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第百話 年末年始に行事はなにもないって聞いてたのに、カロンドロ男爵から新年会の招待状が来てるんだけど

連続更新中。

おかげさまで百話連続更新できました。

楽しんでいただければ幸いです。



 十二月の末になった。もうすぐ大晦日だよと思ったら、この世界には十三月があるので大晦日や年越しムードはひと月ほどお預けだ。


 新年になればお年玉とかお節的なイベントがあるのかと思ったら、この辺りにそんな風習は無いらしい。おかげで年越しの事前準備が何もなくて助かる。異世界から来た人間が持ち込まなかったのか、当然こっちの世界にはクリスマスもないしな。


 そう、何もないと思ってたんだよ。グリゼルダさんがこの手紙を持ってくるまではね。


「年末年始に行事はなにもないって聞いてたのに、カロンドロ男爵から新年会の招待状が来てるんだけど」


「来るであろうな。基本的には貴族の集まりじゃ、ソウマに料理の腕を振るわせる目的もあるのじゃろうが」


「そこなんだよな~。なんであの男爵は俺に料理を作らせようと思うんだ? 俺は招待される方だろ?」


 グリゼルダさんには参加するって伝えたし、渋々だけど料理を作るのも了承したけどさ。


 あれ? ヴィルナが首を傾げてる? 何か変な事を聞いたかな?


「例えばじゃが、武に秀でた者がその力を誇示する場は闘技場じゃな?」


「そうだろうね。この国にも武闘会とかあるのか?」


「王都に行けば闘技場で武闘会があるのじゃ。割と高額な賞金が出るんじゃが、流石にソウマは呼ばれぬであろうな。ある程度のレベルを超えると声がかからぬものじゃ」


 武闘会といいながら、勝敗で金を賭けてるんだろうからな。あまりに強い奴が参加するとオッズがめちゃくちゃになる。胴元はやってられないだろうよ。


「それは理解した。でも、それと俺の料理の話がどうつながるんだ?」


「ソウマは冒険者としても商人としても成功しておるが、それを人前で披露という訳にはいくまい。そこで料理なのじゃ。あの男爵はソウマが誰もが唸る料理を作れる腕を披露できる場を用意したと思っておるのじゃろう」


「料理好きの人間は最終的に作った料理をひとに食べさせたくなったりするからな。なるほど、アレはあの男爵なりの気遣いだった訳だ。割とありがた迷惑だがな」


「男爵クラスの貴族が招くという事は、全員貴族か商会の頭クラスであろう。そんな者達がソウマが作った料理を絶賛する場じゃぞ? 貴族にとってはこれほど悦に浸れる場はないじゃろう? マドレーヌの一件で貴族の習性は分かっておると思ったが」


 金貨食ってるような菓子を出して悦に浸るような人種だからな……。


 俺が料理人だったら、存分に腕を振るって称賛される場を得られるって事だろうけど……、あいにくと俺は料理人じゃない。あそこの料理長があんな態度だったのも俺が料理好きだと誤解しての事か?


「今の俺に金で報酬って言っても大して喜ばないのを分かって、それなら名誉というか。料理の腕を振るえて称賛される場を用意しようって訳だったんだ」


「ついでに自分の株も上がるじゃろうしの。自分が雇っておる料理人のメンツを潰してまであれだけの料理を用意させたのじゃ。その位は見返りが欲しい所じゃろう」


「俺が頼んだ訳じゃないんだけど、男爵からすれば感謝されこそすれ、迷惑がられるとは思いもしてないって事か」


「しかも今度はあの魔物の騒動があった後の新年会。失敗は許されぬ上に、男爵領は健在でこれだけの隆盛を誇っていると誇示する為の場じゃろう? 幾ら相手がソウマでも、余程信頼しておらねばこうして頼みはせんじゃろうて」


 あ、これ断ってたら俺一人が悪者になってたパターンだ。


 というか、そこまで信頼してるんだったら招待のついでじゃなくて正式に……、頼める訳ないか。料理人でもない商人にそんな重要な事を正式に頼める訳ないよな。いくら準貴族扱いしてるって言ってもさ。


「料理を作らなきゃいけない件は納得した。これで今更断ったらこの男爵領から出ていかなきゃいけないだろうな。別に出ていくのは構わないんだけど」


「出ていった先で似たような事が起こるだけじゃろうて。ここはまだソウマの意思を尊重してくるだけマシなのじゃ」


「便宜も図ってくれてるみたいだし、この町が住みにくいかといえばそうでもないしな」


 人口の少ない小さな町だけど住みやすいいい町なのは間違いない。ニドメック商会の一件で変な真似をしてた奴らは芋蔓式に処罰されたから悪人もあまりいないし。


「少し寒いのが難点じゃが、ここより更に北にある王都では毎年雪が降るそうなのじゃ。信じられないのじゃが」


「南国とまで行かなくても、この辺りは結構南だろうしな。雨もあまり降らないし、よくこの広大な森が維持できてるよな……」


「ソウマが来る少し前の時期が雨季なのじゃ。あの時期はこの辺りでもよく雨が降るのじゃがな」


「この辺りにも雨がよく降る時期があったのか。その割には水路が整備されてないというか、町を流れてる川が浅すぎないか?」


 元の世界だとあの程度の川だとわりと簡単に氾濫してたしな。


 そこまで雨が降らないで長期に渡って降り続けるんだったら、今度は街道の整備がされてなさすぎる。


「町が水浸しになる程は降らぬし、その小さな川に流れるだけの雨量しかないのじゃ」


「この町が出来て長いって事だし、問題があればすでに改善されてるか」


 昨日今日出来たてほやほやって訳じゃないし、麦の売り上げなんかで予算は潤沢にあるんだろうしな。


 それにしては街道の整備が今一つなんだよね。何処にあの麦なんかの売り上げをつぎ込んでるんだろう?


「そういう事じゃ。問題があって放置するのは愚か者じゃろう」


「割とその愚か者も多いんだぞ。面倒だとかお金が無いとかいろいろ理由があったりはするけどな」


「この町であれば大丈夫じゃろう。あの竜が姿を見せたにもかかわらず、これだけの人が逃げなかった町じゃぞ」


「そういえばそうだな。ここは大丈夫だったけど、西の国が傾き始めてるのは例の魔物の傷跡がでかいのと、国民が流失してる可能性もあるからな」


 あんな魔物が短期間に二度も出現して、あれだけ多くの人が食われたんだ。


 まともな神経してりゃ、そりゃ街から逃げ出すよな。


「この男爵領は職人を手厚く優遇しておるという話じゃし、冒険者からも基本税金を取っておらぬ」


「冒険者の税金に関しては、冒険者ギルドから回収してるだけだよな? あれ依頼料とか買取価格から何割か徴収してるだろ?」


「他の貴族領では報酬から何割か更に税金で引かれるそうなのじゃ。徴税権は領主にあるそうな」


「やけに詳しいな」


「ルッツァ達の受け売りじゃがな。あ奴らも税金が安くて暮らしやすいのでこの辺りに住んでおるようじゃ」


 あいつの実家がどこの貴族領なのかは気になるけどな。


 金銭感覚の無さがこの世界に来たばかりの頃の俺と同程度って考えると、最低でも銀貨でしか買い物なんてした事の無い位にお坊っちゃんだったんだろうし。


「……貴族で正月に何を食べる風習があるのか、後でルッツァ達に聞いてみるしかないな。あいつらは例の剣猪(ソードボア)討伐にはいってないんだよな?」


「あ奴らは自分たちのパーティだけで剣猪(ソードボア)を狩れるからの。例の討伐チームに参加してもあまり旨味はないじゃろう」


「あれは食料の確保と弱小冒険者の救済みたいなものだしな。アレで稼げば格安で売りに出してる装備を買えるくらいにはなるだろうしね」


「あぶく銭を正しく使う事は難しいのじゃ。稼いだ金を受け取ったらそのままマッアサイアに向かって花街に繰り出すか、博打でもうひと稼ぎしようとして失敗するかじゃろう」


 ……ちょっとだけのつもりで使い始めて、全部使っちゃうパターンだな。それ。


 確かに、いっきに金が入ると気が大きくなるしな。今まで我慢してきた分が一気に表面化する可能性もある。……俺もボーナスがいつの間にかグッズに化けてる事もあったしな。


「そのあたりまで心配してやる必要もないか。ルッツァが冒険者ギルドにいるのは分かったからあとで行こうと思うんだけど……」


「気を付けていくのじゃぞ」


「今日は割と暖かいと思うんだよな~」


「浴室周辺の猫の数が多いのが気にならぬようじゃな。寒いに決まっておるじゃろう。出かける時はもう少し厚着をするのじゃぞ」


 ヴィルナの意思は固く、家から出る気はないらしい。


 それでも少し前は冒険者ギルドであれこれ情報仕入れてきたみたいだし、今日の所は俺一人で行くとするか。




読んでいただきましてありがとうございます。

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