第19.5話 短編! 月夜のヒーローショー
本編を書く時間と本編のネタが無かったので、急遽短編を投降します。今月は……これでご勘弁を……orz
王都『デュスターヴ』から十kmは離れた草原。程よく高い丘に囲まれた盆地の真ん中に、二人の影があった。
片方は僕、的場 翔改めフィアル・ノースポール。
眼前に佇むは月輪 乱改め『マジカル★ルナティクス』……。
「そうだ、聞き忘れてたんだけど」
「ん、何? 何でも聞いてちょーだい♪」
唐突な僕の質問に、ルナティクスは準備運動を中断してこっちを向き、ウィンクしながらポーズを決める。テンション挙げ挙げで無いと変身が解けるとは言え、普段の性格とのギャップにこっちが精神の均衡を崩しそうだ。
「乱のこっちの世界での名前聞き忘れてたからさ、何て名前か教えて欲しいんだ」
「あ、そー言えば教えて無かったね。私のこの世界の名前は『ティン・ロッド・カースラン』よ。あ、一応男爵家…貴族の出だから、公式の場では言葉に気を付けてね」
「「貴族!?」」
僕と同時に勇の声も響く。横に浮かんでいる映像には、勇の間抜けな顔がどアップに映し出されている。
「そうよー、ロッド男爵家の末っ子。家督は継げる可能性ほぼゼロだから、今魔術師ギルドで将来食べていく為の修行中……あ、やば。鬱になりそう」
「大丈夫大丈夫!! 乱は十分やっていけるって! 気にする事なんか無いって! もし実家で陰湿ないじめとかされてるなら、僕らがあの手この手で止めさせてやるから!」
「あ、いやいじめとかは全く無くて、皆良くしてくれるんだけど……。そこまで懐事情が良くないのに、義理の息子の私に良くしてくれるのが有難すぎて、ね」
ああ良かった。貴族の陰湿ないじめを受けてるヒーローは居なかったんだね。ほっと胸を撫で下ろしている僕に対して、勇は何となく釈然としない様子で唇を尖らせている。
「どしたん?」
「いや、『神様』のヤローが露骨に義実家のランクに差を付けやがるからよ~~……。あれか? 生前の境遇の悲惨さに比例してこっちの世界での扱い良くなるのか?」
「もし本当にそうなら、評価基準が気になるね。でも、皆いい人に育てて貰ったと思うよ? その点では差は無いと思うね」
「わーってるよ。うちの親父さんとお袋さんに文句は無いさ」
勇の仏頂面はあっという間に消え去り、椅子の背もたれに身を預けて寛いだ姿勢になる。完全に観戦モードに成ったようだ。
「じゃ、そろそろ始めますか。模擬戦を」
ルナティクスの呼びかけに応じて僕は一つ頷くと、右手の甲に意識を集中させ始めた。
◆
事の起こりは数日前のヒーロー定例会議で交わされた雑談だった。勇が僕の村に引っ越してきた時の話題が持ち上がり、その時の出会いと林の中での変身シーンの見せ合い、……その後の忘れてしまいたい、互いの一撃を以て得た苦い教訓などの話で盛り上がった。
その話を聞き終わった後に、乱が挙手して意見を出したのだ。
「僕も二人の実力が知りたいな。……勇は今難しいとして、翔のヒーロースーツの性能とか、身体能力とかは知っておきたい。これから近い内に共闘する可能性が、一番高いのは翔だからね」
言われてみれば至極尤もな話である。勇とは組手を含めて何度かその実力を互いに知る機会があったし、スーツ戦闘記録映像を勇に見せたりした事もある。
だけど『マジカル★ルナティクス』に関しては、オーク戦士のボーグダインとの一戦以外は噂程度しか知らなかったから、こっちとしても共闘相手の実力が分かるのは願ったり叶ったりである。
こうして、変身スーツ系ヒーロー『的場 翔』とTS魔法少女系ヒーロー『月輪 乱』の対戦が決まった。
◆◆
「TSって言うな……!」
「うおっ!? どうしたんだ乱? 急に声を荒げたりして……」
ルナティクス状態のキャピキャピ状態だった乱は突然柳眉を逆立てて殺気の籠った鋭い声を発する。僕の驚いた様子に、乱ははっと我に返ると、舌を軽く出して自分の頭をコツンと叩く。
「ごめんねー。何だか嫌な単語が聞こえた気がして、ついキレちゃった☆」
テヘッと笑うルナティクスの顔は、あからさまな可愛さとは裏腹に、眼が光を吸い込んでいるように仄暗かった。
……今度から、脳内で回想している時も言葉には気を付けよう。年季の入ったヒーローの勘は侮れない。
程よくルナティクスのヤル気に火が付いたところで、僕も変身する事にする。余り時間をかけると、何かの間違いで同室のアンドレイさんが起きるかも知れないしな。
あ、ちなみにここまでの移動はルナティクスの転移魔法で飛んできました。魔法ってやっぱスゲー。
「『開け、次元の門!!』」
カッ!!
閃光と共に僕の体を真紅のスーツが一瞬で覆う。久しぶりのスーツの感触を確かめるように拳を握ったり開いたりして、はたと気づく。
「やべっ!? 変身時のフラッシュ機能ONにしたままだった!! 誰かに見られて無いかな……」
「問題無いわよー。この辺は魔物とか盗賊とかが近くに居ない場所だからねー。……むしろ、変身シーンの演出機能が最初から付属してあることがびっくりよ」
ルナティクスは驚き半分呆れ半分といった様子で溜息を吐き出す。しかし、すぐに表情を引き締めると、杖をこちらに向けて呪文の詠唱を始める。
「先手は頂くわよー! ………『マジカル・スターシュート』!!」
魔法名の宣言の後、ルナティクスの杖の先端からキラキラ光る五芒星型の岩の塊が三つ飛んでくる。
…岩の塊?
ドゴッ!
「ぶべらっ!?」
魔法らしからぬ現象を前にして一瞬気を取られたため、一発頭に被弾していしまう。星型の岩塊はヘルメットに当たって砕け散る。衝撃はあったが、痛みは無い。
『衝撃緩和装置、正常作動。損害%・0コンマ以下。戦闘に支障はありません』
ダメージレポートが上がって来るが、被害は微々たるものだと報告してくる。しかし、あの速度であの硬さのものが当たったら、鎧とか着ていない相手は大怪我するぞ。
「ちょっと大丈夫? これくらい避けれると思ったんだけど……?」
「ごめん、魔法にしては余りにも、その物理的だったから」
ルナティクスが少し不満そうにこちらを見てくるので、慌てて釈明する。だがより一層ルナティクスは機嫌は悪化したようだった。
「もー、ダメだよそんな心構えじゃ! 相手が予想通りの行動をしてくる事なんてまず無いんだから。ちゃんと集中しなさい!」
プンプンという表現が似合いそうな怒り方だったが、言ってる事は至極真っ当だ。僕の腑抜けのせいで彼に迷惑をかけるわけにはいかない。
ドンッ!
僕は一度だけ強く自分の胸を叩くと。ルナティクスに対して構えを取る。
「ごめん、気が抜けていた。これからは油断しない」
僕の覚悟が分かったのか、ルナティクスの表情が和らぐ。だけど手加減はしないようだった。
「じゃあ、どんどん行くわよー。………『マジカル・ファイアーブラスト』!!」
魔力のうねりがルナティクスの杖から迸り、その姿を炎に変えて襲いかかって来る。
「なんのっ!」
杖から放射状に広がる炎に対して、僕は足に力を込めて横に跳ぶ。土が抉れるほどの踏み込みによる跳躍は、炎の到達前にその範囲外にまで僕を逃れさせる。
「てか容赦無いな!? 岩の塊だの火炎放射だの、普通だったら大怪我するぞ!」
「貴方の戦闘映像は見たけど、もっとえげつない攻撃受けても無事だったじゃない。むしろそっちが気を付けてね。私の防御力はそんなに高く無いんだから」
殺傷力の高い攻撃に抗議してみるが、ルナティクスは平然と僕の意見を否定し、逆に釘を刺してくる。そして炎の放射を止めると、次の魔法の詠唱に入った。
「……『マジカル・サモン・ルナベアー』!!」
魔法の発動に伴い、ルナティクスの前の地面に六芒星の魔法陣が出現し、そこから大きな熊が出現する。
まんま生物の熊、では無くてデフォルメされたぬいぐるみの様な姿をした熊だ。某巨大掲示板で釣り針に引っかかってそうな感じの外見である。
「グマー!」
野太い声で叫びながら両腕を振り上げて威嚇してくる熊。見た目はコミカルで、妙にもこもこしているせいであんまり強そうに見えない。
「そうそう、この熊はグリズリーより少し弱いくらいの強さだから、気を付けてね」
人間の勝てる個体じゃねぇ!?
いやこの世界なら勝てる人居るかも知れないけど(ルリィ先生とか)、本気で殺しに掛かって来てないか、乱の奴!?
「グマー!!」
そうこうしてる内に熊が猛スピードで突進してきた! 自動車並みの速度で突っ込んで来るので回避するのが間に合わない。僕は敢えて前に踊り出ると、速度が乗る前に熊を押さえる事にした。
「ふんっ!!」
ガシッ ドカッ!
熊の頭を掴み、ついでに頭突きを鼻っ柱にかましてやる。
「ぐ、グマッ!?」
熊は一瞬怯んだ様子だったが、即座に立ち上がると、前足を振り上げて勢い良くスイングさせる。
「まずい!?」
ドゴォッ!
突進を受け止めた衝撃で体制が崩れていたところに、素早い一撃を貰って僕は吹き飛ぶ。
地面を二、三回バウンドしたところで体を捻って着地し、立ち上がる。
『衝撃緩和装置、正常作動。損害%・0コンマ以下。戦闘に支障はありませんが、連続での被弾はシステムエラーを招く恐れがあります』
ダメージレポートが少々深刻さを増した報告をしてくる。これはさっさと熊を撃退しないとまずいか…。
そう思ってたが、熊の後方に居るルナティクスの様子を見て、冷や汗が頬を伝うのを感じた。
この後に及んで、ルナティクスは追撃の魔法を詠唱中だった。ルナティクスの体に渦巻く魔力量は今までよりも一段階は上のボルテージに上昇していて、そして詠唱している魔法は街中で一度見た事のある……。
「『マジカル・ムーンライト・レイ』!!」
極大まで増幅された月光、それに似た光線が僕に降り注いだ。
「うわああああああ!?」
ヒーロースーツ越しでも感じる熱量と、眼を灼きかねない強烈な光。腕を組んで頭を庇うが、その間からも光は無慈悲に侵入し、スーツを炙る。
『衝撃緩和装置、熱緩和装置、光量制限装置、正常作動。損害%………もうっ! こんな攻撃受けるなんて信じられないわ! 私の仕事を増やさないで頂戴!!』
きゃあああああ、ダメージレポートさんが狂ったーー!? どんだけきつい攻撃なの、これ!?
体が動くうちに光から逃れるよう! 炎の魔法を避けた時のように、横に大きく跳んで光の柱から出ると、意外にも光は追って来なかった。
『全く……人を心配させるんじゃ無いわよ。……無事で良かった……』
あ、ダメージレポートさんがデレた。まさか中の人がツンデレだったとは知らなかった。
そんな事に気を取られているから、熊の接近への対処が遅れた。
「グマー!!」
押し潰すように伸し掛かって来る熊。僕は躱すことも出来ず、成す術も無く地面に押し倒された。
「ぐはっ!?」
「グググ、このままド根性ヒーローにしてやるグマー」
熊皮のバックプリントにされる!? 焦ってもがくが、熊の筋力は予想以上に強く、倍力機構を使っても拮抗状態が精々だ。
……どうする……!?
苦戦している翔の姿を、ルナティクスは真剣な表情で見ていた。その横に浮かぶ勇はややげんなりした様子でルナティクスに話しかけてくる。
「やりすぎじゃね? あのままだと下手すれば死ぬぞ?」
「……勿論、殺す前に止めるわ。でも私にすら勝てないようなら彼にヒーローである資格は無い。大人しく私達に守られる立場で一生を過ごせばいい。無理に戦いに身を投じる必要な無いわ」
「優しい……って言っていいのかねぇ、その気遣いは。ああ、だけど一つ言っておくぞ」
勇の声から抑揚が無くなったのに気付いたルナティクスは、怪訝な表情で隣の勇の映像を横目に見る。勇は射抜くような視線をルナティクスに向けると、強い口調で宣言した。
「悪の組織と戦い抜いて命を捨てながらも勝利したヒーローが、お前に負けるわけないだろ」
『スーツへのダメージ許容限界を突破しました。マナーモード解除。これより戦闘モードへ移行します』
スーツのシステムメッセージが耳に届いた瞬間、マグマが噴出するように力が競り上がって来るのを感じた。
「グ、グマ?」
伸し掛かる熊の困惑した声が聞こえてくる。そらそうだろう。
自分の何分の一も小さい少年が、自分の巨体を持ち上げ始めてるんだから
『倍力機構、第一リミッターOFF。筋力補正、十倍』
「…う、おおおおおおお!!」
僕は腹の奥から声を絞り出し、力の限り熊の腕を握り締めると、熊を完全に持ち上げて宙に浮かせる。
「つ、釣られグマ…じゃなくて吊り上げられたグマー!?」
情けない悲鳴を上げて熊が目を白黒させている。僕は今までのお返しとばかりに体を回転させ始める。
「グマママママ……!?」
熊は涎をまき散らし、白目を剥いてされるがままに振り回されている。そして回転が最高潮に達した時……。
「どっせええええええ!!」
「グマーーーーー!?」
熊を丘の彼方まで投げ飛ばした。熊は木霊を残して流星の如く飛翔し、見えなくなる。
僕はその軌跡は追わず、ルナティクスに体を向ける。回転中にチラリと見えたルナティクスの表情は、滑稽なまでにポカンと口を開けて放心していたが、今現在もその顔のままだった。
それを小気味良く感じながら、左腕をルナティクスに向ける。
『次元念動!!』
淡い燐光がルナティクスの体に絡みつく。
「え、えっ!? 何これ!!」
映像では見たが、実際に体験するのは初めてのルナティクスは、混乱の余り魔法を使うのも忘れて狼狽えている。その隙を逃さず、引き寄せるように意識を集中する。
「…きゃあああああ!?」
ルナティクスは横方向にバンジージャンプしたかのように驚異的速度で引っ張られ、真の『ディメンジョンマン』と成った翔の元に突進していく。
「……セイッ!!」
「…!!」
翔の拳が突き出されるのを目にしたルナティクスはぎゅっと目を瞑り、襲い来る衝撃に耐えようとする。だが、拳の衝撃はいつまで経っても来なかった。
「……乱もまだまだだな。敵は予想通りの行動ばかりして来ない、お互いにいい教訓になったね」
「……えっ?」
ルナティクスが目を開けると、拳は開かれていて、真っ赤なスーツの掌が地面にへたり込むルナティクスに向かって差し出されていた。
数秒間呆けていたルナティクスは、顔を真っ赤に染めて押し黙った後、そっと顔を上げる。
そこには晴れやかな苦笑いがあった。
「そうね。私もまだまだって事が分かったわ。……これからも宜しく、ヒーロー『ディメンジョンマン』」
「こちらこそ宜しく。ヒーロー『マジカル★ルナティクス』」
ルナティクスの差し出した手を翔はしっかりと握り返した。二人のヒーローは、固い握手を交わしてお互いの信頼と実力を認め合ったのだった。
「ところで、『マジカル・ムーンライト・レイ』って混乱効果とか付いてない?」
「え? ああ、確かに低確率で相手を混乱させたり狂気に陥れたり効果もあるよ」
「やっぱりそれかーーー!?」
後でダメージレポートさんがちゃんと治ったか、朱美さんに調べて貰おう……。
こうして月下のヒーローショーは幕を閉じたのだった。
ヒーロー達はそれぞれ得意分野があれど、実力は拮抗している設定です。来月は本編を書けるといいんですが……、基本的には『アウトキャスト』の方を優先しますので、また短編になるか、本編が極短くなると思います、
お読み下さりありがとう御座いました。




