第百四十八話 いや、少し手前の町で一泊してから王都に向かおうと思うんだ。夕方について時間がかかると先方にも流石に迷惑だろ?
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楽しんでいただければ幸いです。
王都へ向かっての快適なドライブ~、って言っていいのかどうかはわからない。
あれだ、周りに割と馬車があるのに時速三百キロオーバーで疾走する車ってどうなんだろうね。地面から浮いてるから車ってよりはよく似た何かな気はするけど。
【予測は完璧ですぜ旦那。百キロ先の道を曲がる人の動きすら把握済みです】
相変わらず人間くさい人工知能だな。堅苦しい喋り方をされるよりはましだけど、割と砕けすぎな気はするんだよな。
「相変わらずすさまじい速さじゃの。これならば今日中にも王都に付くじゃろうて」
「いや、少し手前の町で一泊してから王都に向かおうと思うんだ。夕方について時間がかかると先方にも流石に迷惑だろ?」
「迷惑を被っておるのはソウマの方なのじゃ。多少の事は目を瞑るじゃろう」
「そうなんだけどね。でも、俺が暴君鮮血熊を討伐したのが直接の原因だしさ。行い自体がいい事でも、面倒ごとを山ほど増やしたのは間違いないんだろうし」
いや、討伐してくれたのはありがたいんだけどって感じだと思うんだ。
捻出しなきゃならない莫大な報酬の件もそうだけど、歴史に出てくるような魔物を討伐した訳だしそれなりに対応しないといけなくなるんだろうしね。
「ソウマは多くの人の命を救ったのじゃ。国を統べる者として相応の礼を果たすのは当然じゃろう。本来であれば、自らの手で討伐せねばならぬはずじゃしな」
「それは流石に無理だろう。暴君鮮血熊はどれだけ普通の人間を集めても倒せるレベルの魔物じゃないしな。あの熊を退治できるのは俺か雷牙位だと思うぞ。死んだ後でも肉を削いだりするのに一苦労な奴だしね」
「それでも、やらねばならぬのが王じゃ。最低でも剣を取って戦い、民を守る姿を示さねばならん」
「言いたい事は分かるけどさ、それが出来る王もそう滅多にはいないと思うぞ」
その王を守るのが騎士の役目で、最終的に矢面に立つのはその下の兵だしな。
あの熊相手だと、普通の兵が何人いても盾代わりにすらならないだろう。
「そうじゃな。王の器を持つ者も少なかろう。先代の王も酷かったそうじゃし」
「よく国が潰れなかったってレベルっぽいな。俺がこの世界に来てなくて、雷牙の行動次第だとここ最近も国が滅んでてもおかしくない流れだったけどな」
穀倉地帯の壊滅とか、塩の生産力の低下とか、あのへんな魔物や暴君鮮血熊の出現。
放置してれば確実に国の命運を分ける状況だった。
「前の王の時の事は流石に詳しくは知らぬが、酷い有様じゃったとは聞いておるな」
「反乱防止に人質を取ってたくらいだしな。それを強行できるくらいの力はあったんだろうけどね」
「力が無ければ反乱を起こされておろうからな。国を維持できておったのは奇跡じゃったのかもしれんが」
「維持できた秘密があるんだろう」
おそらく金鉱山があるおかげだろう。
ルッツァの実家以外は金鉱山を王家しか持ってないみたいなことを言ってたしな。
この世界の金の価値から考えても、産出量が相当に少ないってのは分かる。そこを押さえてるんだから、かなり強く出れるだろうね。
「旅は順調であるし以前マッアサイアに向かった時よりは快適なのじゃ。高速馬車も悪くはないのじゃが、流石にこれに比べればはるかに劣るのじゃ」
「高速馬車は凄いと思うけど、それでもやっぱり馬車だからな。こっちは宙に浮いてるから地面の影響はゼロだし」
不思議な事に浮遊感も殆どゼロなんだよな。
浮いてる状態で固定されているように安定してるし。
「ソウマの持つ力は凄いのじゃ。凄すぎて扱える人間には限りがあると思うがの」
「そこを理解してくれてると助かるよ。過ぎた力は身を亡ぼす事の方が多い。俺が色々出せるのを知ってるのに何も欲しがらないヴィルナも相当に凄いからね」
「わらわに必要なのはソウマだけじゃ。結婚式のドレスもそうじゃが、晩餐会用のドレスなども貰っておるしこれ以上望むのは間違っておるの」
「それでも、際限なく要求してくる人も多いのさ。ヴィルナはそんな事は無いって理解してるけどね」
最初に出会った時から、余程の事が無ければ何かをねだってきたりした事は無かった。
食べ物系で幾つか欲しがったくらいか?
「わらわはもう十分に心が満たされておるからの。いろいろ欲しがるものは心が飢えておるのじゃろう」
「生きていく上で必要なものは多いよ。確かに心が満たされてないと、代わりの何かを求めたりするんだろうけど」
「あの男爵領に住む人の心を満たす為に、あれこれ画策しておるのじゃろう? 食い物に働く場所、全て繋がっておるようじゃが」
「仕事があっておいしい食事が食べれて共に過ごす誰かがいる。これだけ揃ってれば生きていく気力も充実すると思うんだ。冒険者稼業をする人も必要だけど、他の仕事で生きていける人がわざわざ冒険者をする必要はないだろ」
「あの町の周辺にはそこまで強い魔物はおらんしの。剣猪や突撃駝鳥の数を間引く程度の仕事であればそこまで人数は必要ないのじゃ」
「今は装備もいいしな。それに去年の一件で剣猪の数は激減してるし、普通の仕事探すよりも冒険者の仕事の方が探しにくい位だ」
採集依頼は山ほどあるけどね。
競争率も低いからシルキー教の子供冒険者たちがエヴェリーナと一緒に毎日色々納品してるみたいだし。
「その状況もあの男爵領くらいじゃろう。人口が増えれば周辺の町も発展するじゃろうし、今先も十年位は仕事に困る事は無かろう」
「その流れが国全体に広がればいいんだけどね。他の貴族次第だろうけど」
「真似をできる物も割とあるしの。品質を保てば十分に利益を上げられるじゃろうが」
「楽をして儲けようってヤツも多いからね。手を抜けば品質が下がるしそうすると最終的には売れなくなるんだけど」
それでもよく似た紛い物を作る奴ってのは後を絶たないだろうな。
「楽をしたがるのは人の習性じゃろう。わらわももう以前の様な生活に戻りたいとは思わんしの」
「生きていくんだったらその方がいいからだろ。住む場所は快適な方がいい」
「そうじゃな。そろそろ昼食じゃが、このまま此処で食べるのか? それとも近くの駅舎を使うのか?」
「ゆっくり食べたいし、駅舎を利用するか」
こいつもその方がいいんだろうし。
【ご協力感謝します】
さて、何にしようかな。
◇◇◇
駅舎を利用するのは、ナイトメアゴートの時に食料を提供した時以来かな? いや、暴君鮮血熊討伐の時にバーべキューをしたのが最後だったか。
あの駅舎にはほとんど人がいなかったけど、今日は割と利用者がいるというか調理台が半分くらい埋まってるな。
「昼食じゃし軽く済ませるのも手なのじゃが」
「そうだね。作ってる料理を出すから調理台は使わずにテーブルだけ使わせて貰おう」
「なんだあいつ。あんな服を着てるのにここで食うのか?」
「貴族にしてはお供がいない。どこかの商会の頭って訳でもなさそうだし」
……会話で色々察したけど、俺たちの座ったテーブルの周りだけ誰も近付いてこないんだよね。
そういえば割といい服を着てたんだった。町を歩いてる時の様な状況だなこりゃ。
「今日のメニューは車で食べてもよかったんだけどね。ハンバーガーとフライドポテト。後はひと口大の唐揚げだ」
「うむ。パンも中のハンバーグもおいしいのじゃ。薄切りにしたチーズを挟んでおる所が流石じゃな」
「チーズバーガーは美味しいからね。もう一つの方は目玉焼きが挟んであるぞ」
「こっちもおいしいのじゃ!! 以前であればもう少し大きなサイズにしておったのじゃろうが、最近は小さくしてくれてるのがありがたいのじゃ」
「数を食べればいいんだしさ、そこまで大きくない方がいいだろ」
大きすぎるとうまく食べないと崩れるしね。服が汚れたりもするからさ。
「車を運転する時はソウマはワインを飲まぬのじゃな」
「ほぼオートでも飲酒運転はダメだからね。紅茶でも美味しいし」
この世界の法律には飲酒運転はないけど、やっぱり心情的にしちゃいけない事はやりにくいよな。
ハンバーガーに紅茶は割と合うし。
「あの珈琲という飲み物の方がいいんじゃろ? わらわが好かぬのでアレを飲まぬようじゃが」
「そこまで飲みたい訳じゃないけどね」
確かにハンバーガーには紅茶より珈琲の方が合う気はする。
ヴィルナが珈琲をあまり好きじゃないから避けてるのもその通りだけどね。別にそこまで飲みたい訳じゃないし。
「ソウマは優しすぎなのじゃ」
「そこまででもないさ」
……周りからの生暖かい視線には慣れました、はい。
バカップル? 新婚ほやほやなんだからこの位は普通だろ?
さて、腹ごしらえも済んだし、そろそろ王都に向かって進むとするか。
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