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     魔法使いの戦い方

 手下たちと訓練場に行くと、簡易防具と刃をつぶした剣や槍を用意して、ジョアキムたちが待っていた。

 同じくらいの人数を揃えましょうと言っていたとおり、百人近くいる。

「お待ちしておりました。お出でいただき、嬉しゅうございます」

「ああ。こちらも楽しみだ。ところで、例の男は連れてきたか」

 自殺未遂の馬鹿男のことだ。そいつも殴っておこうと思って、営倉入りしてるとかいうのを連れてこいと命じたのだ。

「はい。こちらに」

 ジョアキムが合図をすると、後ろに立っていた男が進み出てきた。

 俺に会うというので、急いで行水でもさせられたのだろう。頭はまだ濡れたままだった。頬に見事な青痣がついている。

 緊張し、蒼褪め、硬い表情だったが、それでもぴしりと立って、深く腰を折り、礼をした。

 なんだ。まだ死にたそうな顔してるかと思ったら、そうでもなかった。むしろ、殺されるのを覚悟している顔だ。そこに騎士としての気概が見えた。

「その顔の痣は、誰に付けられた」

 俺がモリナックにしたように、ジョアキムにでもやられたかと愉快に思って聞くと、ぴくりと下げられたままの肩が揺れた。俺は顔を上げるのを許していない。男は下を向いた状態で答えた。

「王子殿下の部下と言われる者にでございます」

 納得がいかない、と声が言外に言っている。

 その答えに、それまでの気持ちがすっと冷え、俺の中で、何かがふつりと煮え立った。

「カルディ、剣を寄こせ」

 視線は男に据えたまま、手を肩のあたりまで上げ、巻き上げた剣を持って後ろに控えているはずのカルディに催促する。

 待たされずに掌に載せられたそれを受け取り、俺は男の足元に放り投げた。地面をすべり、男の足先に当たって止まる。

「剣を取れ。おまえを最初に相手にしてやろう」

 俺は猛然と湧いてくる怒りにまかせて、啖呵を切っていた。


「誰か。殿下に防具と剣を」

 ジョアキムがいきなり始まった手合わせのために、用意を整えようとするのを遮る。

「いらん。俺は騎士ではない。さあ、剣を取れ。これ以上、俺を待たせるな、さっさとかかってこい!」

 男は屈んで剣を拾い上げた。顔が上がる。目が怒りに燃えている。剣は騎士の誇りだ。地に投げつけられたのは恥辱に違いない。

 低く唸るように男が言った。

「得物をお持ちください。騎士が丸腰の相手に剣を向けることはできません」

 俺は、くくっと笑った。

 いい目の色だ。やられる気でいる奴を(くだ)したって、面白くもなんともないもんなあ。

「言っただろう。魔法使いには魔法使いの戦い方がある。それとも、言い訳できないのが、怖いのか? 空手相手に負けたら、どうしようもないもんなあ。なあ、おまえは剣を巻き上げられて、なんと言い訳したんだ? 酔っていたから、盗賊あがりに油断したから、それとも、最悪と名高い王子に遠慮して負けてやったから、か?」

 男の顔が、怒りで赤く染まった。

 よしよしとほくそ笑みながらも、この程度の挑発でのってるようじゃ、高が知れていると呆れもする。

「そこまで言われるのなら。では、遠慮なく」

 男が鞘をはらった。剣を構える。

 俺も右足を引き、少しだけ腰を落として、構える振りをした。そうでもしないと、きっと、斬りかかりにくいだろうから。

 男の足元で、じり、と砂が軋んだ。ぐん、と男が近付いてくる。

 俺はそれを()けなかった。男の顔が驚愕に彩られる。男は慌てて剣の軌道を変えようとしているが、体全体から繰り出された勢いを、そう簡単に殺せるわけもない。

 振り上げられた切っ先は、俺の左肩へと向かってきた。それを、俺はそのまま受け止めた。

 ただし、刃に抉られはしない。意識を集中し、触れた先から、塵に還したのだ。

 勢い余って、男の体がぶつかってくる。その前に俺は男の腕を巻き込んで体をさばき、背負い上げて足元に叩き落してやった。

 次いで足で転がしてうつ伏せにさせ、動けないように背中を踏みつけてやる。

 よし。いい仕事をした!

 俺は大満足した。のだが。

「いやあああああああっ、ブラッド様!!」

 突然、女性の悲鳴が響き渡った。

 俺は驚いて声の主を探した。

 訓練場の端に、ロズニスが立っていた。その後ろには、ルシアンも。

 ロズニスは蒼白な顔で仁王立ちになって、詠唱を始めた。

「地に偏在せしもの。我が血にも流れしもの。我が愛しき鋼。我が呼び声に答えておくれ。……槍となって、敵を貫け!!」

 敵!?

「バカ! やめろ!!」

 俺はとっさに男の上に覆いかぶさり、球状に保護障壁を張った。

 ごそっと魔力が消費されていく感覚。目の前には先の鋭く尖った鋼が、天を目指して次々と地面から湧き出す光景が繰り広げられていて、ぞっとする。迂闊に解除できない。

 鋼の柱が林立し、その向こうはすでに見えない。どんどん増えて、(とど)まるところを知らないようだ。

 このままじゃ、駄目だ。他にもたくさん人がいるのだ。まだ鋼の先に犠牲者はぶらさがっていないようだが、そうなるのも時間の問題だろう。

 ああああああ、もう、世話のやける!!!!!

 またルシアンの前で気を失うのはさけたかったが、どうしようもない。

 俺は覚悟を決めて、保護障壁の範囲を広げた。

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