光と影?
クリステラの中央に、天まで届く水晶の塔が煌々と輝いている。
その輝きは闇夜を照らし、星々の瞬きさえ、かき消していた。
みな、長旅の疲れもあり、すやすやと寝息を立てている。
俺は一人、テラスに出て輝く水晶の塔を見上げた。
「あんな眩しいもんが、あったら遮光カーテンが必須だろ」
「スゴイでしょ。あの塔……」
テラスの柵に寄りかかっていると、隣にデュナンが歩み寄ってくる。
「わりぃ、起こしちまったか?」
「いや、僕も眠れなかったから丁度いいんだ。
あの塔はね、ここのクリスタル全体を輝かせるためのものなんだ」
「輝かせる?」
「ああ。水晶には魔除けの効果があるからね。
その輝きだよ――あそこに、僕の兄が眠ってる……」
光と影が交じる中、デュナンの表情はよく見えなかった。
「兄……そうなのか」
一呼吸置いて、デュナンが口を開く。
「僕のこと、いろいろ聞かないのかい?」
「ん……話したいのか?」
「そうだね。君になら、少し話したいかな」
「はっ、なんだよそれ……気持ちわりぃ」
「ははは……」
「このクリステラは、輝きの裏に陰がある。
この地域にはね、夜行性の魔蟲が地を這っていてさ。
クリスタルは――それを退けるためのものなんだ」
「まちゅう?」
「虫の化け物だと思ってくれればいいよ」
「なんで、そんな物騒なところに町を作ったんだよ……」
「魔蟲は、町の防衛代わりにもなるんだ。
ほら、耳を澄ましてみてよ……」
ズズズズズズ……
言われてみれば、大樹の下から何かが這うような、蠢くような、擦れた音が微かに聞こえてくる。
「それでも万が一があるから、ここの住民は夜は出歩かないのさ……」
「へぇ~、ならあれはいいのか?」
木板の回廊を、一人の少年が歩いていた。
「お~い! 夜は出歩いちゃダメじゃないか!」
少年がデュナンの声に反応した――次の瞬間。
バキッ、という音と共に、少年の足元の回廊が踏み抜ける。
……まずい!
俺は柵を乗り越え、駆け出した。
「うわ、うわぁぁぁあ!」
次第に少年の周囲の床板が崩れ落ち、少年の身体が地上へと投げ出される。
――ダメだ。指先が、虚空を掻いただけだった。
「仕方ねえ!」
そのまま、地上目掛けて飛び降りる。
――くっ、届け!
空中で少年を抱きかかえ、頭を守るようにして落ちていく。
視線の先で闇が蠢いている。
生き物の気配が、はっきりとこちらを向いた。
……あれが、魔蟲?
次の瞬間、デュナンの魔法で俺の身体を風が包み込み、宙に浮いた。
そのまま、回廊の上まで引き戻される。
「あ、ありがとう……」
少年は俺の腕の中で泣きながら礼を言った。
「いいってことよ。それより、ケガはないか?」
「う、うん!」
少年は力強く頷く。
「まったく、リョウカくんは……いつも無謀過ぎるよ」
「仕方ないだろ。体が勝手に動いたんだから」
「そうだね。キミは最初から、そういう人だ。
……だから僕は、キミに答えを求めてしまうのかもしれないね」
「なんだそれ」
デュナンの言葉の真意は、俺にはわからなかった。
「――道具屋のピーターだね。家まで送るよ。
リョウカくんは、先に寝ててくれ」
そう言って、デュナンは少年の手を引いた。
「デュナン兄ちゃん、ありがとう。
昼間に落とし物をして、探してたんだ。ごめんなさい」
ピーターと呼ばれた少年は、少し顔を伏せる。
「兄ちゃん……か。
そうだね、弟を助けるのが兄の役目だもんね」
デュナンは、少年の頭をくしゃりと撫でた。
「ふぅ……なんにせよ、あの子が助かってよかった。
ふぁ~……さて…俺は寝るかね」
背伸びをして、客間へ戻る。
✡
「ぐふぇっ!!」
突然、腹部への圧迫で目が覚めた。
「お寝坊さんは、いつまで寝てるのかしら……」
目を開けると、ミザリアが俺の腹の上に腰掛けている。
「おい、ミザリア……もう少し寝かせてくれ」
「そうね。寝ててもいいけど、このままじゃ――
このパーティー、いずれ解散するわよ」
珍しく、ミザリアは真顔で俺を見据えていた。
「……わかってるよ」
「そう。それならいいんだけどね。
みんなを繋ぎ止められるのは……あなたしかいないのよ」
「それも、わかってる……」
「ふふ。別に責めてるわけじゃないのよ。
……ごめんなさいね」
そう言って、ミザリアは誰もいない室内を見渡す。
「ミザリア……」
立ち上がろうとする彼女を呼び止める。
「もう少し、座っててもいいんだぜ?」
「ふっ、変態……」
軽い笑みだけを残し、ミザリアは部屋を去っていった。




