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第23話 戦闘! 闇夜に蠢く悪の群れ!!

前回のあらすじ:実家のあるライコット村に帰ってきたフィアルこと翔。一緒に付いてきたトリスタンとネミッサも交え、故郷の家族や友人達と交流する。だが、ある時、親友のサラの行動に不自然さを覚える。同じ不自然さを感じていた勇と共にサラの家の納屋に行くと、そこにはロボット型ヒーローの玄衛門が居た。玄衛門はサラを守る事を第一の望みとしており、翔と勇はヒーローギルドへの勧誘を一旦諦める。サラと玄衛門の真の目的、フィアルとサラのイチャイチャパラダイス計画には気付かずに……。

そして、王都ではもう一人のヒーロー『マジカル★ルナティクス』が窮地に陥っていた。

*今回もかなり長いので、時間のある時にでもお読み下さい。

 ライコット村の夏の暑さはそこまできつくない。やや標高が高い場所にある事と、乾いた風が多く吹くためであるが、それでも日中の農作業は体力を消耗する。


 なので、フィアルの父ロイは早朝に農作業を行い、夕方の涼しくなる時間までは家でゆっくりする事にしている。

 丁度今は昔なじみも来ているので、茶を飲みつつ世間話をするのだった。


 昼前のノースポール家リビングでは、テーブルに茶器を並べたおっさん二人がゆるゆると喋っている。


「で、最近の王都はどうなんだ? 俺が止めた頃と比べれば随分平和に成ったんじゃないか?」


「……そうでも無いな。この前も木材問屋が襲撃されて、金品が強奪される事件があった」


 ロイが気楽に話題を振るが、返事を返すトリスタンの顔は仏頂面である。ロイは少し顔を引き締め、茶を一口含む。


「死者はどれくらい出た?」


 沈痛な面持ちのロイが問いかけると、渋面だったトリスタンが酷く難しい顔をする。ロイがその変化に首を傾げている間に、トリスタンが口を開いた。


「死者は、ゼロだ。怪我人は居たがな」


「ほう? 義賊の類だったのか」


「そんなものではない。最初にスケルトンの集団が建物から従業員を追い出して占拠した。その後、最近王都で話題になっている『マジカル・ルナティクス』という正体不明の魔術師と……あと変な赤い戦士が現れてスケルトンを撃退した」


 ロイは茶を吹き出しそうになるのを堪え、目に涙を讃えつつトリスタンの話を遮る。


「待て! 何だその珍奇な事件は!?」


「俺だって部下がこんな報告を挙げて来たら、怒鳴りつけて再確認させるさ。だがこれは出動した衛兵隊の正式な報告書に載せられていた。つまり、衛兵隊の上司が怒鳴りつけて再確認させてもそうだった、と言う事だ」


 絶句するロイは置いておき、トリスタンは続ける。


「その事件にはもう少し続きがあってな。スケルトンが粗方撃退された後、これまた最近王都を騒がせていたオークの犯罪者が現れて、赤い戦士と交戦した。その際、そのオークは『闘技』を使用した」


 ロイの目が見開き、次に細められる。ロイは茶器をテーブルに置くと腕組みをして話を真剣に聞く姿勢を見せる。



「『闘技』を操るオークの犯罪者か……穏やかじゃ無いな。『騒がせていた』と言うことは以前から活動していたんだろう? 騎士団は何故対処しなかったんだ?」


「『闘技』を見せたのはその時が初めてだった。それまでにも衛兵隊に何度か拘束されていたが、何れも脱走を許していた事を考えれば、騎士団が動かなかったのは怠慢だったかも知れないな」


「……で、どんな『闘技』を使ったんだ?」


「『激怒の構えレイジ・フォーム』と剛剣技『大地鳴動斬』だ。典型的な力技だが……問題はこれをただの長剣で、しかも長剣を破壊せずに使いこなした事だ」



 その報告を聞いた瞬間、ロイの体が震える。武者震いか戦慄か、本人も分からないだろうが。


「それは……武神の技をそこまで巧みに扱うとは……」


「本人は『オーク族一の大戦士』を自称しているそうだが、嘘とは言えんな。通常、大剣で行う剛剣技をただの剣で振るい、かつ剣に負担を掛けない繊細な技術すら使いこなすのだ。王都の騎士団でも勝てるのは近衛騎士団か、各騎士団の団長格だけだろう」


「………そのボーグダインは、まだ王都に?」


「うむ。赤い戦士との戦いには敗れたそうだが、仲間が居たらしく逃げられたそうだ。……対処を急いだ方がいいかも知れん」


 ロイの表情がきょとんとしたものに変わる。まさか騎士団団長に匹敵しかねない者を、謎の赤い戦士が倒せるとは思ってもいなかった様だ。


「え、負けたのか? その赤い戦士とやらも偉く強いんだな」


「いや、ボーグダインが『マジカル・ルナティクス』の下着に見惚れている隙を突いて、股間を一撃して倒したらしい」


 沈黙する二人。微妙になった部屋の空気を和ませるように、外から鳥のさえずりが聞こえてくる。

 ロイは茶器を再度手に取り、茶を一口啜るとほっと息を吐き出した。



「……思ったより大した事無さそうだな。王都が平和なのはいい事だ」


「もう少し緊迫感があってもいいと思うが……。否定はしきれん」



 ロイに続いてトリスタンも茶を飲む。歴戦の騎士も王都の現状を測りかねる位には、ヒーロー達の活躍によって王都の闇と光は拮抗していた。



 その拮抗も昨夜まで、ではあったが。



 ◆



 玄衛門さんの騒動から一夜開け、僕は眠い目を擦りながらネミッサさん、サラ、リーザと机を囲んでいた。

 夏休みの宿題の残りを片付けて、気兼ねなく遊べるようネミッサさんから提案されたのだ。サラとリーザも、騎士団養成学校での授業内容が気になっている様で、教科書や宿題の内容を調べている。


「……ふーん、基本的なところはルリィ先生から教わった部分と一緒ね。これなら何とかなりそうだわ」


「油断しない方がいいよー。もうルリィ先生は居ないんだし、これからもっと難しい内容が増えてくるだろうから。ネミッサさん、良ければ後二、三年後までにどんな授業があるか教えてくれませんか?」


 慢心しているリーザに対して、サラは用心深くこれからの授業内容をネミッサさんに聞いている。

 歴史や地理、国語以外は教える事が無く、暇そうに僕の宿題の様子を眺めていたネミッサさんは目を輝かせてサラに向き直った。


「え、どんな授業があるか知りたいの? いいわよー、お姉さんが懇切丁寧に教えて上げる!」


 サラもネミッサさんのストライクゾーンだったのか、相好を崩してネミッサさんは説明し始める。


 簡単に言えば、国語・算数はそこまで進まず、地理と歴史の授業に比重が傾けられて、そこに戦術などの軍事科学の初等教育が加わるみたいだ。


 魔法学の講義も順次難しくなっていくが、実践教育が始まるのは早くても十歳頃かららしい。


 つまり、僕がアドバンテージのある分野は殆ど無くなるわけだ。これは……剣の練習と一緒に勉強も頑張らないと落第するかも知れない……。


「ね、ネミッサさん。宜しければもっと先の分野も予習させておいてくれませんか?」


「おおうっ!? フィアル君は勉強熱心だねー。よし、私が習ったところまでで良ければ、出来る限り教えて上げよう!」


「あ、あの……私もお願いします」


 やや顔を青褪めさせたリーザもおずおずと挙手する。座学はそこまで得意でないのは相変わらずらしい。


 その日は三人共、ネミッサさんを先生役に勉強する事になった。ただ、ネミッサさんにずっと先生をさせるのは気が引けたので、午後からは外に出て遊びました。



 ああ、『夏休み』って感じがするなぁ……!!



 ◆◆



 ……その日の夜、僕は朝から姿の見えなかった勇に呼び出された。


 勇の家に程近い林に着いた時、勇は画面越しに乱と話している最中だった。僕が来たことに気付くと、勇は深刻そうだった顔を少し緩ませて歓迎してくる。


「お、悪いな翔。こんな遅くに呼び出して」


「構わないよ。つーか、勇が僕を気遣うなんて、何だか変な感じがするな」


 いつもの人をおちょくる態度が無いのを不気味に思いながら近付くと、画面の向こうの乱の様子がはっきりと分かった。


 青褪めた顔、荒い呼吸、苦しそうな表情は明らかに尋常では無い。


「…!? 乱、一体どうしたんだ。風邪……よりよっぽど酷い状態だけど」


「……ああ、翔。ごめん、しくじっちゃった……」


 乱は薄目を開けて僕に謝ってくる。何が起こったのか、僕は説明を求めて勇を凝視する。

 勇は難しい顔で乱の様子を見ている。よく見れば彼の右手が淡く輝いていて、乱の体も同様の光に包まれている。彼の枕元には勇の式紙の雀が一羽佇んでいた。


「報告が遅れて悪かった。簡潔に状況を説明すれば、昨日の夜にまた女性の誘拐事件が発生しそうになっていた。乱がそこに急行して救助しようとしたが、その女性と誘拐犯はグルだったらしく、両者からの攻撃を受けて乱は今の状態になった。ちなみに、ダークエルフの女性と……昔見た骸骨男みたいな誘拐犯だった」


「囮……しかも状況から見て、明らかに僕ら狙いだよね。乱の魔法では撃退出来なかったの?」


「……うん。魔法とは系統が若干違う……多分死霊術によるものだ。骸骨男の呪いは僕の魔法じゃ解除が難しい……いや出来なかった」


 乱も苦しげな様子で説明をしてくれる。勇はそんな彼を抑えるように手の平を向けた。


「乱、喋るな。今は体力を温存しておいた方がいい」


「……うん……分かった……」


 乱は勇の言葉に従って、目を瞑り黙り込む。それを確認してから勇は勇は説明を再開する。


「今は式神を通して法力を送って呪いの進行を食い止めているが、解除となると相当厄介だ。直接勇の元に行ければ簡単なんだが、式神を通してだと出来ることが少な過ぎる。呪い解除用の式神は既に送っているが、王都まで届くのにまだまだ時間がかかる。その作業をしていたせいで翔への連絡が遅れてしまった」


「そりゃ別にいいけど、その間……勇の体力は持つのか?」


 勇は深刻そうな僕を見上げると、にやりと口の端を吊り上げる。



「舐めてもらっちゃ困るね。現状維持だけならこのままでも十分いける。ただ、解除するまでは乱は絶対安静だ。勿論変身してヒーロー活動なんかも厳禁。……つまり、王都の治安維持はしばらく棚上げにするしかない」



 自信満々だった勇の顔は最後には歯痒い表情に変わっていた。

 重苦しい空気が漂う。きっと今、皆の心は一つだろう。


 悪に屈するしか無い、ヒーロー魂の悔しさだ。



「ああ、『悪に屈するヒーロー魂の悔しさ』なんて思ってないからな。単に呪術使いにいい様にされてる苛立ちだけだから」



 勇が僕の心を見透かしたように訂正してくる。……くそっ、臭い台詞考えて悪かったな!


 恥ずかしさと恥ずかしさと恥ずかしさで顔が熱い……いやもうこれ、ほんとに泣き出しそうな程に恥ずかしい。

 このまま誰かに泣き付きたい衝動に駆られ………ん?



「そうだ、泣き付いてみよう」


「あ?」



 勇の『何言ってんだこいつ?』な表情が、また僕の羞恥心を刺激した。……泣き出しはしなかったけど。



 ◆◆◆



「玄衛門ーー! 僕らを王都に連れてっておくれよぅ!!」


「突然の訪問にお茶の準備も出来てないっスが……って唐突になんなんスか?」



 サラん家の倉庫に急遽現れた僕らを歓迎すべく座布団を(頭から)取り出そうとしていた玄衛門さん。しかし、いきなり縋り付いて来た僕と勇に目の明りをチカチカと瞬かせて困惑している。


 ん? 必要ないのかな。

 そっと体を離した僕らは互いに顔を見合わせて、今度は上目遣いに玄衛門さんを見る。


「えっと、様式美的に必要かな…って思って」


「某猫型アイドルロボットと一緒にしなくていいっス……。そこら辺ユーザーフレンドリーに出来てるっスから、まずちゃんと話を聞かせて下せぇ」


「そうだよ~……。でも、今回はちゃんと僕を呼んでくれたね、嬉しいよ」


 少し眠そうな、だけど嬉しそうな顔でサラは玄衛門さんの隣に座っている。先にこっそりサラを起こして許可を取ったのが良かったか。


 改めて玄衛門さんの出した座布団に座って、事のあらましを説明する。



 隠していたが、自分達は異世界からの転生者であり、それぞれ特異な力を以って居る事。それを使って世に平和をもたらすよう『神様』らしき存在から頼まれたこと。それだけでなく、自分達の信念に基づいても世界を平和にするよう活動して居る事。その為に自由騎士になろうとしている事。

 そして一番の肝として、今、仲間が王都で敵の呪いを受けて苦しんでいる事も。


 所々サラが付いて行けないところは、玄衛門さんが後で説明してくれる事になった。完全には分かっていない様子だったが、それでもサラはとても感心、いや感激して僕に抱きついてくる。


「凄いや! やっぱりフィアルはとても偉い人だったんだね。きっと、武神様の遣わした天使様なんだよ」


「う、う~~ん……武神、て感じはしなかったけどなぁ……」


 あの『神様』はそんな厳しい存在じゃなく、もっと穏やかだった気もするが……。


「あ、あれ~~? サラ、俺も同じ境遇なんだけど……?」


 勇が少し寂しそうに自己アピールしているがそれはさて置き、玄衛門さんの協力は得られるか?

 いやそもそも、僕らが期待していた『どこでも行ける扉』的な物はあるのか?


 玄衛門さんは目をチカチカと瞬かせると、おもむろにお腹部分を開いてディスプレイを顕にする。



『ご希望の移動先の座標を入力して下さい。方角、現地点からの相対距離も入力されると算出が早くなります』



 事務的な口調の機械音声が流れた。ユーザーフレンドリーっつーか、まんま現代日本のATMとか一緒だな。


「ど、どこでもド○的な道具があるの!?」


「え、あるっスよ。『ここでは無い何処かへ……ドア』が」


 また微妙なネーミングだな。



「開発された当時は、辛い仕事に耐えかねたサラリーマンが有給も取れない中、月1の少ない休みに旅行に行ける現実逃避グッズとして人気を博したっス。行き先は猫島とか狐村とかが多かったスね」



 宮○県田○島と、同県白○市の村か。辛い現実から逃げるには最適かもな、アニマルセラピーも期待できるし……ってんな事はどうでもいいんだ!

 隣の勇も多いに困った様子で頬をひくつかせている。



「ざ、座標か……。いや必要なのは分かるけど、この世界の緯度経度なんて分かんねぇし……。翔、お前はどうだ?」


「ちょ、ちょっと待ってね。多分スーツのログにあると思うから……」


「USB端子があれば手入力しなくても転送できるっすよ」



 そう言って玄衛門さんはUSBケーブルを取り出すが、異星人の戦闘スーツにUSB端子なんか無いよ!?


 仕方無いので、スーツのログを検索していたがこれが思った以上に面倒臭い。どこに座標データとか載ってるのか正直分からん。なので、ここは一つAIさんに頼む事にした。


「あ、朱美さ~~ん? すいませんが王都までの座標を表示してくれませんか~~……」


 大分前から放っておいたので、ご機嫌を取るよう猫撫で声で頼んでみる。すると即座に一通のメールがスーツに届いた。


 開封。題名『まずはその少年から離れなさい。話はそれからだ』


 そっと横を見れば、サラが不思議そうな顔でこっちを見返してくる。何を勘違いしたのか、ちょっと顔を赤らめてもじもじすると、目を閉じ始め……


「あ、ごめんサラ。ちょっと離れてくれる?」


「え……あ、うん」


 手元の操作の邪魔になったかと思ってくれたのか、存外素直にサラは体を離してくれた。隣で見ていた勇が、生暖かい目で僕を見てくるのが微妙に腹立たしい。


 サラが退いてくれた直後、もう一通メールが来る。



 題名『座標は添付ファイルにまとめてます。偶には、私も呼んで下さい……』



 後は添付ファイルだけで、文章すら無かった。朱美さんの性格的に病みが深くなってそうだったが、寂しさが勝ったのか意外に落ち着いた文章だった。



 なら……今回活躍させてもいいかもな。



 僕は添付ファフィルを開くと、村からの座標、相対距離、方角などを玄衛門さんに入力していく。



『座標入力完了しました。新しい座標ポイントのインストールと機器の調整が終了する、までしばらくお待ち下さい』



 玄衛門さんの機械音声が鳴り響き、ディスプレイに進行状況を表すバーが現れる。あと数分かかりそうだ。


「よし、じゃあ僕と勇は一度王都に行ってくる。朝までには帰るから、しばらく玄衛門さんを貸しててくれ」


「いいけど……交換条件が必要かなぁ」


 サラなら無条件で貸し出してくれそうだったが、頭を下げた先のサラさんは、妙に含みのある笑顔をして僕を見下ろしていた。


「何だい? 僕に出来ることなら何でもするよ」


「ふうん、何でもかぁ。……じゃあねぇ……」


 サラはすっと体を下げて僕と目線を合わせると、妖艶に微笑んだ。



「僕も、フィアル達のヒーロー活動に混ぜて欲しいなぁ?」



「あ、ああ、そうなのか。でもいいのかい? 決して楽な活動じゃないよ?」


「ううん、フィアルと一緒なら辛い事なんて無いよ!!」


 一転して晴れやかに笑うサラに、不覚にも感動してしまう。ええ友達を持った……僕の心中から感激があふれ出し、少量の涙となって目から零れ落ちる。



「ありがとう……。サラの心意気、確かに頂いた。これから、僕らは共に戦う仲間だ!!」


「うんっ!」



 がっしりと抱き合い、男泣きに泣く僕。


 ……その横のサラは怪しげな目線を玄衛門と交わし、話を聞いていた勇は「ヒーローって単語、どっかで言ってたっけ……?」と訝しげな表情で首を捻っていた。



 親友の熱い想いに囚われていた僕は、遂にその事に気付かなかった。



 ◆◆◆◆



 王都の防壁から出て少し離れた場所に、王都の下層民用の共同墓地がある。


 死霊術のあるこの世界では貴人や富豪の遺体は専用の墓地が用意され、主に聖職者による厳重な警備が成されている。しかし下層民用の墓地はその限りで無く、偶に下級聖職者が様子を見に来る程度であり、死霊術師達に墓をあばかれ遺体を辱められる事はままある事ではあった。



 その夜、人気の無い墓守すら踏み入らないような共同墓地の奥に、不気味な影が幾条か蠢いていた。



 月は雲に隠されて地上に届かず、深い闇を払うのは一本の弱々しい松明だけだ。



「……なんでダークエルフは暗視を持ってないブヒ」


「全くじゃ。こいつのせいで目立ってしょうがないわい」


「うるさいわね!? ちょっと夜目が効いたり、種族的に暗視持ってたり、高位死霊体で闇を見通せたりするからって偉っそうに!! 」


「……わ、私は何も言って無いじゃないか……」



 ボーグダインとデイボーの不満に一人松明を持っているカーラが怒りを顕にし、とばっちりを喰らったハセウムは気弱そうに体を震わせる。


 悪党四人組はギスギスした空気を隠そうともせずにくっちゃべりながら、墓地の奥へと足を動かしていた。

 戦闘を進むカーラは苛立たしげに前を向いて進みながら、ハセウムに話しかける。



「スケルトンとゾンビの作成についてもう一度確認するけど、本当に奥の墓を使った方がいいのね?」


「うむ。奥の墓地は魔獣の討伐などで死んだ兵士の遺体が多い。最近はそういう死体は少ないからな。魔獣との戦いで無念や後悔を残して死んだ遺体は割と強力なスケルトンになり易い」


「しかし遺体の損傷が激しい場合も多いじゃろう?」



 薀蓄を垂れるハセウムにデイボーが横槍を入れる。その背後にはまた木製と思しきゴーレムが追従しているが、金属板と鋲で補強されており丈夫に見える。


 デイボーの懸念を、ハセウムは得意げに指を振って否定する。



「ふふんっ、私の死霊術には損傷した遺体を復元する術もある。死体の操作ならば死霊術師は万能と言ってもいい力を持つのだよ」


「骨一本失くして大騒動していた奴とは思えんブヒ」



 高くなっていたハセウムの鼻をボーグダインがぽっきりと折ってしまう。


「だ、だっていつもは他人の死体に掛けていたから、自分の体に施せるとは思わなかったし……。デ、デイボーが言ってた程には狼狽えてなかったし……」


 ハセウムは体から出る瘴気をざわめかせ、しどろもどろに言い訳する。カーラは緊張感の無い同僚達に頭痛を感じながら、痩せた木々の間を抜けていく。


 すると区画を区切る墓地の壁と、その奥に通じる古びた金属柵の扉を前方に発見した。



「あったわよ。私達はここで待ってるから、手早くスケルトンを作ってきなさい」


「む、分かった」



 カーラの指示に従い、ハセウムは速度を上げてカーラを追い抜き、墓地の奥へ入っていく。


 それを見送ったカーラは次に空を見上げ、月の位置が確認出来ないと今度は胸元から時計を取り出して時刻を確認する。


「最初から時計を見れば良かろうに」


「癖よ。森に居た頃は時計なんて無かったから」


「元々森に住んでたブヒか。それが何でまた王都で暗殺者なんてやってるブヒ?」


 ボーグダインが何の気なしに聞いてみると、カーラはこいつにはデリカシーなんて無いのか? と言わんばかりの強い視線でボーグダインを睨みつける。

 だがボーグダインは悠然とその視線を受け止め、見つめ返す。そんな物はお前に必要無いとばかりに。


 いつか焼き豚にしてやる、と心中で決意するカーラだったが手持ち無沙汰なのも確かであり、ちゃちゃっと身の上話をしてやる事にした。



「とある森の呪術師の家系に生まれたんだけど、これが掟だ戒律だの五月蝿い家だったわ。そんな家が嫌で金になりそうな物を色々奪って森を飛び出したの。呪術師というか、どっかのダークエルフの王国に使えていた暗殺者の家系だったって知ったのは、家を飛び出して五つ目の町の情報屋に会った時だったわ」


「あの大量にあった呪具の類はお前さんの実家のものか。ハセウムどんは喜んどったが、ワシは近くに居るだけで気分が悪くなったわい」


「てかあんなの売れんブヒ。こいつの鑑定眼、だいぶ酷いブヒ」


「うっさいわ!!」



 事実、どこに持ち込んでも売れずに半べそかいた経験をカーラは思い出してしまう。その黒歴史を払拭する為に大声を張り上げると、溜息を吐いて話を終わらせにかかる。


「呪具は売れなかったけど、実家で受けた訓練のお陰で暗殺者や斥候として働くことは出来たわ。で、金回りのいいスポンサーを選んでいたら、偶々王都まで来たってわけ」


「なんとまあ行き当たりばったりな生活じゃな。お前さん、何の為に生きとるんじゃ」


 呆れたようなデイボーの物言いに対し、カーラは軽く顎を上げて彼を見下す。



「決まってるわ、お金よお金。それに宝石。貴金属をふんだんに使った装飾品なんかもいいわね。そういう美しい物を沢山集めて、いつか豪邸で優雅に暮らすことが私の目標よ」



「安っぽいブヒ。光り物の収集が目的とか、そこらのカラスと大して変わらんブヒ」


「言ってやるな。ワシのようにゴーレムマスターとして大成しよう、なんて高尚な目標を持てる者の方が少ないんじゃから」



「女子のパンチラに血道を奉げるオークと、弱っちい木造ゴーレムの為に借金する無計画ドワーフは黙らっしゃい!!」



「お、なんだブヒ!? やるってのかブヒ!!」


「おま、お前……ワシの木人君を馬鹿にするか!?」


 一触即発の空気が流れるが、時間経過と共に段々アホらしさが増し、どちらからとも無く視線を外す。

 カーラはもう一度時間を確認してハセウムの消えた墓地の方に視線を向ける。

 そして顔は合わせずに残り二人に念を押す。



「とにかく、ハセウムがスケルトンを作ったらすぐに王都内へ戻るわよ。今日の作戦は、スポンサーのライバル商店を潰す事が本番なんだからね」


「まさかワシらのやり口をそのまんまパクられるとは思わんかったわい」


「そんで汚名は俺様達だけに負わせるつもりブヒ。この前の件もあるから、スポンサーに嫌疑はかからんブヒ」



 ボーグダインとデイボーが苦々しげに顔を歪めるた事で、漸くカーラの溜飲が下がったようだ。カーラは酷薄な笑みを浮かべて、二人を見下す。


「それは貴方達も了承済みでしょう? 代わりに借金帳消しと命を助けてあげるんだから、むしろ感謝してもいいのよ?」


「くっそ、ハセウムの呪いが効けばお前なんぞ……」


「呪術も使えてすばしっこいから、対処に困る奴ブヒ。お前、碌な死に方しないブヒよ」


 遠吠えしまくる負け犬達に、カーラはサディスティックに微笑みを返していた。


 話の終わりに合わせたように、墓地の奥から何十体もの軽い足音が聞こえてくる。

 カーラ達が墓地の奥を見ると、スケルトンの群れを連れたハセウムが意気揚々と戻ってきていた。



「うほっほっほ。中々いい具合の死体や死霊がわんさか居たわい。淀んだ空気もいい感じだし、仕事が終わったらここに拠点を構えんか?」



 なんだかツヤツヤした骸骨面でハセウムはデイボーとボーグダインに提案する。対する二人は、強烈な不機嫌顔でこう言った。




「絶対嫌じゃ!!」「絶対嫌ブヒ!!」



「っ!? そ、そうか。確かに交通の便も悪いしな……」



 同志二人からの拒否反応にハセウムは驚きに身を震わせ、折角上がった意気を消沈させて項垂れる。

 そんな主をスケルトン達が痛ましげに見つめていた。目が無いけど。


 三人の珍劇場は放っておき、カーラは踵を返して歩き出す。



「急ぐわよ。少し時間を使い過ぎたから、早くしないと夜明けになってしまうわ。付いてらっしゃい」



 それに合わせて皆が動き出そうとした時、今まで来た方向から獣の唸り声のような音が聞こえてきた。


 警戒して身構える四人。唸り声はどんどん大きくなっていき、そして鋭い眼光のような光が一つ現れる。


 不浄の闇を切り裂く聖剣のように、一条の光は邪悪な四人組を照らし出す。それに目を晦まされ、カーラ達は片腕で光を遮る。



 唸り声が最高潮に達した時、突如光が薄れる。カーラ達の前方には、真紅のバイクを横向きにし、真っ赤な兜とスーツに身を固めた少年らしき者が居た。



「き、貴様は……!?」



 驚くカーラの眼前で真紅の少年はバイクから降りると、背筋を伸ばして人差し指を突きつけた。



「『次元戦士・ディメンジョンマン』参上!! 死者を弄ぶお前達の悪事、止めさせて貰おう!!」



 真紅の少年『ディメンジョンマン』は高らかに宣言した。



 ◆◆◆◆◆



 ま、間に合った。以前ボーグダインに襲われた時に、下町に仕掛けたセンサーを外し忘れてて良かった。勇の式神は警戒されていたのか見つからなかったけど、このセンサーには気付かなかったのか、こっそり移動するのこいつらを発見することが出来た。


 後は乱の魔法と勇の術、玄衛門さんの集音マイクなんかを組み合わせて、悪事をくっちゃべってるこいつらの企みを暴くことが出来た。


 え、他の面子はどうしたのかって? それは……。



「なんと!? 貴様はあの時の赤い魔人!」


「ええい忌々しい! また我らの邪魔をするか!!」


「お前が居るって事は……る、ルナたんはどこブヒィ!?」



 説明する前に、奥の方に居るドワーフと骸骨とオークがぎゃーすか騒ぎ出す。


 こいつらの姿を確認した時は驚きの余りズッコケかけたなぁ。まさかライコット村に現れた死霊術師とゴーレム使いのドワーフがこんな所に居たとは思わなかったもん。


 だがボーグダインがいい質問をしてくれた。そう、今回は僕だけじゃ無いんだなぁ。



 不意に月明かりが墓地を照らし出す。夜空には未だ雲が厚く漂い月を隠しているが、まるでその雲に映し出されたように、もう一つの月が出現していた。


「「なにっ!?」」


「キターーーーーーーーッ!!」


 カーラとハセウムが動揺したように顔を上げ、ボーグダインが気持ちの悪い嬌声を上げながら魔法の写真器を取り出す。


 雲に映った月から一条の光がカーラ達の右横の開けた場所に投射される。その光が消えた時、そこには一人の少女が立っていた。


 青い髪をツインテールにし、大きな宝石が付いた杖を手に持つ、ミニスカートの少女。



「……正義の月光は、深く隠された罪をも照らす……。月明かりの魔法使い『マジカル★ルナティクス』……見参!」



 人差し指と小指だけを立てた手を横向きに目の前にかざし、その間から悪党を見据えるポーズを決めるルナティクス。いいね、ノッてるね!



「馬鹿な……呪具で強化された私の呪いをたった一日で解除しただと……。ありえん! 上級聖職者でも手こずる筈だ! 教会の動向は監視していたが、誰も解呪に来た様子は無かったぞ!?」



「そうさ。だから俺が解除してやったんだよ」



 一斉に後ろを振り向くハセウム達。ルナティクスとは逆方向から聞こえてきた声の主は、一本だけ生えていた木の陰から姿を現す。


 複雑な紋様が浮かんでは消える長く細い布。異世界の高僧が纏っていた衣を元に、霊力を極限まで上げれるようにした神聖装備。


 微かに後光すら滲ませて、もう一人のヒーローは両手を広げた。



「『幽・撃・隊ゴーストバスターズ』……いや、『ヒーローギルド』の副ギルド長、『阿修羅アスラ』だ。今宵のお前らの罪過と業、俺が祓ってくれよう……」



 厨二くせえええっ!? いや、元の所属を名乗らずにヒーローギルドの所属って言い直してくれたのは、仲間意識的も高まって嬉しいけどさ……。なんだろう、ちょっと恥ずかしい。


 しかも勇だけ僕らみたいな二つ名が無いから、変身形態の『阿修羅モード』から取って『アスラ』とか名乗ってるし。よくさっと思い付いたな。



「ぬううううう!? こ、この法力は……。『アスラ』…い、一体何者だ!?」



 勇の出現にいの一に反応したのがハセウムだった。勇の後光に気圧されるように、体から立ち上る瘴気が揺らめいている。

 戦慄するハセウムの様子に、カーラが警戒しつつ問いかける。



「おい、こいつの法力はそんなに強いのか!?」


「王都の高位聖職者でもここまでの法力を持った奴はおらん! 聖王国の法王に匹敵するかも知れん……」


「…! ええいっ恐れる事は無い。敵はたった三人だ、まずスケルトン軍団を当てて弱らせろ!!」



 カーラの激に、ハセウムははっと我を取り戻して後ろを見る。



「そ、そうだ……いけっ! 私のスケルトン達よ、あの邪魔な奴らを叩きのめせ!」



 カタカタと音を響かせながら、墓地の奥に控えていたスケルトン達が一斉に前進を始める。以前見たスケルトンに比べて格段に素早く、かつ古びているが武装もしていた。



「はっはっはーー!! 戦死した元兵士達のスケルトンだ。遺品の武具も装備させたから、ちょっとやそっとでは倒せんぞーー!!」



 ハセウムは実に楽しそうにスケルトン達の動きを見ている。確かに自然と隊伍を組んで三つに分かれ、一斉に僕らに襲い掛かってくる。




 舐められたものだ。




「ハッ!」


 僕は一息にスケルトン集団の中央に踏み込むと、真ん中のスケルトンの腰骨を粉砕しつつ更に奥へと突き進む。


 その突破力は想定外だったのか、整っていたスケルトン達の動きにズレが生じる。動きの乱れた集団の間を掻い潜り、打ち、払い、蹴り上げ、跳躍して逃れてはまた突っ込む。


 それらをスケルトン達の反応速度を上回る速さでこなしていく。縦横無尽に動き回る僕に翻弄され、スケルトンの集団は成す術も無くやられ、時に同士討ちまでしながら数を急速に減らしていく。


 溶ける様に数を減らすスケルトン達を見て、ハセウムは頭を抱える。



「ああぁぁぁ……。そ、そうだ! ルナティクスに向かったスケルトンから増援を……」



「グマー!」

「グマー!」

「グマー!」



 ルナティクスの方に向かったスケルトン部隊も半壊していた。ファンシーな格好をした大きな熊のぬいぐるみが三体、グリズリーよりもちょっと弱い位の力でスケルトン達を薙ぎ倒していた。


 ルナティクスは熊三体の後ろで結界を張って引き篭もっている。とりあえず一段落着くまでは様子見の構えらしい。



「のおおおおぉぉぉ……。チラッ」



 瘴気を萎ませて震えていたハセウムは、嫌な予感を感じたように震えを止め、そっと後ろを振り返った。



 勇へ向かったスケルトン達は、既に残らず浄化されていた。見ていた限りでは、勇から一定範囲に近付くと後光の影響によるものか、勝手に浄化されて成仏するようだ。

 勇の周りには塵になった元スケルトン達の残骸が、そこかしこに散らばっていた。格闘戦も術を使う事も無かった勇は、手持ち無沙汰に頭を搔いている。



「……はぅ……」



 儚い声と共にハセウムが崩れ落ちる。自信作のスケルトン軍団があっという間に壊滅状態になった事に、精神が耐え切れなくなったのかも知れない。



 まあこれで一人厄介なのが消えたと思えば……



 ヴオンッ!!



 突如僕の愛機『レッドプラズマ』が唸りを上げて僕の横を通り過ぎる。それと同時に何かが飛び退る気配があった。


 スケルトンの集団に混じってカーラが忍び寄っていたようだ。殺気も感じさせずにそっと忍び寄る手腕に緊張感が増す。


『油断しないで翔君。まだ敵は三体もいるんだから』


「ナイスアシスト、ありがとう。気をつける」


 ヘルメットに届いた朱美さんの警告に礼を返して、最後のスケルトンを撃破する。同時にルナティクスの方もスケルトン退治を終えたようだ。


 数の形勢は一気に逆転したが、あちらさんとしてはこちらの力量を測る時間と機会を十分得れたようだ。


「ボーグダイン、ルナティクスの方の熊を相手にして。デイボーのゴーレムはアスラに。デイボーはハセウムを叩き起こしてボーグダインに加勢させて。私はこの赤い戦士を殺す」


 カーラは冷たい視線を僕に注ぎながら、他の仲間達に的確な指示を出していく。


「分かったブヒ。いくブヒよーー、ルナたん!!」


「行けぃっ『木人君八号・改』!!」


 即座に反応して動き出す二人。仲悪い癖に連携だけはいいな、こいつら!!



「グマー!」



 ボーグダインの前にルナ・ベアーの一体が立ち塞がる。ボーグダインは躊躇う事無く踏み込み、鋭く息を吐き出しながら剣を振るった。



「ふっ!!」



 ズドンッ!!



 ただの長剣が目にも止まらぬ速さで振るわれると、ルナベアーの体が上下に分断される。中からはふわふわの綿が大量に飛び出した。


「グマー!?」


「ヨクモ仲間ヲ……ッグマー!?」



 ズドンッ! ズドンッ!



 立て続けに振るわれた剣は瞬く間に残り二体の熊を屠る。そして流れるような動きでルナティクスに迫った。


「くっ……『マジカル…」


「遅いブヒ」


 ギインッ!!


 呪文を唱える前にボーグダインの剣がルナティクスの結界に衝突し、衝撃で結界が一瞬薄れかける。ルナティクスは慌てて結界の維持に集中するが、そこにボーグダインの剣が縦横から何度も振るわれる。


「ほ~~れほ~~れ。ここまで近付かれると流石にきついんじゃないブヒか? この前の台本通り、軽い格闘戦を楽しませてもらうブヒ」


「くっ…!?」


 ボーグダインは余裕綽綽の様子で剣を振るって結界を嬲る。下手に距離を離すことを意識すれば、強力な一撃で結界を破られそうだ。

 ルナティクスは杖を両手に持って構え、結界の維持に執心している。




 ドオンッ!


「よし、そのままそいつを近づけさせるな、木人君八号・改!」


「ちっ…」


 ギギギッと体を軋ませながら、意外に機敏な動作で腕を振るう木製ゴーレム。勇は危なげなく回避しているが、それも回避に専念しているからだろう。


 無闇に飛び込めば、豪腕の一撃を貰うか踏み潰されそうな状況だ。じりじりと距離が後ろに下がっていき、こちらの視界から見えなくなりそうである。



「余所見をしている暇があって?」


 小馬鹿にしたような響きが目の前から聞こえてくる。

 だがこっちはそこまで油断してはいない。僕は後ろに振り返ると、首目掛けて伸びてきた短剣の切っ先を手で弾く。

 後ろに回りこんでいたカーラの片眉が軽く跳ね上がる。



「あら? 良く幻聴と分かったわね」


「耳がいいもんでね」



 実際は動態センサーが後方に回り込むのを感知したからなんだが、それ以前に……。



「似たような事は経験済みなんだよなぁ……。確か『幻影怪人プリズムン』だったっけ」


「……何の話?」


「昔の話さ。前に居るかと思えば横、上に居るかと思えば下に居る……そんな敵とはね」


「あらまあ、小さいのに随分経験豊富なのね」


「まあね。あっちは光の幻影を使ってだったけど、音声くらいじゃ僕は騙せないよ」



 散々引っ掛かったから敵の気配が何となく分かるようになった、なんて恥ずかしい歴史は黙っておく。プリズムンとの戦いの後から、下っ端戦闘員との戦いも気配の先読みで楽になったから結果オーライだ。



 カーラは慎重に位置取りを変え、レッドプラズマと僕の間に入るように動く。

 レッドプラズマこと朱美さんは、下手に突撃出来なくなった為に、悔しげに位置を調整し直そうとしている。


「朱美さん、下がってて。こいつとは僕が戦う」


「いいのぉ? 時間が掛かれば掛かるほど、貴方達が不利よぉ?」


 カーラは短剣をゆらゆら動かし、わざとらしく殺気を放って挑発してくる。

 背中からは「おい、早く起きんかハセウムどん」「う、うう……スケルトンが……」なんて声も聞こえてくる。カーラの狙いは僕を焦らせる事だろうが、なら迷い無く攻撃すればいいだけ!


 両手の拳を握り締め、左右に体を揺らしながら滑るようにカーラに接近する。その動きを見たカーラの顔色が変わる。


 減らず口を引っ込めて素早く短剣を構えると、猛烈な勢いで攻撃してきた。


 縦方向に切り下ろされるのをサイドステップで避け、翻って斜めに切り上げられれば僅かに下がって避ける。

 フェイントで踏み込んですぐ下がると、地面スレスレをカーラの回し蹴りが空振りする。

 一瞬体勢が崩れたところに踏み込めば、崩れた姿勢から正確に僕の喉を短剣で突きに来た。


「えいっ!」


 カンッ!


 それを頭突きで払い除ける。ヘルメットはこれ位なら傷も付かない。短剣は僕の腋の下を通り抜け、一緒に付いてきた腕をしっかり掴む。


 カーラは僕の体格からすぐに振りほどけるだろうと思っていたようで、嘲るように口元を歪める。生憎、そう簡単には離してあげないけどね。



「倍力機構作動!」


 スーツの機構が作動し、プロレスラーの組み付きと同程度の力でカーラを引き倒す。



「ぐっ!?」



 予想以上の力と倒された衝撃で混乱したのか、カーラは目を白黒させてこっちを睨む。

 その間にナイフを奪い取る事に成功した。



「よし、無力化成功。しばらく眠っててね」


「あらぁ、夜はまだこれからよ? もっと楽しみましょう……『麻痺呪刻パラライズ・カース』!」



 カーラの目が怪しく光ったかと思うと、僕の周りを邪な気が包み込んだ。カーラの顔が嘲笑の形を取りかけ、



 バチッ



 途中で固まる。カーラの呪詛は一瞬にして無力化された。


「えっ……」


「一度呪いを掛けられたのに、何の対策もしない筈ないでしょ」


 僕の腰元から、一枚の焼けたお札が地面に舞い落ちた。こんな事もあろうかと、対呪い用の札を勇に作ってもらっていたのだ。


 僕はカーラの腕関節を極めると、開いてる方の手で奪い取った短剣を持ち直す。


 そして、未だルナティクスに夢中のボーグダインに向けた。



「『次元念動・発射ディメンジョン・テレキネシス・シュート』!」



 剛速球で打ち出された短剣は真っ直ぐにボーグダインに向かう。



「ブヒブヒ……むぅっ!?」


 キンッ!



 悦に入った笑いでルナティクスを攻撃していたボーグダインだったが、後ろから飛来する短剣に気付くと体を回し、長剣で短剣を弾き落とす。


 その隙をルナティクスは見逃さなかった。



「『マジカル・スターシュート』!」



 ドンッ!



「ブヒィッ!?」



 ルナティクスの杖の先端から五芒星型の岩の塊が幾つも発射され、ボーグダインを弾き飛ばす。ボーグダインがそれをかわして近寄ろうとしても、岩の塊はホーミングしてボーグダインを追いかけてくる。


 長剣で岩を切り払いながら、ボーグダインはデイボーとハセウムの元まで下がった。


「おい、何とかしてくれブヒ!」


「お前さんが遊んどるからじゃろう! ハセウムどん、頼んだ!」


「わ、分かった。……くらえ、『死呪刻フェイタル・カース』……!」





「渇っ!」



 ハセウムの瘴気が膨張し、強力な死の呪いが発動しようとした時、上空から魔を打ち払う聖音が響いた。


 黄金色に輝く法力の矢がハセウムに降り注ぐと、ハセウムは雷に打たれたように激しく痙攣する。



「あばばばばっばばばばばば!!?」


「ああ! ハセウムどん!?」


「お前なにしてくれんだゴラァ!? ルナたんに死の呪いかけるとかどういう了見ブヒィ!!」



 この期に及んで一部仲違いをし出す三人。僕が顔を上に向けると、そこには宙に浮く勇の姿があった。



「ふーー。間に合ったな。これでその骸骨はしばらく動けないはずだ」


「お疲れ。あのゴーレムはどうしたの?」



 勇が無言で先ほどゴーレムと一緒に姿を消した方を指差す。



 ズシン……ズシン……。



 勇の指差した方向から、木製ゴーレムと同じ位の大きさの鬼が現れた。ガチムチな体格のその鬼は、木人君八号・改をアルゼンチンバックブリーガーしながら悠々とこっちに歩いてくる。



「ああっ!? 木人君八号・改があああ!?」



「目には目を、デカブツにはデカブツを。なあに、俺にかかればゴーレムの腕を掻い潜りながら式鬼を召喚するくらい、朝飯前さ」


 勇が胸を張ると同時に、式鬼もニカッと笑いながら胸を張る。その動作で木人君の体が締め上げられ、ミシミシと異音を発する。


 よし、そろそろ降伏勧告を……



「ぐぬうううう、こうなっては仕方無い。さらばじゃ、木人君八号・改!!」



 デイボーが不穏な台詞と共に、懐から懐中時計のようなものを取り出した。そして躊躇う事無く中央にあった宝石を強く押すと、僕の方を向いて高らかに宣言した。



「おいっ、お前さんなら分かるじゃろ! 木人君シリーズには全部、自爆装置が積んである。それを起動させた!!」


「おまっ!? 形振り構わなさ過ぎだろ!?」


「五月蝿い! そんな卑怯臭い強さのお前らに言われたかないわい! 早くどうにかせんと墓地一帯吹き飛ぶぞ!」



 デイボーはハセウムを抱えると墓地の奥へ向かって駆け出した。それに遅れてボーグダインも慌てて駆け出す。


「…シッ!」


「うわっと!?」


 今まで大人しかったカーラが突然動き出す。彼女は凄まじい体の柔軟性を以って、地に押さえつけられた状態から僕の頭に蹴りを放った。


 そして拘束が一瞬緩んだ隙に、蛇のようにするりと腕から抜けると、デイボー達と同じ様に墓地の奥へ駆け出す。


「待てっ!」


 間髪入れず追いかけ始めるが、カーラは後ろでに小さな小瓶を僕に投げつける。



 パリンッ……VOOOOOHHHH!!



「うわっ!?」


 小瓶が空中で割れると、そこから黒い煙のようなものが噴き出して僕に襲い掛かってくる。


 腕を振るうが手応えが無い。良く見ると黒い煙には憎悪に歪む人の顔が……。



「悪霊退散! 怨念調伏!」



 急降下してきた勇が僕の体に纏わり付く煙を取り払ってくれる。悪霊だったのか、これ。

 勇のおかげで何とか霊は排除した。後を追おうと墓地の奥を見ると……



「ちょ、ちょっと! これどうすればいいの!?」



 慌てた様子のルナティクスが、それ以上に慌てた様子の式鬼を指差しながら聞いてきた。式鬼は涙目で、でもゴーレムを下ろす事も出来ずに右往左往している。ゴーレムからはシュウウウ……と導火線が燃えるような音が響き始めた。




「……くっそーーー! 貸して!! 空の彼方まで放り投げてやる!!」




 その夜、王都の共同墓地の上空に綺麗な火の玉が出現した。



 無論、大事件になった。



 ◆◆◆◆◆ ◆



 ライコット村、サラの家の納屋。


 夜も明け始めた頃、疲れ切った様子でそこかしこに転がるヒーロー達が居た。まあ、僕らのことです。


「お疲れ様っス。あ、お茶は如何っスか?」


「あ、ありがとう……一杯貰おうかな……」


 玄衛門さんが気を利かせてお茶の用意をしてくれる。横に座るサラは眠い目を擦りながら、ちょっと不満そうに文句を言ってくる。



「フィアル……折角仲間に入れてくれたのに、なんで僕だけ仲間外れにしたの?」


「ごめん。でもサラにはまだ危険だったと判断したから、敢えて戦いに参加させなかったんだ。情けない話、サラを守りながら、あいつらと戦える自信が無かったんだ」


「まあまあ、サラ坊ちゃん。何事も焦っちゃ駄目ですよ。それに危険度で考えれば、フィアルの旦那の言う事は正論だと思いやす。今回の事で皆さんの強さも分かりやしたし……次はアッシも協力しやすんで」



 何か含みのある言い方を玄衛門さんはしていたが、疲れていた僕らは気付かなかった。


 そんな中、変身を解いてダウナーモードに入った乱が億劫そうに身を起こして聞いて来る。



「そう言えば、あのカーラとか言うダークエルフに、発信機は取り付けれたの?」


「……あー、一応ね。でもまだ本拠地まで移動中みたいで、王都の地下水路とかを経由してしばらく休んでは移動する、ってのを繰り返してる。尾行対策だろうね。カーラの持ってた短剣も一応回収してきたけど……」



 僕は次元の狭間に保管していた短剣を取り出して検める。


 しげしげと見ていると、短剣の柄に『帽子のような花弁を持つ花』が刻印されている事に気付いた。




「これ、どこかで見たような……?」




 実家で過ごす夏休みも終わりに差し掛かった頃、僕らは王都の闇の一部に触りかけていた。



夏休み編終了まで行きませんでした。

次回冒頭で王都に帰り、そこからカーラ達のスポンサーの、本格的な捜査を始める話になる予定です。つまり次回はシティアドベンチャー! あまり期待せずにお待ち下さい。お読み下さり、ありがとうございましたm(_ _)m


2015/9/26

悪党四人組の会話の中で、ボーグダインの台詞を一部改変。


「安っぽいブヒ~」の後に、『光り物の収集が目的とか』の一文を追加。

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