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所がどっこい…あ、お約束ってやつですね?

一年とちょっとぶりの更新です。もう亀更新ってレベルじゃない!!どうぞお楽しみ下さい!


10月16日現在すこしばかりしくじって文が少し消えちゃったので鋭意元に戻してます!申し訳ございません。

11月3日元に戻しました!ご迷惑をお掛けしました!

落ちてゆく…。飛び降り自殺する人って飛び降りた瞬間に後悔するって言うけど、死ぬなんて知らなかった私はどうすれば良いのでしょうか?

とまあ前回に続き、ビルの屋上から落ちてます。


(あぁ、すごい…!走馬灯がぐるぐる頭ん中巡ってきてるや!あはは、せっかく27まで生きてきたんだから最期は老衰で死にたいなーと思ってたのにこんな死に方なんてやだなー!はあ、…ちくしょう)


現実ならほんの数秒がひどく永く感じて、きっともう数十秒、時間があれば出てくるはずの涙をこらえて後悔する。なんとか出た声は残念なことに悲鳴ではなく、今まで想像したことがないような死に方をするであろうおかしさから笑い声だった。


「あはははは!あーあ…、死にたくないや…、まだ死にたくない…」


辛うじて出た笑いに乗じて本音を漏らす。黒煙が目に染みて下が見えませんがもうすぐ地面に近づいてきたようでこのまま行けば多分、真っ赤に燃える火の海に到着する予定です。さて問題です。Q・ビルの屋上から落ちました。下にクッション何て気の効いたもんもありませんので助かる手段がありませんし(というか結構な高さから落ちたので仮にクッションがあったとしても骨肉の大部分はえらいことになるだろうし)、作る時間もありません。どうしたらいいでしょうか?A・打つ手すらありませんし、完全に詰んだのでそろそろ諦めましょうか?


(せめて楽に死ねますように)

苦しまずにサクッと一瞬で死ねるなら良いものだろう。当たり処が悪くてしばらく生きてられるような中途半端な致命傷とか嫌だね。痛くて苦しそうだし。

目を閉じて、尽きない後悔と不安を諦めて死を覚悟する。

(ごめんなさい。もうなにもできないや…。親孝行も、弟へのちょっかいも、祖父母や妹の墓参りも、友人達への感謝も。幸せな家庭を送りたいっていう願いも、あいつらを最後まで匿ってやれないことも、遥人を激励することも、玉ちゃんを諭して祝ってあげることも、全部諦め…たくはないな~…。どうして私は、こう…未練たらたらな人生送ってんだろう?まあだいたいの事に言えるけど後で満足出来る結果なんて滅多にないんだよね。思い返してみればあの時ああすれば良かったとか…ね)

(そういや私は遥人と玉ちゃんを祝うことはしたけど責めた事は無かったっけ。…二人とも根は真面目だから私に対してそれ相応のけじめを着けたがってたしなー。真面目だけど方向性間違ってる…というか、社内で責めたりしたら私の風評悪くなるから言う気もなかったし…。だからってなあなあでうやむやにして全部流そうとした私の対応は間違ってたんだな。…で話し合いの場を設けても予定前に死ぬって本当散々だな)

思考は回転は結構速いようでつらつら出てくること出てくること。


さて、今の私に出来るのは即死になるように頭を下にして地面に激突するように体を移動すること位しかできない。



「…~ッ!!」

ふと、風の唸る音に紛れて何かが聞こえたような気がした。

少し期待して目を開けて何かが聞こえた方向をみるも黒い煙が充満していて周りなんて見えやしない。


(こんな時に誰かが助けに来る訳ないでしょ…。期待しちゃって、バカみたいだ…)

再び目を閉じようと視線を逸らしたとき、

『そうかぁ?案外なんとかなるかもしんねーぜ?折角俺がでしゃばってきてハッピールートになるようにしてやったんだ』

そんな言葉が頭に浮かんできた。

(ついに私の精神…、壊れたのか)

『ちげーよ!!おい、ふざけんな!誰がテメーに絶対持ち歩かないようにしてた銃やナイフ携帯させるように誘導したと思ってんだ』

怒鳴られた。えっと、私の中の天使と悪魔みたいな感じじゃなくて別の、こう…、他人?ちゃんと意志と性格があるようですが…、あれ?これ、もしかして、妄想の友達 (イマジナリーフレンド)?

(そりゃ、雅鬼が襲って来た翌日から何があっても大丈夫なために護身用としてタンスから出して…)

『ふーん。【あん時】以来使わないって決めて、以後あんだけ使うのを躊躇してたのをどうして持ち出す勇気があっさり一晩かそこらで決めれたと思ってんだ?』

(そりゃまあ、命の危険を感じたからに決まってるじゃないですか)

『いやいやいや。タンスにしまってからも充分死ねる要素満載な事件もあったじゃねぇか。ま、比べるもなく当時のてめえの覚悟と性能の違いもあったんだろうけどよ。で、話を戻すが、命の危険感じただぁ?そりゃ俺が後押ししたからに決まってんじゃねえか。骨だったぜ?夢の中でお前を説得すんの。頑固親父並み融通きかなかったから苛つくこと苛つくこと。今日の午後だってそうだ。上手く事が運ぶようにわざとてめえをパニクらせてあの鴉と合流させたし、遥人に会わせて一緒に行動させるようにした。それに、後輩…玉藻のロッカーを掃除するよう仕向けて、ネームプレートを水に落としたのだってちゃんと理由がある。後、俺は別にオメーの妄想の友達じゃないから安心しろ。別に壊れてねーよ。あーあ、そんな優しい俺の存在をイカれたと思いやがって。傷つくなぁ?』


(メタ発言で悪いけど、少なくとも読者様を置いてってる時点で君の存在は優しくないよ?)

『痛いとこつつくな!!しゃーねーだろーが!俺だって本来なら出てくる気なんてなかったわ!でも匙加減して弄くっとかないとどいつもこいつもバッタバッタ死にまくるんだから仕方なく出てきたんだっつーの!!こっちだってめちゃ苦労したんだぞ!?誰一人死なないように慎重に布石をばら蒔いといてやっとこさその回収が始まったんだ!ここでつまずかれると俺がでしゃばってきた意味ねぇの!…さって、そういうわけだ。ルートは確定させてやったし、俺も時間ないしそろそろ退散するわ。正念場はこっからだ。気張れよ?『 』…』

最後、その声は私を確かに『そう』呼んだ。

(ああ、そうか。『彼』は…)

ゴオオォ!

「ひゃいあああ!!!?」

突然の突風に思考に耽っていた意識が一気に現実に戻された。頭を下に向けていた筈の体が一回転して宙に浮いていた。

いや、地に足着いてない時点で浮いてる(どっちかつーと落ちとる)んですが、猛烈なまでの向かい風が下から、つまり地面の方から吹いて来て落下が止まって逆に体がゆっくりと上昇し始めてます。黒煙もどんどん流されて呼吸が大分楽になる。

…しかし、(え!?え!?何がどうなってんの!!!?つか風強ッ!!髪がえらい事になってる上に髪とか皮膚とか服とか(特にロンスカが)持ってかれそうになってる!)

本日何度目なんでしょうね?パニックに陥るのは…。

ふと、今まで以上に耳元で唸る豪風に紛れて声が聞こえた。今度は声の主が近かったのかはっきりと聞こえた。

「大丈夫か!!明日香!?」

そんな声と共に突風は止んで、代わりに鳥の羽音を大きくしたような音が近づいきて、

「うわっ!」

お姫様だっこで抱き抱えられた。……空中で。おかしいなぁ?このふわふわしてる浮遊状態。

(あ、天国のお迎えって案外速いんだな。よかったー!地面に激突する前で記憶なくなってて…え?…えーと、死んだ?もしかして死んだの?私?じゃなきゃこの私抱き抱えてるのって何者?とりあえず…)

「人間誰しも叩けばほこりが出るものなので地獄行きは勘弁してください!!」

(我ながら開口一番がそれか。自分で悲しくなるな…)

※しつこいようですが現在、明日香はパニックに陥っています。

「は!?」

「ごめんなさい!今言ったのは無視してください!すいませんが後輩2人と元カレと養って1ヶ月位になる化け物二名とあともし可能ならこの火事で焼死した社員全員何とかしてください!お願いします!」

「ちょっ!!落ち着っ…!!落ち着け!!明日香!!せめて目を開けてから物を言え!!」

「はい!すみません!」

実は怖くて羽音が聴こえてきた辺りからずっと目をつぶっていました。

そっと目を開けてみると私を抱えていたのは、

「な、なんで…?」

本当に今日は厄日なのだろう。もう訳がわからない。会社がおかしくなったり、街が大火事になったり、皆が獣みたいになったり、後輩が自在に動かせる尻尾を大量に生やしてて暴れてたり、元カレが馬鹿力で刃物ぶん回してたり、新人君と脱出しようとしたら何故か不意打ちされたり、その新人君が、

「なんで…、黒也君、翼生やして飛んでるの?」

こんな間抜けで明らかに地雷であろう質問しか咄嗟に出なかった。

「それはその…ですね。しょうがないか…」

黒也君に生えている黒い翼と悲しそうな目は不思議とどこかで見たような記憶があった。

ーーーーー1ヶ月前、

自宅のリビング内をうろちょろ歩き回り、少し飛んで椅子に着地して毛繕いをするカラスをソファーから見て心に決めた。


(うん、傷も治ったし、右の翼の付け根辺りに少し傷跡残ってるけど後遺症も無さそうなくらいに飛べてるし、今日辺りかな?変に人間慣れさせないように飼ってたつもりだけど、いざ野生に返すとなるとやっぱり情は湧くなあ。返す場所は…、近くの公園でいいか)

初めはペティに飛べるようになっても長くは飛べないかもしれないと言われていたのだが、驚異的な回復を見せ、完全に以前のように飛べるようになったらしく動物医のOKサインが貰えたので何も心配しないで済む。ちなみにカラスは保護する場合は鳥獣保護法に引っ掛かるので無断で飼ってはいけませんよ?もちろん私は許可申請取りましたよ。ええ、だから野暮なこと気にすんな。


『カア坊、バックに入って。もう外に帰れるよ』

痛い女だと思わないで欲しい。だってカア坊、本当に人の言ってることが解ってるようなのだ。鈴奈やペティを指差して『襲え!』、とか言って冗談半分、嫉妬とかちょっとドロドロした感情半分にけしかけてみたらマジで行ってくれたし。鈴奈はスコンとクチバシで一回軽めにつついた程度だったが、ペティは…、大空高く飛んで、滑空からのデコ狙いのつつき(スピードはえげつなく、額割る気…、へたすりゃ殺す気満々だった)で、あえなく白羽取りならぬクチバシ取りを片手でされて、全身さわさわされて変な鳴き声をあげていた。ついでにちゃっかり鈴奈も加わっていた。

他には外で鷹匠ごっこして遊んだり、クチバシでワープロ機能使って簡単な意志疎通(傷痛い?と聞くとキーボードつついて『いたくない』と打ったりする程度)出来たりと結構凄い気がする。まあカラスって頭いいって聞くし、カア坊は特に凄いのかなーとかで軽く片付けてた。後にペティに言ったら大層驚かれた。なんで?


『さ、おいで』

腰を屈め、おいでおいでをしてみると

サッ。

『…チッ。やはりか』

案の定、一瞥(いちべつ)してから逃げた。

さて、晴れて自由になれるというのに、近づいてくれない。こちらから近づけばちょこまか逃げるの繰り返しで途中からなりふり構わず虫取網出して取っ捕まえようと格闘すること一時間程度。両者疲れきってへばっていた時、突如としてインターホンが鳴った。

玄関に出てみるとお隣さんで何故か不思議そうに、『ベランダに何か生ゴミでも置きました?』なんて聞いてきた。

置いてないと返すと、『ベランダ、見てください』と促され、一旦部屋に戻りベランダのカーテン開けてびっくり!ベランダの床が見えないほどみっちりとカラスが何十っ羽も来ていた。竿竹やクーラーの室外機の上にも居て腰抜かした事を覚えている。

数の多さに圧倒されるもそれ以上に不気味だったのがベランダのカラス達は騒ぐことも動き回ることもせず、ただ静かに私の部屋の一点を見つめていた。

視線の先に居たのは私ではなくカア坊だった。沈黙と居心地の悪い空気が部屋に訪れた。が、

『ア゛ーーーッ!!!』

それはほんの少しの間で、カア坊の鳴き声が沈黙を破った。ベランダのカラス達は一斉に飛び立ち、空に小さな黒いモヤを作った。カア坊はベランダまで歩いて行き、カンカンとクチバシでガラスをつついてこちらを見る。状況から察するに開けろという意味だろう。ベランダの引き戸を開けるとこちらをじっと名残惜しそうに見ながら「アー…」と一鳴きすると群れの中へと帰っていった。

余韻もクソもないあっさりとした突然の別れだった。別れ際に私を見た目がその日一日中忘れられなかった。ところがどっこい、こんな感傷的になったのは4日ほどの話で、4日後の会社の屋上で同期の女友達とお昼ご飯食べてる時に屋上に突然現れて友達に愛想振りまいておかずを貰っていた。しかも療養中に仕込んだ芸 (具体的には声マネやバク転など) を披露してがっつり友達のハートを掴んでた。

まあ、普通に会う機会はあるよね。何も今生の別れって訳でもなかったしね…。でもなんだろう?この胸のモヤモヤは?


明日香は知らない。この四日間の間、黒也は行方不明になっており、療養場所を部下達に突き止められ、『生きて見つかって良かった』と集団で安否確認をしようとベランダに押し掛け、それを運悪く明日香に見られて流石に居づらくなって出ていった事を。途中渋ったもののほぼ有無を言わさず強制的に連れ帰られて生還を祝う酒の席もそこそこに、部下の一人に居なかった間仕事が滞っていると泣きつかれ、不機嫌+お酒+元ヤンの血が化学反応を起こし、目が据わり、さして怒鳴ったわけでもないのに周りが一気に黙り込んで凍り付くほどドスの効いた「焼き鳥にされてぇのか?」の発言でとりあえず2~3年くらいの有給をもぎ取ったことを。


余計なワンクッションを挟みつつも時は現在に戻り、


黒也にお姫様だっこで空中で留まっている明日香は、

(や、そんなはずは…!でも、…似てるような…)

黒也の目を見て口を開こうとするも声が詰まって何度か閉口するだけになる。

(どう、声を掛ければ…)

目線の先の黒也はばつが悪そうに顔をしかめている。

「ねぇ、鴉木くん…」

「はい…なんですか?」

どちらも声は震えている。

「わ…、私は!…君になんて、なんて言葉を掛ければ良い…?」


次に会えば少し怒鳴ってやろうと思った。なんでお腹を殴ったのかと問いつめるつもりだった。でも、彼が翼を生やして空を飛んでいること、思い返せば彼をカア坊に重ねてしまったこと、遥人が彼を化け鴉と呼んでいたこと、そして何よりも決定的だったのは右翼の付け根に 【見覚えのある傷跡がある】のを見つけてしまった。

頭ではもはや結論は出てしまっている。結論に至る証拠もある。あるがそれを認めてしまうことは恐らく私、いや私以上に彼が望んでいないことだ。鳥類が人間になるなど無いと言い切りたい。だが、養っているのに実例がいる。犬から人になったやつとか。頭の賢いあの子はもう知っている。私がどれほど臆病で虚勢を張ってきたのかを。3ヶ月間一緒に過ごしてきた君が見てきただろう。私が悩やんで悔やんで笑顔を作って1人になって泣いていたのを。


「葛之葉先輩の…、いえ、この呼び方はおこがましいですよね。貴女のお好きなようにしてください。罵ってくれて構いません。俺はそれに足ることをしてしまいまし…」バシッ!!

「だっ!?」

器用にお姫様だっこされた状態で張り手を喰らわした。

「助けてもらっておいてごめんね…。だけど好きにして良いって言うなら言わせてもらうし手も出します。二言はありませんよね?」

「いきなりなにをっ…「無いですよね?」

いきなり張り手を食らい、何事かと混乱する黒也は明日香の顔を見たが彼女は無表情である。その上、言葉を重ねようとするのを遮り 二回も言うあたりに背筋に冷たいものが走った黒也は、「はい…」と頷くことしか、出来なかった。

すう、と一気に息を吸い込んだ彼女を見て身構えた。

「こんの…ドアホガラスっ!!!!なんなのよその『おれって悪い男だよな…』って感じの態度!!本当にムカつく!!好きなように罵っていい?女の腹殴ったんだから当たり前でしょ!!むしろ罵るだけで済むと思ってるの!?私の気が済むまでボコらせろ!!」

無表情から一転、烈火の如くまくし立てる。

「い、いや…私が明日香に本気で殴られたら死「もっかいビンタ食らいたくなかったら黙れ。次許可なく喋ったらビンタで顎砕く」……」

言葉を繋ごうとしたが剣呑な睨みと命令口調、極め付きは物騒な単語に黒也の本能か一瞬にして口がきゅっと閉まる。

「死ぬと思ったのは私の方よ!!後、人が気絶してるのを良いことに銃2つ盗っていくってなんなの!?別に元々処理に困ってたやつを護身用にしてただけだから欲しかったらやる。 つか持ってけ泥棒」

龍剣のじっちゃんに物騒だから渡そうと思って何度か持って龍剣邸宅と書いてヤの付く組合のお屋敷に行ってみましたよ。…着くまでにやたらお巡りさんに職質されんのよ。しかも日を改めても何度も遭遇するから質悪い。賀藤や組員さんに頼んだこともあるが皆して何かにつけて断ったり突っ返したりするので諦めた。ゴミとして出すにしても絶対面倒な事態になる事が容易に想像できたし。


「今言いたいことはあらかた終えたので私からは以上です。君自身に関してはまた今度、ゆっくり話を着けさせて貰います。あ~…、君に泣いた所見られたのって【何回目】、だろうね?」

今の私から言えるのはこれくらいしかない。これより先の言葉は貴方が語ってくれたときに言おう。

「それと…遅れたけど助けてくれてありがと…。ああ!ごめんごめん!もう喋ってもいいからね!?」

言いたい事を吐き出した為か、少し落ち着いた態度になる。

「葛之葉先輩…。分かりました。この騒動が終わったその時には全部、お話しします。ひとまず安全な場所に行きましょう」

「待って私まだ屋上に用が…」

ドンッ!!

言葉を遮り突然屋上から大爆発が起こった。

吹き飛ぶフェンスや瓦礫。そして、爆風によって窓ガラスが一気に割れ、ガラスの雨が降り注ぐのが視認できた。

「しっかり掴まってて下さい!!一気に飛びます!」

翼が大きくはためいてその場から猛スピードで離脱する。

「まって!!危な…!?ひゃあああああ!!」



ーー屋上ーー


「あ…う、ひっう、うああ゛あ゛…、あはははは!!やっと、やっと終わった。すっきりした。…ああ、すっきりしたはずなのに、なんでこんなに気持ち悪いんだろ」


(ああ…、そうかーー)

フェンスの向こうの眼下を眺め、彼女は笑いながら涙をこぼす。歓喜と悲壮が混ざったその表情からは真意は分からない。ただ痛々しさだけがそこにはあった。

(私は、私は最初からーー)

不意に、彼女は後ろからくる殺気に気付き、刃と化した尾を迫ってくる者に幾重にも切りつけ食い止める。


「お前、殺してやる」

振り向けば無表情の緋牙が体に食い込んでいる刃に更に体を押し付け、少しでも玉藻に近づこうとしてる。押し付ける度に傷口から血がボタボタと垂れ流れ、口からも血が滴っているも彼はまるで気にしない。

「お前は知らないだろうな。ご主人が…、お前が殺した先輩がどれほどお前を庇っていたのかを。お前に文句を言おうとした女たちを抑えたり、お前がイジメに気づかないように陰から証拠を消したりしてたことを」

(そんなの、知ってる。だって解った上でやってたもん。だからあの人がいっぱい庇ってくれたことが何よりも「あの私」にとってはひどく心を抉った。でも…ーーー)

「だからそれが何なんですか?」

それはひどく静かな問いだった。

「そんなお涙頂戴な美談なんて消えた私にでも言ってくださいよ。…どいつもこいつもーーうっぜぇんだよぉぉっっ!!あの人ならまだ分かる!!けど何で私ばっかりがお前らみたいなぽっと出にえらっそうに責められなきゃなんないのよ!!私の何が悪いの!?会社の皆の関係をめちゃくちゃにしたからっ!?うっっざい先輩を殺したから!?私は悪くない!!私はあのぶってる良い子ちゃんの代わりにやっただけ!なのになんで責められるのは私だけなの!?不条理だ!因果応報なんて糞食らえ!!あぁ…もう、いい…。良いですよ、お望み通り…死んであげますよ。でも代わりに…」

それは最初から役割が決まっていた彼女の本心からの叫びと諦めだった。ひとしきりに叫び終えた時、彼女の周りには白い煙がうっすらと漂っていた。

【あぁ、そっかーー】

「っ!?おい犬持!!急いでそこから逃げろ!煙も吸うな!!」

遥人が叫んだ頃には遅く、

(目や鼻が焼ける!これは毒ガスかっ!?いやそれだけじゃない…、これはっ!!)

煙を吸ってしまった緋牙の静かな怒り満ちていた顔は驚愕に染まる。目の前に居る元凶は、

「一緒に死んで下さいね?」

そう言って指を軽く鳴らした。

か細い火の粉が刹那に空を舞い、次の瞬間大爆発へと変貌した。

【私は、私は最初から産まれるべきじゃ無かったんだ。ーー最初から、要らない子だったんだ】

小ネタ劇場:緋牙、未知との遭遇を経験するその②】

深夜、この家の住人達は1人を除いて寝ていた。窓からさす月明かりがうっすらリビング照らしている。ソファーに座り人形片手にせっせと針を動かす緋牙。

ひ「さて、後はご主人の爪か髪か血とか入れれば完成だ!欲を言えばご主人の肉を一欠片だけでも手に入れてたなら完璧なんだけど流石に酷だしなー。ふへへ~…。ご主人への悪戯人形だー!これで生殺与奪とまではいかないもののご主人が居ないときの生気補充が出来るしちょっとしたエロ方面やらお仕置き回避やらに使える!」


爽やかにやり遂げた顔をしているが流石変態にして外道の鏡。明日香の人権すら踏みにじろうとしている。だがしかしその外道の理解すら及ばない事が人形には起こっていた。

?『いよっしゃあああ!!ここまで完璧な出入り口あったらもうあのちょくちょく居なくなる放浪癖のある妹に頼らなくてもまたあっちに行ける!んー?でも誰がわざわざこんな辺鄙(へんぴ)な場所に繋げたんだ?ちょーっくら覗いてみっか』

ひ「特に顔のデフォルメに気合い入ったなー!口はへの字にし…て?」

さっきまでへの字に曲がっていた人形の口が破けて綿が覗けている。

ひ「あれ?ほつれて破れたのか?とりあえず綿は戻しとかないと…うわっ!?」

指でぐいぐいと綿を口に押し込んでいると不意に指先に濡れた感触があり、それに驚いた直後に急に人形が凄まじい勢いでガクガクと震えだし、まるで泡を吹くように口から綿が溢れ出す。


ひ「なっ!?なあ!?あ…あわわわわ…!!」

?『ウッギャアアアア!!!イッテエエエ!!見やすいようにちょっと破いて覗いた瞬間目潰し喰らったああああ!!』※緋牙が綿を詰め直してる時です。

慌てる緋牙。もんどり打つ何か。

続く。

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