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せっかく授かったラッキースケベが思ってたのと違う〜授かった瞬間に裏切られた〜  作者: 那須 儒一
三章 逃亡編

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西へ南へ?

太陽がまだ寝静まる頃。

砂漠の町の彼方から、黒い影が静かに立ち上った。


「エアリー王女、昨日はご無礼を働き、申し訳ございませんでした」

アグリアスが、化け猫の姿となったネコショウの背に跨ったまま、深く頭を下げる。


「いえ、私の方こそ……立場を顧みず、皆様にご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございません」

 

……結果的に、俺たちが王女を匿ったことで、

ライザルド公は彼女を懐柔できなくなった。


「結局、どこへ向かうんだい?」

デュナンが地図を指しながら言う。


「ここから北西へ行けば貿易都市サナン。

西へ向かって少し南下すれば、僕の故郷――クリステラがある」

デュナンの故郷、か……少し気になるな。


「魔王を倒すなら、サナンから北方への船が出てるぞ」リザリーが真顔で、まっすぐ俺を見る。


「えっ……この状況で魔王討伐ですの?

というか、あなたにそんな目的があったんですのね?」


「カサンドラの意見はもっともだな。

魔王討伐は俺の“最終目的”だ。今すぐってわけじゃない」

  

「ただ、王都奪還をするにしても……王女様にやる気がなければ、担ぐ意味がないわよ?」

ミザリアの言葉に、俺は小さく息を吐く。


「……王都を取り戻す“大義名分”が要る、か」


エアリー王女は何も言わず、ただ俯いた。


「……じゃあ、クリステラはどうだ?

 デュナンの故郷ならいろいろ便宜を図ってくれるだろ」

俺の言葉にデュナンは「まぁ…」と

やけに歯切れの悪い返事をした。


「わかった。今回は多数決はしない」

アグリアスが、きっぱりと言い切る。


「クリステラへ向かう。その後は各自、おのが選んだ道を進めばいい」


――彼女は、騎士として。

奪われた故郷を、たとえ一人でも取り戻すつもりなのだろう。


それに比べて、俺はどうだ?

……攻撃力皆無の俺が、どうやって魔王を倒すんだよ。

拳を握りしめたが、答えは出なかった。



ネコショウの背中に乗っているだけの旅は、正直快適だ。

だが、空気はずっと重たいままだった。


西へ向かって一週間ほど進むと、景色は徐々に変わる。


砂は減り、緑が増え、やがて熱帯雨林が群生する地帯へ入った。


湿度が高く、肌がべたつく。

鼻を突くような、青臭い匂いが濃い。


「ここから少し南下すれば、すぐだよ」

デュナンが、ぽつりと呟く。

「……また、ここに帰ってくる羽目になるとはね」


やがて、木々の合間に光が差し込む。

目を凝らすと――光り輝く、透明な塔がそびえ立っていた。


「へぇ……綺麗だな。なんだ、あれ?」


「月並みの感想ね」

ミザリアが、意地悪そうに口元を緩める。


「なんだよミザリア、喧嘩なら買うぞ?」


俺たちが戯れてるとリザリーの警告が飛ぶ。

「……何か来る!」


次の瞬間。

風を纏った“何か”が、凄まじい速度で突っ込んできた。


「エアリー!!」

反射的にドレスの背を掴み、後方へ引き寄せる。


そのまま庇う形で、衝突――いや、受け流した。


「――なっ!?

 き、貴様!! なんてところを触っている!!」

ブロンドの短髪の少女が自分を抱きしめるようなポーズで全身に風を纏い、宙に浮いている。


革製の胸当てに、剥き出しのおへそ。

太腿まで覆う黒いスパッツ状の装束。

……非常に、見応えがある。


「お前ら、何者だ!!」


「ステラ、またシルフの真似事かい?」

デュナンが、呆れたように声をかける。

「“風精霊の舞い(シルフィード)”はマナ消費が激しい。君には向かない魔法だよ」


「……お前、デュナンか」

少女は睨みつける。


「私を捨てておいて、今さら何の用だ……」


「彼女はどなたですの?」

ミザリアが、にやにやとした笑みで尋ねる。


デュナンは頭を抱え、大きく溜息をついた。

「彼女は……僕が故郷に帰りたくなかった理由の、一つさ」

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