第百三十七話 俺のファクトリーサービスを使っていろいろ作ってるのはどこかの世界を救う為なんだろうけど、こっちに必要な物もちゃんと作ってくれよ
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楽しんでいただければ幸いです。
四月中旬、結婚式まであとひと月と迫った。
最近は割りと控えめだった商人ギルドからの頼みごとを聞くために俺は商人ギルドに出向くことになったんだけど、全く無理難題を持ち込んでくれる。普段の俺も人の事は言えないけどな!!
【自覚があったんですね】
いや、色々スティーブンとかに投げてるけど少しは無理難題も混ざってると思うよ。
【使用された少しの意味が登録されている辞書と隔たりがあるように思いますので確認。全部を少しとはいいません】
わ・か・っ・て・る・よ!!
十分な見返りがあるとはいえ、スティーブンには本当に苦労かけてると思うけどさ。仕方ないじゃないか、あいつくらいにしかあの規模の仕事を任せられないんだから。
【必要以上にオーバーテクノロジーを持ち込まないのは理解できますが、慎重が過ぎる気がします。アイテムボックス内の商品を放出しては?】
適度にやってるだろ? この世界で再現可能な農具の製作も任せてたよな? 魔石動力のトラクターとか作ってくるとは思わなかったよ。
「俺のファクトリーサービスを使っていろいろ作ってるのはどこかの世界を救う為なんだろうけど、こっちに必要な物もちゃんと作ってくれよ」
【当然です。必要のない物は作っていません】
ほう……。この前チェックした時に見つけた物をどうしたかは、今度じっくりと聞かせて貰おうか。
作られた物の中にも怪しい物は多いしな。あの膨大なリストに目を通すのは面倒だからチェックしてないかなとか思うなよ。
返事が無い。まあそうだろうけどな。
さてと、商人ギルドに着いたしこっちの面倒ごとを片付けに行くかな。
◇◇◇
問題のひとつはやはりここ最近はバームクーヘンやカヌレが売れなくなってきたという問題だ。
これに関しては別の焼き菓子などを考えてもいいんだけど、そろそろ別路線で攻めるのも一つの手だとは思うんだよな。
「王都で売る焼き菓子の様に莫大な富を生み出したりはしませんが、長期に渡って売り上げを確保する方法もあります」
「売り上げが下がるのは問題なのですが。ここ半年の稼ぎは異常ですが、せめて今の半分程度の売り上げは維持したいのです」
「貴族が飽きやすいのも問題なんですよね。目新しい物を数ヶ月単位で食い荒らせばそのうち日持ちする商品は無くなりますよ?」
駄菓子やスナック菓子系まで作れば数年先まで出せる種類はある。しかし、チョコレート系は当然この世界で売るわけにはいかないしな。
ただ、今から紹介する商品に関しては、売り方次第で今まで以上の売り上げが上がる可能性すらある。
「そこは問題なんですよね。王都まで運ぶのにどうしても一週間近くかかります。日持ちがしないと運ぶ事もできませんので」
「運ばないという選択肢はどうですか?」
「と、言いますと?」
「現地で生産するという事ですよ。必要な材料を揃えて一度こちらで作ります。作り方も詳しく書きだしますので、それを現地の店で作る方法です。レシピの使用は商人ギルドと契約した店だけに制限。勝手にレシピを持ち出した場合は厳罰に対処しないとだめですが」
元の世界でのレシピを売るフランチャイズ形式に近いけど、この世界には特許的な縛りは殆どない。
そこで商人ギルドや大貴族なんかを間に噛ませて、他がレシピを勝手に使えなくするだけの抑止力が必要だ。
「レシピの管理が難しそうですね」
「すべてのレシピにナンバリングして、更に少しずつ細工を施して誰かが漏らした時にすぐ分かるようにした方がいいでしょう」
「裏切り者には相応の処罰が必要ですね。それで売るレシピは何でしょうか?」
「コレです。これはチーズケーキの一種ですが、ふんわりとした食感とチーズの香りが特徴の逸品です」
スフレケーキタイプのチーズケーキ。
日持ちしないし、こっちで作って王都で売るなんてまず不可能な商品。
「チーズですか……。かなり高価なデザートになりそうですが……」
「まあそうでしょうね。私もこれを探すのは苦労しましたし」
「ああ、レモンですか。マッアサイア方面で見つかる果物の一種ですね。酸っぱいので本当に人気が無いんです。露店ですら見かけないほどですので」
そうなんだよな。柑橘系の栽培には海沿いの方がいいし、栽培されてない場合でもあの辺りには自生してるんじゃないかと思ってバイクでひとっ走りして探してきたんだよな。
マッアサイア方面の森にはミカンっぽい果物とかレモンっぽい果物が結構見つかったけど、ほんっとうに誰も手を付けんかったんだよね。
剣猪ですら食ってないところをみると、こっちの世界では魔物に柑橘類系は食われてないんだろうか? もとの世界だと猪によるミカンの被害は凄かった筈なのにな。
「レモンの搾り汁と、牛乳と生クリーム。それでクリームチーズが出来ます。チーズの作り方にはいろいろありますが、チーズケーキを作るためのクリームチーズはそれで作れますので」
「さらっととんでもない情報が混ざってたのですが……。クリームチーズですか?」
「この町で酪農が始まります。クリームチーズの作り方はレシピでの制限はしない方がいいでしょう。このスフレチーズケーキの作り方だけ売るのをお勧めします」
牛乳や生クリームが王都で手に入るかどうかも問題だけど、入手困難であれば向こうでも酪農を始めるだろう。
その方が今後レシピを増やす時に好都合だしな。
「実際にどんなものか見てみない事には……」
「見た目に華やかさはないですが、味は文句の無い品ですよ。レシピ通りに作って完成するとこの大きさですね。ひとりで食べるのは大きいですが、晩餐会などで切り分ければ食べやすいでしょう。幾つか用意しましたので後でここの職員で食べていただければ」
「こんなに……。すいませんね」
六号、直径十八センチほどのチーズケーキを箱から出し、ケーキナイフで切り分ける。
このふわふわ状態のまま箱に梱包してくるんだから、ファクトリーサービスの生産能力は侮れない。ちなみにここの職員用にも十箱ほど出しておいた。
「賞味期限は数日。といいますか、このふわっふわの状態で食べれるのは今日だけですね」
「これは……。確かに今まで売ってきた堅い焼き菓子と違って柔らかくてふわふわですね。晩餐会の締めのデザートにも人気が出るでしょう」
「作成するには魔導オーブンが必要ですし、このレモンも必須です。レシピがあっても材料が無ければ作れませんし、牛乳や生クリームの需要も高まるでしょう」
「問題はこのレシピを幾らで売るかですね」
「直営店……。商人ギルドが菓子職人を集めて工房を建設。そこでこのレシピに基づいてスフレチーズケーキを販売。しばらくレシピは門外不出にして、ある程度稼いだ後にレシピの販売をするって手もありますよ」
どっちかといえばそっちの方法を選んでくれた方が利益は確保しやすい。
そのうち大貴族がレシピを欲しがるだろうから、相応の価格で売るしかないだろうけどね。
「問題といいますか。これをうちで取り扱うとして、クライドさんに幾らお支払いをしたらいいのかが問題でして」
「販売価格の一割。これでどうですか? 締めは月末、払いは翌月の半ば辺りで」
「一割? その割合でいいのですか?」
「問題ありませんよ。チーズケーキのレシピはいくつもあってこれはそのうちのひとつにすぎませんし」
これを機会に生クリームとか牛乳の生産が王都でも始まれば、ショートケーキ系のレシピも売れる。
牛乳はもちろん生クリームとかの生産力も上げて欲しいし、王都に呼ばれて向こうで何か作る時の為に状況は揃えておきたい。
もう遅いかもしれないけど、何もしないよりはましだからな。
「流石はクライドさんですね。王都の商人ギルドに直営店を作らせるように話をします」
「その方がいいでしょう。試食させればすぐに人気が出ると思いますので」
これで当面考えられる問題はレモンの数か。
俺はプラント産のレモンを使うけど、マッアサイア方面でどのくらいレモンの収穫が出来るかなんだよな。
年中採れるとはいえ、程よく熟したレモンがいつも手に入るとは思えないし。そのうち自然になっている物を収穫するくらいであれば、どこかにレモンを植え始めるだろう。
これでこの先柑橘系の果物の栽培が進めば目論見通りなんだけどな。
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