表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/339

第百二十三話 一日十食限定販売のポークシチューは一食で銀貨一枚なのに開店直後に完売。冒険者ギルドの食堂も冒険者登録必須になったし、ここも静かになったよな

連続更新中。

楽しんでいただければ幸いです。




 三月になり、冒険者ギルドの隣に食堂というか割と高級レストランの【食の聖域亭】がオープンした。


 客の入りは上々というか毎日開店前に行列ができてるほどで、余程運がよくなければ食べれない料理が幾つもあるというような状況だ。


 開店は午前十時なのだが、早ければ七時前から人が並んでるというのだから凄すぎる。


「一日十食限定販売のポークシチューは一食で銀貨一枚なのに開店直後に完売。冒険者ギルドの食堂も冒険者登録必須になったし、ここも静かになったよな」


「他も仕込みに時間のかかるメニューから売り切れて、最後に残るのは剣猪(ソードボア)とかの炒め物だけらしいな……。ここの食堂で働いてた人は殆ど向こうのレストランに行っちまったがな。出てくる料理が相変わらず美味いから文句はない所だけど」


「料理長はこっちに残ってるし、新しい人もすぐここの料理の作り方を覚えたみたいだしね~。ひとり奥の魔導コンロの前でずっと何かしてるのがちょっと怖いけど。あの子、鍋を見る目が死んでるよね?」


「あれは必要な作業なんだ……。苦行だろうけどね」


 向こうのレストランは忙しいしコンロを占拠なんてできないから、冒険者ギルドの魔導コンロで剣猪(ソードボア)製フォン・ド・ブフモドキを仕込んでるみたいなんだよな。


 アレが無いとポークシチューが出せないんだから仕方がない。


 頼んでた料理がきたみたいだけど、わざわざ料理長のジェシカが運んで来てくれた。


「コロッケとパン、それに串カツ盛り。こっちの職員が減っちまったから、私もこうして駆り出されてるのさ。それより、毎回アレを仕込んでる子の目が死んでるのが怖いね。一応当番制にしてるんだけど、あんたの言った通りにあれの担当をした子は灰汁取りをする夢を見るらしい」


「本当に根気との勝負ですし、手を抜くとそれまでの作業が台無しですからね。あのコクのある澄んだスープを作るのにかかる手間は、その後の料理に大きく影響しますし……」


「一度やらかした子がいてね。まだ初めの方だったからやり直しができたんだけど、少し火加減を間違えたり灰汁取りに手を抜くとああなるんだね」


「火加減を間違えて沸騰させると白濁したスープになりますね。そのスープは捨てたんですか?」


「勿体ないけどね。下手に使っちまうと、次から同じスープを用意しないといけないだろ? なんか新しいスープが出来そうだけど、研究するのはもう少し先さ」


 一度にあれこれ同時進行させると職員がパンクしちまうからな。


 今はポークシチュー制作技術を安定させる方が先だろうし、新メニューはもう少し暖かくなってからでもいい。スティーブンの所と違ってここは職員の数にも限りがあるだろう。


「賢明な判断ですね。今度失敗したらまかないか何かに使ってみるのも手ですよ」


「ほう、その手もあったね。今度はそれで何か作らせてみるよ」


「なあ、おまえもう冒険者やめて料理人で食った方がいいんじゃないか? 何処で店を開いても繁盛するぞ?」


「その時は商人ギルドが黙っていないさ。あそこの取引の目玉だろうしな」


 あれからバームクーヘンやカヌレを二回と、追加分の塩を一回卸した。


 最初の追加の時に丸のままのバームクーヘンを十箱ほど限定販売した所、侯爵とか伯爵の貴族領で奪い合いになったらしい。


 二度目の追加には丸のままのバームクーヘンを千箱用意した。それでも賞味期間が短いバームクーヘンが十分に時間を残して完売したという話だ。やっぱりでかい貴族領もってる侯爵とか伯爵は金持ってるんだな……。


 カヌレも売れているんだが、こちらは主に晩餐会のデザートのひとつとして消費されているそうだ。ラム酒の香りが蠱惑的だそうで、お土産で出しても喜ばれるらしい。


「あそこに売ってるのも食いものなんだよな? 他の物はないのか?」


「あるけどさ。食べ物を主に売っていきたいと思ってるよ。他の業者が困るだろ?」


 あの生地にしても他の商品にしてもこの世界の職人に少なからず影響を及ぼすし、あの生地を売りに出せば今最高級と謳われてるこの世界の生地を生産しているところの地位を地に落とす事になりかねない。


 シルクとか他にもいろいろあるんだろうし、あの時男爵が着ていた服と同じ俺の生地が手に入らない以上、今存在するその生地で満足するしかない訳で、今の所は価格に影響を及ぼす事は無いだろう。


 菓子に関しては専門で売ってる店もなさそうだったし、この機会に焼き菓子って文化を広めようって目論見もあったんだけどね。キャラメルもフロランタンとかの材料にするかなとか思ってたし……。あまり売れなかったけど。


「確かにな。菓子を主力で扱ってる業者なんて今まで居なかった。聞いた話だとデカい貴族領では菓子屋が出来始めてるらしいぞ」


「幾らか味が劣るだろうけどバタークッキーなんかは再現は出来ると思うぞ。バームクーヘンとか特殊なのは無理だろうけど」


 あれは作るのに手間がかかりすぎる。


 焼き菓子が出来ればクッキーとかビスケットみたいな物が出てくるだろう。保存食として考案されてもいいし、非常食としても優秀だ。


 ガリンの実では風味にいずれ限界が来る。その時にバターがどの位の速度で広まるかも肝だな。


「しかし、此処の飯は本当に旨くなったよ。隣のレストランの盛況ぶりをみればわかるが、みんな旨い物を食いたいんだな」


「そりゃそうだろ。ここの職員の腕も相当に凄いけど」


 ラードの扱いにしても剣猪(ソードボア)製フォンドブフモドキの扱いにしても、そんなに簡単な事じゃないんだけどね。


 特に剣猪(ソードボア)製のラード。ここから葱油とか蝦油を作れるかどうかも見物なんだけどな。作れたら色々料理の幅は広がるよ。


「ラードを買いに来た他の食堂とかも揚げ物を始めたらしい。ここより割高だけど、割と空いてる店も多いからそっちの店にも流れ始めてるって話もある」


「あのポークシチュー目当ての客はどれだけ待っても隣のレストランで食べるだろうけどね。ここでも注文できればいいんだけど」


「アレ一食で百シェル、銀貨一枚だぞ? 他のメニューが軽く十品以上頼めるのにそれはないだろ?」


「たま~にだったらいいでしょ? 何か特別な事があった日とかさ」


 そういうのもアリだよな。高い料理だしハレの日とかの特別な日に誰かと一緒に特別な時間を過ごす為の一品であれば最高だ。


 ただ、ポークシチューだけじゃなくて、ワインやパンとか他のメニューも揃えると銀貨一枚じゃ収まらないし、自分の分だけじゃなくて相手の分も出すと二百シェル以上だ。……たまにあるハレの日の食事に数万円だと許容範囲?


「そういった日があってもいいと思うが、たまにしか注文が無いとここで仕込まれる事は無いだろう。隣のレストランだと毎日売り切れるし」


「そうだな。剣猪(ソードボア)討伐の冒険者の帰還なんだが……。ついでに東方面で増え過ぎた剣猪(ソードボア)の駆除も行うらしくてな、帰ってくる冒険者は一割程度で、他の冒険者はそのまま剣猪(ソードボア)討伐を続けるらしい」


「実入りが段違いだしよ、そりゃあ冒険者たちもあっちの方がいいだろ。住む場所や食事も提供されてるって話だし、儲けはパーティ単位で全部公平に分配されるそうだ。こうなるとここでの帰還記念パーティは無いかもしれないぞ」


「ビーフシチューが食える機会が減ったのは残念だが仕方ねえだろうな。あの討伐部隊には武器や武具も頼めばこの町から運んでくれるらしい。金属系の鎧がキツイ夏場や冬でも使いやすいこの鎧は大人気だ」


 金属は熱を持つからな。


 炎天下で鉄製の兜なんて装備してたら剥げてしまいそうだし。


「冒険者で思い出したが、エヴェリーナ姫はシルキー教の子供たちと今日も西の森に行ってるのか?」


「お前もそれを知っちまったか。俺はオルネラを送っていった時に知ったんだが、知っちまうと世話を焼きたくなるだろ? でも、冒険者はそれじゃあ本当はダメなんだ。何度も死にかけてその感覚を研ぎ澄ませておかないと、本当に大事な時に最悪の選択をしちまうことだってある」


「ヴィオーラ教の孤児院は十分な寄付があるからあそこの孤児は殆ど冒険者にならないんだ。ここで見かける子供は冒険者家業で一攫千金を狙うシルキー教の孤児たちばかりだな」


「そうだね~。エヴァちゃんも冒険者なりたてだし、たま~に私たちがいろいろ手伝ってるんだけど、最初の頃はどれが野草で、どれが買取して貰えない草なのか見分けがつかなかったみたいだね」


「似てる野草も多いし、注意する所は教えたんだけどな。私だって一人でできます!! とか言って一人で西の森に行ったんだ。その時にオルネラに色々助けて貰ったらしくてそれ以来一緒に採集依頼を熟してるよ」


 俺の場合は鑑定能力があるからな。


 あまり役には立たないけど。


【名前と食用できるか分かるのは大きいと思います。毒判定も】


 この前、虫を鑑定したら食用可って出たよな? アレも何とかすりゃ食えるんだろう、でも普通は食わないよな?


【虫に関しましては食べる地方も割と存在します。日本でもつくだ煮などでおなじみですし、蜂の子なども人気食材です】


 一部の人間にな。蝉は幼虫も成虫もわりと人気食材だっけ?


 その話はいい。確かに鑑定機能は役に立つよ。極限状況の時は本当に無いと困る機能だろう。でも、もう少し表示するものがあるだろう?


【ああ、性別ですね】


 そこ重要か!!


「オルネラも一人で依頼を受けてたし、ちょうどよかったんじゃないかな。今は他の子も一緒に採集してるんだろ?」


「エヴァが中心になって、子供たちを西の森まで引率してるそうだ。採集に関しては子供たちにいろいろ訊ねてるみたいだけどな」


「いいパーティじゃないか。剣猪(ソードボア)とかの討伐任務を受けなければ大丈夫だろう」


「西の森で剣猪(ソードボア)の足跡やフンを見かけたら俺たちに知らせるように言ってある。それと東の荒れ地方面で、そろそろ突撃駝鳥(チャージオストリッチ)が暴れ出す頃だ。今は俺たち位しか受けられる冒険者もいないし、忙しくなるだろう」


 三月になって結構暖かくなってきたしな。


 さて、ヴィルナもそろそろ冒険者としての活動を再開させないといけないかな?


 あまり強要する気はないけど……。





読んでいただきましてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ