第百十四話 癒されるというか、猫のいる生活はやっぱりいいね。シャルは聞き分けもいいし凄くいい子だ
連続更新中。昨日間違えて二話更新したので今日は少し短めです。
楽しんでいただければ幸いです。
最近、家に帰ると玄関までシャルが出迎えてくれるようになった。帰ってくるのが分かるのか、ほぼ毎回出迎えてくれるんだよね。
足に何度もマーキングした後で足をよじ登り、そのまま肩まで登ってくるんだけど肩まで来ると今度は顔にマーキングし始めるんだよな……。頭を撫でてやるとのどを鳴らして喜ぶし。
「癒されるというか、猫のいる生活はやっぱりいいね。シャルは聞き分けもいいし凄くいい子だ」
「それはソウマが相手の場合は、じゃぞ。わらわが飼い始めたのに、シャルはソウマにばかり懐きよるのじゃ」
「ヴィルナにも十分に懐いてるだろ? ヴィルナが抱いても怒らないし、廊下にいる時なんて目の前で寝転んでむしろ運んで欲しそうにするよな?」
「シャルは子猫の癖に面倒がり屋なのじゃ。殆ど一日中寝ておるしの」
そう、シャルは日中ほとんど居間の猫用ベッドで気持ちよさそうに寝ている。夜行性なのかと思ったら夜も相変わらず寝てるんだよな……。居間にあるシャル用の寝床じゃなくて、別の場所でだけどな。
ヴィルナが拾うまで、どうやって生きてきたのか知りたくなるレベルだ。
「ヴィルナが拾った時って、シャルは痩せてたのか?」
「殆ど骨と皮だけじゃったな。あまりに見ておれぬので、こっそり餌をやったのが運の尽きじゃった」
「餓死寸前の状況でヴィルナに餌を貰ってたんだろうし、恩は感じてると思うんだよな~。その大きさまでどうやって生きてたのかは不思議だけど」
「この辺りの猫じゃとこれでも子猫じゃぞ。おそらく生後ひと月も経っておらん。シャルは子猫じゃし母猫に乳を貰っておったのじゃろう。その後も母猫に餌を貰っておった可能性が高いのじゃ」
そしてその後ヴィルナに拾われる状態になったって事は、母猫はシャルを育てるのを諦めたのか?
極限状態まで追い込めば流石にシャルでも自分で餌を何とかすると考えたのかもしれないけど。
「そこまで放置する母猫とかいるのか?」
「子猫を見捨てる母猫は割とおるようじゃな。普通は自立して生きてゆくのじゃが、稀にシャルの様な猫がおるようなのじゃ」
「ヴィルナに見つけて貰ってよかったなシャル」
「んなぁ~」
床におろして頭を撫でてやったらひと声鳴いて手に顔を擦り付けてくるけど、お前の命の恩人は隣のヴィルナだからな。
「こっちに来たのじゃが……。うぅ……、こうやって甘えてくると多少の事は許せそうになってしまうのじゃ」
「あの甘え方は子猫とは思えない……、それとも本能であそこ迄甘えられるものなのか?」
「おなかが空いたんじゃな。よしよし、ご飯を用意してやるのじゃ」
シャルを抱えて上機嫌なヴィルナはスキップしながら居間に向かった。
子猫には勝てないよな……。
◇◇◇
晩御飯を済ませて、魂の洗濯のお風呂タ~イム。寒い日はやっぱり風呂だよな~。いろいろあったけど増設して本当によかった。いつでも入れるのって最高だ!!
今日は俺が後に入るから、シャルを洗ってやっている。猫用シャンプーで丁寧に身体を洗った後、ぬるま湯をかけて泡を落としていく。お湯と一緒に流れていく抜け毛が凄いんだよな……。
頭は耳に水が入らないように慎重に洗って、綺麗になったところでシャル用の小型湯桶につけてやる。洗ってほっておくと自分で入るんだけどね。
「うなぁ~」
「ホントに風呂好きな猫だよな。桶に浸かる格好がちっとも猫らしくないんだけど」
「にゃ?」
相変わらず腹を上にして使ってるかと思えば、今度は桶の淵に顔を乗せて気持ちよさそうにし始めた。
たまにむにゅむにゅ言ってるけど、アレ位人語に近い発音する猫なんて珍しくないか。
「綺麗好きだし、風呂も大好きだし、ほんとにいい猫なんだけど、どことなく猫離れしてるんだよね」
猫餌を食べないところとか、おもちゃに全然反応しない所とか細かい事まで上げたらきりがない。
それでも鑑定で猫って出たし、猫なのは間違いなんだろう。
「ここまで来たら個体差で片付けていい問題なのかな? 他の猫みたいに元気いっぱいに暴れまくっても困るけど、甘えてくる時と飯の時以外はほぼ寝てるしな」
【一度極限状態に陥った為に体力の温存をする目的で寝るようになった可能性も】
そういえば骨と皮状態になってヤバい状態だったらしいし、寝てばかりなのはそういう可能性もあるのか。
風呂好きに関してはホントに個体差だろうし。
「なぁ~」
「もう上がるのか。よしよし……」
シャルに合わせて一旦風呂から上がって、身体を柔らかいタオルで拭いた後でドライヤーで毛を乾かしてやる。タオルを腰に巻いた状態で猫の世話をする姿は割と間抜けな気がするが、シャルが風邪をひいたら大変だしな。
脱衣所もガンガンに暖房が効いてるけど。
ドライヤーで毛を乾かす間もおとなしいし、気持ちがいいとのどを鳴らすんだよな……。
「にゃっ」
そして毛が完全に乾いたら浴室から出て居間に向かう。水分補給の為なのか、ヴィルナに水かミルクをねだるんだよね。
ミルクだけは猫用ミルクを飲むのも不思議だ。
【子猫の体調を考えた最高級子猫用ミルクです。猫餌も子猫用のソフトタイプペレット辺りを与えてみてはどうですか?】
……もしくは人間用の缶詰にするかだよな。
味が薄いのがダメなのは、栄養不足で味覚が発達してなかったかもしれないし。味の濃い人間用はあまり身体によくないかもしれないけど。
【猫用の薬なども調合可能です】
それはありがたい。
人間の四肢を再生できる薬が作れるんだ、同じ様に調合で作れば猫の病気とか怪我でも直せるよな。
「これで安心してシャルに人用のご飯を食べさせてやれるぞ。……って。俺もすっかりシャル中心であれこれ考えるようになったよ」
仕方ないかな?
猫には勝てないというか、子猫って可愛いもんな。この世界の猫って少し大きいから、普通の猫サイズの子猫だけど。
◇◇◇
先日、寝室の入り口にもシャル用の出入り口が増設された。
理由は夜中にさみしくなったのか、寝室の入り口をひっかきながら鳴いてたからなんだけど、ドアの傷より先にシャルの方が心配されたのは当然の結果だろう。
「流石にヴィルナの方のベッドに行くのな」
ヴィルナのベッドには、敷き毛布&かけ毛布、更に羽毛布団という完全装備っぷりだ。当然魔導アンカも入ってるので、布団の中はホッカホカらしい。
聞いただけで汗をかきそうなくらいの重装備だ。当然シャルもほぼ毎回ヴィルナのベッドの方に行く。
俺のベッドにはかけ毛布と羽毛布団だけだ。魔導アンカも使ってないぞ。
「シャル、最近少し重いのじゃ……」
「なぁ~」
布団の中に入ってくるパターンもあるけど、ああやってヴィルナの上に乗っかって寝る事もあるんだよな。
最初の頃はよかったけど、日々丸くなるあの身体で乗ってこられると割りと重いぞ。
膝に乗せた時もこれからきつくなるんだろうな。
「分かってくれたようじゃな……。いい子なのじゃ」
ヴィルナの上から降りて、首元からヴィルナの布団の中に潜り込んでいった。
今日も平和な一日だった。シャルが来て助かったのはこの時間なんだよな……。
物事には限度がある、俺の体力にも。
……それでもシャルを追い出して襲ってくる事もあるから油断は出来ないんだけどね。
読んでいただきましてありがとうございます。




