最終話:その笑顔
人間界の、贔屓にしているビルの屋上。レナードは座って街並みを眺めていた。いつも通り煙草を吸いながら……いや、
「シャイン、この姿勢恥ずかしいんだが。」
「ボクは嬉しいよ? レナードをぎゅってできるから。」
シャインに後ろから抱きしめられている姿勢である。レナードは落ち着かない。いや、シャインとはこれ以上のことをしてきているが、こういうそうでもない姿勢の方がむず痒くて恥ずかしい。
「……なぁ、」
「ん?」
レナードは迷った。聞いていいのかどうか。だがこのままわからないままなのは嫌だ。
「……なんで、俺にそんなに構うんだ?」
風が通る音が耳を撫ぜる。シャインは間を置いて、答えた。
「……一目惚れさ。」
「一目惚れ?」
「実際には、キミを見て、キミと話して、ああこの相手は離しちゃいけないって直感したんだ。でも、どうすればいいのかわからなくて、」
「それで抱きたいなんて言ったのか。」
「そうは言ってなかったはずだけど? ムードがないよ、レナード。」
シャインがレナードをぎゅうと抱きしめる。レナードは体を包むように香っている蜂蜜の匂いで少々ドキドキしていた。そして、一つ思い出したことがあった。
天使は本名とは別に通称がある。理由は本名が呪いに使われることを避けるために通称で呼び合うようになったのが始まりなのだが、恐らくシャインという名は通称。それなら、あの酔った時に言った言葉は、いや、名前は。
「……ソル。」
「っ、え?」
「アンタの本名、ソルなのか?」
シャインは少し口をむずむずさせて言った。
「うん。やっぱり、言っちゃってたんだ。」
「聞くつもりじゃなかったが……そうなんだな。」
レナードは息を吐いた。シャインの腕をきゅ、と握って。
「ソル。二体だけの時は、そう呼んでもいいか?」
「っ! ……うん。そうしてくれると、すごく嬉しい。すごく。」
「なんで二回言ったんだよ。」
「本当に嬉しいってこと! ……ねぇレナード。」
「あ?」
「これからも、一緒にいられるよな? またボクを餌として……求めてくれる?」
レナードは振り返った。不安そうに眉を下げるソルが見えて、レナードはふっと笑った。
「もちろん。俺を満腹にできるのはアンタだけだぜ、ソル。それに……」
「それに?」
「……もう、餌だけじゃすまねぇんだよ。」
「え?」
瞬くソルの口に口づける。ふ、と離れるや否や、ソルから熱くキスされた。はくりと息を飲んですぐに舌が絡んで、混ざっていく、唾液も、魔力も、思いも。やっと離れても、視線が外せない。ずっと、見つめていたい。
「苦いね。」
「悪かったな。」
「……レナード、」
「あ?」
「……レナード、ボクは、この気持ちを表す言葉を知らない。」
「……俺もだ。」
「でも、これだけは言えるんだ。」
ソルがレナードの鼻先に小さくキスを贈る。そうして言った。
「大好きだよ、レナード。」
ふわ、と綻んだ、その笑顔。今まで一度も見たことのなかった、ソルの笑った顔。レナードは驚いたと同時に、くら、と視界が揺れた。そのままドサッと倒れる。慌てるソルの声が聞こえて、気づいたレナードはなんとか体を起こした。
「ご、ごめんレナード、ボク、笑うと相手を卒倒させちゃうんだ。」
なんだそれ。レナードは鼻血が出ていることに気づいて拭いた。笑顔で相手を悩殺するとは……『天使の微笑み』の中では結構危険な部類かもしれない。それなのに、レナードは笑顔が見られたのが嬉しかった。また見たいと思うくらい。
「……俺も好きさ、ソル。」
「え?」
「なんでもない、なんでも。」
「いや今言ったよな? 好きって! もう一回言って!」
「言わない。言わないったら。」
「言ってよ! 言って欲しい!」
「うるせぇうるせぇ。」
ギャーギャー言うソルに、レナードは笑った。そうそう、これがシャイン、否、ソルだ。
天使と悪魔が融合して天魔となって、魔界も変わりつつある。レナードはアスモデウスとしての仕事もあり、忙しい日々だ。それでも、
「ソル、行こう。」
「ん、うん!」
好きだと言い合えるこの幸せを噛み締めて、二体は今日も、求め合う。
その笑顔は、いつまでも変わらないから。
――fin.
いかがだったでしょうか。
魔法を書くのが久しぶりすぎて迷走しました。後日談があると面白そうだなと思っていたりする。書けたらね、書けたら。
よければ感想ください。今後の糧にさせていただきます。
それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。
かしの あき




