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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ポルタカンド島編
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第三百十夜 おっちゃんと『嵐鳥』(後編)

 おっちゃんは『嵐鳥』と向き合った。

「すんまへんな、騒々しくて。さっきから見ていて思うとったんやけど、『嵐鳥』さん、どこか体の調子がおかしいんと違いますか? 症状を話してくれたら、薬を取ってきましょうか?」


 おっちゃんの言葉に『嵐鳥』が目をゆっくりと開き、じっとおっちゃんを見る。

「なんでしたら、栄養のあるもんを獲ってきてもええですよ。こっちの立ち退きの話は『嵐鳥』さんが元気になってからで、ええです。まずは状態を教えてもらえますか」


『嵐鳥』が女性の声で語った。

「どうも、春の終わりから夏に掛けて、体調が優れないのよ。疲れやすくなったっていうか。気力が出ないのよ。とにかく、体調が悪いわ。しかも、疲れているのに、眠れもしないのが辛いわ」


 ターシャが悠然と構えて発言する。

「なんだ。体調が悪くてずっと島で休んでいて、移動しなかったのね。いいわ、診察してあげるわ。これでも、医術の心得があるの。体に上がらせてもらうわ」


 ターシャは身軽に『嵐鳥』の体に昇ると、頭を触ったり首を触ったりする。

「目を開いて、舌を出して」と、てきぱきと診察していく。最後に、なにかの魔法を唱える。


「わかったわ、体内の気が乱れているわ。体内を流れる水の動きも、悪くなっている。黙っていても治るけど、これは外から気の流れを正してやらないと、しばらく掛かるわよ」


「気の流れが悪いんか。ほな、『バルバラ』を喰うたら治るかもしれんな。半魚人はん、『バルバラ』を獲ってきてや」


 黒い半魚人の一人が怒る。

「なんで人間の指図に、俺たちが従わなければならないんだよ」


「おっちゃんを怒らんといてや。『バルバラ』が必要なんは、『嵐鳥』さんや。おっちゃんたちは知恵を出して解決法を示した。なら、半魚人さんが汗を流してもええやん」


 黒い半魚人が黙ったので言葉を続ける。

「『嵐鳥』さんに立ち退いほしいんでっしゃろ? それなら、頭を下げるほうが、立ち退き料を払う。当然の行動やと思うけどな」


 赤い半魚人が不承不承の顔で発言する。

「『バルバラ』を持ってきたら、立ち退いてくれるのか?」


『嵐鳥』が不機嫌に述べる。

「『バルバラ』とやらで良くなるならね」


 赤い半魚人は決断した。

「わかった。『バルバラ』を獲ってこよう。ここで、退け、退かない、の言い合いをするより、よほど建設的な案だ」


 半魚人たちが海に戻って行った。半魚人たちがいなくなると、『嵐鳥』は誰にいうでもなく、発言する。


「断っておくが、私は生の魚は食べないよ」

「調理が必要なんか。料理人を呼ぶわけには、いかんしの。ターシャさんは、『バルバラ』を調理できる?」


 ターシャは冴えない顔で発言する。

「私だって、魚を捌くくらいできるわよ。でも、特殊な調理法が必要なら無理よ」


『嵐鳥』が元気なく発言する。

「不本意だが、この倦怠感(けんたいかん)を終わらせるためなら、私が人間の姿になって街に行こう。そこで、人間に、バルバラを調理させていただくとしよう」

「そうしてくれると、助かりますわ」


 しばらくすると、半魚人たちが魚籠に入れて、バルバラを五匹、持って来た。

 おっちゃんがバルバラを受け取ると、『嵐鳥』が人間に姿を変える。


 嵐鳥は紫の髪と眉を持ち、ピンクのジャンプスーツに赤のブーツといった服装の三十代女性だった。

 ターシャがポシェットから空飛ぶ絨毯を出して、三人でポルタカンド島に帰った。


 ポルタカンド島に着くと、そのままレストランに移動した。

 おっちゃんは年配のウェイターに『バルバラ』を渡して頼む。

「調理代を払うから、これで火の通った『バルバラ』料理を作って」


 ウェイターが使用人を呼んで五匹のバルバラを厨房に運ばせる。

 テーブルで待っていると、まず、鍋が運ばれてくる。


『嵐鳥』は警戒して匂いを嗅いだ。問題ないと判断したのか、嵐鳥は一口を口に入れる。

 美味しかったのか、『嵐鳥』はがつがつと『バルバラ』を平らげる。ほどなくして、バルバラは『嵐鳥』の腹に収まった。


「腹が膨れたら、眠くなった」と嵐鳥は、とろんとした瞳で話す。

 勝手にそこら辺で寝られたら困る。おっちゃんの部屋は本来は四人部屋。二人用のベッドルームが二つある。


 おっちゃんの部屋に『嵐鳥』を移動させた。ベッドに移動すると嵐鳥はすぐに(いびき)を掻いて眠った。


 ターシャが呆れた顔で発言する。

「体が必要としている栄養を摂ったから、睡眠を欲したのね」

「ターシャはん。『嵐鳥』さんの体調不良って、一日で治るもん?」


 ターシャが難しい顔で告げる。

「おそらく、バルバラを食べて眠ってを繰り返しても、七日は掛かるわね」

「七日でっか! これは、大変やな」


 おっちゃんは宿屋に宿泊人数の変更を伝える。

 毎朝早くに半魚人の村の魚屋に行き、『バルバラ』を買いに行く。


 半魚人の村では毎朝、一匹は入荷があるので、予約を入れておく。

『バルバラ』を買って帰ってくる生活を七日間に亘って続けた。

「雛に餌をやる親鳥の苦労が、わかるな」


 五日目に『嵐鳥』は起きる時間が出てきた。さすがに貰ってばかりでは悪いと思ったのか『嵐鳥』はターシャの生態調査に協力する。


 こうして、おっちゃんの苦労の末に、ターシャは調査対象に直接に聞き取りができた。ターシャは貴重な「『嵐鳥』の生態に関して」と題する短い論文を書き上げた。


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