2.何なんですかそのコレクション
今日は久しぶりに裕也の部屋にお邪魔した。
したくはなかった。なにこの女の子である私の部屋よりピンクな部屋は。
ポスター、フィギュア、漫画、DVD。
ほとんどが二次元のキャラクターでしかも女の子だった。
…なんかイライラしてくる。いや、あくまで幼馴染がこんな風に育った事にね?
「飲み物持ってくるから大人しく待っているでござるよ」
「…その喋り方さぁ、なんとかならないの?」
「む?奏ちゃん?何か問題あるでちゅか?あったら言ってくださいでちゅね?」
「殴られたいかぁぁぁ!?」
私に怒鳴られ、裕也は逃げるように部屋を出ていく。
くぅ…。そもそも中間テストで赤点取らなければ補修のプリントとか渡されずに裕也に頼る事もなかったのに。
「いや、そもそも0点じゃそれ以前の問題ワロス」
「とっとと飲み物持ってこい!」
何故か再び読心されたようでわざわざ裕也は戻ってきて怒らせてくる。
アイツ、最近人間離れしてきている気がするのは気のせい…?
…しかし、補修のプリント全く分かんない。
裕也が来るまで手がつけられない。アイツ、あんなキモチワルイ変態になったけど成績だけは全国模試とかでもかなり上位に入っているから頼りにはなる。
何の教科の補修かだって?そりゃ勿論ぜん―――なんでもない、秘密です。
ともあれ、裕也が来るまで補修のプリントができない。
なので裕也の部屋を見渡すが…本当に変わっちゃったなぁ。
中学卒業する頃までは質素な部屋で、適当な少年漫画と有名RPGのゲームが転がってるくらいだったのに。
それなのに高校になってからは日に日に今みたいになっていって…。
…昔の名残みたいなのはないのだろうか。林間学校のレクリエーションで私と一緒に作った木の小物入れとか、修学旅行で私と一緒に回ったお土産屋で買った五重の塔とか。
なんなら去年のバレンタインで私が義理であげた手作りトリュフの包みとかでもいいからさ!
…本当に何もないの?一つくらい残っていなさいよ!
そう思っていたら本棚の中に…DVDや漫画に交じって大きなアルバムがあるのを発見した。
そういえば裕也、写真とか好きだったなぁ。もし今みたいなオタクに走らなかったら写真家になるんじゃないかって思うくらい修学旅行とかではカメラを手にしていた気がする。
何気なくそのアルバムを取り出して表紙を見てみると…。
『カナデちゃんこれ☆くしょん』
…………
……………………。
「はぁぁぁぁぁ!?」
「お待たせー。お茶だけどいいよね…って。む!それは!」
裕也がお茶を持って戻ってきた。
いや、いやいやいやいや!あり得ない!キモチワルイ!いやほんっっっとうにキモチワルイ!
なんで裕也が!?こんな物を!?身の危険を感じるわ!
「ちょちょちょちょちょちょ!な、なななな、何なのよコレは!?」
「落ち着くでござるよ奏氏」
「おちつけるワケないじゃない!?あんたとしても、何でコレを見られて平気なのよ!?」
「いやまぁ、理由があるでござるからなぁ」
「何よ理由って!?」
オタクで変態になったからって、ここまでとは思わなかった!
なんで、どうしてこうなったの!?
「むふふ。それは奏氏の赤ん坊から、幼稚園、小学校、中学校と網羅しバリエーションも私服、制服、体操服、水着となんでも揃っている!ならばファイリングしなければ罪だ!ネ甲が許してもオレが許さない!」
「いやぁぁぁぁ!?マジで変態じゃない!?」
「あ、ダイレクトアタックは止めて。我々の業界でも拷問です」
殴る、蹴る、アルバムで叩くなどいろんな攻撃をする。
いや、本当にキモチワルイキモチワルイ!
「…む。奏氏なにやら嬉しそうでござるか?」
「は、はぁ!?何言ってるのよ!?」
「だって口元がにやけ…イタイイタイ。リアル浦島の亀になっているでござるよ」
本人の言う通り、裕也は亀みたいに丸まって私に暴力を振り続けられる。
言っとくけど、嬉しくないからね!こんな形で私の存在が裕也の部屋にあっても嬉しいワケが…!
そのまま殴る蹴る叩くを繰り返しているうちに、私も息切れしてきて動きが止まる。
「ゼェ、ゼェ…」
「ま、マジレスするとこれが本当の理由でござるよ…」
「…は?本当の理由?」
裕也は丸まった亀の状態から立ち上がるとクローゼットに向かって歩いていく。
そして、クローゼットの中から大きなダンボールを取り出して…。
「…なにこれ?」
「見ての通り、写真とそのアルバムでござる」
ダンボールの中には沢山のアルバムが入っていた。
表紙のタイトルは私の手元にある『カナデちゃんこれ☆くしょん』とは違い、まともな物で…。
『中学修学旅行』とか『家族写真』とか『○○市景色』など、そんな感じに分けられている。
「奏氏は幼馴染でござるからな、整理したらアルバムが一つできるくらいだった。それにせっかくだから勉強の息抜き用にと思って出しやすい場所に置いておいたでござる」
…まともな理由だった。
それにアルバムを捲ってみれば裕也が冗談で言ったような感じではなく、2人で映っている写真や部活を頑張っている写真。子供の頃に行った遊園地の時などの…思い出が詰まっている見ていて気持ちの良い物だった。
それに、私が一人で写っている…中学生頃の写真。裕也が撮ってくれた物で、写真の中の私は凄く楽しそうにピースなんかしたりして、幸せそうだった。
…は、恥ずかしい…。こんな表情で裕也に写真撮られてたの?しかもこんなファイリングまでして綺麗に保管しているだなんて。
「それに、奏氏には写真の事についてとやかく言われたくないでござるよ!」
「…へ?」
「机の上には高校入学の時に2人で撮った写真が飾られているし、毎朝それを見て行ってきますと言って学校に行っているのでござろう!?」
………。
………………は?
「はぁぁぁぁぁ!?何で知ってるのよ!?」
「…え、マジだったの?」
「ちょ!?なに!?ひっかけ!?」
「いや、奏のお母さんに聞いたんだが冗談だと思ってた…でござる」
ちょ、なにそれ!お母さん何言ってんのよ!?
しかも裕也は裕也で一瞬素に戻ってドン引きみたいな顔をするし!
「いやアレは嘘というか冗談というか日常じゃなくて週間とういかそうでもなくてあぁぁぁぁぁ!?」
「奏氏!?」
私は居ても立っても居られなくなって、裕也の部屋を飛び出した。
明日からどんな顔して会えばイイのよ~!?