第百十六話 うなぁ~、じゃねえ!! ヴィルナもシャルを味方に付けない!!
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楽しんでいただければ幸いです。
今日の俺は冒険者用の装備に身を包み、ちょっとした料理の試作に使う剣猪を手に入れる為、東の森に行こうとしてるんだけど……。
「行かぬのじゃ。東の森に剣猪狩り程度であれば、今のソウマにとって岩栗を拾うより簡単なのじゃ。シャルもそう思うじゃろ?」
「うなぁ~」
「うなぁ~、じゃねえ!! ヴィルナもシャルを味方に付けない!!」
ヴィルナは頑として家から出ようとしないんだよな。シャル迄抱き込んで徹底抗戦の構えだ。
いや、そりゃ今日は少し寒いよ。ちょっと曇ってるし風も吹いてるしさ。
「剣猪であれば買えばよいじゃろう。今のソウマであればあれを丸々買い取る事など容易であろう」
「そりゃ、一匹買うのは簡単だけどさ。ちょっと東の森に行けば剣猪位狩れるだろ?」
「そのちょっとが相当に手間であろう? 突然話を持ち掛けて丸々売っておるかは知らぬが、冒険者ギルドであれば頼めば数日で入荷するのじゃ」
そうなんだよな。鮮度が多少落ちる剣猪だと定期的に運ばれてくるし、少なくともルッツァが狩った分だと数日に一度入荷してる。事前に頼めば丸々手に入るだろうけどさ。
「出来るだけ早めに手に入れていろいろ試したいんだ。時間がかかる料理だし」
「何かに没頭している時のソウマはいつもそうなのじゃ。言っても聞かぬのは理解しておるので止めはせんが、わらわは家でシャルの相手をしておるのじゃ」
「シャルは寝てるだけじゃん!! 大体さっきまで寝てたシャル起こしたのはヴィルナだよな?」
「たまには起こした方がいいのじゃ。シャルが本気で眠い時は起こしてもすぐ寝るのじゃ」
それは理解してる。
寝たいときに寝て、甘えたいときに甘えるのが猫の特権だからな。確かにシャルだけ残していくのは俺も少し心配なんだけどね。
「仕方ない。今回は俺だけで行くよ」
「怪我にだけは気を付けるのじゃぞ。ソウマであれば問題ないと思うのじゃが」
「流石に不覚を取る事は無いと思うんだけどな」
森までは例のバイクだし、装備も以前とは比べ物にならないしね。
今回は納品する訳じゃないから報酬もないし、一人で行くのも悪くないか。
「それじゃあ行ってくるよ。昼飯は適当に食べてくれ。食材はまだあるよな?」
「わらわのアイテムボックス内にまだ十分にあるのじゃ。シャル用のご飯が少し心許ないかもしれん」
「子猫用のソフトタイプのペレットね。コレは食べてくれるようになったんだよな。普通のご飯の方が好きっぽいけど」
他に無かったら食べる程度なんだよな。
しかも皿に入れててもおなかが空いてない時は食べないし、食べる時も少しずつ何回かに分けて食べるんだよね。
「これは非常時用じゃな。近くにわらわやソウマがおらぬ時は諦めて食べるようじゃし」
「それでもずいぶん進歩したよな。じゃあ行ってくるよ、いい子にしてるんだよ」
「にゃぁん♪」
頭をなでるとホントに凄く喉を鳴らして喜ぶんだよな。
「シャルの頭は撫でて、わらわには何もなしか?」
「んっ。それじゃあ行ってくるよ」
「……不意打ちはずるいのじゃ。気を……、付けるのじゃぞ」
それじゃあ、サクッと剣猪を狩ってくるかな。
簡単に見つかればいいんだけど。
◇◇◇
久し振りに足を踏み入れた東の森。冬になるとやっぱり生えてる雑草というか野草の数もかなり減ってるな。
こっちの森にはあまり冒険者が入ってないみたいだし、この辺りに生えてるモリヨモギとかを採集したのはルッツァ達なんだろう。
「ヴィルナがいないから剣猪の気配を探るのは無理なんだよな。この装備だと不意打ちでも大丈夫だけど、見つからない問題は解決されてないんだよね」
岩栗を撒いておけば寄ってくるかもしれないけど、餌で釣るのはいろいろ問題があるだろうし。
そもそもこの広大な森の奥に多い筈の剣猪が、こんなところにばら撒いたわずかな岩栗を見つけるとも思えない。
「地道にこの森で探すしかないのか。適当に採集しながら探すかな」
少し奥に入れば手付かずの野草が無数に生えている。
それでも夏に比べれば少ない方だが、この時期にこれだけ生えてるって事はこの森には十分すぎる位に栄養とか水があるんだろう。
「杉とか松はこの辺りにはほとんど生えてないんだよな」
鑑定機能で調べた食べられる木の実や野草は手に入れたけど、肝心の剣猪には出会えない。
少し鮮度が落ちても討伐チームの剣猪を買った方が早かったか?
【先ほど入手した種子を幾つか提供してください】
またプラントで育てる気か? それとも例の小惑星の方かもしれないけど。
【生態系が完全に破壊された小惑星などでは、環境に適応した植物などを植樹するケースもあります。多種多様な植物の中から環境に適した物を用意したり、過酷な状況下でも耐えられるように品種改良して導入します】
完全に破壊された具合がどのレベルかは知らないけど、砂漠とか下手すると火星レベルの状態から地球レベルに環境を改善しようって計画なんだろうしな。
ん? あそこにいるのは剣猪か? 周りに人は無し。この距離ならX十七式小銃で一撃だ。
横を向け。横を向いたらその頭を一撃で吹き飛ばしてやる!!
「ヒット!! 今回は上手く頭部に当たったな。身体に傷も殆ど無いから肉の取れ高も期待できそうだ」
流石にこれだけのダメージを与えると周りに広がる血の量が凄いし、この血の臭いも凄いな。
しかし、相変わらず牛みたいなサイズの猪だよね。これの解体をどうするか……だな。冒険者ギルドに頼むしかないのか?
【この状態でアイテムボックス内に取り込みますと、ファクトリーサービスで血抜きから解体まで行えます】
……プラントで飼育してる家畜を加工する食肉解体用の施設を使うのか? それって衛生的に大丈夫なの?
【使用するごとに完全に消毒を行いますから問題ありません】
ナノマシンか何かで毎回洗浄してるんだろうな。
解体して貰えるんだったらそれでいいか。
部位ごとにアイテムボックス内にフォルダ分けされるんだろうし。収納っと……。
【帰宅するまでには解体作業は終わります】
小惑星開発とか大規模なサービスに加入したから割と色々できるようになったんだろうな。
便利だけど、あまり使い道が無いんだよね。
作った商品をこっちに流し過ぎるとこっちの産業潰しちゃうし、お菓子類みたいな貴族の嗜好品で食べ物が一番扱いやすいんだよな。
「さて、帰ってからの方が地獄な気がする。うまくいけばいいんだけど、剣猪製のフォン・ド・ヴォーじゃなくて、豚骨スープが出来ないように気を付けないと……」
むしろそっちの方が簡単まであるんだけど、アレは流石に家で作りにくい。
フォン・ド・ヴォーも割とキツイけどな。特に今回は剣猪の骨とか使う訳だし……。正確にはフォン・ド・ヴォーでもフォン・ド・ブフでもないんだよね。
美味しくできたら冒険者ギルドに教えて、ダメだった場合はまた別の方法を探すしかないか。
読んでいただきましてありがとうございます。




