後日
後数日で魔法学園の入学式が差し迫った頃、スミス侯爵の離縁のニュースが王都を駆け巡る。
まあ、あのお嬢様の結婚式での騒ぎ、仕方ないわよね。
あの後、憶測が憶測を呼び、スミス侯爵の一人息子がスミス侯爵の実子では無いのでは?とさえ、囁かれるようになった。元スミス夫人のお友達達は、男爵とはいえ、田舎のしがない下級貴族達の集まり、腹芸など出来るわけもなく。上位貴族達に聞かれるがまま、ベラベラと喋ってしまったらしく。ヴルグランデ侯爵の配慮も虚しく、スミス夫人の名誉は失墜しスミス侯爵も、もう、庇いきれないものだった。スミス侯爵の両親も怒り心頭で、領地から駆けつけて、実家への支援金の流れについてスミス夫人に釈明を求めたらしい。
予算には上がってたんだ。支援金。まあ、そうだよね。
聞くところ、その金額全てスミス夫人の私的な支出に消えていたらしい。どんだけ使ってんのよ!
「リマンド侯爵夫人よりは、使っていないわ!って、言っていたらしい。同じ侯爵夫人なのに理不尽だってさ」
呆れた様子のフリードリッヒが口を開く。
「奥様と同じって、どんだけ使うつもりだよ。国家予算並みだぜ。まあ、我がリマンド侯爵家の殆どの支出は奥様の私的なものなんだが」
その決算全てを行っているセルロスは、顔を引き攣らせている。
奥様の二つ名は傾国ですものね。
「元男爵令嬢と皇女様を同じ土俵で考えてたなんて…」
呆れてものが言えないわ。実家への支援金を着飾る為に使うだなんて、スミス侯爵の面子丸潰れじゃない。
「皇后陛下の思惑通りことが進んだって訳さ。元スミス夫人に何かと疑惑を持っていた皇后陛下が、長年かけて調べた成果さ」
「皇后陛下、一方的に嫌ってたもんね」
皇后陛下とスタージャ様がスミス夫人を嫌っていたのは、社交界では有名な話だ。あからさまな皇后陛下にスミス夫人を擁護する声もあったが、この騒ぎの後から、皇后陛下の人を見る目を高く評価する声が聞こえてくるようになった。
「で、コーディネル様はスミス侯爵家に嫁がれるのか?」
セルロスは興味津々でフリードリッヒに尋ねた。
「ああ、ご実家には義姉もいるからな。今回はすんなり嫁ぐみたいだ」
貴族の再婚は珍しくないものね。これで、オルロフ伯爵も静かになるかしら?
「出入りの肉屋も替えたしさ、一先ずは安心してかな?」
セルロスは両手を頭の上に組むと、背もたれに身体を預けた。肉屋の選定で、かなりお疲れのようだ。
「でも、肉屋の娘、罪には問えないんでしょう?」
「まあね。彼女自身が事件の実行犯じゃないからね。それに、情報を流したくらいで捕まってたら、ここの密偵は皆捕まるよ」
それもそうよね。
「まあ、これで、安心してお嬢様と学園へ行けるわ」
「ああ、もうすぐ学園に入学するんだよな。やっとの思いで結婚したっていうのに、可愛いマリーの顔がまた、見れなくなる日が来るとは…」
大きな溜息を吐き、項垂れるフリードリッヒの背をセルロスが叩いた。
「まあまあ、無理だと諦めていた婚姻ができただけ、喜ぶべきだね。学園生活してなんて、たったの一年なんだし。俺なんて…」
そう言うとセルロスは恨みがましそうに、ユリに視線のを向けた。
明日は学園の入学式、ユリはマリアンヌに付いて学園へ旅立った。乙女ゲームの始まらない学園生活に安堵と期待を膨らませて。
the end
最後までお付き合いありがとうございました。気分が乗ったら、学園編書くかもです。




