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俺にはアイドル声優の姉が5人いるのだが、全員ブラコン過ぎて困る!  作者: 松葉葉志
ネットで目立とうとする人間はだいたい頭がおかしい
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3-2

「レビュー動画って、あの?」

「そうそう〜」

「誰からから金もらってやってるのか」

「その言い方だと悪い感じになるからやめてくれないかな!? 企業案件とかじゃないけど」


 自分の姉が、それも一般人ではなく声優業をしている姉が、企業案件ではなく個人的にレビュー動画を撮っていたと言うのだ。

 そんな言い訳をされても、まったく疑いもせずに信じて良いのだろうか。


「いやぁ〜ね、SNSはやってるけどYouTubeはやってなくてさ。実は今度個人でチャンネル始めることになって、その練習してたんだよ!」


 夜中に一人で怪しげなことをと思っていたが、言い訳としてはもっとももらしい内容だった。

 それでも腑に落ちないことがある。


「練習なら自分の部屋でやれば済む話だろ。どうしてわざわざリビングまで降りて夜中に一人で?」


 我が家のリビングには、ノートパソコンが一台設置されている。いつの間にか置かれていたそれは、家族共有とでも言えば良いのだろうか。

 何時ごろからここにあったのかわからない。いつの間にか置いてあり、何か調べ物をしたいときに使う程度の役目なら果たしていた。

 ただスマホもあるし、自分のパソコンなら各々の部屋にあるわけだし、俺も含めてあまり使用していないと思う。


「実はね、ギャルゲーの動画見ようとしてたら間違えて変なサイトの画面になっちゃって、パソコンの調子が悪くなっちゃったんだよね」

「何見てたんだよ」

「うんとね、たしかmiss ●Vってサイトだね」

「エロサイトじゃねぇかよ、何見てやがる」


 そのサイト名を男ではなく女、しかも身内の口から聞くとは思わなかった。


「違うもん! ホントに間違えてだしっ!!」


 一体茉奈姉さんは、何と間違えて如何わしいサイトを開いたのだろう。

 そして見るにしても、ちゃんと合法の公式配信のサイトで見ろ。


その点はアニメと同じだろう。


「こほんっ、お姉ちゃんが間違えてエッチなサイトを開いてパソコン壊れたのはとりあえず置いといて、レビュー企画が成功すれば商品を出してる企業だって喜ぶしそこから仕事が増えるかもしんないでしょ?」

「とりあえずじゃない。そういうサイト見てたことアレコレ誇張して言いふらすぞ」

「なんでそんなイジワル言うのっ!? と、とにかく! レビュー動画が上手くいけば声優としても箔が付くってモンだよ」

「レビューレビューって、何をレビューすんだよ? 牛脂か?」

「お肉好きだけど牛脂なんてわざわざ動画でとりあげないからね!」


 てっきり好きな食い物でもピックアップするのかと思った。

 

「肉関係どはないと?」と俺。

「ちゃうわい!」と姉。


「じゃあ何だよ。姉さんが好きなモンって肉とか、食い物だろ。あとギャルゲーとかだろ。YouTubeのレビューと相性良いのかよ、その手のものって」


 思いのままを口にすると、ご本人様はむすっと不機嫌さを露骨に出した。


「失礼な! そりゃお肉好きだし美味しい食べ物も好きだし、ギャルゲーは小学生のときにはリビングの大きな画面でやってたけどさ」

「リビングの大きな画面でギャルゲーやる小学生、全国で何人いるんだろうな」


 ここでいうギャルゲーだが、パソコンでやるR指定の付いた類ではなく、よくある女性ヒロインが複数いてその中から好みのキャラと距離を縮めて最終的に結ばれる内容のものだ。

 自分の部屋でやれという話だが、それを小学生で経験済みなのだから恐ろしい。


「ギャルゲーも紹介したいけど、それやっちゃうと歯止めが効かなくなるからさ、あははっ」

「あっ、ちゃんと自分のキモさ自覚してるタイプなんだ。良かった、まともだよ」

「キモいって言われてから褒められても嬉しくないよ」


 そうか、キモいという言葉は上書きができないのか。覚えておこう。今後ムカつくヤツが現れたときのために、主に姉が相手のときに。

 なら世間では生き物に対して勝手な主観で『キモ可愛い』などと騒ぐ人間もいるが、なんと罪深いのだろう。


「んで、食べ物以外なのか」

「いや、食べ物だよ。でもお肉じゃないよ」


 肉でないならセーフ、みたいな口ぶりだ。


「姉さん……、ぽっちゃりって言葉に甘えて食い散らすことに慣れてないか? 男が言うぽっちゃりってデブのことじゃないんだぞ」

「ぽっちゃり言うな! いや、ハッキリとデブとか言ったよこの弟っ!?」


 女という生き物は全員がそうではないが、体型について男とは随分と認識にズレがあるように思える。

 以前たまたまSNS上で見かけた地下アイドル的なグループがいて、明らかに肥満体の女を集めてぽっちゃり系ユニットとして売り出しているのを見て眉を顰めた。

 嘲った言い方をすればただのデブだが、あれを好む層も一部ではあるがいるとは思うが、ぽっちゃりという言い方に胡座あぐらをかくのは違和感がある。


「あー悪い悪い、姉さんは決してデブではないぞ。ぽっちゃり……のギリ手前くらいだ。そういうの好きなんだろ、姉さんのファンは」

「フォローのつもりでも受け手にとってはチクチク言葉になることあるんだよ!」


 身内がこういうのもおかしいが、茉奈姉さんは肥満ではない。ぽっちゃりというにも曖昧な感じだ。ただ食い意地はすごいし肉付きは良い、それでいてスタイルが悪いというわけでもないらしく、背が低いからそういうイメージで捉えられることが多いと他の姉たちが口にしていた。

 が、スラって伸びた身体でもない。

 このまま食欲に蓋をせず生きてゆくと、肥満ユニットの新メンバーになりそうだ。

 弟としては食い止めねば、という身内愛はあるのわけだ。


「……ねぇさ、男子的にどのくらいの体型がぽっちゃりなの?」


 チクチク言葉のつもりでフォローした覚えなどないが、茉奈姉さんの眼差しはひたむきだった。


「……昔の時代のピカ●ュウかな」

「ポケ●ンで言うなよ! しかも昔のやつだし」


 こういうとき、有名なアイドルとか何かのキャラクターで伝えると、根っからのオタクである茉奈姉さんになら伝わるだろう。

 悲しいかな、アイドルは数が多くてよくわからない。アニメやゲームも詳しくない。後者については声優の姉たちの存在が悪く影響しているが。

 ポケモ●などの有名なコンテンツならまあわかる。今の時代配信でも観れるしな。


「じゃあさ、女性声優だとどうかな!」


 茉奈姉さんはパソコンの画面を切り替えて、カタカタとキーボードを叩いて検索エンジンに入力した。

 それは人物名だったようで「この人はどう?」と画面を俺の方に向けてきた。おそらく宣材写真だが、一人の女性の顔写真が大きく表示されている。


「この人、誰?」


 若い女性だが、年齢はおそらく茉奈姉さんよりは上だろう。二十代前半か半ばくらいだろうか。


「拓弥ってほんとアイドルとか女性声優とか知らないんだね……。この人は●●●●さんって声優で、けっこう有名で共演したこと何回かあるよ」

「つまり声優としては売れてる方なのか」


 共演経験があるということは、互いにある程度知っている仲ということだ。

 少し、引っかかるな。


「姉さん、その●●●●って声優のこと嫌いなの?」

「ファッ!?」


 訊ねた途端狼狽する姉を見て、女ってほんと怖い生き物だと思った。


「ち、違うから! そんな目で見ないでよぉー! そういうのじゃないから、拓弥が思うような女同士のアレとかじゃなくて、ちょっと気になることがあるというかなんというか……!!」


 必死さが余計に疑念を大きくさせる。

 俺が女だったらこういう女とは距離を保つだろう。


「ホントだから、信じてよー!」

「気になるって何がだよ」

「……失礼な話だから本人には直接言ってないけどさ、この人けっこうぽっちゃり、だよね?」

「……まあ、確かにそう見えるな」


 表示された写真が一枚だけなら悪意を持ってそう見える写真を選んでぽっちゃりだと思わせることもできる。ただ茉奈姉さんはご丁寧に、わかりやすくいくつかの宣材写真や、その声優が何かのライブで衣装を着ている様子も表示させている。

 これらの複数枚の写真を見ても、確かに肉付きの良さに目がゆく。肉付きが良いとは女性的な部分の発達ではなく、顔の丸みとか、身体の膨れ上がり、などだ。


「言ったら失礼だけど、この人くらいの体型はぽっちゃりだと思う」

「でしょでしょ〜〜! んでね、この人さ、現場で会うといっつもお菓子をくれるんだよ。もしかして他の声優を自分よりも太らせるためにやってるんじゃないかなって思ってさ!」

「めんどくせぇな、女性声優って」


 女って回りくどいやり方好きだよな。

 もちろん茉奈姉さんの話す内容が事実なら、の場合だが。

 仮に純粋な親切心でお菓子配りしてるなら、こうやって陰口言われるんだから、声優の世界はストレスが多そうだ。


「まあ、そのお菓子はマジで美味しいからありがたいんだけどさ」

「食ってるじゃねぇか……」


 物もらって食って、その上で文句言うの。

 SNS上でバレればボロボロになるまで叩かれるんだろうな。

 これは一つ、弱みを握ったぞ。


「……拓弥、なんかいじわるな顔してるよ」

「気のせいだろ。んで、姉さんまさかそのお菓子のレビューするつもりだったのか」

「うん、そうだけど」


 マジかこの女……。


「もう一度言うけど、その●●●●って声優のこと嫌ってるわけじゃないからね。そんなに仲良しでもないけど……」


 誤解を解こうとして余計な情報を付け加えるあたり、その●●●●には思うところがあるんだろうな。


「その●●●●からもらったんだろ。そんなんじゃレビューなんてやりにくいだろ」

「あ、実はもう動画そのものは撮ったんだよね」


 俺が知る限り、茉奈姉さんは要領が良い方ではない。とろいとまでは言わないが、何かをやらせてもグダグダな場合が多い。

 いつの間に撮影したか、考えてもタイミングが一つしかない。


「俺がここに来る前にはもう撮影はしたっことかよ」

「そうそう」

「じゃなさっきの変なラップみたいなのは?」

「変なとは失礼な! ああいう可愛いオープニングとか自分でやらないとさ、女性声優は大変なんだよ。先にレビューする様子だけ撮って、最後にオープニングを撮ろうとして練習してたんだよ」

「そのタイミングで俺が来たってわけか」


 ギターの話になるが、たとえばコピーしたい曲があってもイントロから順番に練習すれば良いとは限らない。イントロが難しくてそこでつまずくと練習にならない、だから難しい部分は飛ばして簡単な部分、できそうな部分から始めると良い、いろんなギター講師が口にしている。

 おそらく茉奈姉さんにそこまでの考えはないだろうが、食べている様子から撮影した方が良いと思ってそうしたのだろう。


「あっ、せっかくだからレビューの部分だけちょっと見てくれないかな? 感想聞きたいんだよね」


 ポケットからスマホを取り出したあたり、動画自体はスマホで撮ったようだ。

 明日、いや今日も学校がある。寝坊で遅刻なんてしていられない。


「もう寝るぞ。俺、学生」


 断った途端「えぇ〜!」と聞き分けのない子のように拗ね始めた。


「動画数分くらいだし、五百円あげるからさ!」

「どうして揃いも揃って俺に小遣いあげようとするだよ、姉さんたちは」

「……四百九十円じゃダメ?」

「値下げすんな! 十円下げるくらいなら五百円で問題ないだろ」

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