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辺境に追放された悪役令嬢、特撮オタク保育士の知識で領地を聖地化したら死神公爵に溺愛されました  作者: 栗原りんご
第1章 ヴォルフラム編

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33. 禁断の朝チュン!?と野菜パラダイスの取引

何が起きた。


なんで隣でギルバート様が寝ているのか、誰か詳しく教えて欲しい。


……いや、断片的には覚えている。あの後、また馬に乗せてもらって、泣き疲れたのと緊張が解けたのとで一気に眠気がきて――そこからの記憶がログアウトしているのだ。

それにしても、何だこの状況は。

なんでこの男は上半身裸なのか。

私は……うん、服は着てる。大丈夫、一線は超えてない。

けれど、何だこの色気は。

戦いでついた生々しい傷跡すらも、この男が纏うと存在自体がR18指定だ。眼福を通り越して心臓に悪い。

よし、逃げるか。

抜き足差し足でベッドを抜け出そうとした、その時。


「……おい」


「ひぇっ!?」


低い声と同時に、背後から猛烈な力で引き戻された。

太い腕が私の腰をガッシリと抱き込み、抗う間もなく、私はギルバート様の熱い胸板へと背中から密着させられる。


「あ、あの! ギルバート様……っ」


「……まだ寝ていろ」


耳元で響く、寝起きの掠れた低音ボイス。首筋に彼の吐息がかかって、全身が総毛立つ。

昨日の「死神」の冷徹さはどこへやら、今の彼は獲物を離さない獣のようだ。


「だ、だってここ、ギルバート様のお部屋ですし……誰かに見られたら……!」


私がしどろもどろに言い返すと、彼は私の肩口に顔を埋めたまま、事も無げに言った。


「俺の奥さんが俺の部屋で寝て、何が悪い」


「っ!?!?!?!?(心停止)」


奥さん。おくさん。オクサン。

その言葉の威力に、昨日の「あの口付け」の感触が脳裏にフラッシュバックして、顔面が沸騰した。


(あ、あれは! そう! 不可抗力! 事故よ事故!)


「……ふっ」


「……っ、今からかってますね!? 笑いましたね!?」


もういい、この男といたら身が持たない!


「もういいです! あー、お腹すいた!!」


逃げるように部屋を飛び出すと、屋敷の中はやけに騒がしかった。


「どうしたの?」


廊下を歩いていると、「母上!」「おかあさま!」と二つの小さな塊が突進してきた。

アルスとエルナだ。その後ろには、申し訳なさそうに、でもどこか嬉しそうな乳母のマーサとカイルがいる。


「心配かけてごめんね。大丈夫、お母様はどこも怪我してないわよ」


二人の小さな頭を撫でる私に、マーサがそっと口を添えた。

「無事に帰ってきておられることは、昨夜のうちにお伝えしていたのですが……。どうしても早くお顔が見たいと、お二人とも一歩も譲りませんでしたのよ」


「……みんな……」


胸の奥がじんわりと熱くなる。

昨日のあの惨状の中で、私が一番に守りたかったのは、この温かな日常だったんだ。


「あれ……ところで奥様。今、閣下の部屋から出てきませんでした?」


ギクゥッ!


感動の余韻をぶち壊すカイルのツッコミに、私は一瞬で現実に引き戻された。


「……気のせいです」

「は?」

「気のせいです(圧)」

「……まぁ、そういうことにしておきましょう。くくっ」

「ふふふ、本当にお熱いことですわねぇ」


乳母さんまで、私の破れた袖や部屋から出てきた事実を、全力で「事後」だと確信している顔で笑っている。

双子の頭の上に可愛らしく「?」が浮かぶ中、背後から服を整えたギルバート様が悠然と姿を現した。


「ヒィッ!」


私の変な悲鳴を無視して、彼はカイルに鋭い視線を向けた。


「カイル、昨日の被害状況と壁の報告をしろ……それに、話しておきたいことがある」


いつになく真剣な表情。カイルも即座に「あ、はい! 閣下!」と表情を引き締めた。


「じゃ、じゃあ私たちはちょっと早い朝ごはんにしましょ! 行くわよアルス、エルナ!」


嵐のような気まずさから逃げ出し、朝食を済ませた私たちは、その足でマキナさんの工房へと向かった。

扉を開けた瞬間、私のプロデューサーとしての目が輝きに染まった。


「ふわぁぁぁ〜! 妖精さん!? 本物の妖精さんなの!?」


「モチモチ〜! これが巨龍になるんだって? あー! ボクも見たかった!」


マキナさんが興奮気味に弄り回しているのは、セレスティアの傍らでモチモチと宙に浮いている小さなシェロンだった。


「龍……なのか?」


触りたくてうずうずしているアルスと、「か、かわいい……! お姉さまのペット?」と目を輝かせるエルナ。


「おいおい、ペットだなんて。ボクは高潔な……」


「かんっぜんに……ミラクルステラの相棒マスコットになり得るじゃないの……!!」


シェロンの抗議を遮り、私は拳を握りしめた。

「? もう相棒ですわよ?」と不思議そうにするセレスティア様に、私は熱く語りかける。


「……シェロン、あなたも舞台に上がってもらうわよ!」


私のプロデューサーとしての突然の指名に、宙に浮く白い塊――シェロンが、即座に「べーっ」と舌を出した。


「そんな面倒なことはごめんだね〜! ボクはセレスの守護獣であって、見世物じゃないんだよ。そんな暇があったらお昼寝していたいね!」


「シェロン、取引しましょ」


「取引〜?」


不敵に微笑む私に、シェロンが怪訝そうに片方の眉(のような毛)を上げた。私はターゲットをセレスティア様に変えて問いかける。


「ねぇセレス、シェロンっていつも何を食べてるの? 好きなものとかあるのかな」


「え? 基本的に魔力があれば食べなくても生きていけるのですけれど……そういえば、野菜や果物が好きだったかしら」


「え、そこは肉じゃないの!?」


龍といえば家畜の一頭や二頭、丸呑みにするイメージだったのに! 驚く私に、シェロンはふんぞり返ってモチモチの胸を張った。


「失礼な。血なまぐさい肉なんていらないよ! ボクはみずみずしくて新鮮な、大地の恵みが好きなのさ。高潔だろう?」


渡りに船だ。私は心の中でガッツポーズを作った。


「シェロン……ここ辺境領はね、野菜のパラダイスよ。もちろん果物だって豊富にある!」


「野菜の……パラダイス!?」


「ええ。王都に流通しているものよりずっと質が良いし、あなたが食べたことがないような珍しい根菜もたくさんあるよ。舞台に出る毎に『最高級のパラダイス盛り』を約束する!」


シェロンの瞳が、キラキラとした期待に染まっていく。


「……のった!」


「よし、取引成立ぅ!」


私とシェロンは、お互いに「パチン!」と威勢よく手を叩き合わせた。

……といっても、シェロンのそれは、白くて短くて、驚くほどモチモチしたおてて。私の手のひらに「ぷにっ」と吸い付くような感触が、もう犯罪級に可愛い。


「チョロすぎる……」と呆れるマキナさんの声を余所に、私は早くも「野菜を頬張る守護獣」という新キャラクターの方向性を固めていた。


「あ、そういえばマキナさん! セレスティアに実戦用の魔道具ステッキ、無断で渡したでしょ!」


「あ……」


「だって、お姫様だから何かあった時に役に立つかなーって。実際、役に立っただろ?」


マキナさんが気まずそうに視線を逸らした。


「ぐっ……」


正論すぎて言い返せない。けれど、おかげでセレスティアの真価が発揮されたのも事実だ。


「……これからこのシェロンも舞台に上がらせるのなら、それもそうか」


「お話は終わりましたの?」


セレスティア様が晴れやかな顔で立ち上がった。


「では、わたくし訓練に行ってまいりますわ! 舞台はまた作ってくださるのでしょう? ならば、わたくしは来る日のために、自分を磨くのみですわ!」


「う、うん、そうだね!」


(セレス……本当につよくなったなぁ。立派なヒロインだわ)


走り去る彼女の背中を見送りながら、私は鼻の奥がツンとするのを感じた。

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