案件99.土下座強要
沼中カシューを見失った黒火手団の前に、中学生くらいの女の子が助けを求めてきた。
「貴様の両親を襲った闇異の特徴は?」
「ガイコツみたいな顔で、土下座しろって叫んでました・・・」
「あのヤロウ、関係ねえヤツ巻き込みやがって・・・!」
「君、そこまで案内してくれる?」
その頃、女の子の家ではリビングが荒らされ、そこに闇異に変異したカシューと彼の前で土下座する男女がいた。
「よくもこのドゲンザセントを騙して、ガキを逃がしやがったな!!」
カシューことドゲンザセントは、黒火手団事務所に訪れた時とは打って変わって威圧的な言動をとり、女の子の両親は土下座しながら恐怖で震えていた。
「今すぐスマホで呼び戻せ!アイツも土下座だ!!」
「それは・・・できない・・・!」
「なら餓え死するまで土下―」
その瞬間、ドゲンザセントの眉間から漆黒の刃が飛び出した。黒皇が背後から忍び寄り、彼の後頭部をサーベルで一突きにしたのだ。
『黒殺刑』
ドゲンザセントの頭部を貫いた刀身から死の呪いが溢れ出すと、闇異の肉体が崩壊しカシューに戻って復活したが気を失ってしまった―
「パパぁ!ママぁ!」
「ユキミ!心配かけてごめんね!」
女の子ことユキミは両親の無事を確認すると、嬉し涙を流しながら二人に抱きついた。
「黒火手団の皆さん、助けていただき本当にありがとうございます!」
「いえ、我々の不手際で危険な目に遭わせてしまい、大変申し訳ございませんでした・・・」
ユキミたちは感謝していたが、ボンゴラはカシューを逃がした結果3人を巻き込んでしまったことを謝罪した。
一方気を失ったままのカシューは、アゼルとカネリによって雁字搦めに縛り上げられた。
「二度と悪さできないようにしてやる!」
「封印の御札も施した、暫くは変異できない筈だ」
「沼中カシューを聖明機関に引き渡したら、後ほど闇異被害のアフターケアに訪れます。失礼ですが、三人のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「私は白穂カヒロッズ、この家の世帯主です。そして妻のウメカと娘のユキミです」
ユキミの父カヒロッズは、身長が180cm以上あり10代の娘がいるとは思えないほど若々しく爽やかな雰囲気だ。彼の妻であるウメカも、20代前半と見間違えるくらいの美人である。
「もしよろしければ、娘と一緒に撮らせていただけませんか?」
「え?」
「すみません、主人はホームビデオを撮るのが趣味なんです」
「パパったら、あんな目に遭っても撮りたがるんだから!」
「危機を乗り越えたからこそ、思い出として残しておきたいんだ!」
黒火手団は白穂家を巻き込んでしまったお詫びに、カヒロッズの撮影に協力することにした。
ユキミを囲むようにアゼル、カネリ、ボンゴラが集まると、ビデオカメラを持ったカヒロッズがレンズの前で右手をサムズアップした。
「それではユキミと黒火手団の皆さん、ピンチを乗り越えて・・・イェーイ!」
「「「「イェーイ!」」」」
4人ともサムズアップしたが、満面の笑みなのはカネリとユキミの二人で、ボンゴラは苦笑いしアゼルは呆れた顔をしていた。
「いい加減ここを離れるぞ、浅刺コズドがいつ襲撃するか分からんからな」
「そうだね、白穂家の皆さん失礼しました」
「ありがとう黒火手団!」
日が沈み雨が降り始めた頃、アゼルはスマホで矛貫隊隊長のオスタに状況を報告していた。
『沼中カシューの拘束、ご苦労だったな』
「悪堕者が狙っている以上、早急に身柄を預かってほしい」
『悪いが別案件で迎えを寄越すのに2時間程度かかる、今いる場所は?』
「矛貫隊支部から南40km程先にある、大型商業施設建設予定地だ。ここなら万一襲撃されても、周囲への被害は殆ど無いだろう。関係会社も承認済みだ」
『俺達が来るまで持ち堪えられるか?』
「建設予定地の周囲には、街中をパトロールする異救者が大勢いる。黒に耐え凌いでみせるさ」
『頼んだぞ。ブツッ』
通話を終えたアゼルは作業員用のプレハブ小屋に入り、意識を取り戻したカシューを見張るカネリとボンゴラと合流した。
「電話どうだった?」
「矛貫隊が来るまで2時間程かかるそうだ」
「待ってる間どうする?」
「一応俺達の方でも尋問するか―」
封印の御札が貼られたロープに縛られ、黒火手団に囲まれたカシューは再びおどおどした様子を見せた。
「カシューさん、どうしておれたちから逃げたんですか?」
「悪堕者が二人に増えたら、逃げたくなるだろ・・・」
「じゃあ何でオレたちにも、土下座の呪いかけたんだ!?」
「アンタたちを巻き込むつもりはなかった・・・ビビって力加減を間違えたんだ・・・」
「過去の悪事が発覚して、逮捕されたくなかっただけだろ。それで異救者に頼らず一週間逃げ回ったが、疲れ果て止むを得ず俺達に助けを求めた。違うか?」
「ちっちがう!・・・【ユエツ】、アイツに操られたんだ!アイツに命令されて、カヒロッズの家に立て籠もったんだよ!!」
「ユエツぅ?」
「ユエツとは誰だ?」
「浅刺カズトの、身内のリンチを企画した奴だよ・・・オレたちは闇サイトの掲示板で知り合ったんだ・・・」
それを聞いたボンゴラは、さらに顔をしかめた。
「やっぱり、茅公園の事件に関わっていたんですね・・・」
「待てちがう!オレは殺しちゃいない!アイツらに土下座させて、ちょっと殴ったり蹴ったりしただけだ!!」
次の瞬間、ブチギレたカネリがカシューの胸ぐらを思いきり掴んだ。
「フザけんな!テメェもコズドとアイツの家族を傷つけたんだ!同罪なんだよ!!」
「・・・っ!」
「カネリ、そこまでにしよう」
「貴様は何故、ユエツとやらの企画に参加した?」
「あ・・・アイカ様を殺した悪党の家族だぞ?懲らしめてやろうと思うのは、当たり前じゃんか・・・」
カネリはカシューに殴りかかろうとしたが、ボンゴラに止められた。
「次はユエツ及び、他の参加者について詳しく聞かせろ」
「他の奴らのことなんて覚えてないよ・・・全員闇サイトで集まった他人なんだから・・・」
「だが貴様は先程、ユエツに操られたのだろう?直接会ってはいないのか?」
「会ったけど・・・アイツは笑った顔みたいなお面つけてて、やたらでかいとしか・・・」
「貴様を操った理由に心当たりは?」
「知らねえよ・・・そうだ!オレが浅刺カズトの身内をリンチしたのも、ユエツに操られたからだ!なあ頼むよオレも被害者なんだ!オレが無実だってことを証明してくれ!!」
カシューは手足の自由がきかずもがきながら、黒火手団に必死で懇願したが、アゼルはため息をつき、カネリとボンゴラは顔をしかめたままだった。
「いずれにせよ貴様は、正常な判断能力を黒に欠いていると評価している。聖明機関で厳正な審査を通れば、全てが明らかになるだろう」
「え!?いや・・・わざわざそんなことしなくても・・・」
「無実を証明してくれって、さっき言ったよなあ?」
「たとえ聖女様を殺した大罪人でも、関係ない家族を傷つけ命を奪うことは許されません。コズドのためにも、しっかり罪を償って下さい」
「・・・・・!!」
カシューは観念したようでうつむいたまま黙り込むと、プレハブ小屋のドアをコンコンと叩く音が聞こえた。
アゼルがドアを開けると、矛貫隊の新人隊員バークが身体を少し濡らして現れた。
「なんだ貴様か」
「よう、沼中カシューを引き取りに来たぜ」
アゼルがバークを中へ入らせると、ボンゴラがタオルを用意した。
「どうぞ」
「へへ、悪いな」
「迎えに2時間はかかると聞いていたが」
「オレだけ手が空いたから、隊長に先に行くよう言われたんだ」
「新人の貴様一人にか?」
「そう心配すんな」
「・・・?」
黒火手団の3人は違和感を抱いていた。黒理家に兄を殺され、アゼルに対し風当たりが強いバークが妙に親しげなのだ。
するとバークは、持ってきたカバンから機械を取り出し組み立て始めた。
「よし、矛貫隊支部行きの携帯ワープゾーン完成だ。さ、沼中カシューをこっちに―」
「その前に捻生バーク、【オレンジの件】は上手くいってるか?」
真剣な顔のアゼルの質問に対し、バークは微笑みながら答えた。
「ああ、順調にいってるぜ」
その瞬間、アゼルはバークの喉元にクナイを突きつけた。
「貴様何者だ?俺は本物の捻生バークと、オレンジの件で話し合ったことは無い」
To be next case




