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辺境に追放された悪役令嬢、特撮オタク保育士の知識で領地を聖地化したら死神公爵に溺愛されました  作者: 栗原りんご
第2章 アステリア編

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68. 中身がないなら、ガワをくれ!

評価、ブクマ、リアクションありがとうございます!

励みになっております!

感想もぜひぜひお待ちしております<(_ _)>

その頃、ネレイスと行動を共にしていたカイエンは、王宮のさらに深部、地下へと足を踏み入れていた。


「……それにしても、この『地下』、天井高すぎひんか? 地下だけで城もう一個入りそうやけど、アステリアの建築基準どうなっとんねん」


「ふふ、合理的だとは思わないかい? 表向きの歴史を飾る城が地上なら、ドロドロとした書き直し(プロット)を隠すゴミ箱は地下に作るものさ」


巨大な空間に圧倒されるカイエンの耳に、闇の奥から心臓を掴むような低い振動が伝わってきた。


『――ぐるるるるるるる……』


恐る恐る扉の隙間から中を覗き込むと、そこには数えきれないほどの魔獣、そしてその中央に城壁ほどもある巨体の魔獣が鎮座していた。圧倒的な『死』の気配。さらに異様なのは、その巨体の表面に、まるで肌を割って浮き出たような魔法陣の「紋様」が刻まれていることだった。


「……あかん、見なかったことにしよ。ウチ、今日はただの非力なメイドさんやしな!」


カイエンが冷や汗を流して扉を閉めようとすると、隣でネレイスが面白そうに目を細めた。


「ほう……。この魔獣たち、自生しているものじゃないね。……まるで、この場所の『脚本』が、必要に応じてその場で書き殴った挿絵イラストのようだ」


「書き殴った……? どゆことです?」


「この紋様だよ。見覚えがある。……ふむ、なるほどね。光の脚本は、文字を綴るだけじゃ満足できなかったらしい。物語の整合性を保つための『番犬』まで、そのページの中に飼い慣らしているというわけだ」


「それって、脚本がこのバケモノらを生み出してるってことですか!? 趣味悪すぎでしょ……! 」


音を立てないように別の道を探し、ようやく辿り着いた豪華な扉。カイエンは屈強な警備兵二人に対し、潤んだ瞳で上目遣いを繰り出す。


「あ、あのぅ、新人でして……迷っちゃいましてぇ……」


警備兵が鼻の下を伸ばした一瞬の隙を突き、ネレイス特製の『特濃睡眠スプレー』を噴射。


「旦那様の時に尽く失敗したから自信なくしてしもてたけど、やっぱウチの悩殺ポーズは健在やな!」


「くくく、やるじゃないか。その図太さ、まさに『配役外』の輝きだね」


鍵を奪い、重厚な扉を押し開ける。そこは、ステンドグラスから差し込む月光に照らされた、神殿のような広間だった。部屋の中央には、金箔と宝石で飾られた、いかにも「何か」を鎮座させるための豪勢な台座がある。

だが――。


「……なんやこれ。台座は立派やけど……肝心の中身が、なんもない? なんでや」


そこにあるはずの『光の脚本』の姿はどこにもない。

ただ、台座の上には、誰かがつい先ほどまでそこにいたかのような、不気味な「空白」だけが残されていた。


「そういえば、なんで潜入捜査ウチが選ばれたんです? 光の脚本なら闇魔法使えるネレイス様だけでも余裕だったような…」


「そういうとこだよ」

「?」


カイエンは何の疑問を持つことなく、持参していた丈夫な大風呂敷を広げると、あろうことかその巨大で豪華な「台座」をまるごと包み、ひょいと背中に背負い込んだ。


「おまえ……誰が『それ』を持っていこうとするんだよ……! ククッ、あはははは!」


腹がよじれそうになるぐらい笑い転げるネレイスを余所に、カイエンは平然と言い放つ。


「まぁ手がかりは持っていかんと! これ、ええ金になりそうですし、何よりこの『空白』の証拠はこれしかあらへん!」


このカイエンの、物語の整合性など微塵も気にしない強欲な行動が、まさに現状を突破する鍵になろうとは、この時のネレイスもまだ確信していなかった。


王宮の一角、一行に割り当てられた休憩室。

一息つこうとしたルーナたちの前に現れたのは、メイド服の裾をたくし上げ、巨大な金ピカの台座を背負ったカイエンだった。


「奥様ー!ただいま戻りましたえ!」

「カイエン……。あんた、それ、まさか……」

「いやぁ、肝心の『脚本』がのうて。でもこれ、いかにも高そうな台座やし」


ルーナの目が据わる。


「……今、その後に『金になりそうやし』って本音が聞こえたんだけど」


ネレイスは肩を震わせて笑っている


「さすが奥様! ウチのことよぉ分かってはるわぁ!」


「コラーーーーー!!!!!!」


ルーナの怒声が飛ぶ。


「すんません……」と口を尖らせて反省のポーズを取るカイエン。だが、その背中の台座が床に置かれようとした瞬間、部屋の空気が微かに震えた。


バン!!!!!

「っ!?」

勢いよく扉が開いた。そこに立っていたのは、月明かりのように白い髪を振り乱し、肩で息をする少年――エディだった。


「それ……! それは、僕の場所……っ!」

エディが、体中の力を振り絞るようにして台座へ手を伸ばす


「なになになになにー!? 追手か!?」


驚いたカイエンが、慌てて背中の台座を振り払うように下ろすと、重量級の宝石箱のような台座がドォォォォン!!と凄まじい音を立てて横倒しになった。

その衝撃と同時に、エディは糸が切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。


「え、えぇっ!? ウチ何もしてへんで!台座 倒れただけやん!」


「エディ!」


テラスから追いかけてきたアルスとエルナが、部屋に飛び込んでくる。


「さっきまで一緒に遊んでたんだけど、急に苦しそうにして走り出しちゃって……」


「この子……どこの子なの?」


ルーナが心配そうにエディを抱き上げると、後から追いついたマーサが困惑した表情で首を振った。


「それが……。王宮の者に尋ねても、それらしい親や親族はいないようなのです。ただ、本人は……」


「ここが、自分の家だって言ってた」


アルスの言葉に、一同の視線が険しくなる。


「アステリアの王族の子どもは、リュシアンだけのはずだよね?」


ルーナの確認に、ゼクスが静かに頷いた。


「あぁ、そのはずだ。記録にも、記憶にも、他に王子がいたという話は無い。王に隠し子がいるという噂はあるが…」


「ゼ、ゼクス様!」

ルーナが思わず声を上げると、ゼクスはハッとして口元を押さえた。


「……っ。すまない。子どもの前だった。」



アルスがエディの寝顔をじっと見つめて、言葉を継ぐ。


「……この子、なんかおかしいんだ」


「僕たちのことを『新しい登場人物』って呼んだり、『役割』をくれ、なんて言ったりして……」


その言葉を聞いた瞬間、ギルバートの瞳に鋭い光が宿った。


「……役割、か。単なる子供の空想にしては、タイミングが出来すぎているな」


ギルバートは、横倒しになったまま不気味な存在感を放つ台座と、意識を失った少年を見比べた。


「この王宮は、すでに『脚本』に飲み込まれている。ここでこれ以上の調査は危険だ。……マキナの家に連れていこう。あそこなら『バグ』である彼女の目が届く。何か分かることがあるかもしれない」


一行は、気絶したエディと、「せっかく持ってきたんやから!」と食い下がるカイエンが必死に再梱包した台座を抱え、夜の帳が下りた王宮を後にするのだった。


一方、マキナは研究棟の奥で、落ち着きを取り戻したセドリックとリィンから衝撃的な事実を聞かされていた。


「……マキナ、君がいなくなってから、この国はあっという間に作り替えられてしまったんだ」


セドリックが苦渋に満ちた表情で、窓の外、暗闇に沈む王宮本体を指差した。


「王宮はもう、僕たちが知っている場所じゃない。中には正体不明の化け物がうじゃうじゃいる。衛兵たちも、あれが何なのか……いや、そもそも『見えていない』ようだったが」

「それでも、俺たちは必死に抗っていたんだと思う」

セドリックはそう言うと、研究室のさらに奥、厳重にロックされた巨大な格納庫の扉へとマキナを導いた。

「君という希望が消えて、リュシアン殿下が狂気に走る中……いつか君が戻ってきた時に、戦える力を残しておきたかった」


重い電子音が響き、巨大な扉がゆっくりと左右に分かれる。

その中から現れた「それ」を見上げ、マキナは言葉を失った。


「……大きい。……まるで、ルーナの言っていた『あれ』に似てる」


暗闇の中に佇んでいたのは、鈍く輝く金属の巨躯。

魔導回路が血管のように張り巡らされ、まだ「命」を吹き込まれるのを待っているかのような静謐な威圧感を放っている。

マキナの脳裏に、以前ルーナが夢中で語っていた異世界の物語――巨大な鉄の塊が人の意志で動く、空想の産物の話が蘇る。


「これは……ロボット……なのか?」


「僕たちはこれを『魔導機甲アーマード・ギア』と呼んでいる。……マキナ、君の『魔道具』の理論と、僕たちの意地を詰め込んだ、脚本の外側にある力だ」


マキナはその巨躯の足元に歩み寄り、冷たい装甲にそっと触れた。

指先から伝わってくるのは、仲間の熱い執念。

それは、どれだけ脚本が世界を書き換えようとしても、決して消せなかった「人間の意志」そのものだった。


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