第百三十六話 客が入っているか心配だったけど杞憂だったみたいだな……。というか、あの看板は流石に許可してないんだけど
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楽しんでいただければ幸いです。
以前ヴィルナとのデートに使った店にスパゲッティを教えて一週間が経過した。
俺が思ったよりも他の貴族領から食事目当てにこの町を訪れる貴族は多いらしく、白うさぎ亭だけでなくて周りにある高級宿泊施設は連日満員御礼状態らしい。
カロンドロ男爵と仲の良い貴族もいるらしく、その貴族はカロンドロ男爵の家に寝泊まりさせてもらいつつ町を散策しているそうだが、自分の発展させた町を褒めちぎられるのはカロンドロ男爵もまんざらではないそうだ。
北地区のレストラン通りには相変わらず行列のできる店が多く、俺が一週間前にパスタを教えた店にも長蛇の列が出来ていた。
「今はこの店のスパゲッティが人気らしい。他ではあまり見ない揚げ物もおいしいが、連日の揚げ物であっちは少し飽きてきたところだしな」
「以前人気だったマカロニ料理も再びブームになっているそうですよ。味付けや調理法を大幅に見直しているとか」
「客が入っているか心配だったけど杞憂だったみたいだな……。というか、あの看板は流石に許可してないんだけど」
店の前に【クライド様直伝スパゲッティの店】ってでかでかと書かれた看板が掲げられている。
えっと、事実ではあるけど今後あの店すっげえ利用しにくいんだけど。特にヴィルナとか連れて行く時なんかは。
「いや~、あのクライド様直伝の店と聞いていたのでどのような料理かと思えば、シンプルでありながら満足できる素晴らしい一皿でしたね」
「ボロネーゼは濃厚でありながらもくどくない。食べ応えがあるのに食後に胃にももたれぬしな」
食べ終えた客の反応も上々か。
ラードを使った揚げ物系のメニューは美味しいしボリュームもある。ただ、あまり脂っこいものを食べ慣れてないと連食はきついんだよね。
この辺りの人は割と胃が丈夫なのか、ルッツァ達なんて連食しても平気なんだよな~。
「マカロニ料理の看板も増えてる。他の店も真似をし始めたというか、マカロニで似たような料理を作り始めたんだろう」
マカロニやパスタの種類は多いし、一度形を変える事を覚えればそこからいろいろ試行錯誤すると思ったんだけど他の店の方が先に真似し始めたみたいだな。
あの店も腕は悪くないし、他の店が同じようなメニューを出しても潰れる事は無いだろう。
「……あそこにいるの。クライド様じゃないかな?」
「店の様子を見に来たのかな?」
やばっ!! 流石にこの辺りに来る人間はこの服を見ただけで見抜かれるか。
ここには様子見で寄っただけだし、さっさとグレートアーク商会に向かおう。
◇◇◇
グレートアーク商会の本部。本店というのか本社というのか、あの商会の本部は三階建ての商会部分と馬鹿でかい倉庫がワンセットになっていた。というかでけえよ、貴族の屋敷といい勝負してんじゃねえのか?
「よく来たな。どうだ? これだけの建物を用意するのは苦労したんだぜ」
「短期間でよくこんなもの建てたな?」
「十年前に建設された建物の再利用だ。改築には骨が折れたみたいだが」
「これだけでかいと改築も大変だろうよ。仕事場って感じの造りだな」
オフィスビル? 感じが似てるから元は白うさぎ亭を建てた奴の建造物だと思う。
建物内の作りは後で手を入れたのかずいぶんと雰囲気が違うけどな。とりあえず執務室というか、会議室のような場所に案内された。
「紹介しておこう。酪農関係を担当しているエルシリアだ」
「初めましてエルシリアです。いつもお世話になっています」
「鞍井門です。毎回面倒ごとを持ち込んですみません」
こういいながら今回も面倒ごとを持ち込んでるんだけどな。
今回は酪農などの話し合いなんで担当者も呼んでくれたらしいんだが、思ったより若い女性なんだけど大丈夫なのか? スティーブンがそのあたりを見誤るとは思えないけど。
「さて、先日渡した報告書の問題点を挙げてきたって事だが」
「ざっと見た限りでも、この位あるかな? こっちが書きだした問題点。こっちの書類についてる紙はその問題点の番号が振ってある」
「へぇ。これはいいな。この紙はいろいろ使えそうだ」
付箋紙の方に興味を持たれたか。それもあると色々便利だしな。
「あの……、その紙がこんなに大量に張り付けてあるんですが」
「乳製品の拡充の為に搾乳方法の提案。それに伴う厩舎の建築案と魔物対策案。チーズ加工時に出るホエーと呼ばれる乳製品の効能と活用法。牡牛の活用法と肉牛用の飼料の生産方法なんかだな」
「ほとんど全部じゃねえか。そこまで問題点が多かったか?」
「この辺りや北の方でどんな牛の飼育をしてるのかは知らないし、俺も酪農の専門家って訳じゃないからこれが正しいかどうかはわからないな。でも使えそうな道具とかは用意してるよ」
ジェリカンは割とオーバーテクノロジーというか、水系の物を運ぶ革命的な品になりうるんだけど今回はこの世界に持ち込むことにした。
いろんな場面で役に立つし、小型化とかされたらいろんな場面でも使えるからね。
「これは凄いですね……。持ち運びやすいですし、かなり大量に運べます」
「こっちの四角いのも凄い、というか、こっちの方が使い道は多そうだな。加工は難しそうだが」
「この町の問題点のひとつに鍛冶屋の規模が小さいってのもある。鉱山が無いから仕方が無いんだけど、農具なんかの生産にそのうち問題が起こるぞ」
「……その点は気にはしてたんだがな。ここは木の加工技術はこの国で最高だと思うが、鉄の加工技術は拙すぎる。鉱石の入手先を確保しようと思ってたんだが先日その目途がたってな」
「もしかしなくてもレミジオ子爵領の鉱山か?」
「流石だな。あそこが破棄されそうなんで、採掘権を格安で譲り受けた。鉱山周辺に住むドワーフの村も管理しなきゃならなくなったが」
鉱山だけあっても意味ないからな。
「……という事は、今後鍛冶屋はその村で行われる訳か?」
「頼んで届くまでに時間はかかるが、ここで新しく鍛冶屋の設備を揃えるよりはましだ。すでに農具の生産も始めている」
流石スティーブン、仕事が早い。
ただ、場所が場所だけに注文してからどの位で届くかは問題だろうな。
「道具の生産は理解した。で、問題は酪農と搾乳の方法なんだが」
「この設計図通りの厩舎だったら数日で建つぞ。ただ、こっちに書いてある件は本当にいいのか?」
「厩舎や柵に暴君鮮血熊の体毛を埋め込むって件だよな? どの位で効果があるんだ?」
「四方を囲めば十分すぎる位だ。流石に暴君鮮血熊の臭いや気配を嗅ぎ取って近付く魔物はいない。体毛には限りがあるだろうから、肉片でもいいぞ」
放牧用の下絵の何ヶ所かに丸を付けてきたが、その程度の数でいいのか。
それだけ恐れられてるって事なんだろうが。
「飼ってる牛に悪影響が無い範囲でできるか?」
「厩舎に使わずに、もう少し離れた場所に使えばいい。魔物が近付いてこないなら意味は一緒だろう」
「すいません。魔物関連はお任せしますが、この飼料というのは牛の餌ですよね?」
「はい。乳牛、肉牛、農業用の牛、全てに違う餌を与えるべきですね。特に乳牛に関しては飲ませる水や食べさせる餌で牛乳の品質なんかにもかなり影響します。肉牛もかなり肉質に差が出ますし」
「北の方で牛を飼ってる奴らには餌となる植物の事までは言われなかったが、そんなに違うのか?」
「下手をすると別物になるぞ。餌の配合なんかはこっちに纏めてある」
この辺りで入手可能な物を纏めてみた。もしかしたらスティーブンが別ルートで手にいれられる物もあるかもしれないけど。
探す場所次第で見つかる物もあるんだよね。唐辛子は野草とかの店にはなかったけど、観賞用の植物を扱ってる商会にあったし。
「とりあえず酪農用の牛の飼育法はお前のやり方に変える。肉用の牛は数が問題でまだ市場に出せる状態じゃないからな。今は荒れ地の植物除去と開拓用に使う。農地開拓にも使うが……」
「穀倉地帯で管理する牛は別にしてそっちに任せた方がいいだろう。数を増やして農業に従事させるのが目的だし」
「そうだな。後は堆肥の作り方だが、穀倉地帯は問題ないが、北の荒れ地で飼う牛の分はあっちで使うぞ。農地がない訳じゃないしな」
「そのあたりは任せる。当面できる事はこの辺りだな」
「……あの、専門家じゃないのにここまで考えられるものなんですか?」
「気にするな、こいつが異常なだけだ。本当にその頭の中にどれだけの知識を詰め込んでるんだ?」
知識に関してはライブラリー機能を使えばほぼ無限だしな。
ライブラリー機能で思い出した。
「知識は多い方がいいだろ? それより、この町にも図書館ってできないのかな?」
「これだけ人口が増えれば、いずれ図書館や学校も必要だろうな。お前の子供がでかくなる頃にゃ立派なのが出来る筈だ」
「まだできてもねえよ!!」
それでもこの町に図書館や学校が出来るのはいい事だ。
人材ってのはある日突然どこかに湧いてくるもんじゃないしな。
作る計画があるんだったら今はそれでいいさ……。
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