第百五十話 ヴィルナはこういった歴史のありそうな建物とかを見るのはあまり好きじゃないのか?
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楽しんでいただければ幸いです。
王城に向かい、白ヒツジ亭を拠点にしたことを伝えたがいつ王城から使いが来るか分からないから気軽に王都観光もできやしない。
王城迄の道のりに観光できそうな場所はたくさんあったけど、何というか古都観光って感じなんだよね。嫌いじゃないけどヴィルナは退屈そうだし。
「ヴィルナはこういった歴史のありそうな建物とかを見るのはあまり好きじゃないのか?」
「好きでも嫌いでもないのじゃ。古い建物というのは分かるがただそれだけなのじゃ。遺跡やダンジョンと違ってそこまで古い物でもないしの」
「……いや、千年近い歴史建造物もあったよな? あれは流石に古いだろ?」
「数千年規模の遺跡など珍しくもないのじゃ。わらわが以前冬に籠っていた洞窟もおそらく千年以上は昔の代物じゃ」
やっぱりその洞窟ってダンジョンじゃねえのか? ん? ダンジョンって魔物がいるんだよな? 誰もそのダンジョンに潜っていかないけど魔物が溢れたりしないのかな?
「そこまで古い遺跡って多いのか?」
「いつの時代にできたかわからぬ遺跡など世界中にあるのじゃ。ダンジョン化した遺跡も多いのじゃが、魔物被害が出ぬ場所などは放置されたままじゃな」
「どこのダンジョンにも魔物がいる訳じゃないのか?」
「獣や蟲の類はおるじゃろうが、力を持つ魔物の数は限られておる。そもそも魔素があってもそ奴らの食料が不足しておるじゃろう」
「必要分の食料とかはダンジョンに生えてくるのかと思ったよ。魔素が濃くてもダメなのか?」
「食糧を必要とせぬタイプの魔物は大丈夫じゃな。天然の洞窟の様に生態系のようなものが出来あがっておるダンジョンもあるじゃろう」
財宝とかが確実にある訳じゃないから潜る人間もいないんだろうな。
ダンジョン探索が快適とは思えないし、わざわざ地下深くに潜って危険を冒す必要もない。
「ダンジョンはともかくとしてさ、こんな感じの遺跡っていいと思わないか? 趣があるというか」
「ただの古い建造物じゃな。壊れてないという事は立派なのかもしれぬが」
「そりゃそうなんだけどね。歴史的建造物にあまり価値は見出さないのかな? 結構雑に扱われてるみたいだし」
いかにも古そうな建物がそのまま利用されてるし、結構趣のありそうなオブジェとかに平気で物を置いたりしてるもんな。
全体的に古い建物が邪魔なのか店の並びなんかも酷い有様だし、生活しにくいってのは間違いない。
ん~、小腹は空いたな。
「食事は白ヒツジ亭でするとしてもさ、何か食べてみたりしないか? ほらいろんな屋台があるみたいだしさ」
「わかっていっておらぬか? おそらく予想通りの味じゃぞ」
「だろうな……。何かわからない肉を塩で焼いただけなんだろうけどもう少しやりようがあるだろうに」
焼き過ぎてるし、肉汁は抜けてぱっさぱさに見える。そういう食い方をしないといけない肉なのかどうかは知らないけど、この辺りで何の肉を使ってるのかは知りたかった。
「それよりもわらわたちを遠巻きで見ておる輩が多いのじゃが」
「俺たちの着ている服のせいだよ。俺はアツキサトで散々同じ目に遭ってるから知ってる」
「ソウマの仕立ててくれた服はどれも素晴らしいのじゃ。動きやすい上に肌触りも最高じゃからな」
そりゃそうだろうな。あのウエディングドレスほどじゃないけど、使われてる糸からすでに異次元レベルな規格の逸品だし。
【軽く、強く、通気性と吸水性の高い布で、更に魔力や氣に対応した素材で作られています。魔力や氣が高い人が使うと衝撃などの耐性が格段に上がります】
ヴィルナも相当に強いからそう不覚を取る相手はいないと思うけどね。
緊急用の結界発生装置や再生の秘薬とかも持たせてるし。
「俺達もそろそろそれなりの服とかを着ないといけない立場だしな。今着ている服をそれなり扱いするのもあれだけど」
「晩餐会用に仕立てて貰ったドレスと比べたらそれなりじゃろう。あのドレスはわらわでも袖を通すのに緊張するレベルじゃぞ」
「ウエディングドレスとほぼ同等のドレスだしな……。何着か渡してるから汚しても大丈夫だろ」
それでも俺以外の人間はあのドレスを着てるヴィルナに近付くのは相当心臓に悪いと思う。
少しでも物が分かる人間だったらあのドレスの価値位見抜けるだろうし、触れる事すらためらわれるだろうからな。
「あのドレスを何着も用意できるソウマが異常なのじゃ。装飾の宝石類だけでも信じられぬ物じゃぞ」
「持ってるし作れるんだから利用しない手はないだろ。散々こっちを利用してるみたいだし、たまにはいいさ」
俺が必要としなさそうな物も結構生産されてるしな。しかも売却した跡もあるし、売った訳じゃないのに生産数と在庫の数が微妙に合わないものも多い。
どこの誰に渡してるのかは知らないけど、一応ひとことくらい説明があってもいいと思うんだよな。
「王城からの使者が来るかわからぬからあまり白ヒツジ亭から離れる訳にもいかぬしの。おとなしく宿に戻るのが得策じゃと思うのじゃ」
「せっかくの新婚旅行だったのにな。天気はいいし散歩にはちょうどいいけど宿に戻るか」
「宿まで歩くだけでも結構な距離じゃな。最近はあまり出歩いておらぬから丁度いいのじゃ」
「結婚式の後は割と出歩いてたと思うけどね。ふたりで出かけるとシャルが寂しがるからどっちかが家にいないといけないんだけど」
「短時間じゃと良いのじゃがな。半日も出かけると大変なのじゃ」
寂しがって大暴れするんだよな。
最近は最終的に俺の布団の中に潜り込んでる事が多い。キャリーケースか何かで運ぶ事も考えなきゃいけないかもしれない。
「さて、白ヒツジ亭に着いたし、ちょっと早い晩飯にするか? 王城まで往復して街を少し散策したから丁度いい時間だろ?」
「またここの食堂を使うのか? そろそろソウマの料理に切り替えてもいいと思うのじゃが」
「酒は薄いし料理もそこまで美味しくないけどさ、食べられないレベルじゃないだろ。もう一食付き合ってその後は考えよう」
「そうじゃな。不味くはないのじゃが……」
ここの料理は何を食べてもなんとなく一味足りない。塩味以外の旨味が足りないというか、アツキサトだと今は当たり前の出汁を取るって行為が行われてない気がするんだよな……。
王都だけあって食材は割と豊富だ。調理方法次第で幾らでも美味しくできそうなのに……。
◇◇◇
白ヒツジ亭の食堂。
なんというかさ、このレベルの食堂でも客の入りが悪いとか言うレベルじゃないんだよね。この状況すっごく懐かしいというか、今のアツキサトだとこんな店があったらひと月でつぶれるぞ。
「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」
「……無難に毛長鶏のモモ焼きにせぬか? あの鶏肉はまだマシじゃ」
毛長鶏は尾が一メートル以上もある雉くらいの大きさの鶏で味は鶏に近い。といか、アツキサトでも増やせるんだったらあっちで養殖したほうがいいかもしれない鶏だ。
「問題は主食だよな……。パン以外の選択肢が無いし」
パン以外にも一応あるよ、美味しくない麦粥が。興味本位で初日に頼んで、食べきるのに苦労したからな。もう二度と頼まない。
「パンもそこまで美味しくはないのじゃがな。ソウマのバゲットを食べ慣れておると、ここのパンは粘土でも齧っているようなのじゃ」
「焼き菓子が流行る訳だな……」
わざわざ不味くして食うのが流行ってるのかってレベルなんだよね。
王家に遠慮してるって言うんだったら、上の方からちゃんとした物を食べろって言わなきゃダメだろこれ。材料はあるんだからさ。
「仕方がないのじゃ。毛長鶏のモモ焼きとパン、それにあの薄いワインじゃな」
「そうだな。値段が高いのがちょっとアレだけど、ここを維持するには必要な額なんだろう」
壺入りのワインがなんと五十シェル!! しかもアツキサトの半分くらいの薄さだ。ほぼ水だろこれ。
毛長鶏のモモ焼きは三十シェルだけど、これはまだ我慢できる。ここは王都だし色々理由があるんだろう。だけどあのワインは流石にボリ過ぎだろうぜ。
「大体物価は十倍じゃな」
「どの位税金で持って行かれるのかは知らないけど、税金が高そうなのは理解できる。あの料理であの値段だったらここも、もう少し小奇麗にできそうだしね」
「たまにならばじゃが、こんな食事もよいかもしれぬな。ソウマと出会った頃を思い出すのじゃ」
「俺もまだそこまで稼いでなかったし、料理を作ったりもしてなかったからな。あれから一年か……」
ヴィルナとこんなに早く結婚するとは思っても無かったけどね。
というよりも、俺が誰かと所帯を持つなんて元の世界で暮らしてた時には考えてもいなかった。
「この先もいろいろあると思うのじゃが、ソウマと共にあれば生きてゆけるじゃろう」
「これからもよろしくな。で、どうする明日の朝からは……」
「部屋で食べるのがよかろう。この料理にこれだけの値段を払う事も無いじゃろうしな」
ヴィルナのたまにはそんなレベルだった。
そうだね、だってこのパンですらアツキサトで最初に食べたパンより美味しくないんだから仕方ない。
あまり匂いの強くない料理か……。何品か考えてみるかな。
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