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辺境に追放された悪役令嬢、特撮オタク保育士の知識で領地を聖地化したら死神公爵に溺愛されました  作者: 栗原りんご
第1章 ヴォルフラム編

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25. 輝けハート! 運命の出会いは工房の中で

「――して、辺境伯のところに行きたいと」


王都の玉座の間。長い髭を蓄えた国王が、困り果てたように眉を下げた。


「セレスティア。あの『魔の森』を抜けなければ辺境領には辿り着けないのは分かっているわよね? 屈強な騎士たちでさえ行きたがらないというのに」


王妃が扇で口元を隠し、試すような、あるいは憐れむような冷ややかな声を響かせた。

セレスティアと呼ばれた少女は、重たいドレスの裾をつまみ、優雅に、けれど断固とした態度で首を振った。


「聞くところによると、近頃は商人が自警団を雇ってあの道を通っているとか。それに乗せてもらいますわ」


「……一晩、あの不気味な森で過ごすというのか?」


「ご心配なく。私には『アレ』がおりますから」


自信満々に言い放つ愛娘に、国王はついに重い溜息をついた。


「ふぅ……お前は一度言い出したら聞かないからな。分かった、頼りだけは送っておこう」



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「え? お姫様?」


慰労会の余韻も冷めやらぬ城内で、私は素っ頓狂な声を上げた。


「そうだ。王国から先程知らせが届いた」


ギルバート様が、届いたばかりの書状を手に険しい表情で腕を組む。


「なんで来るの?」


私の問いに、傍らにいたカインさんが困ったように肩をすくめた。


「視察……ですかね?」


「厄介なことに変わりはないな。出迎えの準備をしなければ」


数日後。

城の門前に到着したのは、白馬の馬車などではなく、見慣れた商人の荷馬車だった。

御者台に座る商人のガリオンさんは、やっとこの重責から解放されたと言わんばかりの顔をして、魂が口から抜けかけている。……本当にお疲れ様です。

そんな荷馬車から、ひらりと降りてきたのは、まばゆいばかりの光を放つ美少女だった。

ギルバート様をはじめ、双子もカイルさんもマキナさんも、一斉に深く礼をとる。


「ようこそお越しくださいました、セレスティア様」


「……お久しぶりでございます、ギルバート様」


セレスティア様は、凛とした声で挨拶を返すと、視線を私へと向けた。


「そして……はじめまして、ですわよね? 『大輪の氷の花』――ルーナマリア様」


(……ゲッ。その二つ名、久しぶりに聞いたな……恥ずかしすぎるんだけど)


「は、はい。お初にお目に掛かります……」


緊張しながらも下げていた頭を上げると、そこにはミラクルステラがいた。

何を言っているんだって? 私も自分の目が信じられないわよ。

だってもう、腰まであるふわっふわのピンク色のロングヘア。瞳は吸い込まれそうな空色。肌は陶器のように白くて、唇はプルップリ。どこからどう見ても、女児向けアニメのセンターを張る「ピンク担当」の美少女なのだ。

エルナがおっとりぽやぽや系の「水色担当」だとすれば、この子は確実に「ピンク担当」。夢でも見ているのかと思ったほどだ。


「護衛も侍女もなしに、今回はどのようなご用件で」


ギルバート様の問いに、彼女は少しだけ口角を上げた。


「最近、辺境領が変わったと聞きまして。しばらく滞在させていただきますわ」


「また変なのが増えるのか……」


アルスがボソッと不機嫌そうに呟く。


「ほ、ほんもののお姫様……! 綺麗……!」


対照的に、エルナは純粋にその輝きに感動して目を輝かせていた。

その後、お姫様用に整えられた客室で、私はなぜかセレスティア様と二人きりで向き合っていた。王女様は、さっきまでの愛くるしい微笑みをふっと消すと、鋭い視線で私を射抜いた。


「――さて。ギルバート様をどうやって『毒した』のか、じっくり聞かせていただきましょうか? ルーナマリア様」


(……これ、完全に査問会議じゃない!?)


私は冷や汗を拭いながら、なんとか声を絞り出した。


「あの……『毒した』って、具体的にどういう意味ですか?」


「とぼけないで! あなたが城に入る時に躓いたでしょう? その時、ギルバート様が咄嗟にあなたを支えた時の顔、そのあとの……あんなにもあなたを慈しむような顔よ!」


セレスティア様は扇をバサリと広げ、忌々しそうに眉を寄せた。


(あぁ……。ずっと挨拶するの緊張してたから、気が抜けて転びそうになったんだっけ。)


「あの死神と呼ばれる男が、あの氷の男が、あんな風に心から笑うなんてありえませんわ。魔道具でも使って、ギルバート様を操っているのではないかしら! 正直に吐きなさい!」


「セレスティア様、人の心を操るなんてそんな……。ヒロインは、そんな不名誉な疑いをかけたりしませんよ?」


「ヒロイン……?」


「オッホン! オッホン!! ゴホッ、ゴホガハッ!!!」


喉がちぎれるかと思うほどの派手な咳払いで、私は無理やり言葉を飲み込んだ。

あまりの勢いに、セレスティア様が「ビクッ!」と肩を跳ねさせ、目を丸くしてこちらを見ている。


「……す、すみません。喉に何かが……今朝食べたゴーボウの繊維かな…。とりあえず! まずはこのお城と辺境領をご案内しますね」


私は彼女を促して、まずは城の裏手へと連れ出した。


「これは……畑? 観賞用ではなくて?」


「ええ、自慢の農園です」


そこには、つややかに実った野菜がびっしりと並んでいる。最新のプランターや、マキナ特製のビニールハウスが陽光を浴びてキラキラ輝いていた。


私は誇らしげに説明しながら、真っ赤に熟したベリーを一粒摘み取った。


「これ、今が食べごろなんです。食べますか?」


差し出した瞬間、ハッとした。


(……あ、しまった! 相手は一国の王女様だった! 本来なら毒味役が厳重にチェックしたあとじゃないと、口にするはずなんてないのに……!)


差し出した手のやり場に困り、私が「あ、すみません、今のなしで――」と手を引っ込めようとした、その時。


「……毒味役も通さずに、不敬ですわよ」


セレスティア様はツンと澄ました顔でそう言い放った。……が、その視線は私の指先にある、瑞々しく輝く赤いベリーに釘付けになっている。

彼女はそのまま、私の指からベリーをひょいと奪い取ると、ためらうことなく小さな口に放り込んだ。


「セレスティア様!?」


「……っ! 甘い。王都で食べたどのスイーツよりも、ずっと濃くて、甘い気がしますわ」


驚きに目を丸くする彼女を、私はヒヤヒヤしながら見守る。

毒でも入っていたら私の首が飛ぶところだったけれど、彼女のその満足そうな、年相応の少女らしい顔を見て、少しだけ肩の力が抜けた。


「……毒など入っていないことくらい、そのおめでたい顔を見ればわかりますわ。さあ、次はどこですの?」


呆然とする私を置いて、彼女は楽しそうに先へと歩き出した。

牛や豚がのんびりと放牧され、賑やかな鶏小屋からは産みたての卵の匂いが漂ってくる。反対側には広大な訓練場があり、そこでは機能的な衣服に身を包んだ騎士たちが、砂埃を上げて稽古に励んでいた。

調理場を通りかかれば、今まで嗅いだことのないような、スパイスの効いた美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。


「……王都とは、あまりに何もかもが違いすぎますわ」


呆然と呟く彼女を、私は最後の一押しとばかりにマキナの工房へ案内した。

そこには、私が夜な夜な描き上げた「衣装デザイン案」の紙が机の上に広げられていた。


「これは……見たこともないドレスですわね」


セレスティア様が吸い寄せられるようにその紙を手に取った。


「ドレスって、基本は床まであって重たいものが多いですよね。でもこれは、動きやすさを重視したアクティブなデザインなんです」


「……脚を出すのははしたないと思っていましたが、こうして脚まで色がついて……これは何かしら?」


「それは『カラータイツ』って言うんです。動きやすいし、色を合わせるとこんなに可愛くなるんですよ」


私が熱を込めて解説すると、彼女は真剣な表情でその画期的なファッションを食い入るように見つめている。

その視線の先に、一つのステッキが置かれていた。先端がハートの形をした、淡いピンクとゴールドの繊細な装飾。彼女の震える指が、誘われるように中央の魔石スイッチを押し込んだ。


「キィィィィィィィン!」


透明感のある高音と共に、魔石が七色に発光し、工房内に虹色の粒子が舞い踊る。


「はわわ……っ」


セレスティア様の瞳がその光を捉えて、キラキラと輝いた。


(これよ、これだわ……! もはやミラクルステラ第1話の『運命の武器との出会い』そのものじゃない!)


スマホが欲しい。マジでスマホが欲しい! 録画したかった……!

私は冷静を装って声をかけた。


「セレスティア様……?」


「……っ! こ、これはなんなんですの!?」


ハッと我に返り、慌てて咳払いをするセレスティア様。


「それは今制作中の『おもちゃ』ですよ、姫様!」


奥から煤だらけのマキナさんが顔を出した。


「おもちゃ?」


「そう! ルーナ、本番のヒーローショーって一週間後だっけ?」


「はい! その予定です!」


マキナさんはニカッと笑い、セレスティア様を指差した。


「お姫様もご招待したら? きっと腰を抜かすよ!」


「なるほど。いい案ですね!」


二人の会話は分からないけれど。

胸元にそっと手を当てる。


「……なぜかしら。胸が少しだけ高鳴っていますわ」


セレスティアは、不安と期待が入り混じったような顔で私たちを交互に見つめていた。


――まるで、新しい物語の扉の前に立つ少女のように。

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