表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ポルタカンド島編
314/548

第三百十四夜 おっちゃんともう一つの島

 翌朝、冒険者ギルドに顔を出すと、アルティが元気よくやってきた。

「おっちゃん。昨日、島に上陸した冒険者さんの話だけど、あれは、ダンジョンなんだって」


「そうやね。『海洋宮』って呼ぶらしいで。ターシャはんが教えてくれた。街ではダンジョン出現による混乱を見越して、対策室が設置されたで」


 アルティが浮き浮きした顔で告げる。

「そうなんだ。冒険者さんが、たくさん来るのかな」


「あんな、これ、おっちゃんの予想なんやけどな。ダンジョンがやって来たことで、アルティはんたちの生活も大きく変わるで。おそらく、冒険者ギルドの株を売って欲しいと頼まれると思う」


 アルティが驚いた。

「ウチを買い取るって話なの? そんな、酒場を売る気は全然ないよ」


「酒場はそのままでええねん。冒険者ギルドを営業する権利を売って欲しいねん。冒険者が大量に来れば、酒場のマスターとの兼任では仕事が廻らん」


 アルティが渋い顔をする。

「確かに、ウチのお父さんはギルドの仕事をほとんどしないからな」


「お父さんの性格はよくわからん。せやけど、これから先は荒くれ者の手綱を取らんといかん。政治的な判断もできないと都合が悪い。お父さんにできるか?」


 アルティの表情が沈む。

「無理かな。でも、冒険者ギルドとしてずっとやってきたから、売る決断は抵抗があるな。冒険者ギルドの権利を他人に渡したくないな」


「生活が変わるのに抵抗がある心情はわかる。せやけど、冒険者ギルドは皆のギルドや。ダンジョンができて、求められる役割が変るなら変革も必要になる。近いうちに、きっと判断を求められるで」


 アルティが、しんみりした態度で発言する。

「そうか。ダンジョンができて、いい話ばかりじゃないんだね」


 おっちゃんは冒険者ギルドで朝食を摂ると、領主の館に行く。

 領主の館の一室には《海洋宮対策本部》の看板が上げられ、ターシャが官吏に指示を出していた。


 ターシャが書類を片手に、てきぱきと指示を出す。

「おっちゃん、ちょうど良かったわ。冒険者ギルドに話に行ってちょうだい。用件はギルドの株の譲渡よ」


「今、ギルドの株の話をしてきましたけど、少し時間が掛かりそうでしたわ。ただ、絶対に売らんと拒否する態度ではなかったです。七日も待てば結論は出ると思います」


 ターシャの機嫌は良かった。

「そうなの。気が利くわね。あと一つ、お願い。どうやら、ここの近海にも大きな島が出現したらしいの。こっちは位置を定めずに海を漂流しているわ」

「もしかして、双子のダンジョンなんでっか?」


 ターシャの顔が、にわかに曇る。

「そうかも知れない。違うかも知れない。これが、ダンジョンか『島魚』なら問題よ。確認が必要なの。確認に行ってもらえる? 」

「でも、ダンジョンなら、中に入りたくないな」


 ターシャは軽い調子で話す。

「いいわよ。入らなくて。一人でダンジョン入れだなんて、自殺行為もいいとこよ。ダンジョンは覚悟を持った大人が大勢のチームで挑む場所よ」

「わかりました。ほな、それでいいなら調査してきますわ」


 おっちゃんは漁師に移動する島の情報を聞く。

 移動する島はポルタカンド島から南東に十㎞ほど行ったところで目撃した、とする目撃情報が多かった。


 おっちゃんは海中で魚人に変身して、海中から移動島を探した。

 目撃地点と思わしき場所で重点的に捜索をする。何もない海をひたすら泳ぐ。すると、遠くに点が見えた。なんや、と思って近づく。


 海に浮かぶ移動島を発見した。海中から島に近づくと、島には大きな目が二つついていた。

(ほんまに、いたで。『島魚』や。全長は、三百mはあるの)


 おっちゃんは会話を試みた。だが、相手にしてもらえなかった。

(これはあれやね。会話をしたくないんやなくて、おっちゃんが小さすぎて見えてないね)


 おっちゃんは海水パンツを脱ぐと、持てる力を振り絞って大蛸に変身した。

 大蛸の全長は八m、おっちゃんが今まで変身した中で最大の大きさだった。


 大蛸になって『島魚』の前でアピールを繰り返すと、『島魚』が止まった。

『島魚』が停止して浮上したので、おっちゃんも大蛸の姿で海面に上がる。


「あの、言葉は、わかりますか?」

「わかるわ」と『島魚』は女性の声で喋った。


(なんや、『島魚』も話せるんか。これは、手間が省けた。ええね)

「よかったら、教えて欲しいんやけど、『島魚』さんはこの近海になんの用があって来たか、教えてもらってええですか? 人間たちが『島魚』さんの動きを気にしているんよ」


『島魚』は、素っ気なく答える。

「私はただ単にこの海域まで来たから観光をしているだけよ」


(ほんまか? ほんまに観光が目当てなんか、ちと怪しいで。でも、正直に聞いても、はぐらかされるだけやろう)


 おっちゃんは控えめな態度で頼む。

「そうでっか。なら、ええけど。人間にはちょっかい出さないでもらえれば、嬉しいんやけど」


『島魚』はなにかに気が付いたように言う。

「ああ、そうか。人間になればいいのか」

(はあ? なんで、そんな結論になるんや? 話が噛み合っておらんやろう)


 おっちゃんが意見する前に、『島魚』が動いた。

『島魚』の体がみるみる小さくなり、背の高い女性サイズになった。『島魚』は若い女性の姿になり海面に立った。


 人間の姿になった『島魚』は亜麻色の髪を腰まで伸ばし、色白で青いワンピースを着ていた。

『島魚』が人間になった姿を、まじまじと見る。

「こんな、ところかしら。さて、島に行ってみようかしら」

「わあ。待ってください」


 おっちゃんも人間の姿に戻って、手にした海水パンツを穿く。

『島魚』がおっちゃんをきょとんした顔で見る。

「あら、蛸さんも人間になれるのね」


「ええ、なれますよ。むしろ、人間のほうが本当の姿ですねん。おっちゃんと名乗って、人間の姿で、冒険者をやっております」


『島魚』がのほほんとした顔で訊いてくる。

「そうなの? それで、まだ何か用なの?」


「『島魚』さんは人間の姿になりましたけど、そのまま海を歩いて、人間の島まで行くつもりでっか?」

「そうだけど、おかしい?」


「人間は海の上を歩きまへん。そのまま歩いて行ったら、怪しまれまっせ。よろしかったら、怪しまれんようにおっちゃんが街まで送りましょうか」

「そう。なら、お願いしようかしら」


「ほな」と『島魚』のワンピースの裾を掴んで『瞬間移動』を唱え、宿屋の部屋に戻った。

 宿屋の部屋に到着すると、『島魚』は部屋を見回す。

「小さいけど、中々趣味のよい部屋ね」


「おっちゃんが借りている宿です。他に同居人が一人いますが、よかったら、この宿屋の部屋を同居人と一緒に使いませんか?」


『島魚』は穏やかな顔で訊いた。

「別に私はいいけど、同居人って誰?」

「『島魚』さんのように正体を隠している、『嵐鳥』ですわ」


『島魚』は、気楽な調子で応じた。

「へー、そうなんだ。別に私は、気にしないわよ」


『嵐鳥』の部屋に行く。『嵐鳥』に、『島魚』さんと同じ部屋を使ってくれないか頼む。

「私も居候だからゴタゴタいわないよ。よろしくね」

『嵐鳥』は嫌がらずに了承してくれた。


(『嵐鳥』に『島魚』、どちらか一方でもでればポルタカンドが危ないと伝えられとる。なのに、両方が同じ島の宿屋にいるって、大きな爆弾を抱えたようなものやな。せやけど、しかたらあらへん)


 二大怪獣が近くにいる状況にあまりいい気はしなかった。人間に知られれば大事になる。だが、現時点で、他に良い解決策は思い浮かばなかった。

 おっちゃんは取りあえず、フロントに宿泊客がもう一人、増えた事実を報告しに行った。

『島魚』には、街ではランドさんと名乗ってもらう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ