第百十九話 相変わらず情報が早いみたいだけど、冒険者ギルドに関しては当然だろうな。おおまかな流れというか目的は変わってないぞ。来たついでにいくつか面倒ごとが増えるかもしれないけど
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早速というか翌日、予想通りスティーブンが訪ねてきた。今回もリリアーナは連れてきてないけどどうしたんだろう?
「久し振りというにはあまり日が経っていないが、最近色々動いてるみたいなんでその確認だ」
「相変わらず情報が早いみたいだけど、冒険者ギルドに関しては当然だろうな。おおまかな流れというか目的は変わってないぞ。来たついでにいくつか面倒ごとが増えるかもしれないけど」
「またか。利益は出るし色々とよくなるんでいいが、お前の持ち込む面倒ごとはホントに骨が折れるからな……」
米飴の件も相当苦労してるだろうからな。というか、今回に限ってはこのタイミングで尋ねてくれて助かった。
飯くらいは幾らでも食わせてやるが、毎回食わせてる物に関していろいろ押し付けてるのは確かだしな。
「おっ、猫を飼い始めたのか?」
「ああ、シャルロットだ。……めちゃめちゃ警戒されてないか?」
「俺はどうも昔から猫に好かれない体質でな。なんでだろうな?」
いるよな。野良猫とかに近付いたら猫が全力で遠ざかる奴。
猫好きにも多いからかわいそうになる。
「シャル、仕事の話じゃろうし邪魔してはダメなのじゃ」
「なぁぁぁっ!!」
「とりあえず客間に行くか。そこには流石にシャル用の入り口はつけてないし」
「色々あるしな。ゆっくり話せる場所がいいぜ」
こっちもいろいろと頼まなきゃいけないしな。男爵に直接話に行ってもいいんだけど、ほんとに多忙らしいし。
◇◇◇
割と朝早くから押しかけてきたという事は、昼食くらいは食べていくつもりなんだろう。
今日の昼食はヴィルナが作るんだけどな。
「とりあえず確認だが、最近やけに冒険者ギルドに肩入れしてる件だ。冒険者を強くする為に素材を提供したのは理解できる。問題はあそこの食堂にまで肩入れする理由なんだが」
「あそこに多くの素材が集まるからさ。剣猪もそうだし、森で入手した獣や魔物はあそこに集まるだろ?」
「そりゃ、あそこが一番高く買い取るからな。それに解体する人間の腕もいい」
実は商人ギルドでも剣猪などは買取していたが、今は持っていっても突き返される状態らしい。
他の商売が忙しくて、とてもじゃないが冒険者ギルドの真似事なんてやってられないんだそうだ。
「町の肉屋じゃ解体までやってないしな。素材の有効利用というか、基礎を確立してくれたらいろいろ役に立つだろ?」
「骨や脂身の加工か。正直あんなものが売り物になるとは思わなかったが、今後いろんな物に使われるだろう」
「あまり高くしないように釘は刺したし、骨を流通させるルートは作っておきたかったんだ」
「穀倉地帯で牛を飼うからか? 牛の骨も使えるんだろうが……」
それだけじゃないんだよな。
それも重要な商品に化けるんだけど。
「フォン・ド・ヴォーやフォン・ド・ブフの材料に牛の骨を使うし、牛の脂身もヘットっていう油の原料にもなる。それに牛の脂身は他にもいろいろ利用価値があるんだ。加工の仕方次第では高級油に化けたり、調味料に化けたりする」
「その技術を確立させる役を冒険者ギルドに押し付けた訳か。相変わらず無償で色々教えてるようで、気が付いたら相手にも相応の努力を要求する奴だ」
「原材料が手に入りやすい冒険者ギルドでこれをやらせるのが、結果的に一番効率的にできるって判断した。他でやろうとすると冒険者ギルドまでわざわざ行って色々貰ってこないといけないからな」
俺が剣猪の骨を貰いに行ったみたいにな。
顔見知りだといいけど、接点のない人間は流石にあそこに色々貰いに行けないだろ?
「冒険者から買い取る分にゃ、こまごました査定は無いからな。おおまかに一頭幾らだ。ゴミの処分も大変だし、一石二鳥って訳か?」
「最終的にはそれどころじゃないだろうけどな。あそこを起点にしていろんな料理をこの町で広める。そうすると他の貴族領や王都から金持ちが食いに来るだろ? 当然そいつらはこの町で金を落とすし、そいつらを相手にする商売も成り立つ。当然商会とか個人商店も潤う」
「マッアサイアのような状況を人為的に作り出そうって訳か。人を呼ぶのはいいが、この町の名産品はあまりないぞ?」
「そこで牛骨なのさ。この町でも焼物の器を使ってるだろ? それに灰にした牛骨を使う技術がある。見た目もいいし、加工すりゃいろいろ作れるんだ。これに作り方を纏めておいた」
一般的にボーンチャイナと呼ばれる陶磁器だ。
フォン・ド・ヴォーやフォン・ド・ブフで消費しきれない牛の骨の処理として、これもこの町の名産にできないか考えてたんだよな。
「畜産を薦めた時点でどの位まで考えてたのか知らんが、あまり先まで手を打ちすぎるとパンクするぞ?」
「情報だけでも早めに渡した方がいいだろ? 大体この町に旨い料理屋があふれるまでまだ結構な時間が必要だろう。とりあえずその辺りの調整はその数年先までにすりゃいいんだし」
「大概の奴は明日の事しか考えてねえよ。早く手を打つにゃ情報が必要なのは確かだが……。多分これ本題じゃないよな?」
「流石スティーブン、話が早くて助かる。これも結構時間がかかると思うけど、できるだけ早く進めたいんだ」
アイテムボックスからウスターソースと醤油を取り出した。
以前使って貰ってるから今更説明は必要ないだろう。
「……これをこの町で生産したいって話か?」
「そういう事だ。作るのに手間だし、割と人員が必要。でも、これを作れれば料理の幅が広がるし、料理をもっと楽しめるようになる」
「確かにこれを使った方がうまいのは認める。冒険者ギルドで使ってる肉醤はどうする? あいつらが苦労して作りだした調味料だろう?」
「醤油もウスターソースも完成まで時間がかかる。特にウスターソースは必要な物に厄介な物が多いしな。これがこの辺りで入手可能な材料の一覧」
果物類。これが最大の難関なんだよな。
この辺りは果物が高い。その為に肉醤があってもその先にあるこれを作ろうと思わなかったんだよね。
「果物類か……、王都の辺りじゃよく見かけるが、この辺りじゃ見かけない物も多い」
「果物でも甘みの少ない品種は割と安いらしいな。そこでだ、人気が無くて割と安めのこの手の果物をこの町で売れないか? できればこの辺りで栽培できると最高なんだが」
「長期的には輸送するよりこの辺りで栽培したほうが得策って事か。今ならまだ土地はあるし、色々手を打てるな」
「だろ? あと大豆なんかもこの辺りで栽培したいんだ。まだ北の荒れ地や穀倉地帯周辺の畑は手付かずだろ? この時期でないと話を進めにくかったから、ホント助かるよ」
その先の先。
おそらく男爵もそれくらいは考えてる筈だ。
「俺も似たような考えだったが、お前もあれか? このアツキサトを王都並みの大都市に成長させようと考えてるのか?」
「最終的にはそうなるんだろ? 西にある貿易都市ニワクイナは壊滅状態。最低でもそのあたりまではこの男爵領に組み込める筈」
「あそこからの移民の数を考えりゃ、最終的にあの町は吸収するだろうな。早くても二年後ってところか?」
「そうなると、かなり広大な領土が完成する。これで鉱山があれば、ほとんど無敵だぞ?」
食糧庫として穀倉地帯、生きるのに必要な塩を生産する塩田。マッアサイアがあるから外国と交易もできるし、この男爵領に限っていえば、別に王都が無くても成り立つんだよな。
金山か銀山があれば、独立することも可能だろう。
「最終的にこの男爵領は一応この国に所属するが、事実上は独立した形になるだろう。実はうちの商会の本拠地もこの町に移す事にしたんだ。リリアーナが最近いないのは、王都で移転の為の仕事を仕切ってるからだ」
「お前はいいのか?」
「お前を野放しにする方が怖い。ちょっと目を放したらなにしだすかわからないからな」
「失敬な。これでも常識の範囲内で動いてる筈だ」
「お前の常識はどこの世界の常識だ? 小麦の一件も、塩の一件も、米飴の一件も、どれか一つでもそこらへんの奴が一生かけてやり遂げる大事業だぞ? この短期間に持ち込んだ問題ごとの数を数えてみろ」
そこまで多かったか?
塩から始まって、塩田、小麦、米飴、酪農、米の栽培、穀倉地帯の改革、日本酒の製造……。パッと思い出すだけでもこの位? ああ、ヴィルナ達聖魔族の悪評払拭も頼んだっけ?
「割とあったかもな」
「お前、今、指で数えてたみたいだが、確実に半分くらいしか数えてねえぞ。細々したのは別にいいが、お前の厄介ごとひとつに百人単位で人取られてるって覚えとけよ」
「スティーブンに任せてる分は割と大事業だからな。それだけに利益は出るだろ?」
「どれも恐ろしい位にはな。今回のラードの件もそうだが、目を放すとその大事業をポロっとどこかに渡しちまいやがるから怖えぇんだよ!!」
適材適所というか、流石にスティーブンに投げる時以外はそこの規模とか能力を計算に入れるよ?
冒険者ギルドには期待してるけど、あそこは一応食堂メインじゃなくて冒険者への依頼斡旋所だしね。
「とりあえず急いでほしいのは大豆の増産と果樹園かな? 流石に醤油やソースが無いとこの辺りが限界だろう」
「塩を安くした理由はそこなんだろうが……」
「塩はいろいろ役に立つからな。保存食の作成を始められなかったのは痛かったが」
「これ以上急いで改革を進めてみろ、カロンドロの奴が過労死しちまう。この半年で十年どころじゃない位色々進んだぞ?」
「今が進めるのに好機だっただけさ。魔物の発生とか問題ごとも多かったのは計算外だけど……」
あの凶悪な魔物の発生で移民問題とか食糧問題とか色々あったからな。
アレが無ければもう少し楽に色々進められたんだけど。
「とりあえず続きは飯の後じゃな。昼ご飯が出来たのじゃが」
「もうそんな時間か……。それじゃあ続きは後だ」
「毎回すまないと思ってるんだがな。ごちになるとするか」
スティーブンにも苦労かけてるからな。
さて、スティーブンに任せてる米飴の件がある程度片付いたら、今度は砂糖市場を何とかしたいんだけどね……。
このペースだと早くても来年位になりそうだ。
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