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風結び ー戦国ノイズー  作者: 蓮空虎太
第2章 第二次天正伊賀の乱 - 信長の真実編
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第29話 信長とショウ

―23年前

1558年(弘治4年)11月信長は末期の時を迎えようとしていた。


何者かにより毒が盛られたのだ。

解毒剤も効果なく、飲食を共にしていた側近の何人かも既に命を落としていた。


信長は自分以外誰も信用していなかった。

常に家督を狙う親族。

自分をうつけと腹の中であざ笑い、何かあればいつでも担ぐ神輿(みこし)を変えてやろう思っている重臣たち。


常識的な立居振舞(たちいふるまい)ではこうした連中のペースに引き込まれ、操られてしまう。

そのため信長は奇抜を演じ、家臣たちから理解不能な異常人というイメージを自ら作って自身の領域に入ってこないようにしてきたのだ。


そんな中信じられるのは、うつけと呼ばれた頃から行動を共にした仲間だけであった。

利害関係抜きに遊んだ仲間。


枕頭に控えているのは、その信頼できる仲間

前田利家(又左)、そしてかつては信長に反旗を翻したが、和解して以降は信長に心酔し忠義を尽くしている柴田勝家(権六(ごんろく))の二人であった。


「権六、又左、俺はもうダメなようだ。」


信長は荒い息使いで切れ切れに言葉を発する。


「何をおっしゃいます。殿がいなくなっては織田家は斉藤、今川に蹂躙(じゅうりん)され滅亡するだけですぞ」


柴田が励ましの言葉をかける。


「だろうな。恐らく信行の仕業だろう。

二度目の裏切りも許してやり、改心したと思っていたが…」


信長の弟信行(信勝と表示されることもある)は過去に一度謀反を起こしたが許され、今回2度目の謀反を企てた。


信長は母土田御前の取り成しもあり、今回も許した。その和議の祝いの酒に毒が仕込まれてたものと疑われる。


「あやつ、もう少し利口なやつかと思ったが、所詮考えることは林らにそそのかされて俺を殺して家督を継ぐことくらいか。その先のことなど考えておらぬのだろう」


「ですから、殿は死んではならんのです!」


前田利家が叫ぶ。


「俺もそう思うが、いかんせんもうダメだ。自分の体は自分がわかる。

いいか、又左、俺が死んでもそれを公表してはならん。」


信長は途切れ途切れの言葉ながら、しっかりと指示した。


「あいつを、ショウと申した俺に背格好の似たあの男を…密かに召し出し俺の代わりに据えるのだ。」


驚くべき提案に勝家も利家も二の句がつげない。


「俺を良く知る者は皆遠ざけろ。信行は殺せ。信行が死ねば母上(土田御前)は俺のところに寄り付かん。

お濃はかわいそうだが里に返せ。昨年義父殿(斉藤道三)も亡くなっている。子を産めぬからとかなんとか申して(斉藤)義龍(よしたつ)の下へ帰せ。十分な手当は渡してやれよ。」


「家臣どもは俺のことなどちゃんと見ておらぬ。

ショウには今までの俺と変わって常識的な厳とした態度を取れと申せ。

病によって人まで変わったと思わせるのじゃ。どうせ俺の内面など知らぬ連中よ。まともな態度になれば疑うことなく喜ぶであろう。」


そういうと信長は激しくせき込み苦悶の表情を浮かべた。


「殿!」


「あの男なら、織田家が天下を獲れるかもしれんぞ。それをこの目で見られんのが、なんとも口惜しくもあるが…」


信長の身体が激しく痙攣する。

信長は遠のく意識の中、最後に言った。


「権六、又左、織田家を…頼むぞ。」


そういうと信長は意識を失った。



勝家は利家に聞いた。


「又左衛門、殿が仰せのショウとは何者ぞ?」


利家はどこから説明していいか悩んでいたが、


「百聞は一見にしかず。その者まだあの場所にいるかわかりませんが、それがし連れてまいりまする!」


「親父様は、殿が言われた通り、余人をお近づけにならぬようご配慮くだされ。」


そういうと利家は、馬に乗り清州の城を飛び出した。


利家は馬を駆った。


やがて信長がうつけと呼ばれた頃、若い近習と近隣の若者を集めて模擬合戦をやった川原に着いた。


「あいつは確かこの辺の乞食らが暮らしている小屋に居候していたが…」


利家は河原に立っている粗末な掘立(ほったて)小屋を一軒一軒覗いて歩いた。だがどこにもショウの姿は見当たらない。


小屋にはいないことを確認した後、川原で火をおこし魚を焼いている老婆がいたので声をかけてみた。


「もし、以前この辺に出入りしていた20歳過ぎ位の浪人風体の男を知らんかの?信長様らと川原で模擬合戦しとった仲間なんだが。」


利家がそう言うと、老婆は面倒くさそうに視線を移し、川の反対側を指さした。


「あん男なら、向こう岸の壊れた渡し船を寝床にしてるわ」


それを聞くと利家はすぐ馬に乗り、渡河できる浅瀬を探した。

この辺は良く遊んだところだ。大体どの辺が渡れるかわかっていた。やがて渡河地点を見つけると一気に川を渡り老婆の指さした渡し船の所に駆け付けた。


船には茣蓙がかけらていたが、それを無造作にはぐると男が一人午睡していた。


利家はまじまじと男の顔を見詰めた。

髭が濃くなり、薄汚れていたが、間違いない。確かにショウだ。


「…誰だ、人が寝てるときに…」


ショウがむっとした表情で睨みつけてくる。


「俺だよ、又左衛門だ。」


「おう、又左か。久しいな。また模擬合戦やんのか?ちょうど暇してるし、体もなまってるから付き合うぜ。」


そう言いながらショウと呼ばれる男は、体を起こし船から下りてきた。


生憎(あいにく)な、遊びの誘いじゃねえんだよ」


利家は少し厳しい口調で言った。


「ふーん、それなら俺に何の用だ?」


ショウはぶっきらぼうに答えた。


「お前これから俺と一緒にお城に来い」


「あーん?なんで?

信長がメシでもおごってくれるのか?」


ただの不良仲間として遊んだ間柄だ。

信長に対しても利家に対しても口調は当時のままだ。


「そうしてやりたいのはやまやまなんだがな。そうじゃない。」


そこまで言うと利家は大きく息を吸い、射る様な視線でショウを見据えてこう言った。


「お主の人生、もらい受けたい!」


さすがにショウも軽口を叩けなくなっていた。


「何があった?」


鋭い目で問いかけてくる。


ここで曖昧な返事やごまかしは通用しない。何よりこのショウという男、頭の回転が恐ろしいほど鋭く、兵法にも通じている。


模擬戦をやっても、ショウがいる側が必ず勝った。軍師としての才覚もピカイチで、信長が何度も家臣に欲しがったが、


「俺は世捨て人。この世にいちゃいけない男なんだよ」


といってかたくなに仕官を断ってきていた。


「殿がな…死んだんだよ…」


「なに!?」


さすがのショウも驚きの声を上げた。


「詳しく話せ!」


曖昧なごまかしは通じないだろう。

城に戻ればじっくり話す時間もない。

何より誰に聞かれるかわかったもんじゃない。


焦る気持ちを抑えて利家は話だした。

信長に起こったこと、そして、いまわの際に言い残したショウへ託す気持ちを。


・・・・・・


ひとしきり利家の話を聞き終わると、ショウは嘆息交じりに言葉を発した。


「さすが信長だな。よく見てる。」


少し間を置き、腕組みしながら言葉を繋ぐ。


「俺もそこまで信長に似てるってわけじゃないがな。さして信長に興味のなかった重臣連中はまぁなんとかなるだろう。

兄弟といっても一緒に暮らしてるわけでも、仲睦まじいわけでもないだろうしな。

親父の信秀も傅役の平手も死んでるし…」


信長とすり替わるタイミングとしては申し分ない時期だった。


「信長のやつこうなることを見越してうつけをやってたのか…?」


そういうとフッとほくそ笑んだ。


「濃姫はかわいそうだが、それならいけるかもしれんな。」


「やってくれるか?」


そういう利家に対しショウはまっすぐ視線を向け強い口調で言った。


「やるしかないだろう!

…が、今からお前だけに俺の大事を打ち明ける。

お前も俺も互いに大きな秘密を打ち明け合う同志だ。

今後何があっても一連托生だぞ。それが守れるならやってやる。」


その後ショウは、利家に何かを語りはじめた。


途中利家は何度か驚きの声を上げ、先ほどのショウの様に暫く考え込んだ。


最後は互いに何か吹っ切れたように笑い合い、馬に飛び乗り城へ向かった。


織田信行おだ・のぶゆき

織田信長の実弟。うつけと呼ばれた兄とは違い、優秀で貴公子然とした風貌から、家中では信長より信行こそ家督を継ぐのに相応しいという意見が多数派だった。父・織田信秀の死後、家督を継いだ兄・信長に不満を持ち、重臣・林秀貞、柴田勝家らと結び最初の謀反を起こすが、信長の勝利によって鎮圧される。信行は赦免されるも、のちに再び信長暗殺を企てたとして、1558年(弘治4年)に清洲城で誅殺された。信長は表向きに病死として葬儀を行い、形式的には弟を弔ったという。


柴田勝家しばた・かついえ

織田信長の宿老。若き頃は信長の弟・信行に与して家督争いに加担し、1556年の「稲生の戦い」では信行方として出陣した。しかし謀反が鎮圧された後、信行は信長に赦され、勝家もまた命を助けられた。以後信長の忠臣となり、後年、信行が再び謀反を企てて誅殺された際には信行に加担していない。

信長政権下では北陸方面の総司令官を任され、越前・加賀での一向一揆との激戦や、上杉謙信との対峙などに活躍。剛直な武人として知られ、信長からの信任も厚かった。信長没後は、家中の長老格として羽柴秀吉と対立し、賤ヶ岳の戦いに敗れて自害を遂げる。


土田御前つちだごぜん

織田信秀の継室で、織田信長・信行らの生母とされる。尾張の土田氏の出身と伝わる。気丈で教養のある女性だったとされるが、信長の奔放な性格を嫌い、次男・信行を偏愛していたとも言われる。信行が信長に敗れた後も、信行の命乞いをしたとされる。


お濃(濃姫のうひめ

美濃国主・斎藤道三の娘で、織田信長の正室。名を帰蝶とも。道三と織田信秀の政略により信長に嫁いだ。聡明かつ気丈な女性とされ、信長を支えたと伝わるが、史料には乏しく、かなり早い時期から信長の側にはいなかったとされる説や生涯一緒にいたとされる説があり、信長を描いた作品によってその扱いは様々。


※この辺のショウは黒澤映画で侍を演じた若き頃の三船敏郎さんをイメージして書いてます。セリフも三船さんが言いそうな感じに自然になっていきました。黒澤映画見たことある人は、是非三船さんの声とセリフ回しをイメージして読んでみてください(^_-)-☆


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