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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
アルカキスト編
342/548

第三百四十二夜 おっちゃんと琥珀糖樹液

 おっちゃんはモルモル村に戻り、猿人たちが操る飛竜に乗って猿人の街に移動した。

 寝たきりになっている酋長を前に『上位解呪』の魔法を唱える。


 魔法を唱えると、おっちゃんは、かなりの疲労を感じた。

(この魔法は結構、体に負担が掛かるな。一日一回が限界やな。二回も使こうたら、他の魔法が、ほとんど使えん)


 おっちゃんの魔法が効果を現すと、猿人の酋長は起き上がって機嫌よく答えた。

「頭の中の霧が晴れた。体も軽くなり、元に戻った。礼を言うぞ、おっちゃんよ」

「元気になれて、よかったですな。そんで、『七日市』の件やけど、どうします?」


 酋長は力強く請け負ってくれた。

「次の『七日市』からは、また交易をしよう」


 その晩、おっちゃんはフェリペと一緒になって接待を受けた。

 翌日、薬草の束をお土産に、モルモル村に帰還する。村に残っていた商隊長に報告する。

「フェリペはんと一緒に戻ったで。猿人の酋長も次の『七日市』には復帰すると確約してくれた」


 商隊長が安堵した顔をする。

「復帰してくれるか。それは良かった。これで俺たちも、大事な商売を続けられる」


 商隊長は不安な顔をして続ける。

「それで、解呪代はいくら掛かった」

「今回はゴルカはんが特別に安くしてくれた。金貨十枚でええよ」


 商隊長は驚き、感激した。

「そんなに安くていいのか。てっきり、金貨百枚くらいは吹っ掛けられるかと思ってドキドキした」


 薬草の束を持ってアルカキストに帰還する。

 フェリペの店に薬草を納品して冒険者ギルドにおっちゃんは戻った。


 三日後、解呪組合と反解呪組合の有志による、抗疲労薬の販売会が行われた。販売会はちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。市民たちが栄養ドリンク感覚で抗疲労薬を楽しむ姿が見受けられた。


 街の人の評判ではどちらもそれなりに美味しく効いた、との評判になった。結果として、水が汚染されている問題は気のせいとして処理された。

(解呪組合のやつら、汚染された解呪の泉から、急いで呪いの品を引き上げたな。おかげで、水の汚染も止まった。守秘義務があるから教えられんのが辛いな)


 おっちゃんは酒場でエールを飲んでいた。冒険者と給仕のやり取りが聞こえてくる。

 冒険者が驚き尋ねる。

「なんだって? アルカ・カクテルがそんなにするのか!」


 給仕が申し訳なさそうに答える。

「砂糖の値上がりが激しくて、もう、銅貨五十枚を頂かないと出せないんですよ」


 おっちゃんは近くにいた給仕に尋ねる。

「この辺りでは、ラム酒に砂糖を入れて飲むの?」


 給仕が冴えない顔で告げる。

「熱いラム酒に砂糖を大匙四杯、それに植物油を少量加えた飲料はアルカ・カクテルと呼ばれているんですよ。秋から冬にかけて飲まれています。最近は砂糖の値上がりが酷くて価格が高騰していますけどね」


「庶民の娯楽が消える状況は寂しいな」

 給仕が肩を竦めて、寂しそうに語る。

「全くです。お菓子屋に勤めている知り合いがいるんです。知り合いが愚痴っていました。値上げせねばならず、まともにお客さんの顔を見られなくなったと」


 おっちゃんは外に出た時に、砂糖の値段を確認する。砂糖は三倍以上に値上がりしていた。

水飴や果実も値上がりしていた。

(甘い物が悉く値上がりや。アルカキストっ子って甘い物が本当に好きなんやな)


 その日の午後に、アロソンがフェリペを伴っておっちゃんを訪ねてきた。

 アロソンとフェリペはおっちゃんを密談スペースに誘う。


 フェリペがほがらかな顔で口を開く。

「今日は儲け話を持ってきた。今、砂糖が値上がりしているだろう。実は密林には、甘い樹液を出す木が生えている。地元で琥珀糖と呼ばれている。琥珀糖樹液を採取して儲けようと思うんだが、乗らないか?」

「木から糖が取れたら、儲かるやろうね。でも、なんで、おっちゃんに話を持って来るん?」


 アロソンが真摯な顔で頼んだ。

「それが、琥珀糖樹液を出す木が呪いの影響で魔物化しているんだよ。そこで、おっちゃんに護衛をして欲しい。また、おっちゃんなら危険な呪われた木もわかるだろうから、目利きをお願いしたいんだ」


「あまり気が進まんなあ。砂糖くらい、我慢したらええんやないの」


 フェリペが冴えない顔で告げる。

「そう渋らんでくれ。アルカキストっ子にとって、甘味は命なんだ。糖がないと暴動が起きる」

「そんなオーバーな。砂糖ごときで暴動なんて」


 フェリペが弱った顔で縋る。

「頼むよ。琥珀糖樹液の採取を手伝ってくれよ。解呪組合の人間を仲間に入れたら、全部の利益を持っていかれちまう」

「わかった。とりあえず一日だけ考えさせて」


 フェリペとアロソンが帰ったので、暇を見てテレサに話し掛ける。

「テレサはん。アルカキストっ子にとって砂糖ってなに?」


 テレサが少しだけ考える仕草をして答える。

「アルカキストっ子にとって、砂糖は大事よ。アルカキストっ子にとって砂糖は冒険者にとってのお酒みたいなものね。ないと立ち行かないかしら」

「そんなに大事なん? たかが砂糖やで」


 テレサが穏やかな顔で告げる。

「おっちゃんは知らないけど、アルカキストの代官は昔は四つの組織が持ち回りで選出していたのよ」

「あれ? 今は、三組織やね。一つ消えたんか?」


 テレサが脅かすような顔をして発言する。

「そう。その原因がね、砂糖に税金を掛けようとして、猛反発した街の人間の恨みで消えたのよ」

「そんな歴史があるんか。砂糖の恨みで権力者が消えるとはなあ」


 テレサが首を竦めて発言する。

「そう。だから『砂糖が上がると支持は下がる』って言葉が、この街にはあるわ。きっと糖分が少なくなって切れやすくなって、政情不安になるのよ」

(たかが甘味と思って、馬鹿にできんな。代替品の甘味でも、ないよりあったほうがええかもしれん)


【書籍化します】 第一巻が2018年2月23日に、HJノベルスより発売予定

         三巻までは出る予定です。

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