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5-5

 今日は、というか、最近本当に天気が良い。

 もはや人類を滅ぼしにかかっているほど暑い日が続いている。

 あの後、建物を出て、ビルが並ぶ国道4号の方に進み大きな交差点を右に曲がる。

 そのまま進と秋葉原駅なのだが、たぶんこれよりも近いルートはある。

 なんとなく、という他ない。


「……なあ、姉さん」


 とぼとぼと歩くその横顔だが、随分とかげりができている。


「なに……」

「姉さんが見たのってさ____、」

「ストォォォォーーーーーーーープッ!!!!」


 声がデカい、ウザい、キモい。


「大声出すなよ、周囲の人が見るだろ」

「だってぇッ! ほらあの、なんというか……うん、そのぉ……ね?」


 明らかに言葉に詰まっている。

 その理由だが、実は俺は既に察している。

 立ち止まり、スマホを取り出し、少し操作して、その画面を見せた。


「俺の方が先にトイレから出て待ってただろ。その間にこんなの見つけたんだけど……」


 すると、玲亜姉さんは目を細めた。

 そして、白い顔が段々と気味の悪い色に変わる……。


「姉さんが見たのって、う____、」

「みなまで言うなぁぁぁぁーーーーッ!!」


 随分と甲高い、キィーーとした声が気温の高い五月の都内を揺らした。

 流石プロの声優、声量は素晴らしい。


「もうっ、なんでんなもん見せるのよぉぉーーッ!?」


 真っ赤に染まった顔色、きっと気温の高さが原因ではない。


「いや、俺もまさか自分たちがさっきまでいた店でこんな騒ぎになっていたとは思わなかったし」

「そりゃ私もだよ! うぅぅ……なんか気持ち悪くてなってきたよぉ……」


 ここで一つ悪口でも言ってやればダムが崩壊したかの如く大泣きしそうな弱々しい瞳。

 まったく可愛くないが。


「俺ハッキリと見てないし、姉さん気の毒だな」

「うぅぅ、拓弥のばかぁ〜〜。ずるいし」

「まあまあ、今度ラジオでネタにすれば? 声優ファン大喜びするぞ」

「するかッ!! 私これでも清楚系、清純系でやってるんだけど!? 女性声優にも笑いに走るタイプいるけど私は違うし、そんなことラジオで言ったら変なアカウントから粘着とかされて終わるんだよッ!!」


 女性声優、マジで大変だな……。

 つまり、エゴサ的なことはしてるんだな。


「……そういや、昼飯。美味いもん食って忘れようぜ」

「え、うん、そうだね」


 トイレを借りて足早に出てきて、時間帯的にも昼食を摂るのに丁度良い頃だ。

 人が行き交う秋葉原、さっきまでいた大きな建物のレストランのフロアは結局訪れることはなかった。



「レストランのフロア、行けなかったな」

「ああ、そのまま出ちゃったもんね……。さすがに今さら戻るわけにもいかないから……その辺のお店でもいいかな」

「まあ奢ってもらう立場だし、文句はないけど」


 秋葉原、飲食店は多い。

 ラーメンを食べることは楽しみではあったが、もう普通に食事ができる場所ならどこでも良いと思う。

 秋葉原駅の方に向かっている途中、随分とパワフルな黄色の看板が視界に入った。


「お、こんなところにカレー屋がある」


 実はこの店舗ではないが、都内にある別の店舗で何度か食べたことがある人気カレーチェーンだ。

 黄色の看板に赤色で店名が記され、インパクトのあるゴリラが鋭い目つきをしている。いや、よく見ると目の部分はかなり曖昧というか、ハッキリと見えないな。※


「姉さん、ここで食おうぜ」

「待たんかいッ!!」


 ツッコミがベタ、しかし声色は力強くある。

 表情は如何にも不機嫌だ。


「さっき私がナニを見たのか知っててこのチョイスッ!? ねえ、正直に言いなさい! お姉様怒らないから!!」

「怒りながら『怒らないから』とか言うな。たまたまここにカレー屋があったから言ってみたんだよ」


 半分正直、半分嘘。

 前者は本当にここにカレー屋があったのかという気持ちで、後者はまぁ……姉さんだから言ったんだわ。


「もうッ、こんなところにカレー屋さんあるのがそもそもおかしいよ!」

「いや、カレー屋なんて街中に普通にあるだろ。駅から近い場所なんだし」

「あのねぇ〜、飲食店って味が大切なのはもちろんだけど、雰囲気が大切でしょ、雰囲気が! いくらカレーが好きでもあんな汚いものを見た直後で食べる気になるわけないでしょ!」


 ズバリその通りだ。

 まったくの正論、否定する余地がない。


「なら、ラーメンはアリ?」

「え、ラーメンは……その、たとえばカレーラーメンみたいなのはアウトだけど……うぅぅ、なんかスープの色すらそういう感じに見えてくるかも……」


 苦いものを口にしたように顔を引きつらせる姉を横目に、少し意地悪が過ぎてと反省できる俺は心の優しい弟だ。

 故に、意地悪はこれで最後にしてやろうと思う。


「気分を変えてガッツリした食事より、何か甘い物でも食べてスッキリしようぜ」

「甘い物……ジェラートとか?」

「なんだろう……水に浸けたかりんとうとか」

「この状況でわざわざかりんとうを選ぶの悪意あるし、なんでわざわざ水に浸けるのッ!?」

「そうか、ならジェラートというか……う●こソフトはどうだ?」

「"うん●"って言いやったよこの弟ッ!?」


 おそらく、それはここ秋葉原にはない……と思う。

 あったとしても、普通の状況でも食わないと思うが。

 ラーメンでもカレーでもないが、街中によくあるハンバーガーチェーンとか牛丼とか、近くにあると思うので、提案してやろう……。

 ハンバーガーも牛丼もそんな高い買い物じゃないだろうし、昼は姉さんの奢りだ。

 やはり俺は、優しい弟だ。

https://maps.app.goo.gl/JHrre8QaoosvnJvn9



あとお話しの中では秋葉原が舞台ですが、某量販店の池袋の方の騒動を意識しています。

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