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辺境に追放された悪役令嬢、特撮オタク保育士の知識で領地を聖地化したら死神公爵に溺愛されました  作者: 栗原りんご
第1章 ヴォルフラム編

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62. 黄金の再起

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光が収まり、戦場に訪れたのは凍り付くような静寂だった。

地平線を埋め尽くしていた連合軍の前に立ちはだかるのは、全身を漆黒と白銀の装甲で包んだギルバートたち。


「な、なんだあの見たこともない装甲は……! 鎧に似ているが……いや、動揺するな、構えろ!」


リュシアンの怒声が響くより早く、エルバイン第一王子・ゼクスは愛馬を駆り、瞬時に自軍の陣形を組み替えていた。


「動くな! 距離を保て! 魔法兵、障壁を多重展開! 物理攻撃が通じぬなら魔力で押し潰せ!」


ゼクスの号令は的確だった。ヴォルフラムの異様な姿に怯えかけた兵士たちが、彼の凛とした声で正気を取り戻す。数倍の兵力差を活かし、じわじわと包囲網を狭めていくその指揮能力は、まさに『王国一の知将』の名に恥じぬものだった。


それに応えるように、リュシアンがアステリア製の『高出力増幅杖』を掲げる。


「ゼクス、守りに徹しすぎるな! アステリアの技術を見せてやる。全軍、魔導砲の照準を固定しろ!」


リュシアンが指鳴らし一つで起動させたのは、複数の魔核を直列に繋ぎ、破壊力を数倍に跳ね上げたアステリア特注の照射兵器だった。


だが、ヴォルフラムの騎士団が手にする『本物』が駆動音を響かせた瞬間、その高度な戦術すら紙切れのように破り捨てられた。


「な、あの武器……盗んだ物と全く違うじゃないか!」


エルバインの兵士たちが持つ『おもちゃ』は、虚しく音を鳴らし光るだけ。対してヴォルフラムの騎士たちが掲げる『ルクシライザー』からは、人工魔石によって増幅された火炎や雷光の弾丸が雨あられと降り注ぎ、ゼクスが張らせた多重障壁を容易く貫通していく。

攻撃を防ぐ『テトラシールド』は敵の放つ魔法を完璧に反射し、反射された火球が皮肉にもエルバインの陣地を焼き払った。


「あっはっはっは! 愉快、実に愉快だ! 奪った偽物で勝った気になるとはねぇ!」


ネレイスが闇魔法を纏わせた杖を振るい、影の刃で敵を薙ぎ払う。


「……無知は死に直結しますよ」


カイルは風の魔力を『ソードルクシア』に纏わせ、真空の刃で敵兵の武装だけを正確に破壊していく。

その凄まじい練度に、ゼクスは戦慄した。

冷汗を流し、必死に崩れる戦列を立て直そうとするゼクス。その姿を、最前線のギルバートが捉えた。


「あそこにいるのは、エルバインの第一王子か?」

「あの第二王子クズよりは、いくらかマシな人物だと聞いておりますが……」


カイルの言葉に、ギルバートは僅かに目を細める。


「……惜しいな。だが、退くつもりはないようだ」


リュシアンは、戦況の悪化に顔を歪めながらも、余裕を装って鼻で笑った。


「ほざけ! 見たところ『守護獣』も『回復役の少女』もいない貴様らに何ができる! 空からの攻撃は、流石に防げま――」

「――そうか?」


急降下する空騎兵。だが、ギルバートは不敵に笑う。背後の装甲が展開し、基礎全属性を混合した五色の魔力翼が顕現した。


「――全属性解放フル・バースト


「な……飛んだだと!?」


音速で駆け上がったギルバートは、空中で『ソードルクシア』を振り抜く。一振りで雷鳴が轟き、氷の礫が敵を凍てつかせ、火柱が空を焼く。ヴォルフラムの騎士たちは、一人で十人を相手にする圧倒的な出力で、敵軍を次々と無力化していった。


「ちいっ! エルバインの無能共め、やはり当てにならん!」


リュシアンがその指に嵌めた、アステリア王家に伝わる『魔獣統制の指輪』が不気味な紫の光を放つ。


「貴様らのような蛮族には、技術による支配が相応しい。……全リミッター解除! 暴走モード起動!」


リュシアンの指輪が禍々しく光る。その瞬間、彼が跨る超大型魔獣の瞳が血の色に染まった。


「ガアアアアアアッ!!!」


魔獣の巨大な爪が、無慈悲に振り下ろされる。それは敵軍だけでなく、隣にいた味方であるはずのゼクスの本陣をも容赦なく叩き潰した。


「……リュシアン!? 我が軍の兵まで襲っているぞ! やめろ!」


ゼクスが叫ぶが、リュシアンは狂気じみた笑みを浮かべるだけだ。


「最初から当てになどしていない! 魔力を全て喰らい尽くせ!」


「リュシアン!!! 貴様……ッ!」

「うぁぁああああ!!!!」


爆煙の中、泥にまみれて吹き飛ばされるゼクス。彼が目を開けた先にあったのは、信じていた同盟相手に踏みにじられ、絶叫を上げて蹂躙される自国の兵士たちの姿だった。


「……リュシアン、貴様……何を……」

「ははは! 餌だよ、ゼクス! 貴様も、貴様の兵も、この魔獣を育てるためのただの肉だ!エルバインの王も勝つためなら手段は選ばないと言っていた!」


その言葉に、ゼクスの心の中で何かが音を立てて壊れ、そして再構成された。

守るべき王国の誇りは、既にこの男の手で泥に沈められた。ならば、自分は何のために剣を握る?


「……私は、王国の王子だ」


ゼクスは、折れかけた剣を杖代わりに、ふらつきながら立ち上がった。


「だが……民を、兵を使い捨てにする王国の罪まで背負うつもりはない! リュシアン……貴様だけは、私が斬る!」


「熱い展開じゃないか。……気に入ったよ、王子様」


戦場に、かつて失われたはずの「歌」が響き渡った。

ネレイス。かつて愛に破れ、心を閉ざして歌うことを止めた闇の魔女。彼女が今、ルーナとの出会いを経て、再びその喉を震わせる。


「――♪」


それはマリーナの幼い歌声とは違う、深みと慈愛に満ちた、大人の人魚の救済歌。

旋律が触れるたび、瀕死だったゼクスの傷が、騎士たちの疲労が、瞬時に癒えていく。


「なっ……回復役はいないはずでは……!?」

「あいにく、うちにはもう一人『最高に歌のうまい姐さん』がいるんですよ」


馬を走らせたルーナが、混乱する戦場を切り裂き、ゼクスの前に飛び込んだ。


「ゼクス様! ここで果てるつもりですか!?」

「ルーナマリア……殿。私は、あなた方を殺そうとした男だ……」

「そんなの、後でいくらでも謝ってください! 今は――共に、新しい国を作るために立ってください!」


ルーナが差し出したのは、黄金の光を放つ特注の変身ベルト。


「さあ、これを腰に! そして、今のあなたの覚悟を込めて唱えてください!」


ゼクスは震える手でベルトを装着した。カチリ、と運命が噛み合う音がした。


「……ゼクス・エルバインとしてではない。一人の男として、道を切り拓く!」


「「変身!!!!!!」」


爆発的な黄金の光。

そこには、王家の赤の瞳を宿した、高潔なる黄金の騎士が立っていた。

黄金の輝きの中から現れたゼクスの姿に、戦場は再び震撼した。王家の証である赤の瞳が、洗練された黄金の装甲の奥で鋭く光る。


「……ありえん。なぜ、敗北者がそんな力を!」


リュシアンが狼狽する中、ルーナは馬を寄せ、手にした黄金の鞘に収まる一振りをゼクスへと放り投げた。


「ゼクス様、これを使ってください! マキナがあなたのために調整した本物です!」

「感謝する、ルーナマリア殿!」


ゼクスが空中でそれを受け取り、一気に引き抜く。

黄金の刀身を持つ『ソードルクシア』。

黄金の騎士ゼクスが地を蹴った。

ゼクスがその剣を振るうたび、聖なる光の波動が暴走する魔獣の肉を焼き、正気を失った獣の動きを封じていく。


「ギルバート殿、合わせてくれ!」

「承知した!」


五色の魔力翼を広げたギルバートが上空から急降下し、地上からはゼクスが光の速さで肉薄する。

ギルバートの『五属性混合撃』とゼクスの『聖光斬』が、同時に超大型魔獣の脚部を直撃した。


ズゥゥゥゥゥン!!


大地を揺らす轟音とともに、山のような巨体が膝を突く。その衝撃で、魔獣の背に乗っていたリュシアンは無様に放り出され、泥の中を転がった。


「がはっ……! おのれ、おのれぇええ!!」


リュシアンは形振り構わず立ち上がり、狂ったように走り出した。向かう先は、戦場を冷静に見守っていた最後尾――ルーナの元だ。


カイルが瞬時に反応するが、リュシアンは即座に懐から、アステリア製の特殊な『魔力遮断煙幕』を地面に叩きつけた。

ただの煙ではない。目に見える視界を奪うだけでなく、騎士たちが使う「魔力を探る感覚」さえも狂わせる、技術大国アステリアが誇る脱出用の魔道具だ。


「捕まえたぞ……! この女さえいれば!!」


煙の中から飛び出したリュシアンの手が、ルーナの喉元を掴む。


「動くな! 動けばこの女の命はないぞ!」


ギルバートとゼクスの動きが止まる。

リュシアンは勝ち誇った笑みを浮かべた。


「技術の差というものを教えてやろう。今この女の首に触れている指先には、一瞬で心臓を止める魔導器が仕込まれている」


そして、ルーナの耳元で囁く。


「……そういえば、お前のところにマキナという女がいたな」


ルーナの瞳が、ぴくりと揺れた。


「あの女はな――私の元婚約者だ」


戦場の空気が凍りついた。

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