しとか火の通し方が完璧だったし。


「それにしても、まだ始まらぬのじゃな。わらわたちに話しかけても来ぬし」


「そりゃ、この場所で知らない人間に声をかけてくるのは難しいだろ」


 今いる場所は晩餐会会場の控室。


 会場の準備が出来次第呼ばれるそうなんだけど、こんなパターンは初めてだな。大体テーブルについて待ってる事が多いんだけどね。


 ん? 爺さんが一人こっちに歩いてきた。


「それだけの服を着ておる者に近付ける者はそうそうおるまいて。他の貴族どもも目を白黒させておるぞ」


「割といい服ですけど、そこまで気にする事は無いんですけどね。ヴィルナのドレスに関しては触るのも躊躇うと思いますが」


「触ってボタンでも絡めた時には血の気が引くじゃろうな。流石にわらわが逆の立場であれば近付かぬ」


 そうだけどさ。侯爵とか公爵クラスだったら割と平気だと思ったんだよ。


 明らかにそのクラスっぽい立派な錫杖持った貴族も近付いてこないしさ。この爺さん以外。


「儂はルーペルト・パッヘルベル。今は息子のシュテファンに家督を譲っておるので、元侯爵の爺にすぎぬがな」


「私は鞍井門(くらいど)颯真(そうま)。先ほど子爵位を拝領した若輩者です」


「ふぉっふぉっ。カロンドロの所で色々動いておるのはお主じゃろう? あの馬鹿息子が儂の情報を欲しがるほどじゃ。いろんな事件に巻き込まれておるようじゃな」


 ん? 馬鹿息子? 侯爵。家督は息子に譲った……。


「もしかして金鉱山をお持ちの侯爵様ですか?」


「元侯爵じゃ。しかし、すぐにそこに辿り着くあたり、あの馬鹿息子はいろいろ話しておるようじゃな。息子が窮地を救って貰ったといっておった。儂からも礼を言わせて貰いたい。息子の窮地を救ってくれてありがとう」


「いえ、あの事はもう十分すぎるものを頂いてますし、こちらこそ礼を言わせて欲しい位です」


 あのライジングブレイクのフィニッシュブロウチップには本当に何度も助けて貰った。


 こっちが色々出さなきゃいけない位なんだよな。冒険者ギルドで何度か料理を食わせたのも、その礼も含めてたりするし。


「儂の用事はそれだけじゃ。そろそろ晩餐会の準備も整うじゃろ。ほれ、呼びにきおった」


「晩餐会の準備が整いました。会場に案内いたします」


「それではな。もう引退した身じゃが何か困った事があれば力になろう。といってもお主には必要ないであろうがな」


「いえ、その時はよろしくお願いします」


 確かに誰かの助けが必要になる事は少ないだろうけどさ。


 どうやら爵位の高い人から案内されてるっぽいな。俺はもう少し後かな……。


◇◇◇


 子爵という地位に就いたけど、いろんな思惑があるのは察している。


 カロンドロ男爵より高い爵位をくれたのは、カロンドロ男爵領に戻った後でひと悶着あるのを期待している可能性すらあるんだよね。


 例のレミジオ子爵領って隣り合った領地を与えようとしたのも色々怪しいしさ。鉱山をスティーブンが押さえてるのも知ってるだろうに。


「色々考えても、目の前の料理がおいしくなったりはしないんだよな……」


「むしろ意識を集中しないようにしておるんじゃろう? まずいとまでは言わぬが流石に……」


 そう。晩餐会が始まってすでに三品出て来てるんだけどさ。美味しくないんだよ。そして困った事にそこまで不味くもない。


 ではどうなのかというと、味が薄いんだ。いや、正確には旨味が足りてないっていった方がいいのかもしれないな。


 全体的に出汁を使っていないというか、あの割とおいしい毛長鶏(けながどり)の味を微妙な塩加減で台無しにしてるし、香辛料をうまく使っている訳でもない。野菜の旨味が抜ける位煮込んだ温野菜モドキにも、ほとんど塩味が付いていないので食べきるのに苦労した位だ。


 で、問題はそれを周りの人間……、特に王族辺りは美味しそうに食べてるんだよ。貴族たちはその姿を冷ややかに見ているというか、それを横目に自分たちは懐に忍ばせていた岩塩の瓶とかを使って味を濃くしていた。


「ダリアが戻りたくないっていう訳だ。パンもアツキサトで最初に食べたパンといい勝負だぞ」


「そうじゃな。流石にこれほどとはわらわも予想しておらなんだ」


「素材は悪くないんだよな。どの材料も一級品だ。ただ、圧倒的に味付けが薄い」


「なんとなくなんじゃが、今までソウマが晩餐会などで出した料理に見た目だけは似ておる料理があるのじゃ。先ほどのコンソメスープとかの」


「そこは俺も気が付いてた。作り方が全然違うだろうし、色もウコンか何かで黄色くしているだけだ。あれはコンソメスープですらない」


 ちょっと似た別の料理なんだよな……。中途半端に仕入れた情報で再現しようとして失敗してるというか……。


 テーブルのナイフなどの数を考えればあとはメインとデザートか?


 さて、どんな料理が出てくるやら。


「メインは毛長鶏(けながどり)の塩釜焼です」


「おお……、って、あれもしかして直接塩だけで包んでる? 塩卵白じゃなくて本気で塩だけで包んでないか?」


「そのようじゃな。おそらく予想通りの味じゃろう」


 それにしても、コース料理七品のうち、三品が毛長鶏(けながどり)を使った料理。


 なに? 今日は毛長鶏(けながどり)を楽しむ晩餐会なの? しかも焼いて出すのこれで二品目だよ? しかも両方塩だけで味付けって……。


「塩からっ!! これ、昔の塩鮭って売られてた真っ白い塩鮭に近い位塩辛いぞ。今まで味付けが薄かった分インパクトは強力だ」


 大昔に格安で売られてたのを一回買っただけだけど、塩で真っ白にコーティングされてカリッカリな塩鮭ね。お茶漬けで食べるにはちょうどいいけど、あれはそのまま食うには辛すぎるんだよな。


 目の前にある毛長鶏(けながどり)もかなりそれに近い。この上質で美味い毛長鶏(けながどり)をここまで不味く仕上げるとは……。


「わらわの部分は塩があまり浸み込んでおらぬな。中心に近い部分なんじゃろう。程よいといえば程よい味付けじゃな」


「当たりはずれがでかすぎるな。ワインが薄いから丁度いいといえばちょうどいいのか」


 口の中でマリアージュなんて全然考えてられないぞ。


 王家主催の晩餐会がこのレベルってヤバくない? それとも今回がたまたまこんななのか?


「締めに出てきたのはカヌレか。これは間違いが無いからいいけど」


「ラム酒の香りが効いていてよいな。これだけの数を揃えるのは苦労したじゃろう」


 多分これが一番予算かかってるよな?


 だからほかの料理の質が悪かった? いや、最後の塩焼きの塩を他の料理に使えばまともな味付けにできただろうし、同じ鳥の焼き物を同じ様な味付けで二点も出す意味が分からない。


「これで終わりかな?」


「後は貴族同士で談笑するだけの様じゃな。何を笑っておるのかは知らぬが」


 おそらくこの晩餐会の質の低さだろう。


 料理の組み立て、味付け、盛り付けなど何一つ褒められるところが無かった。流石にこれは問題だ。


 でも、俺が口をはさむ問題じゃない。なるほど、晩餐会がこれだと白ヒツジ亭の料理があのレベルでも納得だな。


 出来るだけ早くアツキサトに帰ろう。とはいえ、もうこの王都で何か食べに行くことなんてないだろうけどね……。




読んでいただきましてありがとうございます。

誤字報告ありがとうございます。助かっています。

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