見えてはならないモノ
厳正な投票の末、姫役は更紗さんに決まった。
私も迷わず彼女に一票を投じた。
このクラスにおい「お姫様」が似合うのは彼女以外にいない。
他の女子も可愛いけれど、更紗さんの放つ気品とオーラは、まるで絵本から飛び出してきたようだった。
私はというと、裏方でのんびりやらせてもらえれば充分。
大道具か小道具あたりがちょうどいい。
目立つのは苦手だし、演技もできる気がしない。
そう思っていた矢先、担任が言った。
「次は王子役の投票をします」
その言葉に、少しだけ胸の奥がざわついた。
王子。
つまり、姫にキスをする役。
額か頬か、それとも。
演技とはいえ、相手は更紗さんで、その相手はこのクラスの「誰か」だ。
なんだか、モヤモヤする。
頭の中で、あの「架空の私」の声が呟いた。
――ふーん。
やかましい、黙ってて。
私は、迷いなく一票を投じた。
王子役には、背が高くて声も通る久保田さんがいいと思った。
見た目のバランスも悪くないし、堂々としてるし、何より私じゃない。
完璧だ。
投票が進み、黒板に名前が書き込まれていく。
田中 一票
吉田 一票
朝倉 一票
吉崎 一票
久保田 二票
票はばらけている。
何か、違和感があった。
「……え?」
私は目を凝らした。
黒板の中に、見覚えのある名前があった気がしたんだけど。
「朝倉澪 一票」
――ある。
誰が。
なんで。
冗談?
私は思わず更紗さんのほうを見た。
彼女は黒板の前に立ち、マーカーを手に、にこにこしていた。
無邪気な笑顔。
なのに、何か企んでるような気がしてならない。
その視線に思わず目を逸らす。
……ちょっと待って、本当に誰が入れたの。
いや、わかってる。わかってるけど……。
頭がぐらぐらする。
まただ。
また、彼女に主導権を握られている。
そして、私の「平穏な裏方ライフ」は、着実に遠ざかっていくのだった。




