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辺境に追放された悪役令嬢、特撮オタク保育士の知識で領地を聖地化したら死神公爵に溺愛されました  作者: 栗原りんご
第1章 ヴォルフラム編

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26. 開幕!辺境領にヒーローは舞い降りる

評価、ブクマ、リアクションありがとうございます!

本当にもう、めっちゃくちゃ励みになっております~!


春の柔らかな風が、辺境領の街を優しく撫でる。

ついにやってきた、ヒーローショー本番の日。

この日のために、私は何度も市場へ足を運び、チラシを配って宣伝を続けてきた。市場の掲示板や城門の近く、いたるところに貼られた「スターレンジャー参上!」の文字が、街の人々の期待を煽っている。


会場は、街の空き地を利用した特設の円形舞台だ。

王都の劇場のような格式高さはないけれど、現代の知識を活かして、後ろの席からでも子供たちが前の人の頭を気にせず見られるよう、傾斜をつけた設計にしている。

宣伝の効果は絶大だった。

いつの間にか辺境領に移り住んできた人々も加わり、会場周辺はこれまでにない活気に満ちている。街には香ばしい匂いを漂わせる屋台が並び、空にはマキナさん特製の、昼間でも鮮やかに輝く合図の花火が上がった。


(風船を持たせた着ぐるみも歩かせたいし、お面も急ピッチで量産しなきゃ……。やっぱりグッズ制作はイベントの華よね!)


(出入り口のスターブレード販売コーナー、在庫は足りてるかしら。販売員の配置はよし。あとは……)


「また倒れそうなことばかり考えていないか、お前は」


「ギクッ!」と肩を震わせた瞬間、背後から大きな掌が伸びてきて、私の両目をすっぽりと覆い隠した。


「ぎゃっ!?」


「……色気のない声だな」


視界を塞がれたまま固まっていると、耳元でギルバート様の呆れたような、けれどどこか楽しげな声が響く。


「だ、だって、良いアイデアが次から次へと浮かんで来ちゃうんですよ! 離してくださいギルバート様!」


「離したらまた倒れるまで走り回るだろう。少しは頭を冷やせ」


目隠しされたままの状態で、彼の指先の温度が肌に伝わってきて、心臓がバクバクと暴れ出す。


「はぁ……。次に倒れたら、見張りのために寝室も一緒にするか」


心臓が跳ねた。


「!!!! な、何を言ってるんですか! ア、アルスとエルナという鉄壁の防波堤がありますからね!」


「そんなもの、俺にとっては瑣末な問題だな」


……この人、さらっと怖いこと言わないでほしい。


そんな2人の様子を、離れた場所から騎士団の面々が呆然と眺めていた。


「……おい見ろよ。団長が……笑ってるぞ」

「嘘だろ、明日雪でも降るんじゃないか?」

「いや、あの笑顔は奥様限定だ。俺たちに向けられるのは、いつだって氷の微笑か、死の宣告だろ」

「いいなぁ……俺もあんな奥さん欲しい……」


戦場では鬼神と恐れられる男の、あまりに甘い空気感。騎士たちは戦慄と羨望の入り混じった溜息を漏らす。


私は騎士たちの視線にも気づかず、真っ赤になった顔で必死に抵抗する。

手を振りほどいて赤くなった顔を誤魔化すように、慌てて観客席に目を向けた。

そこには、シスターに連れられて来た孤児院の子供たちや、剣劇(殺陣)のもはや師匠であるバンダルさんの奥様と息子さんの姿もあった。スターブラックを演じるガトラスさんの家族や、他の演者の身内も勢揃いしている。


「子供たちは前へー! 大人の皆さんは、後ろの席へお願いします!」


誘導に従い、子供たちが目を輝かせて前列に詰めかける。

その中央、一番見やすい特等席に座っているのは、愛娘のエルナと、片時もスターブレードを離そうとしない愛息子アルス。

そしてその隣には、どこか落ち着かない様子で当たりを見回しているセレスティア様だ。


「……すごいな、『魔道具』って」


マキナさんに作ってもらった拡声用のマイクを握りしめ、私は改めて感動していた。


ふと、数日前の工房でのやり取りが頭をよぎる。


「そういえばルーナ、リハーサルの時、口の前に何か持ってるフリしてたけど、あれはなんなんだい?」


マキナさんが不思議そうに首を傾げて聞いてきた。私が、拳を口元に寄せて司会のマネ事をしていたのが気になっていたらしい。


「あぁ、あれは『マイク』っていう、声を遠くまで届けるための道具のイメージです。声を拾って大きく響かせる機械みたいなものですね」


「マイク……。声を拾って大きくする、ねぇ」


マキナさんは面白そうに目を細めて、手元の魔石を弄び始めた。


「魔石の共鳴を反転させて、振動を空気に乗せれば……。ほう、面白い! それぐらいなら、ぱぱーっと作れちゃうよ」


「え、そんなのも作れるんですか!? 構造とか、もっと詳しく説明した方がいいですか?」


驚く私に、マキナさんは不敵な笑みを浮かべて鼻を鳴らした。


「ハッ! 私を誰だと思ってんの? 天才魔道具師マキナ様だよ? 仕組みさえ分かれば、こっちの技術で形にするなんて朝飯前さ!」


あの自信満々の顔。

実際、数日後にはこの完璧なマイクが完成していた。

この世界の技術と、マキナさんの天才的な発想があれば、いつか本当にテレビやスマホだって作れるんじゃないだろうか。


そんな夢物語さえ現実にしてしまいそうな心強さをマイクの重みに感じながら、私は舞台袖の仲間たちに視線を向けた。

リハーサルを一度経験しているせいか、バックステージの演者たちは比較的落ち着いている。けれど、舞台を覆う幕の向こう側からは、観客たちの「今か今かと」待ち侘びる熱気と、なんとも言えない独特の緊張感が伝わってきた。

騎士団のみんなも、自分たちの仲間が舞台に立つとあって、自作の横断幕を掲げて気合十分だ。


「シオンさん、準備はいいですか?」


シオンさんにいくつかのBGMを依頼した時、彼は最初、不思議そうな顔をしていた。「劇伴」という概念がこの世界にはまだ薄かったからだ。

けれど、マキナさんが開発した「音を記録し、増幅させる魔道具」を目の当たりにした時のシオンさんの顔を、私は一生忘れないだろう。

自分の指先から生み出された旋律が、箱の中から何度でも、より力強く響き出す。

その瞬間、彼の瞳に宿った芸術家としての魂の震え。


「ルーナ様、これは……革命です」


そう震える声で言った彼は、それから寝食を忘れて何曲もの神曲を書き上げてくれたのだ。

今、そのシオンさんが魂を込めて作った重厚なイントロが、特設会場の隅々にまで鳴り響いている。


「いつでもいけます、ルーナ様」


「みんな、集まって!」


私の合図で、アレンたち演者が輪になる。

最初は恥ずかしがってぎこちなかった円陣も、今ではもう慣れたものだ。みんなの顔には、かつての不安げな表情はなく、一人の「表現者」としての気合が満ちている。

全員で重ねた手の上に、私も自分の手を置いた。


「いい? 私たちのステージで、辺境領に新たな風を吹かせるぞー!」


「「「「おー!!!」」」」


揃った力強い声。その振動が幕を揺らす。



(さあ、ここからよ……!)

私はマイクを握り直し、お腹の底から声を張り上げた。


「――暗闇が世界を覆う時、星の導きが道を照らす! 悪の軍団、魔物たちの侵略を止めるため、今、伝説の戦士たちが立ち上がる!」


シオンさんのBGMが最高潮に達する。

観客席の子どもたちが、ごくりと唾を飲み込む音が聞こえてきそうなほどの静寂と興奮。


「みんな、大きな声で呼んで! せーのっ!」

「「「スターレンジャー!!!」」」


子どもたちの地鳴りのような叫び声と同時に、舞台中央で爆発(マキナさん特製の閃光魔法)が起きた。

煙の中から飛び出してきたのは、燃えるような赤を身に纏ったスターレッド――アレンだ。


「待たせたな! 星の輝きは、正義の証!」


煙がゆっくりと晴れ――赤いマントの裾が、風を切って翻った。


シュバッ、と見事な着地を決めるアレン。リハーサル以上にキレッキレだ。

客席からは「わぁぁぁ!」という歓声が上がる。

最前列では、アルスが「レッドぉぉー!」と喉がちぎれんばかりに叫び、その隣でエルナがパチパチと一生懸命に手を叩いている。

そして、その隣。

お姫様であるセレスティア様は、見たこともない「ヒーロー」という存在の圧倒的な熱量に、呆然と――けれど、いつの間にか身を乗り出すほどの熱い眼差しで、舞台を見つめていた。


(よし、掴みはバッチリ! 興行としては満点の滑り出し!)


私は舞台袖でガッツポーズを作りながら、次なる展開に向けてシオンさんに合図を送った。

悪役たちの登場、そして手に汗握る殺陣のシーン。辺境領に今、新しい「物語」が刻まれようとしていた。

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