屋敷探索?
アグリアスは躊躇いもなく、木造校舎もとい、
俺たちの屋敷に足を踏み入れる。
続いて俺も屋敷へ入った瞬間――
床の板が不自然に軋んだ。
「なんだ、この床…妙に軋むな」
「あっ…待て、そこ――腐って……」
アグリアスの忠告も虚しく、
バキッという嫌な音と共に、俺は床板を踏み抜いた。
「うわぁぁっ!」
そのまま体が床下へと吸い込まれていく。
ボフッと、何か柔らかいものの上に落ちた。
期待させて悪いが、女性的なモノではない。
積み上げられた藁の山だ。
「いてて……思ったより深いな。ここ、地下室か?」
顔を上げて周囲を見渡す。
薄暗く、カビ臭い石レンガの室内。
錆びた鉄格子が扉代わりの小部屋。
広さは六畳一間。
藁のベッド、傷んだ木の机と――
牢獄に近いが、妙に生活感がある。
……なんで、屋敷にこんな不穏な部屋があるんだよ。嫌な予感しかしない。
観察していると、
正面の階段からカツ、カツ、と小気味よい足音が響いた。
「ここは大昔、騎士団の宿舎だったのだよ」
階段上からアグリアスが姿を現す。
「そして、ここは懲罰房。
規律違反者が閉じ込められていた場所だ……貴様の部屋に相応しいな」
「まったく……なんでこんな屋敷にしたんだよ」
「なにお!
貴様にはここのロマンが分からぬか!」
アグリアスは胸を張り、恍惚とした表情を浮かべる。
「歴史を感じる建造物、むさ苦しい騎士の臭い……堪らぬではないか」
――騎士の臭いってなんだよ。
そういえば、こいつは元々ゴミ屋敷に住んでたんだ。今さら、この程度のボロ屋敷なんて気にも留めないのだろう。
「まあいい。それより俺の部屋はどこだ?
先に荷物を置いておきたいんだけど」
「あぁ……それがだな……」
アグリアスは急に歯切れが悪くなり、モジモジし始める。
「……ん? どうした」
「すまない。居室の確認をし忘れていてな……
客間を含めても、部屋が六つしか無かった」
申し訳なさそうに頭を下げるアグリアス。
「六部屋あれば十分だろ!
俺、アグリアス、カサンドラ、デュナン、ミザリア、リザリー。ほら六人!」
「ネコショウを忘れてるぞ!」
少し怒ったような口調で返される。
「今まで通りでいいだろ。俺と同じ部屋で」
「な、何を言っている!」
アグリアスは声を荒げた。
「猫のつもりで扱っていたのは分かるが、ネコショウが少女と分かった以上、貴様と同じ部屋にさせるわけにはいかない!」
「今までだって一緒に寝てたろ。問題ねぇよ」
「問題大アリだ!
貴様のことだ、女性と分かった途端、
あんな事やこんな事をするに決まっている!」
「……俺の信用、地に落ちすぎだろ」
さすがに肩を落とす。
ただ、ネコショウが安心して暮らせるなら、それでいい。
✡
結局、俺の部屋は懲罰房に決定した。
ひどすぎる仕打ちだ。前科のせいか、庇ってくれたのはネコショウだけだった。
ここにきて、ラッキースケベのツケが回ってきたらしい。
その後、全員で部屋を確認しつつ、
長年積もった埃の掃除を始める。
玄関ホールには螺旋階段。
二階に居室が六部屋と、開けたバルコニー。
一階は厨房と食堂、談話室、大浴場に更衣室、それから倉庫。
地下は……俺の部屋(懲罰房)のみ。
この世界の価値観は分からないが、
この屋敷が一億Gするのは、どう考えても高い。
✡
掃除が一通り終わる頃、
裏手のガルザス剣山に反射した西日が屋敷を茜色に染めていた。
「お風呂が沸いたから、男どもから入りな〜」
ミザリアの掛け声に、デュナンが真っ先に反応する。
「さぁ、リョウカくん。入ろうか……」
なぜか頬を赤らめている。
「嫌だ……」
露骨に下心を感じる。
「なんでよ! 入りなさいよ!」
ミザリアは腰に手を当て、母親のような口調で叱る。
「さぁ行こう。めくるめく男の園へ……」
デュナンが強引に俺の足を引っ張った。
「ぎゃー! やめろー!」
その瞬間、ラッキースケベのスキルが発動。
俺は一切の抵抗もできず、
デュナンと共に熱い湯船へと誘われる。
大浴場はかなり広い。
四方に並ぶドラゴンの石像の口から、大量のお湯が噴き出している。
「……大浴場だけ、無駄に凝ってるよな」
アグリアスの話では、どうやら昔の騎士団は、
風呂にだけは異様な情熱を注いでいたらしい。
「リョウカくん……」
突然、デュナンが寄りかかり、首元に息を吹きかけてくる。
「ぎゃー! 離れろ!」
デュナンの赤く染まった頬、湿ったミント色の髪、泣きぼくろ。なんだ、こいつ…やたらと色気がある。
ダメだ。
このまま見つめられたら、違う扉が開いてしまう。
既にラッキースケベの効力はフル稼働だ。
「僕、もう……」
そう呟いたデュナンは、その場で意識を失った。
どうやら完全にのぼせたらしい。
「なにやってんだよ、まったく」
慌てて湯船から引きずり出し、
いろんな意味で事なきを得た。




