第20話 大氾濫④
「物質劣化!」
「無駄よ!」
“堕落”の技の一つである物質劣化は強欲には効果を表さなかった。流石は特別級ってことか。だが、それはこちらも同じこと、防がれた切りおろしを半回転して薙ぎ払いに変化させる。
「ッァアア!」
それは向こうに迎撃された、返しの切り上げが迫る。俺はそれを下がって避けた。
「くそっ」
相手の方が身体的なスペックは低いはずだが、経験の差か俺は押し負けていた。こちらが何をしても的確に反応をされて攻めきれない。
「貴方、なかなか強いのね。まあ、それもここで終わりだけど」
「うっせぇ!この化物が!」
「言うわね。ま、楽しかったわ、さようなら。“強奪”」
来たっ!相手が技を放つこのタイミング、俺はありったけの力を込めてローズの胴に向かって居合斬りを放った。
「それくらい、読めているわ」
だが、ローズは斜め後ろに避け、更にローズの振るった強欲は俺の首を目掛けて振り下ろされる。俺はとっさに空いた左手で強欲を受けた。
?、衝撃や痛みがない?俺は恐る恐る左手を見るとそこには肘から先が無い左手と後ろに下がって怪しく笑うローズがいた。
「なっ、コレは?」
「“強奪”。奪ったのよ貴方からね」
そう言って俺の左腕を見せてくるローズは酷く楽しそうだ。確かに俺の左腕からは血が出ていない。そこにはあるべきものがなくなっていた。
「ふふふ、もっと、もっとよ。もっと寄越しなさい!」
ローズからは正気が少し消えかかった目とともに蒼い魔力が溢れ出してきた。汚染が進んでいるようで、未だに正気はなんとか留めているがそれも長くはないだろう。
コレは早めに決着をつけたほうがいいかもしれない。俺はそう考えて右手一本で持った怠惰を肩に担ぐ。そして闇の魔力を纏っていく。
「遊びすぎたよ。そしてふざけると腕を取られることも知った。だから本気で殺させてもらう」
「あら、あら?殺す?私を?ん?ん?ん?ん?、もっと寄越しなさい。貴方は私に、勝てない!」
そう言ってローズは俺に飛び掛かってくる。その手には膨大な蒼い魔力を纏った強欲があり、それをローズは俺に大上段から振り下ろした。
「そんなことはないさ。影の道化」
ガキィィィィインッ‼︎
ローズの持つ強欲が俺を斬ろうと怠惰を押す。俺は黒い道化の格好でそれを受け止める。
「“強奪”‼︎」
能力も発動させて俺を殺そうとするが既に無駄だ。闇魔法の能力強化に魔力による全力の身体強化。これを魔人とはいえ女性が破ることは出来ない。
「俺も言おうか。さようなら、楽しかったよ。ブーストリング起動」
右手に付けられたブーストリングが起動して俺の魔力を増幅して更に俺の魔力が増える。溢れ出しそうな魔力を制御しながら俺は新しい派手な技を選んで使う。
「コレは手向けだ。さようなら。“五十二枚之道化達”」
瞬間、俺を中心に五十二の影が伸びる。そして立ち上がった影は俺と同じ黒い道化の格好を取る。武器はステッキとトランプ、その装備は魔力で作った特別製だ。か俺より少し弱い程度の道化。それが五十二人いる。道化達が次々とローズを攻撃していく。既にローズはボロボロだ。
「キャァァァァァァァァァアッ‼︎」
「そして、これで最後。第七之太刀 怠傷」
………チンッ
ローズの首筋に小さなかすり傷、ローズは倒れた。
ドサッ
同時に俺も倒れる。ブーストリングが活動を停止し、道化が全て消えて俺の影の道化も解ける。無理に魔力で体を強化したせいで筋肉痛が酷い。俺はその場で寝転んだ。
「痛ってぇぇえ!調子乗りすぎたぁぁあ!」
全身がズキズキと痛む。アイテムボックスからポーションを出して飲むと少し楽になった。そしてなくなった左腕を見る。そこには既に左腕が戻っていた。
また、倒れたローズの周りには今までに奪ったと思われる生物のパーツが幾つも落ちていた。ローズが死んだことで“強奪”が解けたのだろう。今回はマジで危なかった。
まあ、それは置いておくか。さてと、それじゃあ次にやるべき事は一つだけだ。
カチャッ
俺はローズが使っていた強欲を拾う。そして魔力を流しながら話しかけた。
「おい強欲。お前、起きてるんだろう?無視すんな」
「うふふふ。わかっていましたか。それはご無礼を」
「謝辞はいらん。で、俺と契約しろ。拒否権はない」
「まあまあ。ええ、いいですよ。契約いたしましょう」
「じゃあお前は俺のもんだ。怠惰と仲良くしろよ強欲」
「わかりました、ご主人?」
「ボクもわかったよー!」
俺は腰に二本の妖刀を下げてレウス達の方へ飛んだ。ガルーダのブーツがそれを後押しする。
「テツヤ!無事だったか!」
「当たり前だ。これであとは雑魚だけだな。さっさと全滅させるぞ」
「それこそ当たり前だぜ。聞いたかお前らぁ!あとは雑魚だけだ!死力を尽くして闘えぇぇぇぇえ!」
「「「「「「「おっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」」」」」」」
冒険者たちが統制を失ってオロオロしている魔物に突っ込んでいく。ローズに呪術によって支配されていた魔物はパニックになって倒されていく。このペースならもう少しで終わるだろう。
「「マスター」」
「ん?」
後ろを見るとシロとハクがいた。二人は安心したような顔で俺を見ている。俺がいなくなった時のことでも考えたのだろう。二人はどちらもあちこち汚れていて、多少傷も負っていた。
「二人とも、頑張ってるな。安心しろ俺はここにいるぞ」
「「はい!」」
俺は二人の頭に手を乗せて撫でる。二人はするとすぐに魔物の討伐に戻っていった。俺はまだまともに戦闘は出来ないので近くにいたアンチを呼んでその上に座る。ついでに魔力をアンチに入れておく。
俺はそのまま眠った。
うおおおおおおおおおおおおおおお‼︎
冒険者の大声で目を覚ました。周りを見ると魔物は既に一匹も居ず、死体だけがそこに積み重なっていた。俺の後ろにはアンチ、左右にはシロとハク、前にはグレイが丸まっている。
俺は大分回復した体力を確認して立ち上がった。それを見たレウスはこちらに近づいてくる。
「テツヤ、助かったぞ。これで俺らの勝ちだ!」
「ああ、そうだな。そんじゃあ街に帰ろうぜ」
「ああ、早く街にかえ……」
ドォオンッ!
「なんだ?」
「どうしたっ⁉︎」
俺とレウスが後ろを振り向くとそこにはさっきまでいなかったはずの巨大なゴーレムがいた。そしてそのゴーレムが振るった拳は近くの冒険者を潰していた。
「逃げろおおおお!」
「チッ!」
レウスが咄嗟に叫び、俺がゴーレムに飛びかかる。怠惰での一撃を甲高い音と共に弾かれた。
「硬い⁉︎」
俺は迫ってきた拳を避けて下がる。すかさずレウスが大剣で切りつけるがそれも弾かれた。俺は息を整えつつ神魔眼で鑑定する。
名称 自律思考魔導戦闘機械
種族 ゴーレム/魔導機械/自動人形
等級 超常級
効果 遥か昔に造られた戦闘機械。様々な非生物の技術を組み込まれている。その体はアダマンタイト製で非常に頑丈。また、魔法を応用した魔術砲を使用する。胸の中にあるコアを壊さない限り動き続ける。なお、この機体は呪術によって動かされていたことにより魔力を得て、再起動したのちに暴走している。
「マジか……」
もう、ため息しか出ない。
俺たちが休めるのはまだ少し先になりそうだ。
終わったと思いきやまだ少し続きます。
感想等お待ちしてます。




