第百四話 料理は十分にあるし問題ないんだが……。知り合いだったのか?
連続更新中。
この話で第四章は終わります。
楽しんでいただければ幸いです。
カロンドロ男爵の屋敷での新年会の二日後、ルッツァ達を招いてうちでも新年会をすることになった。
参加面子は俺とヴィルナは当然として、ルッツァ、ミランダ、ダリア、ラウロ。ここまでは今回俺がキッチリ招待したんだが、そこに予定外の人物が混ざっている。というか、この子なんでまだこの町にいるんだ?
「すまないな。王族が来てると聞いたんだが、まさかエヴェリーナが来てるとは思わなかったんでな。一人増えるが問題ないか?」
「料理は十分にあるし問題ないんだが……。知り合いだったのか?」
「昔みたいにエヴァと呼んでもいいんですよ。ルッツァルトおじさま」
カロンドロ男爵の新年会にも来ていたあの王族の姫が割とラフな格好でルッツァ達についてきた。
「何処かのお坊っちゃんだと思っていたが、お前も王族だったのか?」
「いや、うちは王族じゃないんだが、先代の国王の妾の一人がうちの伯母でな。正式な妃じゃなかったんで王族には組み込まれてないんだ。その関係でエヴァとよく遊んでやってた時期があってな。俺はもう王都を抜け出して冒険者をやってたんだが、実家にたまには顔を出せと言われてた頃なんで、何度か王都に戻ってたりもしたんだ」
「今はいいのか?」
「うちの家は弟が継いだし、俺はもう必要ないだろう。元々領地の経営の才能はあいつの方があったんだ」
自分より才能のある弟に爵位を継がせるために、自分から身を引いたパターンか?
ルッツァが跡を継いでも十分にいい領地経営を……、いや、無理だな。こいつはいい奴過ぎて謀略の類には向いてないだろうな。
「積もる話もあるだろうし、鍋でもつつきながら続きを聞こうじゃないか。他の総菜もたくさん用意したから遠慮なく食べてくれ」
「ソウマの作る鍋料理は最高なのじゃ。今日は水炊きじゃな」
メインは新年会でも出した大山雉の塩釜焼だけど、鶏の水炊きも用意している。最初に水炊きをして以来ちゃんこ鍋やもつ鍋、蟹鍋やスッポン鍋までいろいろな鍋料理を食べさせてるからな……。
鍋以外につまみとしてローストビーフに鶏のから揚げの肉料理、カラスミやつぼ焼きサザエ、海老の天ぷらや白身魚の天ぷらなど魚料理も用意した。他にも春巻きの皮で巻いたチーズ揚げや、アスパラガスの生ハム巻きなんかも並んでるぞ。酒を飲むから米類はどうかと思ったけど肉巻きおにぎりや、テーブルの上のかごには山ほどパンも積んであるしな。
ミランダが鳥の水炊きや塩釜焼を取り分け、最初に配られた分以外は好きにとっていい事になっている。取り皿も予備をたくさん用意しているし、各種調味料も机の上にセットした。
「相変わらずすげえな。冒険者ギルドの食堂が以前よりマシになったが、まだまだクライドの足元にも及ばないぜ」
「鍋もおいしいし、このお酒もおいしいね。何のお酒なの?」
「清酒だよ。米のお酒だ。冷で飲んでもいいけど、こっちに用意した熱燗もおいしいぞ」
プラント産の米をファクトリーサービスの工場で日本酒に加工した物だ。よく見たら米とか水とか色々変えて何十種類も作ってるんだけど、工場の生産能力が向上してない? 工場だけに。
【工場内の酒造プラントを改造しています。日本酒であれば、複数同時に製造しても一つになります。また、現在はワインなども酒類ごとにひとつのくくりとなっております。あと、ダジャレが寒いので機能がフリーズする可能性があります】
そこまで寒くねえよ!!
酒の種類ごとにひとくくりだとかなり生産力が上がるな……。といっても、今は日本酒とワイン、ブランデー、ウイスキー、ラム酒の製造中だし。今は資金も十分にあるから年一億の中規模プランを二つくらい追加してみるか? そうすればあと六十種類同時に製造できるし。
【中規模ファクトリーサービスを二つ稼働させました。小規模コースを酒類限定にされますと、生産効率が上がります】
稼働タイミングがはえぇよ!! 確認取る前に追加したよな……。必要だからいいけど。
コースごとに工場ひとつなのか? それなら分けた方がいいよな。そのあたりは任せる。
【委任されました。今後は最大効率で作成します】
何樽かは飲めるレベルに熟成したワインはともかく、ウイスキーとかはもう少し熟成させないとだめだしな。今後が楽しみだぜ。
つまみの中には日本酒にあいそうな物も多いから今回は思い切って日本酒も用意してみたんだけど、割と好感触だな。
「この様なお酒、王都でも見かけませんわ。クライド様は本当にいろんな物をお持ちなのですね」
「あのおてんばエヴァがずいぶん礼儀正しく成長したもんだ。屋敷を抜け出して冒険者の真似事をしてみたり、そりゃ手の付けられない……」
「お・じ・さ・ま~。騎士団長に喧嘩を売った一件をここで話しても?」
「いや、すまなかった。昔の事を話すのは良くないよな」
騎士団長に喧嘩って、なにやらかしたんだよ。正義感も強そうだし、何か気に入らない事でもあったんだろうけど。
「いや~、でも、昔のやらかしといえばルッツァだよね。露店で売られてるパンを食べれば、こんな物が食えるかって怒ったり。冗談で言われたのに銀貨で支払おうとしたり。冒険者を始めたばかりの頃のルッツァはほんとにおもしろかったんだよ」
「騎士団長に鍛えられてたって事で剣の腕は一流だったが、本当に世間知らずのお坊っちゃんだったんだ。問題もよく起こすからいろんなパーティから追い出されて、最終的に俺達と組むようになるまでそりゃあもう、いろんな伝説を残してくれたもんだぜ」
「私その話を聞きたいです。おじさまは頑なにその頃の話をしてくれませんので」
「俺の話はいいんだよ!! しかし、お前もって事はやっぱりクライドは王族なのか?」
「いや、そこの姫様とお前もって意味だ。俺はいたって普通の一般人だぞ」
あ……、ルッツァ達の視線が冷たい……。というか、ヴィルナも同じ目をしてるんだけど? ヴィルナには俺の正体話してるよね?
「ずいぶんと博識で技術力もあり、莫大な財と魔物を倒す力をもつ一般人がいるんだな。確かにお前の才能のどれか一つでも持ってたら、侯爵家でも王家でも絶対に家から出さないけどな。こんなところにいる筈が無いんだが」
「世間知らずって点も割と怪しい部分ですね。この人といい勝負でしたし……」
「クライド~、それはちょ~っと無理があると思うよ。この料理にしたってさ、どこかの王家に仕えるシェフ以上なんだよ?」
「そうですね。王家でもこれほど博識で様々な力を持つ者は居ないと思います。一般の人がこのレベルでしたら、王家は滅んでいるでしょう」
「便乗してこないラウロだけは味方……って、単に酒と肴に夢中だっただけか」
ラウロが静かだと思ったら、カラスミを肴に熱燗を旨そうに飲んでいた。
「この酒の入手ルートを教えてくれたら味方に付いてやる。このカラスミってのもうまいが、鳥の串を肴にこいつを熱燗で飲むのもいいかもしれないな」
「ラウロは熱燗がいける口か。カラスミもいいけど焼き鳥もあうよな。その酒は海産物の相性がいいんだが、サザエのつぼ焼きなんかもいいぞ」
「……こいつはいいな。この辺りで飲めるワインやエールブクより、この酒の方が数段上だ」
サザエのつぼ焼きを肴に熱燗で一杯……。ラウロはいい趣味をしてるな。
「今の所入手ルートは俺が持ってる分だけだな。そのうちこの男爵領で造り始めるかもしれないけど。とりあえず土産に持ちやすい樽酒をいくつか持たせてやる」
「俺はクライドの味方だ。こんな一般人がいてもいいじゃねえか」
「物凄い買収の現場を見たよ。でもこの酒だけでも相当な価値があるよ? お米の酒なんて初めて聞くしさ」
異世界転移者も万能じゃないだろうし、全てを揃えて日本酒をこの世界で作るには無理があったんだろう。火入れしないと割と簡単に痛むしな。
「多分作ろうとした奴はいると思うんだよ。技術的に難しい部分も多いから時間がかかるだろうし」
「その知識がすでに普通じゃねえんだよ……。商人ギルドなんてこの町にできて以来の高利益で凄い事になってるんだぞ? 一般の職員に至るまで家が買えるくらいの一時金が出たとか言われてる」
「儲けを分配するのはいい事じゃないか。ニドメックの一件からこっち、割と迷惑もかけたしな」
「塩の一件か……。アレがひとつの分岐点だろうな。……すまない、こっちにも一本回してくれ」
「意外に熱燗が人気だな。ワインの方が人気かと思ったんだけど」
ワインはギリギリ飲めそうな樽をひとつだけ開けた。
ちょっと熟成が足りてないけど、この世界のワインより高品質で飲みやすい。
「それよりエヴェリーナ姫は王都に帰らなくてもいいのか? というか、もうこの時間だと今日は王都に向かう高速馬車は出ないと思うんだけど、リーダーの家に泊まるとミランダが怖いぞ」
「この人はあんな子に手を出す人じゃありませんわ。うちは手狭ですし、エヴェリーナ姫は王族ですもの。白うさぎ亭にでも宿をとっているんじゃありませんか?」
「私はこのままアツキサトに住みますので、王都に戻る必要はありませんよ?」
「王族がそんなに簡単にこんな辺境の町に住めるのか? カロンドロ男爵が大変だろうに」
長期間ここに住んで、この男爵領が栄え始めた原因を探るつもりか?
王族相手だと無下にもできないだろうし、男爵も大変だな。
「何処に住むつもりなんだ? カロンドロ男爵の屋敷か?」
「しばらくはそうなりますね。状況次第では早めに引っ越せるかもしれませんが」
「王族が住める様な家を建てるとなると、ここの職人でも数ヶ月かかるんじゃないのか? それにお付きのメイドとかもいるんだろう?」
「姫といっても王位継承権の無い末席ですので、普通に生活するだけの教育は受けていますよ」
お付きのメイドも無しか……。そういえば新年会の時にも後ろにメイドとかが控えてなかったな。
いや、今日はメイドがカロンドロ男爵の屋敷にいるだけかもしれない。
「今の王様だとそういうだろな。そうすると、普通にアツキサトに移住させられただけか?」
「いえ、今回こちらに伺ったのはある調査の為です。しかし、問題ないと判断しましたのでそのまま計画を進める事にしました」
「このアツキサトを地方都市に発展させるって計画かな? 後十年位経てば結構な大都市になると思うけど」
塩問題も解決したし、穀倉地帯が問題なければこの男爵領は大いに発展するだろう。
西の国からも移民が増えるだろうし、その移民を食わせるだけの食料や仕事もある。
「クライド様、私はエヴェリーナといいます。今後良きお付き合いが出来ればと考えております」
「ソウマは、わらわの夫じゃ!! 良き付き合いは友達どまりじゃぞ」
「まだ結婚されてませんよね? それならば問題ないでしょう」
「大ありだ。俺はヴィルナと今も住んでるし、いろいろ問題が片付いたら結婚するつもりだ。誰かが割って入る余地はないぞ」
「ソウマ……」
ヴィルナも猫みたいに顔を擦り付けてマーキングしてるんじゃない!!
というか、聖魔族ってほんとに猫っぽい習性があるんじゃないか?
「この国は一夫一婦制ではありませんし、資産を持つ者が複数の嫁を娶るのは珍しくありません。クライド様でしたら問題ないでしょう?」
「資産的に問題なくても、俺やヴィルナの気持ちの問題だな」
「そうなのじゃ!! ソウマにはわらわだけで十分なのじゃ」
「仕方ありませんね、私はしばらくこの町で暮らしますので、良き返事がいただける場合はご連絡ください」
いい返事をする事は無いけどね。
しかし、王都の連中も新年早々ろくでもない爆弾をこっちに寄越しやがった。
王都が王位継承権の持たない姫を送り込んできた理由があるはず、そのあたりはスティーブン辺りに調べて貰うしかないか?
面倒ごとが増えたな……。
読んでいただきましてありがとうございます。
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誤字報告ありがとうございます。非常に助かっています。




