案件101.雨は降り続ける
アダウチオニからカシューを守るリチャウターは、アグリーバードの死の呪いを受けて倒れてしまった。
「お嬢様のご命令で、コズド様をお手伝い致します」
「あの女、余計なことしやがって・・・」
「何やってんだチクショウ!」
カシューはドゲンザセントに変異して、自分を縛る縄を解き逃げ出した。激しい戦いの衝撃と雨に濡れた影響で、彼の力を封じていた御札が剥がれてしまったのだ。
しかし身体中にヒビが入ったリチャウターが、腕を長く伸ばしドゲンザセントの逃走を阻止した。
「カシューさん・・・逃げたらダメです!おれが守りますから・・・罪を償って下さい!コズドのためにも、あなた自身のためにも・・・!!」
「ふざけんな放せ!!オレは何も悪くないんだ!!」
「コズド様、リチャウターも呪いに耐性があるようです」
「デス・シンテージで死にかけた時についたんだろ」
そう言いながらアダウチオニは、リチャウターにゆっくり近づき彼の顔面を鷲掴みした。
「この前言ったよな、オレが受けた苦しみも知りたいと。だったらコイツにも耐えてみろよ、怨衣 !!」
アダウチオニの手から怨みのオーラが溢れ、リチャウターの顔に流れ込むとその苦痛のあまり断末魔を上げた。
「うあああああ!!!」
「!ここは!?」
リチャウターは気がつくと、目の前で焚き火が燃え盛り数人が集まって騒いでいた。ここはどうやら夜の広場で、手足を縛られ自由に動けない上、身体のあちこちに痛みを感じた。
(また別の場所にワープさせられたのか!?)
突然の状況に戸惑っていた時、カシューが現れ自分と同様手足を縛られた3人の女性を無理やり連れてきた。
「オラッ、さっさと歩け!」
(この人たちは・・・コズドの家族!)
暗くて全貌はわからないが、焚き火に照らされた人々の顔ははっきりと見えていた。コズドの家族は傷つき酷く怯えていたのに対し、彼女たちを囲む数人は嘲笑い怒りの表情を見せていた。
(そうか・・・これはコズドの、過去の記憶なんだ!!)
アダウチオニの技『怨衣』は、恨みのオーラを身に纏いパワーアップする技だが、他者に恨みのオーラを流し込むと自身の忌まわしき記憶を体験させることができるのだ。
すると笑った顔のようなお面をつけ、コートを身に纏った大柄な人物が現れた。
(この人はもしや・・・茅公園事件の首謀者、ユエツ・・・!)
「みんな!こいつらがあの史上最悪の凶悪犯、浅刺カズトの身内だ!!」
ユエツは変声機を使用しているようで、声から正体を特定するのは困難だった。
「異救者や警察が許しても、我々は決して許さない!!人類の希望、アイカ様を殺した悪魔に魂を売った魔女と、悪魔の血を引く者たちを!!」
「そうだそうだ!」
「コイツらを生かしてはおけない!!」
「ブッ殺せ!!!」
ユエツに扇動され、カシューたちがコズドと彼の家族に殴る蹴るなどの暴行を始めた。
リチャウターはわかっていた、これはコズドの過去の記憶で彼女たちを助けられないことを。それでも当時のコズドと同様、叫ばずにはいられなかった。
「「やめろぉおおおおお!!!」」
リチャウターが過去の記憶に囚われている間、アダウチオニがドゲンザセントの頭部を蹴り砕きカシューに姿に戻した。そしてアダウチオニも変異を解きコズドに戻った。
「バ、バカな・・・オレの土下座が効かない・・・!」
「もう逃がさねえぞ、沼中カシュー」
「待て、オレが悪かった!だから命だけは助けてくれ!!」
「・・・テメェ、4年前オレになんて言ったか覚えてるか?」
「え・・・?」
「『家族を殺されたくなかったらオレの前で土下座して、自分は生きてる価値の無い最低最悪のゴミクズです。生まれてきてごめんなさいと言え』。それを今度はテメェがやるんだよ」
カシューは一瞬ためらったが、激しい怒りに燃えるコズドの形相を見て従わないと死ぬと確信し、雨に打たれ震えながら土下座を始めた。
「じ・・・自分は生きてる価値の―」
「声が小せえ、やり直せ」
「自分は生きてる価値の無い、最低最悪のゴミクズです!」
「あ?」
「自分は!生きてる価値の無い最低最悪のゴミクズです!!生まれてきてごめんなさい!!!」
カシューの必死の謝罪は雨の中でもはっきり聞こえ、その声でリチャウターが目を覚ました。
「ここは・・・!コズド!止めるんだっ・・・!」
リチャウターはコズドの復讐を止めようとしたが、過去の記憶の影響で心身に大きなダメージを負い身体が思うように動かなかった。
「・・・なあ、許してくれるよな!?」
「・・・テメェはあの時、オレに土下座させた後なんて言ったか覚えてるか?」
「え―」
次の瞬間コズドは斧を振り落とし、土下座したままのカシューを真っ二つにした。
「『だれがゴミクズの約束なんて守るかバ~カ』だろ」
「バーニングストレート!!!」
「んぐぅ!!」
同じ頃、カネリファイヤの必殺技が不滅氷を直撃しケラシルの姿に戻した。
「オレ様のゲキアツ勝利ぃ!!」
「クソッ、こんなはずじゃ・・・!」
一方黒皇とパボドレスの戦いでは、スピードで上回るパボドレスがやや優勢だった。
「全く何をやってますの!?」
(流石の私でも、1対2は厳しいですわね・・・)
その時、パボドレスの脳内にアグリーバードの声が聞こえた。
『お嬢様、コズド様の復讐が一区切りつきました』
「ご苦労様アメセラ、コズドを連れて先に戻ってなさい」
『かしこまりました、お嬢様』
アグリーバードとの通信を終えたパボドレスは、ケラシルの隣へ瞬間移動した。
「沼中カシューの始末が済んだことだし、今日はこの位にして差し上げますわ!」
「何っ!?」
「ごきげんよう!オ~ホッホッホ !!」
黒皇は逃がすまいとパボドレスとケラシルの前へ高速移動したが、彼女のワープが先に発動し二人を逃してしまった。
「チッ」
「おいアゼル!ボンゴラを呼んでも、全然返事が来ねえぞ!」
ボンゴラことリチャウターは、カネリファイヤの呼びかけに反応せず呆然としていた。目の前でコズドがカシューを真っ二つにし、大量の血が噴き出したからだ。
『二人』を救えなかったショックで、リチャウターの身体は崩壊しボンゴラの姿に戻った。
「コズド・・・カシューさん・・・!」
「・・・・・」
一人目の仇を討ったコズドは険しい顔のまま黙り込み、雨と返り血にまみれながら復讐の余韻に浸った。
するとコズドはポケットから小箱を取り出し、蓋を開けるとカシューの遺体が箱の中へ吸い込まれていった。
「コズド様、お疲れ様です。手差ボンゴラはいかがなさいますか?」
「・・・ほっとけ、帰るぞ」
「かしこまりました」
「!待ってコズド―」
ボンゴラは我に返るも既に遅く、コズドとアメセラはワープで姿を消した。
「・・・うぅ・・・ああああああああああ!!!」
己の無力さ故に、救えなかった悔しさから来るボンゴラの叫び声は、雨の音にかき消されることなく響き渡った。
To be next case




