7-13
ストレート、と聞くと真っ先に思い浮かぶのが、俺的にはコーヒーとか、あの紅茶だ。
「……副部長、女子高生ってストレートの飲み物とか好きなんですか?」
「えっ、うーん……私は好きだけど。他の女の子はどうなんだろうねぇ……」
唸って考えている副部長を見て、どこか訝しげな部長がこめかみに手を当てながら、
「飲み物の話になるのは何故かしら……」
「ストレートと言われてコーヒーとか紅茶とか、そういう類しかイメージできなかったので」と、弁明してみた。
「確かにストレートの飲み物は私も嫌いではないけれど……」
部長が呆れたようにため息をしたが、そのせいで部室がほんの少し冷んやりした気がするではいないか。
この程度の呆れでこれなら、この部室は夏を迎える前なのに冬に逆戻りさせる季節外れのぶっ壊れ空調になんぞ。
「ストレートだと逆に平気ってどういうことですか」
「そのままの意味よ。というより、あなたも見たでしょ? 私がチ●コのイラストを見せて、蕾はどういう反応だったかしら?」
「恥じらってはいるけど、取り乱してはいなかったですね」
一応、恥じらいはあるんだよなぁ……。
イラストとはいえ"男のブツ"をはいこれお土産! くらいのノリで見せられれば、普通の人間はリアクションに困る。
というより引く。
友達やめるレベルだ。
部長は相手を選んでやっていると信じたいが、改めてここまで恥じらいのない女って引く……マジで引く。
「は、恥ずかしいしこういう……その……、本当に卑猥なイラストとかが好きってわけじゃないんだよっ!? そこは勘違いしないでね! 女子が全員、夏緒里みたいに恥じらいがまったくないわけじゃないからねっ!?」
必死に弁明する八辻先輩、その隣にいる部長がコーヒーを飲み干そうと手をかけようとしがそれをやめてムッとする。
「蕾、聞き捨てならないわね! 私にも最低限の乙女の恥じらいというものはあるわよ。ただ下ネタが好きなだけ、それだけよ」
「部長、それを恥じらいがないって言うんじゃないんすかね……」
俺の言葉に聞き耳を持たず部長はカップのコーヒーをやや勢い良く口に流し込み、ふんっとした態度でわざとらしくカップを受け皿に叩きつけた。
「とりあえず、ストレートな感じなら八辻先輩は大丈夫なわけですね?」
「……ええ、そうよ。昨日のことを覚えているかしら?」
「昨日のこと?」
「私が蕾にTE●AGについて教えたときのことよ」
「ごめんなさい初耳ですね」
「あっ、そういえば昨日は蕾と普通に買い物に行ったんだわ。ごめんなさい、その場に稲本くんはいなかったわね」
女子高生が女子高生にTEN●Gが何たるかを教えるの、日本全国でもここだけじゃないか、そんな光景拝めるのは。
誰も拝みたくないが……。
「たとえばね、これがトイレットペーパーの芯とか鮭なら蕾は取り乱していたと思うわ。でもTENA●という用途が限られたストレートな物なら普通に恥じらう程度で済むということに気付いたの」
「待てや待てや! 鮭って何だよ、鮭って!」
「……稲本くん、貴方成績は良いと聞いているけどまさか鮭を知らないの? 裕福な家庭で育つと鮭のおにぎりや鮭フレークを口にする機会もないのかしら」
「俺が言いたいのは何で代用品として魚の鮭が挙がるかってことですよ」
金持ちでも鮭くらい口にすることあるわ。
なんなら鮭のおにぎりとか普通に好きだし……。
金持ちこそ庶民の味の良さを理解せねばと思い耽る俺を前に、部長は肩にかかった長い髪を払った。
「かの有名な江●2:50は駆け出し時代、生きた鮭にフ●ラさせたという伝説を持っているのよ」
「……マジで?」
知らなかった、そして知りたくもなかった。
「とにかく稲本くん、これから蕾にセクハラしたい場合は比喩は厳禁。ストレートに●ンコと言ってあげなさい」
「アンタ自分の友達のことなんだと思ってんだ」
天変地異が起きようとも俺が八辻先輩にセクハラをすることはないが、セクハラしても良いですよと言われても困る。
すると、隣から小さな唸り声が聞こえてきた。
「春音、どうかしたの?」
唸っていたのは副部長だった。
「気になることがあってね。蕾ちゃんがストレートな表現だと大丈夫なのってなんでかなぁ〜って思って」
副部長の疑問はごもっともと言う他ない。
俺も、部長も、そして悩める八辻先輩本人も例外ではないようで、皆「確かに」と口を揃えてハモった。
無駄な軌跡だな。
「自分のことなんだけどさ、どうしてストレートな表現なら大丈夫なのかってわからないだよね……」
本人にとっても大きな謎のようで、彼女は再び表情に翳を作った。
そこに光を差さんとするのは、すぼめられた肩をぽんと手を添えた部長だった。
「蕾、心配することはないわ」
「夏緒里……」
「理由はどうであれ、あなたは中途半端な棒状の物ではなく堂々とチ●コさえ見れば平常心を維持できるとわかったのよ。それだけでも大きな収穫よ」
不思議なことに部長が八辻先輩に送る視線に、優しい温かみを感じる。
それが嬉しいのか、八辻先輩はとても穏やかな表情で返した。
ここだけ切り取ってしまえば友情の一ページとかそんな感じで綺麗にまとめてしまっても差し支えないだろうが、やっぱり物事はその前後も含めてチェックしないとダメだと理解した。
「……副部長」
「なにかな、稲本くん」
「……とりあえず解決ってことでいいんですよね」
「そうだね。二人ともいい表情だね」
そう言う副部長は無垢な笑みを溢しながら小さな両手でカップを包んでいた。
そこに至るまでのプロセスにビッシリとこべり付いた汚れは、俺の表情を柔軟にするのを許さないが……。
この人、おそらく定期的に、いや、かなりの頻度で部室に来るだろう。
そんな予感が胸によぎり、俺は渇いた口にコーヒーを流し込んだ。




