第百十話 猫を飼い始めると、生活は大体猫中心になります。はい、わかってた事だよな
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楽しんでいただければ幸いです。
二月に突入!! あまり寒くない日々は今まで通りなんだけど、最近我が家にはいろんな物が増えた。
猫用の寝床やそこに設置する魔石型ペットアンカ……、これは魔石で動くけど猫小屋に入れる事の多い座布団型の暖房器具だよね。ヴィルナが欲しがったからヴィルナが座る椅子にも設置してある。
猫じゃらし系のおもちゃも買ったけど、シャルはこの手のおもちゃにあまり反応しないというか、目の前で動かしても何してんのって顔でこっちを見てくるんだよな……。ホントに猫か?
「猫を飼い始めると、生活は大体猫中心になります。はい、わかってた事だよな」
「シャルが……、シャルがわらわの椅子を占拠するのじゃ!!」
「よく見かける光景だね。わざとかどうかは知らないけど、猫はああやって飼い主を困らせるものだ」
この光景も、もう何度目かわからないけどな。シャルは昼間になるとヴィルナの椅子の上で寝る事が多い。
ヴィルナの椅子の上にも座布団型の暖房器具があるからだろうけど、わざわざ寝床から出てきて占拠してるからわざとなんだろう。
「最初はあんなに懐いておったのに……。最近はちょっと冷たいのじゃ」
「猫ってそういう生き物だって。ヴィルナのあげる餌は美味しそうに食べてくれるだろ?」
「ソウマの用意した缶詰や猫用の餌を食べぬのが不思議なくらいなんじゃがな……。ソウマがシャル用に用意した料理は美味しそうに食べるのじゃが」
そう、シャルは猫なのに猫餌系は一切受け付けない。匂いを嗅いで放置するし、目の前においても食べようとしないんだよな……。
【健康にも配慮した最高級の猫餌です!! 食べないのはおかしいです】
こういってるし、猫だったら美味しく食べるはずなんだけど本当に一口も食べないんだよね……。
この世界の猫の口に合わないのかと思って試しに家の外に皿ごと放置したら、速攻で無くなったうえに懐いてくる猫の数が増えた。懐いてくるのは構わないけど、流石にもう二度と餌はやらないけどな。
飼いもしないのに餌をやったのは悪かったけど、ラッキーだと思って欲しいね。餌を貰えないって分かったのか、数日でもう寄ってこなくなったし……。猫って現金な生き物だよね……。
「薄味の餌もあまりおいしそうに食べないんだよな。この前あげた鶏肉のクリーム煮とかはよく食べたんだけど」
「猫餌を食べぬのは知らぬ食い物じゃからかと思ったが、外の猫は食べておったしの」
「そこなんだよな……。この猫の場合他にも変わったところはあるんだけど」
シャルは猫なのに風呂好きだ。それも毎日入る程なので、後から風呂に入る方がシャルを風呂に入れる事にしてる。
元の世界で知り合いが飼ってた猫も風呂好きだったから個体差があるんだろうけど、シャルの入浴スタイルはちょっとおかしい。
大き目のたらいにお湯を入れてやると、その中で気持ちよさそうにお湯に浸かるんだよな……、腹を上にして。猫用シャンプーとかで身体を洗うのも嫌がらないし……。二回目からはむしろ洗えって催促してる気がするしね。
「鑑定したら猫って出たから猫なんだろうけど」
食用可とも出てたな。絶対に食べないけど。
「シャルが猫なのは間違いないのじゃ。あまりにも変わっておるので猫に化けた獣人か何かと疑ったのじゃが、少し変わった猫なだけかもしれんのじゃ」
「人語を理解してそうな猫も多いからな。シャルはまだ子猫っぽいからその辺りは不思議だけど」
人に育てられた訳じゃないだろうし、いろいろ不思議な事の多い猫だよ。
猫餌類は一切食べないって感じで偏食が酷いけど、それ以外にはホントに手がかからないから凄くいい子だ。あ、椅子から降りて玄関の方へ向かった……。
「ああやってトイレはキッチリ外に出るしね。しかもちゃんと人が通らないような場所を選んでしてるみたいだし」
「今のうちに椅子を取り戻すのじゃ!!」
「もうひとつ同じ座布団型の暖房器具を用意するから、そっちに座ったらどうだ?」
「なんとなくシャルに負けた気がするから嫌なのじゃよ。シャルはテーブルの上に乗ってきたりはせんしいい子なのじゃが、これだけは困ったものなのじゃ」
「与えられた餌以外は食べないしな。料理作ってるとたまにおねだりするけど、キッチンには入ってこないしね」
おねだりする時もキッチンの入り口で鳴くだけなんだよな。しばらくあげないとあきらめてどこかに行くし、聞き分けもいい。
元々の性格なのかもしれないけど、個体差であそこまで変わった猫がいるのも不思議なんだよね。
「戻ってきたのじゃ……、足元で鳴くという事はわらわにここをどけと言っておるのか?」
「そういう事だろうな。冬場のストーブの前とかは猫と場所の奪い合いだと聞く。お、今回は諦めてこっちに来たか」
「ソウマの膝の上で寝るとは考えおったな……。この暖かい座布団をもうひとつ用意して貰うとするかの……」
「ここまで暖房が効いてるとシャルが膝で寝ると暑い位だね……。平和な一日だ……」
馬車が家の前で停まって、ドアノブをノックする音がここまで聞こえてくる。
平和な時間もここまでか……。
「またどこぞの貴族が訪ねてきたようじゃな」
「毎日とは言わないけど、数日に一回は確実に来るよね。どれだけ貴族がいるんだか……」
「頻度自体は減っておるじゃろう。そろそろ出迎えに行った方がいいのではないか?」
「そうするよ。一応上着位は羽織らないといけないしな」
暑いから家の中ではかなり薄着だからな……。
さて、手短にお帰り頂いてそろそろ夕食の準備にはいるか。
◇◇◇
今日訪ねてきたのは貴族のお嬢さんではなくて、写真のように見える絵を持ってきた貴族の執事だった。見合い写真みたいなものなのかな?
この場合現在の状況を話せば比較的すんなり引いてくれるのだが、今回訪ねてきた執事は割と食い下がってきたので追い返すのに意外に時間がかかった。
おかげで今日は久しぶりに二品ほど調合スキルで作り上げた料理が混ざっている。最近はあまり頼ってなかったんだけどね。
「今日は白身魚のフライや牡蠣フライを中心にしたフライセット。スープ系は外が寒いから鳥のクリームシチューにしてみた。野菜はアスパラやニンジンの温野菜だな」
シャルには鶏肉や海老を細かく切ってバターで炒めた物を冷まして与えてある。
イカもどうかなと思ったけど、確か猫にイカはダメって聞いた事があるし、とりあえず今日の所は海老とか鶏肉を中心に選んでみた。美味しそうに食べてるしいいかな?
「フライに付けるタルタルソースが美味しいのじゃ。エビフライに付けると最高なのじゃ!! フライもこのタルタルソースも単純な料理の筈なのに、何故かソウマの様にうまくゆかぬのじゃが」
「微妙な味付けは割と勘に頼る事も多いからな。慣れてくれば感覚で分かるようになるよ」
中華料理とか割と勘で調味料ぶち込むしね。繊細な味付けの時も勘に頼る事は多いし。
「この揚げ物も難しいのじゃ。唐揚げは何とか出来るのじゃが、フライやてんぷらはソウマほどうまく揚がってくれんのじゃ」
「天ぷらについては俺もまだまだだよ。簡単に見える料理程難しいって言われるしな。カリッと揚げながら中の具がふわっと仕上がると最高なんだけど」
それも揚げるもの次第だけどね。
揚げ過ぎて水分が完全にとんで中までカリッカリになる事も多いし。
「料理は奥が深いのじゃ。これだけ料理の腕があるのにソウマも料理の練習をしておるじゃろ?」
「作り置きの料理を増やすついでに色々挑戦してるな。いろんな出汁を作ってみたり、こっちで入手できるもので代用できないか試行錯誤はしてる」
ホントに料理人っぽくなってきたよな。料理の腕も割と上がってる気がする。
【私のサポート付きですけどね】
それに関しては助かってる。簡単な料理はいいんだけど、手のかかる料理はやっぱりまだ慣れないしさ。
「わらわももっとレパートリーを増やさねばダメじゃな。いつも肉を炒めたりするだけなのじゃ」
「別にそれが悪い訳じゃないぞ。少しずつ覚えていけばいいさ」
料理を覚えてどこかで披露する訳じゃないし、家庭で食べる料理だったら単純な揚げ物とか炒め物でも問題ないさ。
「冒険者としても活動しておらぬし、料理を覚える機会は今しかないのじゃがな」
「春になっても俺たちにお鉢が回ってくる依頼なんてそこまでないと思うぞ。いまさら剣猪とか突撃駝鳥の討伐任務なんて受けないだろ? 今の装備だったら他の冒険者でもほとんど無傷で倒せるだろうし」
「ソウマが提供した素材のおかげじゃな。その冒険者たちもこの町で依頼が減れば、マッアサイアやイサイジュ辺りで冒険者を続けるじゃろう」
「そうなるとますます俺たちの活躍の場はない訳だが、ルッツァ達の手に負えない魔物が出た時用の切り札扱いだろうな。だから春になってもそこそこ料理の練習はできると思うぞ」
冒険者としての活動はホントにしばらくやってないし、商人としてやってるのは商人ギルドに対する菓子類の卸業だけだ。商人としては儲けも大きいんだけど、仕入れとかでこの世界の物を使ってないから不健全なんだよな……。
それに、この世界に稼いだ金を還元してないからあまり健全とはいいがたいし。金や銀ももう少し別の形でこの世界に戻さないといけないしね。
「ソウマと結婚するまでには、ちゃんと料理もできるようになりたいのじゃ」
「今でも十分作れてるよ。後は場数だから数を熟せばいろいろできるようになるって」
味付けに失敗しないし、火加減もばっちり。
レパートリーが少ないのはこの町で売ってる食材の関係もあるし、俺が渡した食材を使えば作れる料理は多いと思うんだよな。
結婚か……。
色々準備を進めていかないといけないよな。
読んでいただきましてありがとうございます。




