第21話 帰郷
半日、山道を歩き続けた。
湿った土の匂い、風の通る音、斜面に点在する巨石。
周囲の景色が、見慣れたものへと変わっていく。
(…帰ってきたんだな)
疲労困憊の呼吸の中で、誰もが同じことを思っていた。
足取りは自然と速くなっていた。
―平成の里―
見張り櫓の上。
双眼鏡を覗きながら、タイガはぼんやりと退屈な時間を過ごしていた。
(…つまんね。ま、こんな時代の田舎なんて何してたって面白くねぇけどな。
それでも、野良仕事とかサイゾウのしごきよりはマシか…)
そのとき、人影が見えた。
道の向こうに、三つの影。
!!
「帰ってきたぞーっ!! サイゾウ、ショーゾー、ゴエモンだーっ!!」
タイガの声が里の中に響き渡った。
真っ先に駆け出してきたのは、ショーゾーの娘、風だった。
「ちち! ちちー!」
小さな足を必死に回転させて父へと駆け寄ってくる。
その姿に、ショーゾーも思わず駆け出し、転びそうになった風を抱き止めると、そのまま高く抱えあげ、肩車をしてやった。
「へへ、帰ったぞ。良い子にしてたか?」
そんな声が聞こえてきたとき、里のあちこちから人々が広場に集まり始めた。
ケンタやチビたちも混ざり、囲むように三人に声をかける。
「おかえり!」「無事でよかった!」「おつかれー!」
懐かしい声に包まれて、ようやく緊張が解けていくのが分かった。
その中で、ケンタがふと尋ねた。
「ねぇ…キュウサク兄は?おみやげ買ってくるって約束だったんだけど…」
一瞬、僕は言葉を探して黙りこんでしまった。
だがそれを察したように、サイゾウが一歩前に出て、穏やかな口調で言った。
「キュウサクはな、今回の戦で大手柄を立てて、百地丹波様のご推挙もあって、柘植隼人様のもとにしばらく預けられることになったのだ。立派なことよ」
子どもたちは「すごーい!」と目を輝かせた。
(…さすが、サイゾウさん)
この戦いの中で、彼の機転と冷静さ、仲間を包み込む優しさに、どれだけ僕は救われたことだろう。
「でも安心しろ。お前たちへの土産は、ちゃんと預かってきてるからな」
そう言ってサイゾウが袋から土産を取り出すと、チビたちは大喜びでひったくるようにして受け取っていった。
その様子を微笑ましく見ていた時、百地三太夫が現れた。
「役目、ご苦労だった。昨日、百地領からの使者が丹波様と柘植様の書状を届けてくれた。」
三太夫は微笑を浮かべつつも、目は笑っていなかった。
「おおよその事情は承知している。キュウサクの件も…残念だった。」
「だがまずは、家に戻って体を休めるがよい」
三太夫の言葉に、僕たちはうなずいた。
里の皆との談笑も一段落し、ショーゾーは風を肩に乗せたまま帰っていく。
サイゾウも「先生に報告しねぇとな」と言いながら、のんびりと家路につく。
ふと僕は周囲を見回していた。
(…アヤカさんがいない)
僕の様子に気づいたのか、マイさんが近づいてきた。
僕の顔をじっと覗き込み、くすりと笑って言う。
「アヤカ〜? アヤカはねぇ…」
その含みのある笑みに、思わずどきりとした。
(こ、これが…小悪魔系ってやつか)
後ろでショーゾーが笑いながら言った。
「おいおい、ゴエモンは女に免疫ねぇんだから、からかうなよー」
風を肩車して家に向かうショーゾーを見て
「あん、待ってよ~」
と追いかけようとするマイ。
(まだ肝心なことを聞いてない…)
「あ、あの、アヤカさんは…?」
思わずこちらから聞いてしまった。
マイは足を止めくるっと振り向き、ぺろりと舌を出して言った。
「ごめ~ん。アヤカはね、ゲンさんの体調がすぐれなくて、ずっと付きっきりで看てるの。
後で私が代わるから、それから会いに行ってあげて」
そしてウインク。
「がんばるのだぞ、青年!」
そう言って、軽やかに去っていった。
(マイさん、女子力たけぇ…)
肩の力が抜けるような会話に、僕はようやく(ああ、帰ってきたんだな)と実感した。
ここが僕たちの場所だ。
守るべきものがあり、迎えてくれる人がいる
―僕たちの、平成の里。
やっと平成の里に帰って来たゴエモン達。
やっぱり里の雰囲気に癒されますね。




