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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ポルタカンド島編
308/548

第三百八夜 おっちゃんと北方賢者の弟子

 翌日、おっちゃんの許にロロによって金貨二枚が届けられた。

 ロロは控えめな態度で申し出る。

「支払いだけど、一回に金貨二枚の二十一回払いにしてもらえないだろうか」

「ええよ。返済は無理せんといて。おそらく、まだ三十日くらいは島におるから」


 おっちゃんは数日ぶりに冒険者ギルドに顔を出しにいく。

 アルティが申し訳なさそうな顔で切り出す。

「御免なさい。島の漁師のために危険な仕事を引き受けてくれたのに、冷たくしたりして」


「なあに、気にしなさんな。狭い島なら付き合いも大事やろう。それに、おっちゃんは大人や。人生の酸いも甘いも知っとる。苦いのも知っとるけどな」


 アルティがおっちゃんの前に椰子酒を置き、思いつめた顔で語る。

「今回の件でわかったわ。ここは冒険者ギルドなんだもの。なにかあったら、冒険者さんを守らなければいけなかったのよ。でも、私にはそれができなかった」


 おっちゃんは椰子酒のカップを片手に語る。

「冒険者の側に立ってくれれば嬉しい。でも、無理はあかん。ここは皆のギルドや。時には一部の冒険者に冷たくせないかん時もある。冒険者かて、長くやっていればわかる話や。一々根に持っていたら、冒険者なんかできへん」


「優しいんだね。おっちゃんは」


 照れ隠しに外を見ると、また風が強くなってきていた。

「なんや、また、強風か? ポルタカンド島って、夏は風の強い日が多いんか? これやと漁に出られんやろう」


「夏から秋にかけては、強風も大雨もめったにないのがポルタカンド島よ。やっぱり、『嵐鳥』や『島魚』がいるのかもしれない。先の大嵐の時にも『嵐鳥』や『島魚』を見た人がいるもの」

「そんな災害級の存在が近くにいるのなら不安やな」


 アルティが心配そうな顔をする。

「どちらか一方でも出れば、島は立ち行かないと伝えられているの。なのに、両方が同時に出たら島は終わりよ」


 翌日、翌々日と、風が強く、波が高く、霧雨が降るなどの悪天候が続いた。

 漁に出られない状況が続くと、街の漁師たちは大いに困った。だが、天候が相手ではどうすることもできなかった。


 晴れた日が三日ぶりに来る。漁師たちが漁に出て市場に魚が戻った。

 定期船も港に停泊した。


 おっちゃんの許に呪われた民の青年であるリベロがやってきた。リベロとロビーで会う。

「こんにちは、団長。今日はセバル族長から、手紙を預かってきました」


 おっちゃんは、セバルからの手紙を読む。

 内容は使用料を払うので、おっちゃんの所有している船をマサルカンドとポルタカンドの間を行き来する貿易船として使いたい、との話だった。


「用件はわかったで。船を遊ばせておいても、維持費だけ掛かるから、セバルはんが好きに使ってええと教えてあげて。そんで、利益を上げたら国を作る土地代に充てたらええ」


 リベロは深々と頭を下げる。

「そう仰っていただけると助かります。では、領主のパルダーナ様と商談を詰めてきます」


 リベロが帰って行くと、入れ違いで変わった格好の女性が宿屋に入ってきた。

 女性の年齢は二十歳くらい。身長は百五十五㎝。肩まで伸びる金色の髪を持ち、白い肌をしている。赤いキャスケットを被り、白とピンクのゆったりめのジャケットとズボンを穿いていた。


 靴はここらへんで珍しい茶の布靴を履いている。旅行者なのか金属製のキャリーバッグを引き、肩からポーチを提げていた。

 女性が宿屋のフロントで金貨を払いチェックインする。


(見慣れん格好の女性やな。どこかの金持ちのお嬢さんやろうか?)


 おっちゃんは時間を潰すために、冒険者ギルドに行く。

 街の人と適当に飲んでいた。すると、先ほどの女性が入ってきて、冒険者ギルドの中を真剣な顔で見回す。奇抜な格好は他人の目を引くので、酒場中の人間が女性に興味を示した。


 女性はアルティに声を掛けた。

「私の名前はターシャ。サバルカンドの魔術師ギルドの魔術師よ。このポルタカンド島で調査するための助手が欲しいわ。気配りができる冒険者を一人お願いするわ」


 アルティが微笑んで訊く。

「調査ってなんの調査でしょうか?」


 ターシャが気丈な顔で告げる。

「決まっているわ。この時期、ポルタカンドでの調査といえば『嵐鳥』と『島魚』よ」


 調査対象が『嵐鳥』と『島魚』と聞き、酒場中の人間が関わり合いになりたくないと思ったのか顔を背ける。

 おっちゃんだけが顔を背けそびれたので、ターシャと目が合った。


 ターシャがずかずかと、おっちゃんの前に進んでくる。ターシャはおっちゃんを値踏みするように見てから、声を上げる。

「決めたわ。貴方は冒険者でしょ。名前は、なんていうの?」

「わい? わいは、おっちゃん。冒険者やけど。学問的な知識はないよ」


「いいのよ。おっちゃんにはなくて、私にあれば。どう、私の助手をやる気は、ない? 日当は一日で銀貨二十枚よ。悪い条件じゃないと思うわ」

「え、や」と辺りを見回すと、全員がおっちゃんとターシャに背を向けていた。


 ターシャは、なぜか勝ち誇ったように口にする。

「これで決まりね。貴方は明日から私の助手よ」

(なんか、勝手に決まったで)


 ターシャは椰子ジュースを注文すると、おっちゃんの横の席に座った。

「私の名はターシャ。かの有名な北方賢者の弟子の一人よ」


 おっちゃんの頭に「???」の文字が浮かぶ。おっちゃんは聞き間違えたと思って確認する。

「東方賢者、西方賢者、南方賢者やなくて、北方賢者さんのお弟子さんですか?」


 ターシャが険しい顔をして、詰問調で話す。

「おっちゃんは冒険者でしょ。知らないの? あの、救世の賢者と呼ばれる北方賢者の話を」

「いやあ、よく知っているような。よく、知らないような、どんな方ですかね」


 ターシャが得意げな顔で語る。

「六つ都市を救い、ハイネルンとの戦争を回避。異種族との融和を進めるバサラカンドにおいては、大きな村を興し、呪われた民を救う。謎の巨大島の秘密も解き明かした偉人よ」


(これ、完全におっちゃんの業績やね。間違ってへんけど、弟子なんて取った覚えはないよ)

「そうでっか。でも、北方賢者さんが弟子を取った話を聞いた覚えはないですよ」


 ターシャが、したり顔で告げる。

「北方賢者に弟子はいない。でも、それは違うわ。彼の業績を知り、彼に学びたいと思う者の全てが弟子なのよ。私は彼の書物を二十冊近く読んだけど、凄い人物よ」


(おっちゃん、本なんか、書いてないけどな)

「北方賢者さんは本なんて書いていないと思うたけどなあ」


 ターシャは感心した。

「あら、よく知っているわね。彼の有名な著書の全ては、彼の周りにいた人物が北方賢者から話を聞いて纏めたものなのよ。北方賢者が書いた本は一冊あるかないかだと伝えられているわ」


「やっぱり、書いてないやん」


 ターシャがムッとした顔で告げる。

「でも、『対話編』なんか、読んで御覧なさい。一読しただけで、北方賢者の聡明さがわかるから。魔術師ギルドの学生の間でも『対話編』や『楽園論』は哲学書として有名よ」


(便乗商法や。売れない学者が自分の名前で著書を出しても売れんから、北方賢者の名前を使うて、著書を売り捌いておるね。魔術師ギルドの学生の間で話題なら、名前はどんどん売れる。せやけど、おっちゃんには一銭も入らん。ほんま、迷惑な話や)


 ターシャが微笑む。

「いいわ。気に入ったわ。北方賢者について、そこそこ知っているようだし。腕もまあまあ立つようだから、合格よ。じゃあ、明日の朝、昼食を済ませたら、ここで会いましょう」


 ターシャは言いたい内容を全て話すと、椰子ジュースを飲んで酒場を出た。

「どうする?」とアルティが困った顔で訊く。

「どうするって、行くしかないやろう」


 おっちゃんが宿に帰ると、手紙が届いていた。

 差出人は領主のパルダーナからで、内容は、明日の朝食会におっちゃんを招待する内容だった。


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