4/4
4
僕がどんなに棒を振っても、母には当たらなかった。
壁まで母を追い詰め、渾身の一撃と思って思いっきり角材をぶつけた。
大きな音と共に、壁に穴が空いた。
僕が狙ったはずの母はどこにもいなくて、壊した壁から夕陽がのぞいていた。
知らないうちに、僕の頬に涙が伝っていた。
角材は手から滑り落ち、膝をついて思いっきり泣いた。
何が原因で、何があったとか、そんな理屈ではない涙だった。
「本当はね」
さっきとは違う優しい声だった。
顔を上げてそちらを見ると、母が立っていた。
「本当は私も。そばで見てたかった」
泣いていた。
夕陽の横に立つ母の姿は、思い出よりもずっと美しかった
「あなたももちろん大事だった。でもその頃の私は、溺れて息ができない息子より、水に浮いて死んでいる夫を優先してしまった」
よく見ると、母の体から後ろの景色が見えた。
「ごめんね」
涙を拭って、母はこちらを向いて言った
「どうしても死なせたくなかった。生きていて欲しかった。だからひどいことも言った。ごめんね」
その言葉を最後まで聞いた時、僕の前に母はいなかった。
ここまで読んだならありがとうございます。
感想くれると今後の参考になります




