第三百四十三夜 おっちゃんと琥珀糖投資
翌日、フェリペがやってきたので答える。
「ええで。おっちゃんに、ちゃんと分け前をくれるなら、琥珀糖樹液を取りに行こうか」
フェリペが顔を輝かせる。
「そうか。なら明日にも行こう。琥珀糖樹液を出す樹はモルモル村の少し奥にあるから、準備を怠らずにな」
翌朝、おっちゃんはフェリペとモルモル村に向かった。モルモル村に着く。フェリペはモルモル村にある一軒の家に行った。
家には、幾つも竈があり、鍋が用意されていた。アロソンと作業員も待機していた。
フェリペが自慢げに語る。
「ここが俺たちの琥珀糖工房になる」
「なるほど、モルモル村まで樹液を運ぶ。そんで、村で煮詰めて濃縮して琥珀糖にして街に持っていくわけか」
設備は本格的なものではなかったが、かなり金が掛かっていた。
「琥珀糖事業はフェリペはんの発案か。結構な金が掛かっているようやけど、大丈夫か?」
フェリペが得意げに語る。
「金を出している人間は俺だけじゃない。解呪組合に反対する人間の有志も、出資している。それと、『七日市』が不透明になったので、新たな産業が欲しい村も出資している」
「これは、かなり大掛かりやな。失敗したら大勢に迷惑が掛かるな」
フェリペが苦い顔をする。
「そうなんだ。これは、俺にとっても大博打だが、大勢の人間の生活が懸かった博打なんだ。だから失敗したくない」
「責任重大やな。おっちゃんも、できる限り手を貸してやるわ」
翌日、アロソン、フェリペ、おっちゃんで象に乗って琥珀糖の木がある場所を目指した。
モルモル村から二時間ほど行った場所に白い木の林があった。
アロソンが樹木を見て声を上げる。
「あった、琥珀糖の木だ。おっちゃん、この中に呪われた木はあるかい?」
おっちゃんはざっと木を見る。
「とりあえずは怪しい木はないの。後は採取する穴を空ける木を一本一本、見ていこうか」
木を確認しながら、小さな穴を空ける。
透明な液体が中からちょろちょろと出てくる。
舐めてみると、樹液は甘かった。
「甘いな。これを煮詰めたら、砂糖の代わりになるな」
フェリペとアロソンが顔を見合わせて喜ぶ。
おっちゃんたちは次々に木に小さな穴を空けてバケツを設置していく。
すると、既にバケツが設置された木があり、アロソンが首を傾げた。
「あれ? この木にバケツが設置されている。さっき仕掛けたっけ?」
おっちゃんがバケツを覗くと、バケツの中には半分ほど樹液が溜まっていた。
「いや、これは他の人間が仕掛けたバケツや」
「なんだ、こりゃ」とフェリペが叫ぶ。
いってみると、樹にはすでに多くのバケツが仕掛けられていた。
おっちゃんがバケツの中を覗くと、どのバケツにも樹液が貯まっていた。
「あかん。これは既に誰かが採取事業を大規模にやっとるで」
アロソンが表情を曇らせる。
「まさか、解呪組合のやつらかな?」
フェリペが眉間に皺を寄せて答える。
「それはない。俺たちはちゃんと権利関係を調べて事業に乗りだした。モルモル村近郊の琥珀糖の木は俺たちのものだ」
おっちゃんは地面を見て気が付いた。
「これ、蟻人の足跡やで。ここは蟻人の琥珀糖の採取所や」
アロソンが青い顔をして、フェリペが苦い、心底、困った顔をする。
「まずい事態になったぞ。でも、ここまでモルモル村に近い場所まで蟻人が進出してきているなんて、聞いてないぞ」
おっちゃんの耳が蟻人の足音を拾った。
「蟻人が来たで。どうする? ダメ元で交渉してみるか?」
「悪いが、頼む」
おっちゃんたちが待っていると、杖を持ってボロ布を纏った蟻人が十人の蟻人と共に現れた。杖を 持った蟻人が前に進み出る。
「儂の名はギッシャ。我々の採取林で、なにをしている」
「わいは、おっちゃん。この村の採取林の権利を主張する人間の代理や」
ギッシャが表情を歪める。
「この採取林は我らが貰う。邪魔立てすれば、戦いも辞さない」
「待ってくれや。ここは人間の村の近くや。こんな村の近くまで縄張りを主張されたら、人間とぶつかるで」
ギッシャが傲然と発言した。
「残念だが、止むなしだ。我々には、採取林が必要なのだ」
「もしかして、こんな人間の近くまで採取林を拡げたのと、『七日市』に来なくなった状況には、関係があるんか? 人間側では不審がっておったで、前回の『七日市』に来なかった態度を」
ギッシャが敵意のある顔で告げる。
「人間との蜜月の関係は終わった。これからは我々が生きていくために、争わなければならない時代に入ったのだ」
「まあ、そうかりかりしなさんな。蟻人はんの街でなにが起きたか、教えてくれへんか。場合によっては、協力もできるやろう」
ギッシャが険しい顔で突っぱねる。
「無理だ。人間には我々の問題は解決できない」
「それは話してもらわんとわからん。ただ、猿人はんも村で問題を抱えていた。せやけど、話してくれたから解決できたで」
猿人の話を出すと、ギッシャの態度が軟化した。
「我々の主な食糧は琥珀糖樹液だ。だが、密林の琥珀糖の木で異変が起きている。琥珀糖の木が魔物化した。魔物化した琥珀糖の木の樹液が酸っぱくなった。酸っぱくなった琥珀糖の木の樹液を吸った同胞が次々と動けなくなっていった」
「なるほど、そんで安全な琥珀糖の木を求めたら、人間の村の付近まで出てきた訳か。よっしゃ、なら、動けなくなった同胞を助けたる。そんで、蟻人はんの領内の琥珀糖の木を元に戻せたら、村の周辺の琥珀糖の木からは手を引いてくれるんやな」
ギッシャが馬鹿にしたように口にする。
「そんな所業が可能ならな」
「なら、これから村に戻って、対策を考えるわ。だから、村に動けなくなった症状の者を一人と、連絡要員を一人おいてくれ」
「わかった」とギッシャは素っ気ない態度で答えた。
おっちゃんはアロソンとフェリペの許に戻って伝えた。
「蟻人はんも問題を抱えとる。主食の琥珀糖の木が危機に瀕しておるんや。これを放っておったら、モルモル村が危ないで」
フェリペが緊迫した顔でねる。
「村が危ないって、どうするんだよ?」
「どうにかするしかない。手を拱いていれば、ここは紛争地帯になるで」
おっちゃんたちは、モルモル村に一度、帰った。




