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カーテンコール

「あはははははははははは!」


体育館中に私の笑い声が響き渡った。

客席がざわつく。

観客も。

先生も。

舞台袖で大道具を支えるクラスメイトも。

そして役者たちも。

全員が、突然笑い始めた私を見ていた。


流れは変わった。

デウス・エクス・マキナがゆっくりと剣を振り上げる。

劇を壊した者へ振り下ろされる断罪の剣。

その切っ先はもう、更紗さんには向いていない。

私だ。


そう、劇が壊れるのが確定であれば。

「誰かが」先に壊してしまえばいいのだ。

そうすれば更紗さんが剣に貫かれることもない。


さてあとは。

剣が振り下ろされる前に少しだけ。

悪あがきをしよう。




私は更紗さんへ向き直る。


「はじめて君を『姫』って呼んだ日のこと、覚えてる?」


更紗さんが、驚いた顔で顔を上げる。

その瞬間。


巨人の剣が止まった。


「……え?」


ステージ外には聞こえないような、小さな声。

それは眠り姫の声ではなかった。


「……澪ちゃん?」


朝倉澪へ向けられた声だった。

私は小さく笑う。


「君は、私のことを運命の人だって言ってくれたよね」


更紗さんの瞳が揺れる。

舞台も。

観客も。

もう見えていない。


「……は、はい」


小さく。

けれど確かに返事が返ってくる。

私は続けた。


「あの時は驚いて……変なこと言って、ごめんね」


「私こそごめんね、恥ずかしがり屋な貴女に突然『運命の人』なんて言っちゃって」


「そんなことないよ、今だからいえるけど凄く嬉しかったから」


その瞬間だった。

更紗さんの表情が、ふっと柔らかくなる。

緊張で固まっていた身体から力が抜けていく。

そして。


まるで何事もなかったかのように。

彼女は舞台の続きを紡ぎ始めた。


「私こそ、再会できて嬉しいです、王子様」


その声は、もう眠り姫だった。

私も自然と王子へ戻る。

劇は再び動き始める。


物語は終幕へ向かって進み。

客席から、大きな拍手が湧き起こった。


……よし。


更紗さんは、もう大丈夫だ。

私はとうかって?

出番も終わったから逃げるに決まってる。


ああああああんな恥ずかしい事してこの場に留まる訳には行かない。

クラスの誰かに突っ込まれる前に家に帰るんだもん!


校門まで一直線。

帰って布団に潜って。

三日は出てこない。

そう決意したのだけれど。


「澪ちゃーん!」


「朝倉さん!」


「こっちこっち!」


逃げる間もなく両腕を掴まれる。


「え、ちょっ――」


そのまま舞台の中央へ引っ張り出された。

カーテンコール。

出演者紹介。

完全に忘れてた。

眩しい照明。

鳴り止まない拍手。

マイクを向けられる。


「朝倉さん、一言どうぞ!」


「……はい」


「王子役どうでした?」


「……はい」


「楽しかったですか?」


「……はい」


私は完全に『はい』しか喋れない機械になっていた。


こうして。

学園祭の演劇『眠れる森の美女』は、無事に幕を閉じたのであった。












誰も見ていない場所。

舞台を見下ろす遥か上。

デウス・エクス・マキナは静かに立っている。

剣は、もう鞘に納められていた。


その肩の上で。

架空の「澪」は足をぶらぶらさせながら、舞台袖を見つめていた。


「君は、誰だい?」


その問いは。

舞台中央で呆然としている本物の澪へ向けられたものではない。


舞台袖。

誰にも気付かれず。

ただ一人、澪を見つめ続ける人影。


観客も。

先生も。

更紗も。

誰も、その存在に気付いていない。


人の形をした"何か"。

その影は答えない。


ただ。

まるで懐かしいものを見るような目で。

舞台の上の朝倉澪を見つめ続けていた。


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